表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/332

料理しますか?▼




【メギド 魔王城 正面の門前】


 私たちはアザレアたちを魔王城から追い出した。

 センジュとゴルゴタが帰ってくる前に。


 イザヤはかなり不満そうであったが、私たちに束でかかっても勝てないということと、私や蓮花に対して多少の恩があるということ等から、大人しく出て行った。


 アザレアははじまりの村に行くと言っていた。

 イベリスとエレモフィラがそれに同行する。


 記憶をさっぱり失ったウツギは何が何だか分からない様子であったが、イザヤとシータの町に帰るという。


 ――私もはじまりの村について調べてみるか……曲りなりにも傷が治るまで僅かな食料も献上したことだ。様子を見に行くか


「私はこの件に関して、全く関知してない……ということでお願いしますね」


 がっちりとライリーを魔法式の刻み込まれている拘束具で拘束し、引きずりながら蓮花は言う。


 ライリーは成人男性であり、筋肉もそれなりについていてかなり重いであろうが、それでも魔人化した恩恵があるのか力のない蓮花でも普通に引きずって歩いていた。


「あぁ……この件に関して、誰も関知していない。いいな?」


 自然に脱走したように見えるように念入りな細工もしてある。


「分かったけどさ……この扱い酷くない? 私は結構功労者だと思うんだけど……」


 ライリーはこの状況に不満を訴える。


 しかし、本来であれば地下牢に幽閉されていた身。

 蓮花が死にかけてやむなく外に出しただけだ。


「ライリーは信用できないから」

「でも、蓮花の身体が安定してないし、私が診てた方が……」

「駄目。そんなこと言って、裏であんなことやこんなことをするつもりなんでしょ」

「…………」


 どうやら、何かするつもりであったらしい。


 私の手前、嘘を指摘されると踏んでかライリーは何も発言しなかった。


 こいつは地下牢行き決定だ。


「ところで、カナンの様子は見たか?」

「見てないです。興味ないですし」

「……素質がなかった場合、追い出すということでいいのか?」

「素直に追い出されてくれたらいいですけどね。まぁ……手っ取り早く殺してもいいですけど」

「やめろ。カノンが悲しむだろ」

「メギドさん……分かっているんじゃないですか? 私が彼を指導してもその人は気分を害する。本当に兄弟そろって面倒くさいです。私じゃなくても、ライリーでもいいじゃないですか」


 雑な扱いをされて、ライリーはがっくりとこうべを垂れた。


 暗部の司令官の指導の方が色々と知ることができると思うが、そういう問題ではない。

 カナンはカノンが蓮花に執着していることを知っているから蓮花に近づこうとしているだけに過ぎない。


「私は不出来な弟子はとらないよ」

「でも、私が言った通りに変に優秀だったら殺すんでしょ?」

「勿論」

「じゃあ結局駄目じゃん」


 ズリズリ……ズリズリ……


 蓮花は地下牢へ向かってライリーを引きずって歩く。


「あのさ……自分で歩けるんだけど」

「無理。指一本でも動かせたら、何するか分からないし」

「蓮花に嫌われるようなことはしないよ」

「もう十分嫌いなんだけど」

「ははは……やっぱり許してくれないかぁ……」

「イラつくから黙っててよ」

「そういえば、地下に私を呼びに来たのは何だったの?」

「極大魔法陣について話がしたかっただけ」


 そう言って蓮花はただ黙ってライリーを引きずっていった。


 蓮花が地下牢にライリーを放り込むのについていく必要はなかったため、私は自分が何をするべきか考える。


 1秒の間にいくつか選択肢が浮かぶ。


 1.はじまりの村に行って情報収集

 2.カナンの様子を見守り、魔族の楽園へ強引に連れて行く

 3.ゴルゴタがどこに行ったか分からないが、連絡を取って様子を見てみる(ダチュラと上手く話が進んでいるとは思えないが)

