悪魔の町に着きました。▼
【メギド 悪魔族の町の入り口】
私が堂々と悪魔の見張りのいる場所に歩いて出向いた。
暇そうに雑談していた悪魔3名は私を見るなり真っ青な表情になり、持っている武器を私に向けた。
「メギド様!?」
「マジかよ、なんで俺が見張りの時に……!」
「絶対勝てねぇよ」
勝てないと分かっていても大人しく私に従うつもりはないらしい。
私が軽く魔法で武器を弾き飛ばし、魔法で身体の自由を奪ったところで呆気なく悪魔3名は私に降伏を申し出た。
同じ悪魔族の血が半分流れているだけに、その情けない姿に憤りさえ感じる。
「貴様ら、誇り高い悪魔族なら簡単に敵に頭を下げて命乞いをするな」
仁王立ちに私の前で情けない姿を晒す悪魔どもに説教をすると、またもや情けない声で「申し訳ございません」などと言っているものだから尚更腹が立ってきた。
「貴様らのようなこんな辺境に配置されている者には上位悪魔の動向など知らされていないのだろうな」
「そ、それはそうですよ」
嘘だ。
どうやら上位悪魔族の動向をこんな下っ端の悪魔でも知っているらしい。
私は嘘をついている悪魔の片腕を破壊しない程度に凍らせた。
「痛っ……!」
「嘘をつくな。今度嘘をついたらその腕が砕け散る事になるぞ。私は嘘が分かる魔道具をつけているから嘘を言ってもすぐ分かる。上位悪魔が何を考えているのか教えてもらおうか」
「…………」
悪魔3名は顔を見合わせ合ってどうするべきか考えている様子だった。
「安心しろ。私は殺生は好きではない。どうしても話したくないなら直接上位悪魔の連中のところに行くだけだ。どのみち上位悪魔のところへは行く」
「……あの大狼族が異世界に行く計画を聞きに来たって聞きましたけど……」
これだから悪魔は。
強い者にすぐ媚びる姿勢が気に食わない。
上位悪魔よりも私の方が強いと判断してのこの態度だろう。
私の方が強いと認識できる点は評価するが、すぐに尻尾を振る態度は癇に障る。
「本当にそんな算段が立っているのか? いつ頃、どのような方法で?」
「らしいって話くらいで、詳しい事までは知らないです。すみません」
「他には何を知っている? 知っていることはすべて話せ」
「異世界に行くって話が出てから結構経ちますけど……あれから特に何も聞いてないよな?」
「そうだな……あれから結構経つけど進展なさそうだしな」
「その“あれから”とはいつ頃のことだ」
「丁度メギド様がゴルゴタに魔王交代宣言されたくらいですね」
――とすると……元々異世界に行く研究は水面下でしていた訳か
私の『血水晶のネックレス』の効果が切れて本格的に動き出したのか。
だが、随分前から公言している割には成功していないところを見ると、やはり何か弊害があるか知識不足な点があるのだろう。
「まぁいい。私は上位悪魔どもに聞きに行く」
凍らせた腕を温める用の焚火を魔法で作ってやって、見張りの3名を置き去りにして洞窟の中に入った。
空間認知魔法で地下通路の最短ルートは分かっている。
分かっているが、かなり長い。
それに地下であるし、相当に暗いので夜目が効かない魔族や人間はここを抜けることができないだろう。
私は夜目が効くので明かりがなくても、いや、空間認知魔法を使えば目を閉じていても通り抜けることができる。
ただ、相当に歩かなければならないことが苦行であった。
――地下へ向かって行っているが、結構熱い
地底にマグマが流れているのが原因であろう。
――こんな場所でよく生活して行けているものだ
私が地下通路を抜けて悪魔族の町に着くと、そこは地下洞窟を最大限利用した複雑な地下街だった。
全体的に暗い街に最低限の光が灯っているだけでほぼ真っ暗だ。
後は町の各所に流れるマグマの赤い光だけ。
上位悪魔がどこにいるのか分からなかった私は、道行く悪魔に声をかけて上位悪魔の情報を聞き出した。
私を見る度に「メギド様!?」と驚かれるのは大変煩わしいところではあったが、私は魔王なのだからそのくらい驚かれて然るべきだろう。
私に接触した悪魔らが更に他の悪魔らを呼び、大混乱になってしまっていた。
私としては騒がしく煩わしいので嫌であったが、これで上位悪魔が出てきてくれるなら好都合だ。
そして上位悪魔1名捕獲した後に、別の上位悪魔を引きずり出して色々情報を得ようと考えていた。
が、上位悪魔族はこの魔王である私がわざわざこんな場所に出向いてきたというのに挨拶の一つもしてこず、出てこなかった。
白羽根の事を考えると気分が悪くなる私であったが、白羽根のトップのルシフェルが直々に私を迎えに来た事を考えると、悪魔族の私の扱いの雑さに少々の苛立ちが募る。
