レインの両親に会いました。▼
【メギド 龍族の町】
空間転移魔法を使って移動した直後、センジュが作ったポーションをすぐに口にしたら負荷がかなり軽減された。
完璧に負荷が回復した訳ではないが、9割回復したと言える。
――これは便利だな。城に戻ったら解析して複製して作ってみよう
等と、悠長に考えている間もなく突然現れた私を龍族たちは注視してきた。
存在するだけでその場の空気までも美しく輝かせてしまう私がきたのだから当然だ。
ここは龍族の住んでいる町の下層。
やつらは身分の低い龍族たちであろう。
「案ずるな、争いにきた訳ではない。ミレアムはまだここには来ていないか?」
私の質問に対し、龍族たちは「来ていない」と返事をした。
――少し早すぎたか。レインもこの距離なら更に時間がかかっても不思議はない
「ミレアムの両親と少し話したいのだが、いるか」
「確認してまいります」
そう言って下層の龍は上へと翼をはためかせて飛んで行った。
最上は雲の上。
暫く戻ってこないだろう。
に、しても……ゴルゴタが暴れたと思われる痕跡がまだ生々しく残っていた。
岩場には血がそこかしこについているし、崩落しているところもかなりある。
滅茶苦茶やったゴルゴタの件で前魔王と認識されている私の責任を問われても仕方がない。
待つこと5分程度。
上から2体の龍族が下りてきた。
以前魔王城に来ていたミレアムことレインの親の龍だ。
「メギド様、このような場所にご足労頂きありがとうございます」
レインの親は私に対して深々と頭を下げた。
「下が都合が悪いなら上で話すが?」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
やはり上位の龍族は下層にいたくないらしい。
天使族の考え方と似ているところは少し共感できない。
空の上層部など、気温が低くて空気が薄いだけで崇高な場所でもなんでもないはずなのに。
私はレインの両親に続いて雲の上まで登ってきた。
山の上で家屋らしい家屋はない。
洞窟のような場所で、明かりは炎の魔法で照らしている程度。
勿論、私が座るような椅子はなかった。
龍族の住処に龍族が座れない椅子があるはずないのでそれは仕方がない。
「ゴルゴタが滅茶苦茶やったようですまなかったな。私の監督不行き届きだった」
「幸いにも死者は出ませんでしたので。センジュ様とあの人間のお陰でなんとかなりましたし」
上位の龍族はもっと高圧的に出てくると思ったが、レインの両親は温和であった。
ゴルゴタの父のアガルタは結構粗暴な性格らしかったが、龍族全般がそういう訳でもないらしい。
「単刀直入に言う。レイン……ミレアムの件だ」
「はい」
「残念なことに、奴は転生者だ。お前たちの子であることは事実だが、ミレアムではなく前世のレインという核が入っている」
「その話はなんとなく分かりますが、なかなか受け入れられることでもなく……」
「レイン以外にも子供はいるのではないか?」
「他にも子供はおりますが、我々の子供であることには変わりありません。生まれてすぐ逃げ出してしまって困惑しましたが、見つかって嬉しいと思っています。生まれて間もない子龍が生き延びられたのもメギド様のお陰です。本当にありがとうございました」
またもやレインの両親は深々と私に頭を下げた。
弁えている奴らで助かる。
天使族のような横暴な奴らでなくて私も苛立たなくて済む。
「レインはずっと探していた者を探し、そして見つけた。その人間から離れるつもりはないらしい。前世からの悲願だと聞いている。そっとしておいてやってくれると助かる。レインはこちらに向かっている最中だ。奴が来たとしても私と同じ話を物凄い熱量で語られるだけだろうがな」
レインは絶対にノエルの側から離れることを是としない。
だからレインの両親がこの話は折れるしかないのだ。
「レインの中にミレアムがいると言う可能性は……?」
「他の転生者を見たこともあるが、恐らくそれはない。あれは完全にレインという個体だ」
私の言葉を聞いて、相当残念に感じたのかレインの両親は沈黙してしまった。
自分の子供が別の個体であるという事実はそう簡単に受け入れられない事柄だろう。
「私としては親の気持ちは分からないが、ここは潔く引いてほしい。時折顔を見せに来させるとか、そういった平和的な解決を望む。レインが執着しているあの人間の女……暴走し始めたら手が付けられない。あの場で見ていただろう」
「はい。だから余計にです。余計にあの危険な人間の側にいてほしくないと思っています」
その考えに共感できないわけではない。
だが、ノエルの暴走状態はレインが現れたから止まったのも事実。
「ノエルはレインを傷つけない。ノエルの暴走が止まったのはレインのお陰だった。あのまま暴走状態が続いたら私も危うかっただろう」
色々私が説得を試みているが、やはりレインの両親はいい顔はしていなかった。
何故そこまでレインに執着する?
