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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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血統を確認してください。▼




【メギド はじまりの村付近】


 そこには焼け焦げた魔族の死体が複数体あった。


 どれも結構古いもので、自然に還ろうとしている。


 中には比較的に新しいものもあったが、どれも自称勇者の無職どものもの。

 勇者が入れない結界を張って行ったのだから当然だ。


 結界に阻まれ、そして魔族に襲われて死ぬ。


 しかし、その当然を無視して結界をこじあけてはじまりの村に入った者がいた痕跡がある。


 恐らくアザレア一行だろう。


 ――私の結界を簡単にこじあけるとは……いくら私が呪われた状態であったときのものとはいえ、簡単に入れるものではなかったはずなのだが


 村の中は特に変わりない様子であった。

 いや、以前よりも活気があるようにすら見える。


 恐らく勇者からの略奪がなくなって生活がやっとまともにできるようになったからであろう。


 そんな状態の村の人々が勇者アザレア一行を受け入れたかどうかは分からないが、少なくとも荒れてる様子はない。


「あ、魔王様!」


 私にいち早く気づいた子供が私に向かって走ってきた。

 その声に他の者も私に気づいて近づいてきて頭を下げる。


「ご無事でしたか。外は大変なことになっている様子で……」

「魔王交代されたというのは本当ですか?」


 他にも様々な質問攻めにされたが、全てに答えることはできなかったのでほぼ無視をした。


「魔王は今も私だ。ここに白髪の連中がこなかったか?」

「はい。来ましたよ。驚きました……村中が大騒ぎになっています」

「……取り乱していないのか?」

「そりゃあ取り乱してましたよ。立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」


 私は久々にはじまりの村に入った。

 ゴルゴタが解放されて私が深手を負ってここまできたのがつい昨日のことのように感じる。


 ――三伸だの真の勇者だの、大事になってしまったものだ


 村の中に入ると、大勢が一つの場所に集まっていた。

 大騒ぎになっている様子。


 そこにはアザレアらがいた。

 イベリスとエレモフィラは遠くで涙を拭いながらアザレアを見守っている。


 一方、アザレアは1人の車椅子に座っている老婆の足元にすがりつくように落ち崩れていた。

 そして声をあげて子供の様に涙を流して号泣していた。


「何事だ?」


 私は比較的落ち着いている様子のイベリスとエレモフィラに対してそう尋ねた。


 涙を拭いながらイベリスが私の質問に答える。


「アザレアの婚約者がまだ生きていたんだ……奇跡だ……」


 ――何?


