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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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仇を見つけました。▼




【佐藤 ゴルゴタに出会う少し前】


 俺は、家族が殺された場所を調べ尽くした。


 そこで見つけた唯一の手掛かりは、緑色から金色に変わっていっている長い髪を数本。


 遺体はあまり残されていなかったが、残されていた遺体の傷に特徴があった。


 傷は切り傷ではなかった。

 恐らく、使用された武器は鞭。


 棒で殴ってもこうはならない。


 鞭で打たれた箇所は皮膚が裂けていて、内臓がこぼれている人もいる。

 これは鞭を使う魔族がやったのだ。


 乾いた血の海の中から数日かけてそれを見つけた。


 俺は、家族の死を悲しみつくしていた。

 涙は枯れてもう出なくなっていた。


 ただ、ただただ俺は「本当に家族はもうこの世にいないんだ」という絶望感だけしかなく、その気持ちを向ける先は復讐しかなかった。


 復讐というのは何もかもを駄目にする。


 俺の人生はもう滅茶苦茶だ。


 そして、復讐を果たしてもきっと俺の人生はいい方向に向かって行く気がしない。


 魔王はゴルゴタの元に潜入したが、なかなかゴルゴタを始末しようとしない。


 いつまでたってもこれでは平穏な生活に戻れない。

 かといって俺に何ができるか分からない。


 俺はゴルゴタと対峙したときに全く歯が立たなかった。

 簡単に殺されかけて、死ぬ寸前のところ特級咎人の女に命を助けられた。


 俺の尊厳も何もかも滅茶苦茶だ。


 でも、やっと一つ決着がつけられそうになったんだ。


 俺は、髪の毛が緑から金の派手な女悪魔を偶然見つけた。


 木にもたれかかって具合が悪そうにしている様子だったが、俺の気配にすぐ気づいてこっちを向いて武器を手に持った。


 その武器は、鞭だった。


 俺はそのとき確信した。


 こいつだ。

 こいつが俺の家族の仇。


 正面きっての真剣勝負がしたい訳じゃない。

 具合が悪そうで都合が良かった。


 安っぽい剣を俺は真剣に握りしめた。

 大して鋭い切れ味の良い剣じゃない。


 ()()()()()()()


 苦しめてやりたい。

 切れなくても、刺すことは簡単だ。


 俺はそんなに強くない。

 分かってる。

 でも、勇者連合会の人たちに剣を教わった。


 突きは当たればかなりのダメージを与えられるが、外れた時の隙は大きい。

 だからここぞというときに使えと教わった。


 その“ここぞ”が今であった。


 女悪魔は鞭を振ってきたが、その軌道は女悪魔の位置と利き手から推測できた。

 左から右への横振り。


 鞭は一見してそれほど威力がないように思われるが、本気で打てば皮膚が裂けて内臓が出るほどの威力があり、一撃を受ければ痛みで動きが鈍る。


 だから俺はその鞭を避けた。


 鞭の弱点は近距離に弱い事、次の攻撃に間が空くこと。


 その場合、魔法が飛んでくると分かっていた。


 俺は、魔王からもらった『雷撃の枝』を使った。

 女悪魔が魔法を放つより、俺の『雷撃の枝』の方が早い。


 ただ、その杖を振るだけで発動するからだ。


 しかし、この杖を思い切り振りぬいてしまったら女悪魔はすぐに絶命してしまうかもしれない。


 だから敢えて少し軌道を外した。

 それに、振りも思い切りではなくほんの少し。


 上手くいくかどうか、それで合っているかどうかは分からなかったが、振りを少なくすれば威力を抑えられるはずだと思った。


 実際、その通りになった。


 大きな雷鳴の音が響いて、女悪魔の利き手側の腕に雷が落ちる。

 全身関電しただろうが、それでも黒焦げになっているのは右腕だけだ。


 まだ息がある。

 しかし、もう女悪魔は動くことができない様子だった。


 俺は、今までの憎しみも悲しみも不条理も怒りも、全て持っている剣に乗せて女悪魔に向かって渾身の突きを繰り出した。


 これで、やっと俺の復讐は一つ終わるんだ。


 そう、思っていたのに、俺の剣が女悪魔に届くことはなかった。


 パキンッ……と、簡単に折られてしまったのだ。


 突然現れたゴルゴタに。


「なっ……」


 ゴルゴタが現れた以上、勝ち目のない戦いだと分かっていた。

 それでもここで大人しく引き下がることはできなかった。


 俺は魔王ゴルゴタに向かって折れた剣を再度振りぬこうとしたが、ピンッ……と指先ひとつで俺の剣は弾き飛ばされた。

 なんなら、剣だけではなく俺も一緒に弾かれる。


 それだけでは済まず、『雷撃の枝』まで奪い取られてしまった。

 目にも留まらぬ速さであった。


 勝ち目がないと分かっていても、それでも、これほどまでに俺は打ちのめされるのか。


「キヒヒ……お前、あのときのガキじゃねぇか」


 ゴルゴタはヘラヘラと笑いながら、俺を見下した。


「ゴルゴタ……!」

「今は殺すなって言われてるからな……お前、俺様にちょっかいかけてくるなら脚が変な方向を向くことになるぜぇ……?」

「その女悪魔を俺は殺す……! それにお前は関係ないだろ!!」

「ダチュラを殺す? あー……関係ないってワケでもねぇ……俺はコイツを捜してたからな」


 俺は、そのときに違和感を覚えた。


 具体的に何とは言えないが、なんというか……以前より話が通じるようになったような感じがした。


 以前の毒々しさが消えているような……まるで別の生き物になっているかのようにすら感じる。


「ゴルゴタ様……あたしを捜してくれていたんですか……?」

「……まぁな」


 ダチュラと呼ばれた女悪魔は、おずおずとゴルゴタに話しかけている。


 まるで俺なんてこの場に存在していないように話す両名に、頭に血が上った。

 もう剣もないし、魔道具もとられてしまった。


 勝てる見込みなんてそんなことはどうでもいい。


 俺は気が付けば殴りかかろうと拳を固く握りしめていたが、そこにここにいない何かの声が聞こえた。


 聞き取れなかったが、ゴルゴタが服のポケットから小型の丸い球のような何かを取り出した。


「ゴルゴタ、聞こえているだろう。返事をしろ。時間の無駄だ」


 ――これは……魔王の声……?


 ゴルゴタはそれを聞いて、俺にその丸い球を無言で渡してきた。


 いや、渡してきたというよりは押し付けてきたという感じだ。


「魔王様ですか……?」

「……佐藤?」


 やはり、その声は魔王メギドの声であった。




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