「上位悪魔はどこにいる?」
その辺にいた女悪魔に聞いてみると「あちらの宮殿に住んでおります」と指さして居場所を示した。
悪趣味な宮殿が乱立して建っており、そこに上位悪魔らが住んでいるらしい。
「この私に足を運ばせるなど、悪魔族は本当に怠惰で困る」
宮殿に向かって歩き始めたところ、やっと騒ぎの報告が行ったのか大悪魔13家上位悪魔の者たちがやっと全員出てきた。
全員同じ服を着ていてフードを目深に被り、全く個性のない姿だ。
13名全員出てきたところは評価できる。
1名1名ずつ別々に話をするのは面倒で仕方がない。
「このような場所に何か御用でしょうか元魔王のメギド様」
「私は元ではない。現役魔王だ」
13名の高位悪魔13家の者たちは口々に私の事を言いたい放題言い始める。
「魔王様の使いだとかいう大狼族が来ましたが、あの程度の魔族を家来にされているとは、魔王様も落ちたものですね」
「全く。悪魔族代表として世襲制で悪魔族が魔王をしていたのにクロザリル様から混血になり、パワーバランスが壊れた。鬼族が大きい顔をしていて腹が立つ」
「ゴルゴタが暴れ始めて龍族まで出張ってきて、勘弁してほしいものだな」
悪魔族は自由奔放だ。
基本的に自分の利益になることを優先して他の事は蔑ろにする傾向がある。
だから個人主義で13家もそれぞれ繋がりはあるものの、使えないと判断されたら瞬く間に切り捨てられるだろう。
「随分私の家来に好き勝手してくれたようだな。それで、私が確認しに来たのはお前たちが異世界に行くという話だ。そのような事を魔神が許すはずがないと思ってな」
「でしょうね。だから水面下で進めているのです」
一応上位悪魔どもも魔神の干渉については懸念しているらしい。
「どんな世界に行くのか、何故なのかは興味はない。異世界に行くのはいつだ?」
「そのようなことを聞かれてどうされるんですか?」
「魔神が干渉してくる時期を明確に知りたい」
「それを知って何になる? 魔神に何か用なのか?」
単なる好奇心であれこれ質問してくるのが物凄く鬱陶しい。
私は情報交換をしにきたわけではない。
私が情報を得るためにここにきたのだ。
「魔神に用があってな。ただどこにいるのか分からない。だからお前たちが異世界転移する際に干渉してくるであろう時に魔神と話がしたい」
「ちっ……俺たちをダシにしようってのかよ」
私が上位悪魔を利用しようとしている事に対して奴らは面白くなさそうであった。
「そうだ。結局異世界に行くことが決まっているのなら私はそれを邪魔しない。情報を聞きに来ただけだ。ここで揉めるよりは建設的だと思うがな。お前たち13名が束になっても私には適わないぞ」
そこまで馬鹿ではないと思うが、念のため魔法式を片手で展開して威嚇して見せると上位悪魔らは戦意を完全に失ったようだった。
「俺たちとしても元魔王様と事を構える気はねぇよ。ただ、異世界に行くのは簡単じゃねぇんだよ。魔法式が完成しなくて俺たちだって困ってんだ」
「元じゃない。現役魔王だ。それ以上言ったら痛い目に遭わせるぞ」
私の予想ではもう魔法式が完成しているかと思ったが、どうやら完成していないらしい。
「物凄く不本意だが、見てやってもいいぞ」
「出たよ、魔王様の上から目線。うぜー」
「こういうところあるから嫌いなんだよな。混血の癖に」
「貴様らのような純血主義よりも混血の私の方が強いのだから、私が絶対だ」
純血主義とか混血差別の話をしにきたわけではないので、私は話を戻した。
「完成しないとお前たちも私も困る。上位悪魔13名もいて完成しないなら余程難解な魔法式なのだろうな」
だが、なぜそんな途中の魔法式がある?
完成しているならいざ知らず、魔法式が不完全にも関わらずどうして魔法式が異世界への転移を可能にすると言い切れる?
「待て、その魔法式はお前たちが1から作ったものではないのではないか?」
「ご名答~! そんなことまで分かっちゃうんだね」
「あれは途中の魔法式を手に入れた。あれを書いていた者がいれば簡単なのだが……」
「何かその者の手がかりはないのか?」
「それがよぉ、クソ天使に手厚く保護されてて近寄れねーんだわ。なんだか良く分かんねぇけど奥の方に奥の方に……って感じで慎重に匿っててよ」
それを聞いて物凄く嫌な予感がした。
同時に頭痛もしてくる。
「それはもしや……黒髪の女ではないか?」
「あ? なんで分かるんだよ」
「その通りだけど」
――やはりか……
異世界に行く魔法式が書けるのは、レインの探し続けていたノエルであろう。




