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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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クロが帰ってきました。▼




【メギド 魔王城 自室】


 久々にゆっくりと気が済むまで入浴もできたし、センジュの美味な料理も食べた。


 センジュは調理場の散らかって事件でもあったのかと思うほど荒れている状況を見て少々驚いていたが、特に何も言わずにいつも通り料理を作ってくれた。


 私がセンジュの調理方法をずっと見ていたことに対しても特に何も言ってこなかった。


 もう覚えた。

 私は次から料理をすることができる。

 これでゴルゴタに馬鹿にされずに済むし、センジュが不在時も問題ない。


 明日は解析作業で忙しくなる。


 疲れているのになかなか眠ることができない。

 不安な事や考えることが多すぎる。


 入浴時に脚に生えている死の花を見たが、やはり少し大きくなっている印象を受けた。


 肩の花は勇者の剣で切れてなくなった。

 傷跡が多少残ったが花が咲いているよりもずっといい。


 ――あまり悠長に考えていられないかもしれないな


 痛覚を遮断しているため、これがどの程度の苦痛なのか分からないが恐らく痛覚が正常だったら悶絶し、正常な思考などできないだろう。


 なんとか切除したい。


 勇者の剣で切れたのなら、あの刺さっている状態の剣にこの花を切れるように脚を動かしてみたら切れる可能性はあるか?


 いや、覚醒状態の勇者の剣でなければ恐らく切れない。

 それに下手な事をしたら更に大変なことになりかねない。


 私は頭の中の細かな情報をなんとか整理しつつ、ベッドで眠りについた。




 ***




【メギド 魔王城 蓮花の部屋】


 私、ゴルゴタ、センジュ、蓮花、ライリーが集まった。


 全員十分に休息を取れたようで、作業に十分集中できそうだ。


 ゴルゴタは魔法式についてはあまり役に立たないが、血を流す要員であり、ライリーが下手なことをしたらすぐさま殺す要員でもある。


 魔法式の処理能力は私と蓮花が同等。

 ライリーは若干遅いが細かな点について暗号などが隠れていないか注視している。

 センジュはライリーが見た紙面を更に細かくチェックしている。


 そんな時間が3時間ほど過ぎたとき、やっと全ての紙面の表面の解読は終わった。


「死者の蘇生方法の細かな内容がほとんどだな」

「異形を人間に戻す研究もかなりある。でも私が知ってる以上の事は書かれてない」

「過去の人間がここまで解明していたという点においては驚くけどね」


 血を滴らせない表面の書面は我々が概ね知っている事しか書かれていなかった。


 それを調べるのに3時間だ。


 集中し続けた為、センジュとゴルゴタ以外はかなり疲労を感じている。


「死神が警告しに来てもおかしくないけど、こないね」

「来ない方が助かりますけど。話が長くて仕方がないですし。少し休憩をとってから()()の解読をしましょうか。少し休みますか?」


 蓮花が全員の体調に配慮した発言をし、ライリーが少し休みたいと言った後にライリー以外の全員があることに気づいた。


「誰か魔王城に入ってきましたね」


 蓮花の部屋の窓から外を見ると、そこにはクロがいた。

 多少交戦したような痕があり、白い毛並みが赤く染まっているところもある。


「悪魔族のところへ偵察に行かせていたが、無事に戻ったようだな。私が話を聞いて来る」

「では、私はあの出来損ない回復魔法士の仕事ぶりでも見てきます」

「私も行っていいかな? 座りっぱなしだったから少し歩きたいし、私もあの出来損ないの仕事ぶりを評価したいしね」

「じゃあ俺様も行くぜぇ……てめぇが人殺しに何かしないとは限らないしなぁ?」


 ライリーは心外そうだったが、ゴルゴタの同行を渋々受け入れた。


「わたくしはお茶と茶菓子でもお持ちしますね」


 と、各々解散した。


 私は蓮花の部屋の窓を開けて飛んでクロの場所まで行った。


「大儀だったな。怪我をしているのか?」

「大したことはない。それよりも大変な事になっていたぞ」

「なんだ?」


 クロは疲れているのか、その場に座り込んだ。

 暑いのかぐったりしている。


 私はクロの体温調整の為に薄い結界を張り、その中に冷気を充満させた。


 それによって少しはクロは楽になった様子だった。


「天使が魔王になるのはそんなに受け入れがたい事だったのか?」

「違う。むしろそんなことはどうでもよさそうだった。上位悪魔族の見解は“別世界への移住”だった」

「?」


 何を言っているのか全く分からない。

 別世界への移住?