 仮に当時20歳程度だったとして、そこから70年経っている事を考えれば90歳だ。

 人間の平均寿命は45歳程度。

 90歳は相当に長生きであると言える。


「でも、もう本人はアザレアの事を覚えてないみたい……」

「生きているのが奇跡と言えるレベルの話だ。70年前の事を覚えている方が凄い」

「生きてて嬉しい反面、かなり複雑な気持ちなんだろうね……可哀想に……」


 死んでいると思っていた婚約者が生きていた。

 しかし本人は自分の事を覚えていない。


 それは相当につらいことだろう。

 死んでいた方がまだ諦めもついたはずだ。


 アザレア本人がどう思っているかは分からない。

 嬉しくて泣いているのかもしれないし、悲しくて泣いているのかもしれない。


 あるいは、その両方で泣いているのかもしれない。


 アザレアがこの後どうするのかは号泣しているので今は確認できないので、私は村長に話を聞くことにした。


 勇者の血筋について。


 私が村長を探すとすぐに村長は見つかった。


「おぉ、魔王様。ご無事でしたか。魔王様の結界のおかげでなんとかこの村も持ちこたえられている状態です。本当にありがとうございます」


 村長は深々と私にこうべを垂れてきた。


「久しいな。聞きたいことがあって戻ってきた」

「立ち話もなんですし、大したものはございませんが家へおあがりください」

「分かった」


 村長の家に入ると以前よりは物が揃っていた。

 壊れた壺の破片もないし、勇者とかいう無職に荒らされた形跡もなかった。


「タカシは元気ですか?」

「あぁ。私の命令で毎日訓練に励み、たくましくやっている」

「そうですか。良かったです」


 タカシの無事を聞いた村長は心の底から安堵あんどしている様子だった。


 それもそうだろう。

 私が最初にここに来た時はまだ他の魔族は暴れたりしていなかった。


 あれから随分世間の情勢が変わってしまった。


「そのタカシについて聞きたいのだが」

「本人では分からない事ですか?」

「そうだな。本人に聞いても分からないだろう。だから村長に聞きたい」

「分かることでしたらなんなりと」


 とはいえ……勇者の血筋の話などと急に言っても通じるのだろうか。

 それとも、この村の村長なら勇者の伝説の事を知っているのだろうか。


 私が悩んでいても仕方ないので率直に聞いてみることにする。


「その辺の“自分は勇者だ”等と言っているだけの無職の勇者ではなく、“真の勇者”について何か知っているか?」

「真の勇者でございますか……?」

「そうだ。先ほど高齢女性にすがりついて泣いていた白髪の男は、この村の出身で70年前に魔王クロザリルを討った“真の勇者”だ」

「なんと!?」


 驚くのも無理はない。


 アザレアは70歳以上には見えない外見をしているし、それが生きていると言われても釈然としないのも仕方がない。


「……名前はなんだったか……ラヴィリアの婚約者の……えーと……確かエリオールだったような」


 ――エリオール……それがアザレアの真名か


「しかし、エリオールが生きていたとしたらラヴィリア同様の年齢のはず……彼は若すぎますよ」

「そこは小難しい話が色々あるが、話すのは面倒だから割愛する。タカシはエリオールの血筋なのか?」

「えー……ちょっと思い出しますので待ってもらえますか?」


 村長は茶をすすりながらエリオールとタカシの関連性について考え始めた。


 1秒、2秒……そこから1分経っても村長は黙したままだった。


「おい、知らないなら知らないと言え」

「知らないと言いますか……このはじまりの村の者たちは全員同じ血筋なのです。直系かどうかは思い出せませんが……」


 ――同じ血筋?


「同じ血筋とはどういうことだ?」

「言い伝え程度でしかありませんが、この村は大昔の魔族の対戦のときに魔王に勝利した人間の子孫なのです」

「……はじまりの勇者とでもいうべきか」


 待て。

 その話が本当なら、この村に住む全員が“真の勇者”になる可能性がある。


 だとしたら厄介だ。


「しかし、血の濃い薄いはあるのではないか? 思い出せ。なんとしてでも」

「エリオールの弟の子供と……その兄弟たちと……あ、タカシはその血筋ですね。あれがあぁなって……こうなって……はい」


 少し心もとない返事だったが、嘘ではないようだった。


 だが、エリオールとタカシは全く似ていない。

 普通何か特徴が残ってもいいはずだが、髪の色は仕方ないにしても目の色も顔の特徴も全く残っていない。


 エリオールは美青年という顔立ちだがタカシはその片鱗も残っていないので、何かの間違いなのではないかとすら思う。


 まぁ、特記すべき顔ではないが物凄く不細工という訳でもないがエリオールと比較すると当然かすむ。


「そうか。他にエリオールの直系の子供はいるか?」

「いやぁ、タカシも年頃なのに子供もいませんしね。兄妹もいないのでアレと……従兄弟でもう1人子供がいたはずですが、早々にこの村を出て行ってしまったのでそれくらいです」


 それがノエルの伴侶の男ということか。


「他にエリオールの血筋のやつはいるか?」

「いやぁ、いないですね」

「そうか」


 一先ず私が確認したいことは確認できた。

 はじまりの勇者の墓があれば、それを少し確認していってもいいだろう。


「はじまりの勇者の墓はあるか?」

「ええ。村の端の花畑の中にありますよ。ご案内しましょうか」

「いや、方向を言えば私だけで行ける」

「方向で言うと、南の方ですね」


 ――ふん、勇者は南から現れる……か


 私は村長の家を出た。


 アザレア――――エリオールは相変わらず車椅子の老婆に縋りついて泣いているようだった。

 まだ話はできそうにない。


 はじまりの勇者の墓を見てきた後でもまだ泣いている勢いだ。

 70年ぶりの婚約者に感動しているのは十分に分かる。


 この後エリオールはどうするのだろう。


 オリバー国王に会いに行くようなことも言っていたが、婚約者が生きていたのだからまた話が変わってくる。

 イベリスとエレモフィラだけで行くのだろうか。


 まぁどうせ、あんな豚にも劣る国王に会ったところで憎しみが増すだけだ。


 私は村の南にあるというはじまりの勇者の墓へと向かった。




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