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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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指摘しますか?▼




【メギド 魔王城 中庭】


 ライリーがクロの傷を治している間、クロから悪魔族の元に行った話をもう少し細かく聞いた。


「上位悪魔族から聞き出せたのは“別世界に行くからこの世界がどうなろうと関係ない”という話だけだ。それ以上の事は知らない」

「それが言ったことそのままか?」

「そうだ」


 その口ぶりからうかがえるのは、もうその方法は確立されているか、もう間近に完成して別世界に行くと決めているという事だ。


「魔神が許さねぇってどういうことだよ?」

「憶測にすぎないが、悪魔族が世襲制で魔王をしているのは魔神が悪魔族を選んだからだ。そんなお気に入りの種族が別の世界に行くのをはばむような気がしないか?」


 私の話は完全に憶測の話だ。

 この話を聞いたライリーは渋い表情をしていたがある程度理解を示す。


「多少こじつけ感はあるけど……それが本当ならそれを利用すれば魔神の位置の特定はできそうだね。今のところ有効打はないけど」

「捕縛の魔法式、なんとしてでも解読して完成させるぞ」


 私たちは三伸に対して何の対策もできていない状態だ。

 それをあの膨大な資料の中から調べ、見つけられたら一歩前進できる。


「クロ、大儀であったな。もう気候も随分暖かくなってきた。永氷の湖に帰ってもいいんだぞ」

「……いや、この程度なんともない。それに魔族の楽園ではあの子龍が抜けた以上は守れる者が必要だ。私は魔族の楽園に戻る。魔機械族が弱い氷結の珠のようなものを作ってくれているところだ」


 センジュが作った魔機械族は、もうセンジュの手を離れて独自に進化していっている。

 聞いている限りでも、実際に見た建造物でも相当高度な技術を持っているのは明白。


 魔機械族の町に一度足を運んでもいいかもしれないな。


「お前がそんなに情深いとは思わなかった。あいつらを頼むぞ」

「あぁ」


 ライリーがクロの傷を治し終わったところで、クロは魔族の楽園方面に走って魔王城から出て行った。

 もう少しゆっくりしていっても良かったものを。


 だが、よく考えればゴルゴタや蓮花がいるこの状況で長居したくなかったのだろう。


「別の世界ってどんなところなんでしょうね」

「私の知り合いの転生者どもの元の世界は戦争していたところもあり、平和に引きこもり生活を謳歌おうかしている世界もあるようだな」


 琉鬼のいた世界は平和そうだったが、ノエルやレインがいた世界は色々戦いがあった様子だった。


 ――ん?