 4.ここは一度休息をとって、風呂に入り、仮眠でもとる

 5.鬼族の町に行ってノエルらの様子を確認する


 ――ふむ……最近忙しくて休息が足りていない。少し休みたい気持ちもある


 そう言えば食事もろくに摂っていないし、センジュに言われたとおりに生まれて初めて料理でもしてみようか。


 どうせ蓮花に作らせてもろくなものはできないし、蓮花の作ったものなんて毒が入っていても不思議ではない。


 ――まずは風呂に入ってから食事だ。そして……手っ取り早くできることとしてはゴルゴタへの連絡。それからカナンの様子でも少し確認する。鬼族の町とはじまりの町は同じ方向だから、同時に確認しにいけばいい


 やることを決めてから、私は自分の決めた計画通りに事を進めた。


 汚れてしまっている服を脱ぎ、ゆっくりと風呂に入った。

 風呂に入っている間は色々な考えが頭の中を巡る。


 以前の私はただ優雅にゆったりと風呂に入っていられたが、今は考えることが多く、入浴を楽しむこともままならない。


 いつもはセンジュが薔薇の花弁を用意してくれるが、庭も酷く荒れたままの状態だ。


 私の脚には死の花が咲いている。

 私の身体から養分を吸って徐々に成長していっている様子だ。


 ――蘭柳に言われたことを思い出すな……私はもう長く生きられないのか


 それがいつまでなのか、明確な日時は分からない。


 数年後か、数日後か、明日か、もう今に迫っているかすら私には分からなかった。


 その血の色の花弁に触ってみても、感覚はなかった。

 感覚がないのだから無理やり引きちぎってみようか……と、一瞬思ったが、そんな誰でも思いつくようなことで解決するはずがない。


 大量の天使族が横たえられているのを思い出す。


 いくら天使が愚かであっても、あらゆる方法をもってこの花を取り除いているだろう。


「……簡単に片付かないものか……」


 もし『時繰りのタクト』をあと2回使えば、私は耐えられずに死ぬかもしれない。


 仮にあと1回使えたとしても、その後私が動ける状態にあるかどうかは不明だ。


 不幸中の幸いで、肩に咲いた花は勇者の剣によって壊された。

 もしこの花を切除するのであれば、他の強力な魔力の宿っている魔道具が必要だ。


 ――勇者の剣があるなら、魔王の剣もあるのでは……?


