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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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異世界に行く魔法式を書き起こしてください。▼




【メギド 鬼族の町】


 高位悪魔たちとの話はつけて鬼族の町に空間転移魔法で戻ってきた。

 その際に飲むポーション1つ消費。


 私が高位悪魔たちに出した条件は


 ・異世界に行く際には前もって私に必ず知らせる事

 ・それ以前に魔神が現れた際には必ずすぐに連絡する事


 そして高位悪魔たちが出した条件は


 ・異世界に行くための魔法式を知っている者から完全な魔法式を入手してくる事

 ・魔神の事を知らせても悪魔族はその件に関して不利益のないように取り計らう事

 ・可能であればその者を悪魔族の町に連れてくる事


 であったが、3つ目については現実的ではない。


 ノエルの伴侶やレインが許すとは思わないし、髪の毛が黒いうちはごく普通の女だ。

 だがひとたび何かの拍子に豹変したら今度は悪魔族がノエルに滅ぼされかねない。


 それは白羽根どもが望んでいる事だろうが、逆に考えて悪魔族が上手くノエルに取り入ったら白羽根どもを壊滅させるという話にもなりかねない。


 私はノエルについて詳しく悪魔どもには話さなかった。

 もしノエルの潜在能力に気づけばノエルをなんとかして取り込もうとしてもおかしくない。


「という経緯があった。異世界に行く完成されている魔法式を書いてくれないか」


 と、ノエルに頼んでいるものの、ノエルの伴侶がそれを阻害してくる。

 実にわずらわしい男だ。


「俺たちに関わってくるなよ。俺の女に気安く話しかけんな」


 正直に告白するのなら、今すぐにでもこの鬱陶うっとうしい男に口をふさぐ魔法などを使って黙らせたい。

 氷の魔法などで壁に縫い付けてしまいたい。


 だがノエルを刺激したくないので、穏便に私は下手したてに出てやっているというのに。

 ゴルゴタよりもずっと質が悪いと感じる。


 下手にノエルがまたあの暴走状態になったら鬼族の町が焼け野原にされてしまう。


「ご主人様、魔術式を書くくらいでいいなら書きます」


 自分の伴侶の事を「ご主人様」と呼んでいるのか。

 確かに主従関係のようなものを感じるが、その呼び方に結構な違和感を覚える。


「俺はお前が都合よく利用されんのが嫌なんだよ。お前は俺のモンなんだから、俺以外の奴のいう事なんか聞くな」

「……はい」


 この調子である。


 私と相性が悪い。

 ゴルゴタとはもっと相性が悪い。


 ここは話術に長けているセンジュに任せるのが適任か。


 私が仕方なく黙ってノエルの伴侶の男の小言を聞いているところ、蘭柳が廊下からゆっくりと現れた。


「何やら揉めているようだな」


 当然のように入ってきて、テーブルについて座布団の上に正座する。

 蘭柳が席につくと当然のように従者の鬼が、ここにいる人数分の茶を持ってきて目の前に出して去って行った。


じいさん、こいつが魔王だかなんだか知らねぇけど偉そうで腹立つ。俺の女にあれこれ命令してきやがって……」

「そうカリカリしなさるなお客人。70年も魔王なんて偉い立場だったら態度も偉くなるものだ。すまないな」

「…………」


 ここにしばらくいるせいなのか、ノエルの伴侶は蘭柳に対しては多少心を許している様子。

 私は口を挟まず蘭柳に任せることにした。


 私がこんな何の力もない人間にへりくだる等、到底できそうにない。


「とはいえ、三神がこの世にあり続ける限り貴方方に安息の地はない。私からもひとつ手間をかけると思うが手を貸してやってくれないか。こんな偉そうにしていても、相当苦労しているんだよ、この魔王()は」


