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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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役割分担が決まりました。▼




【メギド 魔王城 調理場】


 私が料理を全くできない(やり方が分かればできないことはないが、手本になるものがないので今はできないというだけだ)ので、ゴルゴタと蓮花が私の食事を作ることになった。


 どうせまた肉を焼いたもの程度のものが出てくると思ったが、思っていたよりも彩も考えられた食事が出てきた。


「ご飯、卵焼き、魚の塩焼き、味噌汁、サラダ、生成水……これが私たちの限界ですね」

「…………本当にこれをお前たちが?」

「座ってボケっとこっち見て一部始終観てただろうが。食いたくねぇなら俺様が食ってや――――」


 ゴルゴタの厭味を聞き流して、私はまず卵焼きを食べてみた。


 少し甘味があって、センジュが作る物とは味付けが異なるが、甘いのも意外と美味しいと感じる。


 少しボソボソしているのが気になるものの、文句を言う程でもない。


 それから魚の塩焼きも塩分が丁度良く、内臓も取られていたので変な苦味もなかった。


 出されたものを全てレビューすると時間がかかるので割愛するが、要するにこれは少し不出来はあるものの美味しいものであった。


 ――これをゴルゴタが作れるということを認めたくない……


「栄養バランスはそこそこ考えています」

「普段肉を焼いたものばかり食べているから、これほどの物を作れるとは思わなかった。驚いた」

「私もメギドさんの料理が化学兵器になるとは驚きました。食べ物の組み合わせであんな危険物ができるとは……研究の余地がありますね」


 隣りで厭味を言われながら食べなければ、それなりにこの食事は美味しいと感じられるのだろうが……私は食事を取りあげられたくないので、黙って食事を勧める。


「なんで兄貴が料理なんかしてんだよ。今まで1回もしたことなかっただろ。いつもジジイに投げっぱなしだったろうが。そういや……ジジイはどこ行きやがったんだ?」


 蓮花はピタリと身体を硬直させている。

 勝手にノエルを逃がしてしまったのだから、ゴルゴタは怒るであろう。


「センジュは鬼族の町へ行っている」

「なんでだよ」

「ノエルとその伴侶を安全な鬼族の町へ移動させているのだ」

「なっ……! 俺様を2回もぶっ殺した女だぞ!? 勝手に――――」

「魔王城にいると危険だったので。天使族やら他の魔族が攻め込んでくる可能性もありますし、またあのバケモノ女に暴走されては困るのですよ。だから安全な鬼族の町で安静をとってもらうことになりました。回復魔法士としての私の裁量です」

「…………」


 なんと便利な言葉だ「回復魔法士としての裁量です」と言えば、何の知識もないゴルゴタは納得せざるを得ない。


 ダテに沢山の患者を納得させてきた回復魔法士としての器量というべきか。


「あっそ。で、ジジイはいつ頃帰ってくるんだよ?」

「体調不良があったからな。暫く様子を見ているように言った。もう少しかかるだろうな」

「その間、俺様たちが兄貴の食い物用意するのかよ……教えれば自分でできるだろ……兄貴は天才様なんだから。なぁ……?」

「保存食として最低限の栄養のある、草団子だったら沢山作っておけますが」


 草団子などという名前から騒動に容易いが、念のためどんなものであるか蓮花に問い返す。


「……念のため聞くが、その草団子とはどういうものだ?」

「文字のままです。薬草や漢方などを適当に丸めて飲み込みやすくしたものです。数日はそれで食いつなげますよ」

「草の塊など却下だ」

「てめぇで作れねぇくせに随分偉そうだなぁオイ……」


 ここでゴルゴタに言い返しても話が進んでいかないので、私は別の話をすることにした。


「センジュの件もあるし、勇者の血筋について調べたいこともある。私は鬼族の町方面に向かってみようと考えている」

「おうおう、さっさと消えろ。行っちまえ」


 ひらひらとゴルゴタは自分の手を振りながら言った。


「一応聞くが、私が不在の間、お前たちはどうするつもりだ?」

「あー……そうだな、特に考えてなかった……とりあえずジジイの部屋を調べて、三神に関する資料がないか調べてみるか……コイツも本調子じゃねぇし、身体を慣らす特訓したり、まぁそんな感じだな」

「蓮花、お前は庭先に運んできた呪われた資料をライリーのところに放り込んで考えさせておけ」

「はいはい……ライリーやら他の人間やらの生命維持の合間にやっておきますよ……手が足りないので複数人の回復魔法士を開放して手伝わせます」


 恐らくカナンのことを上手い事奴隷にする計画であろう。


 蓮花はカナンに全く慈悲のない対応をするだろうが、カナンが蓮花の奴隷になりたいのなら仕方がないと受け入れるはず。


 そこで音をあげて出て行ってしまうようなら、最初から才能など全くなかったということになる。


「いいか、私の監視の目がないからといって勝手に魔王城を出てやりたい放題するなよ?」

「うぜぇ。それは俺様の勝手だろうが」


 また休暇などと言って、好き勝手なことをされると困る。

 蓮花も休暇に出て行ったときのことが逡巡しゅんじゅんしたのか、思い出したように言った。


「ゴルゴタ様、そういえば刀蛭とうてつの剣ってどうなったんでしたっけ」

「あ? あー……龍族の鱗で砕けたから捨てたような……?」


 それを聞いた蓮花は珍しく目を見開いて驚きの表情を見せた。


 驚いていると同時に、失望しているような顔をしている。


「え……あんなに苦労して作ったのに……」

「仕方ねぇだろうが。俺様の爪の方が刀蛭の刃よりも切れ味がいいんだからよ。失敗作だ」

「…………」


 がっくりと肩を落として蓮花は目を泳がせる。


「あんなに気持ち悪いものを我慢して一生懸命作ったのに……簡単に捨てるなんて酷すぎますよ……」

「……悪かったって……そんな落ち込むなよ。今度取りに行こうぜ。機嫌直せ――――」

「なんて、冗談です。ちゃんと回収してあります。放置して帰ろうとしたことはちょっと腹が立ったので言ってみただけです。センジュさんと龍族の町に行ったときに回収して、私がこっそり輸血して育てています」

「………………」


 蓮花のその冗談に対して、ゴルゴタは何とも言えない表情をしている。


 殴りたそうな顔をしているようにも見えるし、責められたことによって若干反省しているようにも見える。


「役割分担も決まったことだ。時間にいつまでも余裕があると思うな。私は佐藤が魔王城に入ってこられないように結界を張っていくが、あまりアテにするなよ」

「もし入ってきたらひでぇ目に遭わせるからな。殺しはしねぇけどよ……キヒヒヒ……」

「私も今の状態じゃ間違えて殺しかねませんね。まぁ、四肢欠損程度に留めるようにしますが」


 それを聞いた私は佐藤が魔王城に来ないことを願いながら、分厚い結界を何重にも張って鬼族の町方向へと向かうことにした。


 私が留守の間、本当にゴルゴタと蓮花は大丈夫なのだろうか。




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