 私はそこで違和感を覚える。


「妙じゃないか? いくつか世界があっても、同じ生物がいるとは限らない。だが、人間はどちらの世界にもいた。片方は龍族もいたようだ」

「そう言われると……そうかもしれませんね。神はこの世界にいるのに、別の世界でも人間がいるというのは……神ってそれぞれの世界に複数いるんでしょうか?」


 それは転生者である琉鬼を呼び出して聞いてみることにしよう。


 だが、この場に呼び出して大丈夫だろうか。

 ゴルゴタもいるし、あまり匂いがキツイ状態だとゴルゴタがあっさりと殺してしまいかねない。


 かくいう私も琉鬼の匂いには我慢ならないところだ。


 当人は自分が臭いという事に無頓着なのが良くない。


 そうだ、良い事を思いついた。


「蓮花、頼みがある」

「嫌ですよ」

「話を聞く前から断るな」

「だってどうせろくでもないことじゃないですか」

「転生者の貴重な意見を聞くためにお前の協力が必要だ」

「……分かりましたよ。何をすればいいんですか」


 簡単な事だ。

 琉鬼は蓮花に対して好意的だった。


 好意的な者から「臭い」と言われたら相当に傷つくはず。


 そして自分の体臭を気にし始めて念入りに風呂に入って清潔になるように努力するはずだ。


「これから転生者をここに空間転移させてくる。そいつに向かって“臭い”と言ってやれ」

「……それ、私である必要あります?」

「女にバッサリ言われた方が本人も気づけるだろう。私が再三言っても未だに臭い。括り付けられている人間よりは臭くないが」

「というか、臭いかどうかなんて話を聞くうえで関係なくないですか?」

「あまりに臭いとゴルゴタがうっかり殺しかねないだろう」


 蓮花は「それはそうかもしれない」という面持ちでゴルゴタの方を見た。


「それならお風呂に入れたらいいじゃないですか」

「いや、分かっていないな。アレは自分の体のどこが匂うのか分かっていない。普段風呂に入らない奴は風呂に入っても無駄だ」

「ならどこが臭いのか指摘したらいいじゃないですか」

「言葉にするのもはばかられる」


 その私の反応を見て蓮花は「あ……」と察した様子だった。


「ゴルゴタ様、激臭の危険物がくるそうなので城の中に避難してください。うっかり殺しかねません」

「おい、俺様が“うっかり”で殺しちまう訳ねぇだろうが。馬鹿にしてんのかぁ……?」

「しかもそいつはかなり鬱陶しい性格をしている。本当に殺しかねない」


 蓮花に特別な感情があると見透かされたら尚更だ。


 カノンのように明らかな好意ではないが、この前琉鬼の母親を助けた。

 それに蓮花のことを本当は悪い人間ではないのではないか等と言っている。


 本人は女慣れしていない様子だった。

 というか、人間慣れしていない様子。


 そんな人間は蓮花にとって簡単に手玉に取られてしまう。


「ゴルゴタ様は少しお部屋でお休みください。その臭い転生者の話は私とメギドさんとライリーで聞いておきますので。心配ならお部屋からこちらの様子を見守っていてください」


 私と蓮花の話を聞いて、ゴルゴタも少し思うことがあったのか大人しく従う素振りを見せる。


「……危険な奴じゃないんだろ?」

「むしろ無能だな」


 魔法もろくに使えないし、あの体系では全く機敏に動けない。


「ふぅん……ちょーっと疎外感そがいかん感じるけどぉ……貴重なサンプルを俺様がうっかりぶっ殺したら大変だからな。キヒヒヒヒ……危険を感じたら叫んで呼べ」


 ゴルゴタは翼を大きく広げて自分の部屋の方へ飛び去って行った。


「そもそも空間転移魔法に耐えられるんですか」

「あれは呪いや空間転移魔法の負荷がかからない特殊な能力がある」

「凄い才能ですね」

「それしか才能がないがな」


 私は琉鬼を呼び出す空間転移魔法を展開した。

 呼び出すまでに10秒欲しいと言っていたので私は10秒程度猶予をやる。


 そして10秒経った頃に呼び出すと、琉鬼はなんとか地面に着地していた。


「また我の出番という訳か……待ちわびていたぞ――――わあっ!?」


 魔人化した蓮花を見て琉鬼は訳の分からない口調を辞めてあからさまに驚いた。

 以前見たときと様子が大分違うことに驚くのも仕方がないが、顔のタトゥーで蓮花だとは識別できただろう。


「前に話しましたよね。世間知らずな漆黒の勇者の人」

「あの時の可憐な乙女! 大分体の様子が違うが、まさか第二形態!?」

「…………」


 蓮花の嗅覚は魔人化した影響で鋭敏になっているはず。

 そして目の前の琉鬼のどこが臭いのか理解したとき、蓮花は少し言いづらそうに眼を泳がせた。


「貴方、お風呂ちゃんと入っていないでしょう」

「何!? 我はちゃんと風呂に入っているぞ!」

「洗えていない箇所があります。私も職業柄たまに指摘することもあったのですが、貴方、真正包茎ですね」

「!!?」


 ライリーは顔を逸らして頭を抱えている。

 男ならこんなことを女に指摘されたらショックで立ち直れなくなってしまってもおかしくない。


 特に琉鬼は精神面に脆弱ぜいじゃく性がある。


 案の定というべきか、蓮花に指摘されてかなり応えたのか口を開けっ放しにして呆然としてしまっている。


「真正包茎の方は全員ではありませんが、皮を剥かずにお風呂を済ませて洗わらない人もいます。その場合、結構不衛生になって本人が思っているより強烈な匂いになったりするんですよね。なので可能であれば皮を剥いて――――」

「蓮花、ちょっと待って」


 蓮花が淡々と説明をしている中、ライリーが横やりを入れた。


「何?」

「ショックのあまりに気絶してるみたい」


 琉鬼は立ったままあまりのショックに気絶していた。


 まるで石になったかのようにその場に立ち尽くしている。


「別に真正包茎が悪いとかって話はしてないんだけどな。そんなにショックな事なの?」

「……君は女性だから分からないかもしれないけど、男は女性に包茎がどうとか言われたら傷つくものだよ。男女問わず性器の事はデリケートな問題なんだ」

「性器なんて言っても結局内臓が外側に出てるだけのものなのに。誰も自分の小腸の長さなんて気にしてないのに、なんで自分の性器の長さとか形にこだわるのかな」


 蓮花は回復魔法士の職業柄の独特な意見を述べるが、琉鬼は恥ずかしすぎたのか気絶してしまった。


 これで琉鬼はしっかりと自分の身体を隅々まで洗うことができるようになるだろう。

 ショックで気絶しているくらいなのだから。




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