 若干厭味にも聞こえたが、私は反論せずにノエルの伴侶の男の返事を待った。


「……まぁ、衣食住の世話ンなってんだし、お前の頼みってんなら仕方ねぇな」


 蘭柳の事を「お前」などと言っているのを近くで隠れて聞いている右京の殺気が手に取るようにわかる。


 どのように育ったらこんなに上から目線の我儘になるのか知りたいものだ。


「すぐに書き終わりますから。大きな紙を数枚持ってきていただけませんか」

「分かった。紙を数枚もってきてくれないか」

「はっ」


 蘭柳の指示で近場の鬼が大きな紙を持ってくるためにその場を離れた。


「レインは帰ってきていないのか」

「見りゃ分かんだろ。いたらノエルにべったりくっついて離れねぇよ」


 いちいちかんさわる男だ。


 だが、私はこんな低俗な人間に対して怒りをぶつけるような小物ではない。

 人間が虫と喧嘩しないのと同じく、私は言葉が通じるからと言ってこの者を同等に扱わない。


「揉めていないといいが」

「一応、龍族が攻めてくるようなことがないように伝達係を各地に置いているけど、そういう報告はない。ただ、王子って立場だから多少揉めているのは想像にかたくないが」

「あれはミレアム王子ではなくレインだからな。実子が別の個体だと知ったらショックも大きいだろう」


 私に子供ができることはあまり想定していないが、私の実子が転生者であったらかなり嫌な気持ちになるだろう。


 現時点で転生者というものの存在を知っているのでその可能性も考えられるが、全くそのような知識がない状態で「僕はミレアムじゃない、レインだ」なんて言われたら混乱して当然だ。


「しかし、何故異世界に行く魔法式をノエルは知っている?」

「こいつに話しかけんな」


 ノエルの伴侶はノエルを抱き寄せ、私の視界から外れるように話をも遮る。


「まぁまぁ、転生者というのは色々別の文化を生きてきたのだろうから、良かったら話を聞かせてくれないか。紙が来るまで少し時間もあるし」


 穏やかに蘭柳が言うとノエルの伴侶は明らかな敵意を収めた。

 だが、表情が険しい事に変わりはない。


「俺は話したくねぇ。お前が話してもいいなら話せ」


 ぐしゃぐしゃとノエルの頭を撫で、ノエルを自分の腕から離した。


「えーと……別世界の事なので話すと結構複雑なんですけど、僕たちが生活してた世界と、レインがいた異界という世界が作られてあったんです。その歴史を話すと長いので割愛しますが、僕たちの世界と異界を繋げる魔術式を育ての親に教わっていたので知っているといいますか……すみません、説明が下手で」

「その“作られて”というのは? 人為的に世界が作られたということか?」

「はい。人間と魔族をわかつ為に、魔女が異界を作ってそこに魔族を逃がしたんです」


 ――逃がした?


「逃がしたとは、何からだ?」

「人間からです」

「お前たちのいた世界の人間は魔族を容易に滅ぼせるほどの力があったのか?」

「はい。詳しくは知らないですけど、カガクヘイキとか、カクヘイキとかいうものがあって人間が魔族を滅ぼそうとしていたらしいです」


 カガクヘイキ? カクヘイキ?


 聞きなれない言葉に私は頭の中でどんなものなのか想像するが、仮にそれがあったとしても魔族を滅ぼすなど到底考えられない。


「全部説明すると本当に長くなってしまうので、レインが来たらレインに聞いてみてください。レインは僕らの事話すのが好きだから」

「そうだな。初めてレインを見つけたときからずっとノエル、ノエルと事あるごとに言っていた。自慢げにな」

「そんな、大層なものではないですよ。僕は今はただの人間ですし」


 ()()、な。


「レインが自慢げに私よりもノエルの方が魔法が凄いと吹聴ふいちょうしていたが、その実そうだったな。この目で見るまではあなどっていた」


 ゴルゴタを一瞬で2度も殺し、灰塵かいじんしたその魔法の手腕は、私のそれをも凌駕りょうがする。


「もうノエルには危ない真似させたくねぇんだよ。前世で色々ありすぎた。平和に暮らしてたのに、お前たちのせいで台無しだぜ」

「静かに暮らしたいならなおの事私に協力するべきだ」

「魔王様があれこれやってくれているお陰で現状なんとかなっている状態だ。危険な魔道具を使って身体を張っている」


 ノエルの伴侶は懐疑かいぎ的だったが、実際に私は『時繰りのタクト』を使って身体を張っている事に違いはない。


 私は鬼族が大きな紙を持ってくる間、出された茶を飲みながらこれからの事を考えていた。


 悪魔族のところに行ったので、次はアザレアのところに行って事情を説明しなければならない。

 あるいは飲むポーションがあと1つなので一度魔機械族のところに行き、飲むポーションを更に調達してきてもいい。


 暖かいお茶を飲みながら、ほんのひと時安息の時を私は過ごした。




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