毒が入っている……?▼
【メギド 魔王城 調理場】
ゴルゴタは料理などできないであろうと考えていたが、私が思っていた以上にゴルゴタは料理らしい料理を作っていた。
蓮花の方が雑に見えるほどで、肉を切って焼くというメニューであることには変わりはないのだが、肉の下処理を意外と丁寧に行っていた。
あの、ガサツなゴルゴタがまともに料理をするなど、到底考えられないことであったので驚いた。
「なに見てんだよ。てめぇの分はてめぇで作れよ。俺様が作るようなもんは兄貴の口には合わないだろうからな」
「…………」
かなり棘のある言い方をされた。
まさか、私が料理が下手であるなどと知れる訳にはいかない。
天才的な私は、蓮花やゴルゴタが作ったものと同じものはどのように作るか見ていたので作れるが、散々貶しておいて同じものを作ったらゴルゴタに相当馬鹿にされる。
ここは私の威厳を保つため、ある程度確実性のある料理を作ろうと考えた。
――焼く料理は火加減が分からないので、スープ系にしよう。スープ系であれば入っている具材でなんとなく当たりがつけられる
まずは鍋に水を入れ、それを火にかける。
沸騰するまでに、今まで入っていた具材を思い出しながら冷蔵庫から野菜や肉を取り出し、食べやすい大きさに切断する。
それを鍋の中に入れて暫く煮詰めることにした。
「…………」
そういえば蓮花が味見したかどうか聞いてきたことを思い出し、スプーンで少しすくってスープを口に含んでみた。
「……………」
おかしい。
味があまりしない。
何か調味料を入れなければ味が付かないのかもしれない。
棚に並んでいる液体を眺めてみるが、入れ物に特に何も書いていないので何が入っているのかは分からない。
こういうときは、少量をまんべんなく入れることで複雑で且つ繊細な味になるに違いない。
とりあえず、私は棚の全ての液体を持ち出し、少しずつ鍋に入れて行った。
「…………」
徐々に色が濃くなっていった。鍋が沸騰しているので火を一度止めて少しずつ入れて行った。
全て入れる必要はないので、私は途中で味見してみた。
そこで私は「これは美味しい」と確信を得た。
ゴルゴタは私が繊細な料理をしている様子を、肉を食べながら見ている。
見ているがいい。
私に料理ができない訳がないのだ。
それから更に液体を少しずつ入れて行った。
――なんだこれは?
何やら真っ赤な液体があったが、私はそれも少し入れてみた。
結果的にすべての液体を少し入れた。
もうこれは、最高に美味しいスープになっているに違いない。
そう確信して私は鍋のスープを皿に移し、ゴルゴタの前に座った。
ゴルゴタはもう肉を食べ終わってその辺に皿を投げ出している。
「………………」
ゴルゴタは私のスープを凝視している。
「飲みたいか?」
「…………いや、全く……」
「遠慮することはない。肉だけでは栄養バランスが偏るぞ」
と、私はここぞとばかりにゴルゴタに力の差を見せつける為、小さな皿を持ってきてスープを分け、ゴルゴタに渡した。
「……」
「安心しろ。毒など入っていない」
私は自分の作ったスープをスプーンで飲んでみた。
「!!!」
口の中に広がる刺すような痛みが走った。
そして後から苦味がやってきて、口の中が痺れて味が分からなくなった。
吐き出したい気持ちになったが、私はそれを必死にこらえる。
――まさか、あの調味料の中に毒が入っていたのか。蓮花が紛れ込ませていたのかもしれない
そう考えると、毒を摂取する訳にはいかないので私はスープをナプキンに吐き出した。
「ゴルゴタ、前言撤回しよう。これは毒が入っているかもしれない」
「………………」
ゴルゴタは私が吐き出した私の作ったスープを、皿を持って口に含んだ。
「!!!」
ナプキンに吐き出すどころか、ゴルゴタは調理場の床にそのまま吐き出した。
吐き出した後もむせて継続的に咳をしている。
ゴルゴタがこんなに苦しんでいるのは、蓮花が回復魔法の実験台に使っていたとき以来初めて見た。
「げほっごほっがはっ……この……げほっげほっ……馬鹿兄貴……っ! ごほっごほっ……!!」
「水を飲め、水を」
私が水を入れたコップを差し出すと、ゴルゴタはコップを奪い取って一気に水を飲みほした。
「げほっ……はぁ……はぁ……マジで死ぬかと思ったぜ……今回ばかりは……」
「お前は毒で死ぬのか?」
「この馬鹿! てめぇのメシがクソ不味いだけだ!!」
「途中で味見をしたときはこんなに酷い味ではなかった。あの棚に毒が混じっているに違いない。そうでなければこんな舌を刺すような刺激物が食べ物であるわけがないだろう」
「激辛の調味料を数種類入れただけだろ……兄貴がこんな馬鹿でメシマズだと思わなかったぜ……」
「……………」
空腹であっても、これは食べることができない。
前回作ったものよりも不味い。
あまりの刺激性に飲み込むことができないので、これをどうしたらいいか分からなかった。
しかし、ゴルゴタに対して食事を作るようには言えない。
言われたところでゴルゴタは作らないだろう。
私はセンジュが戻るまでの間、どうやって食事をしたらいいのか。
そんなことを考えていると、ゴルゴタは私の前にある皿を自分の方に引き寄せた。
「このクソ不味いもんを地下のクソ勇者どもに食わせるか。ぎりぎり食い物……だよな……? まぁ、これで死ぬならそれはそれで面白れぇし、これだけ刺激があれば何か思い出すかもしれねぇしな。キヒヒヒヒ……」
それを持ってゴルゴタは地下に向かおうとするが、まだ奴らが逃げたことを知られる訳にはいかない。
「待て。自分で言うのもどうかと思うが……それは本当に死んでしまうかもしれない。分かった。今作り直すから待っていろ」
「はぁ? なんで俺様が兄貴のクソ不味い料理の毒味をしなきゃいけねぇんだよ!? 殺す気かボケ!!」
そこまで言われて私は少しばかりカチンときた。
「絶対にお前より美味しい料理を作る。付き合ってもらうぞ」
「何年かかるか分かんねぇ事に付き合えるかよ!」
「大人しく座っていろ」
私がゴルゴタの身体を氷の魔法で椅子と共に凍らせると、ゴルゴタは椅子を燃やしてすぐに氷を解いた。
「俺様を実験台にすんなよ……俺様にボロカス言われて頭に来たのかよ? ヒャハハハハッ!」
「やかましい。大人しく座っていろ」
今度は更に強固にゴルゴタに氷の魔法を使うと、ゴルゴタは全身氷漬けになった。
神経部分まで凍り付いて全く動けないのか、ゴルゴタは大人しくなった。
数秒後には再生し始めるだろうが、私は継続して氷の魔法を使用し、ゴルゴタの動きを奪い続ける。
――さて、ゴルゴタを凍らせながら再度料理をしようではないか
一先ずはゴルゴタが地下の勇者らから意識を逸らせるなら、ある程度強硬手段に出ても仕方がない。
それ以上に、私は自分の料理の腕をゴルゴタに認めさせるために料理を作り始めた。