子供が他にいるのであればそれでいいではないか……と、思ったがサティアに執着するセンジュを思い出し、そういう問題でもないと思い直す。
「ミレアム王子と聞いているが、身分の問題か?」
「身分の問題もありますし、人間と仲良くしているという事が受け入れられないのもあります」
魔族にとって人間は害悪でしかない。
私が魔族を牽制していたせいで人間に恨みを持っている魔族が殆どだ。
レインはこちらの世界の歴史や常識を知らないから、かなり複雑な情勢に沿った行動はとれないだろう。
「心配するな。レインはノエル以外の人間の事を嫌っている。それに相当な実力があるし、自分の身も守れる。レインは攫われた訳じゃない。自分の意思でノエルの元にいる。誤解のないように伝えに来ただけだ。レインは感情的になってどうせ上手く伝えられないだろうからな」
私はそれだけ言ってレインの両親に背を向けた。
「一応言っておくが、無理矢理レインを止めても無駄だ。ゴルゴタよりは温情はあるだろうが、ノエルの為には手段を選ばない」
どうせ話し合いにはならない。
話は平行線。
一方的にレインは「僕はノエルと一緒にいる」とかなんとか言って出ていくことになるだろう。
「身分やら色々あるだろうが、レインは転生者という特例だ。こちらの龍族の常識に当てはめない方がいいぞ」
それだけ言って、私は空間転移魔法で魔王城付近に転移することにした。
レインの両親がどう思っているかどう思ったか分からないが、レインの意思は固く決まっている。
変えることは私にも不可能だ。
それをレインの両親が理解するかどうかの違いでしかない。
私は空間転移魔法で魔王城付近に転移した。
***
【メギド 魔王城付近】
空間転移後、再びセンジュが作ったポーションを服用する。
これがあるだけで大分楽だ。
早くこれの量産に取り掛からなければ。
蓮花は役に立つだろうか……などと考えているときに、後ろに気配を感じて振り返った。
「佐藤か」
魔王城に入れない佐藤はこの付近でタイミングを見計らっている様子だったが、ろくな食事も摂っていないのかフラフラの状態であった。
「魔王様、俺の家族の仇を取らせてください……」
「……私としてはどうでもいいのだが、佐藤に勝ち目はない。無駄死にされては私も目覚めが悪い。復讐をやめてもっと建設的な事をしたらどうだ。復讐なんてしてもどうせ気持ちも晴れないし、無気力になるだけだ」
「そんな理屈なんてどうでもいいんですよ! 俺は今復讐以外考えられない!」
はぁ……相変わらず頭の痛い奴だ。
いや、頭が痛い奴だ。
ダチュラが万全の状態なら佐藤に勝ち目はない。
仮にダチュラを殺せたとしてもゴルゴタや蓮花に殺される。
本当に先の見えていない奴だ。
「これが最後の忠告だ。やめておけ」
「断ります!」
やはり佐藤は私の言葉を聞き入れない。
こいつはそういうやつだ。
家族が殺されたらやはりこうなるのが普通なのだろう。
ゴルゴタが人類を滅ぼしたがっているのと同じく。
分からないわけでもないがそれが正しいとは思わない。
「なら好きにしろ。私は庇わないぞ。せめて私の目の届かないところでやってくれ」
私は佐藤を放っておいて魔王城の中へと向かって行く。
結界が張ってあるので魔王城に佐藤は入れない。
私は琉鬼が運んできた書類の山を放置しておいた場所に行ってみると、書類の山がなくなっていた。
――盗まれた……?
だが、あの結構な重量で強く呪われているものを普通の者が持って行けるはずがない。
それに、置いてあった場所から転がしたような跡はない。
足跡が残っているが、これはゴルゴタのものだ。
ともすれば、蓮花とゴルゴタがここにあった書類を持って行ったと考えられる。
――解読作業に移ったのか? やけに勤勉だな
それを確認して私は魔王城の正門から中に入って蓮花の部屋へと向かった。