 ――別世界……異世界に行くということか?


 琉鬼が来たニホンという場所や、レインが元居た世界に行くという事だろうか。

 いや、別世界がそれだけとは限らない。


 どんな世界に行こうとしているのかは分からないが、そもそもどうやって別世界に行こうというのか。


「何を言っているのか全く分からないのだが、悪魔族は異世界に行く技術を手に入れているのか?」

「詳しくは言っていなかったが、この世界を放棄して別世界に行くということくらいしか聞き出せなかった。奴ら、怠惰にしているくせに攻撃的でな……」

「すぐに治療をさせよう。そこで安静にしていろ」


 私は城中の気配探知を使って蓮花たちの場所を割り出し、人間が括り付けられている場所までやってきた。

 相変わらずここは悪臭が立ち込めているし景観が最悪だ。


 だが、カナンが掃除をしたり体調管理をしたりしているお陰でここにいる人間たちはなんとか生きている。

 蓮花が雑に管理しているときよりも健康的に見えた。


「どうされましたか、メギドさん」


 私に気づいた蓮花たちはこちらを向いた。


「怪我をしているようなので治してやってくれ。それから訳の分からない情報を得て混乱している」

「あぁ? 勿体つけないで言えよ」

「悪魔族はこの世界を捨てて異世界に行く算段を立てているらしい」

「はぁ!?」


 蓮花、ライリー、ゴルゴタの全員が驚いている様子だった。


 そうなるのも無理はない。

 私も自分で言っていて全く訳が分かっていない。


「頭でも打ったのかぁ……キヒヒ、それとも新手のギャグ? ヒャハハハッ」

「ふざけるな。私がふざけていることなど今までで1度でもあったか?」

「は? てめぇはいっつもふざけてやがるだろうが」

「何を言っているのか理解できないが、私にやれということかな? 私は雑用係じゃないんだぞ」


 ライリーは不服そうだったが、ゴルゴタがライリーの腕に向かって拳を振り下ろした瞬間、即座にそれを避けた。


 暗部司令官の腕は鈍っていないようだ。


「ちっ……鬱陶しい野郎だぜ。半殺しにしてやろうかぁ……? ヒャハハッ」

「できるものならやってみ――――」


 グイッ……と蓮花がライリーの頬を強めに押すと「分かった分かった」とライリーは了承する。

 それを見てゴルゴタは更に面白くなさそうな顔をして自分の指をガリガリと齧っている。


「その異世界の話、興味深いですね。是非聞きたいものです」

「クロもそれ以上の事は分からない様子だったぞ」

「じゃあ悪魔族のところに殴り込みに行くかぁ? キヒヒヒヒ……」

「お前が行くとろくなことにならない。却下だ」


 そこにカナンが栄養剤を両手に抱えて走ってきた。

 あくせくと蓮花に気に入られるために身を粉にして働いている様子。


「あ、お疲れ様です! 皆さんお揃いで」

「結構頑張っているみたいですね。大分検体の状態が良くなってる」

「は、はい! 精進しております!」


 蓮花に褒められてカナンはとても嬉しそうにしていた。


「で、渡した魔法式の進捗は?」

「それは……努力している途中と申しますか……」


 到底できない魔法式を「できるようになりました」とは言えない様子。


「努力はしてるんですよね?」

「勿論です!」


 その言葉に嘘はなかった。

 だが、実際にはできていない。


 どう考えてもカナンの能力値では不可能だと蓮花も分かっている。


「なら続けてください」

「はい!」


 それだけカナンに言って蓮花はライリーを引っ張りながらクロの方へと向かって行った。


「異世界からの転生者がいる時点で、ある程度異世界の事は予想がつきますが意図して行けるものなんでしょうかね」


 転生というくらいだから死んでこちらの世界に来たのだろうが、悪魔族は一族で大規模心中でもしようというのか。

 それともこちらの身体を維持したままいくつもりなのか。


「別の世界に行く理由も分からなければ、行って上手くやれる保証もない」

「ほっときゃいいだろぉ……? 俺様達には関係ねぇ話だぜ」

「いや、そうとは考えにくいな」

「んあ? なんでだよ」


 これは単なる私の推測に過ぎないが……


「魔神がそれを許すはずがないと思うからだ」




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