 センジュに聞いてみてもいいが、そんな便利なものがあるならセンジュが黙っているとも考えづらい。


 仮に魔王の剣があったとして、誰が使えるのか。

 私か、あるいはゴルゴタか。


 ゴルゴタが私の脚の花だけを切れるほど器用だとも思えない。


 下手をしたら私の脚ごと切り落とされてしまいかねない。


 ――魔王の剣など私の空想だ。あっても使えるとは限らない


 私は風呂から出て、身体から水分を飛ばし汚れてもいい服を着た。


 服もゴルゴタに荒らされ、随分減ってしまった。

 ここにある服はどれもセンジュが私の為に作ったものだ。


 ゴルゴタの為に作った服もいくつもあるが、ゴルゴタは服に頓着がなくいつも同じ服を着ていた。


 同じ服というよりも、同じ仕立ての服だ。

 特徴のないただ動きやすいだけの服。


 牢屋の中ではそれが1番だったのだろうが、牢から出てのゴルゴタは私の服ばかり着ていた。


 牢屋の外に出て急に色々な物に欲が出始めた。


 ――たちの悪いことに、特級咎人の女に興味を持った。まったく、想定外中の想定外だ


 しかし……結果的に良かったのかもしれない。


 ゴルゴタに大切な者ができた。


 ゴルゴタは何も持っていなかった。

 唯一持ったものだ。


 そういえば気持ちの悪い剣を持って出かけて行ったが、あれはどうしたのだろうか。


 龍族の硬い鱗にはあの剣では歯が立たなかったのかもしれない。


 何にしても、飽きた玩具は簡単に捨てる。

 何でもそうだ。


 ゴルゴタが何かを気に入ったのを蓮花以外知らない。


 ――だが、諸刃の剣といったところだ


 私は風呂から出て、長い髪の毛を紐で括った。


 調理場に入り、冷蔵庫の中を開いてみる。


 様々な食材が入っていた。

 私が食べている上品な料理はどう作ったらいいのだろうか。


 見た目や味からある程度予測がつけられる。


 ――何を作ろうか。特別食べたいものはないが、初めて作るのであるし、少し凝ったものに挑戦してみよう


 料理の名前は分からないが、魚を使った料理だ。


 冷凍庫に凍った中型の魚が入っていたので出した。

 丸まる一匹入っていたが、普段私が食べている部分はどこの部分なのだろうか。


 あと、添える野菜だ。

 添える野菜を冷蔵庫の中から探したが、調理前の野菜の判別ができなかった。


 ――まぁ、野菜はどれも同じようなものだろう


 適当に3種類くらい出した。


 そう言えば野菜に何かかかっていて、それに味がついていた気がする。


 野菜をどうしたらいいか分からないが、恐らく適当に切って添えておけばいいはずだ。


 ――味のする液体は……これか?


 何本も置いてあってどれが何なのかはわからない。

 しかし、どれも食用であるしどれでもいいか。


 冷凍されている魚はどうしたらいいのか分からないが、解凍するのに焼けばいいのだろう。焼くと言っても、センジュはどうやって焼いているのだろうか。分からない。


 ――よく分からないが、鉄の板で間接的に焼くより、直接に炎の魔法で焼けばいいか


 私は魚を焼いてみた。

 魔法を加減して焼いてみたが、魚は外側が炭化してしまって黒くなってしまった。


 魚の外側は食べない予定だったので、焦げてしまった部分を……どうすればいいのだろう。


 調理場にいたときのセンジュは刃物を使っていた。


 私は調理場の刃物を持ってみた。

 焦げた魚に突き刺して力を入れてみるが魚が切断できない。


 そもそも、焦げた魚を素手で触りたくなかったので魚を魔法で切った。


「…………」


 切ってみたが、どうにもセンジュが作っていたものと大幅に違う気がする。

 それに、外側は炭化しているが内側はまだ凍っている。


 ――少し火を通してみるか


 凍っている部分をまた加減して直火で焼いてみたが、やはり炭化してしまった。


 直接焼いてしまってはいけないのだろうか。


 焦げてしまった部分を魔法で切ってみると、なんというか、グチャグチャと焦げている部分とそうでない部分が混ざってしまった。


「………………」


 とりあえず、更にそれを移した。

 先ほど切っておいた野菜も隣に添えて、味のついている液体をかけた。


 ――……随分、センジュが作っているものと大幅に違うが……


 しかし、使っている素材は同じなはずだ。

 素材も味の液体も同じなのだから、そう遠くない味がすると思われる。


「あ……メギドさん。料理してるんですか。私も何か作ろうかなと思って」


 地下牢にライリーを入れ終わったのか、蓮花が調理場に入って来た。


 蓮花も何か食べ物を求めてやってきた様子だ。

 私の作った料理を見て、しばらく黙していた。


 食べたいのだろうか。


 この私の人生初の料理だ。

 これは相当な価値がある。


 冷凍保存をした状態で博物館に展示してもいいくらいの価値があるものだ。


「私が初めて作った料理、お前に味見させてやってもいいぞ」

「…………」


 蓮花は私の作った料理を凝視している。


 蓮花もゴルゴタもただ焼いた肉を食べているくらいだ。

 私の料理は多少見栄えが悪いが蓮花やゴルゴタが作ったものよりはマシなはずだ。


「……メギドさん、これ……途中で味見とかしましたか?」

「味見? していないが。お前もしないだろう」

「しませんが……それは、せっかくメギドさんが作ったのですから、メギドさんが食べてください。自分の分は自分で作りますので」


 まぁ、蓮花が作ったものに毒が入っているかもしれないと私が感じるように、蓮花も私の料理に毒が入っていないのか警戒しているのだろう。


 私の手料理を食べられるなんて蓮花のような鈍感な舌には勿体ない。


 ナイフとフォークを持って私はテーブルについた。


 ――それなりに上手くできたと思うのだが、食べてみるか


 魚を一口、私は口に運んだところで……すぐに吐き出したくなった。


 なんというか、形容しがたいというか、単刀直入に言うと芸術的な味で美味しいという感覚からは遠かった。

 とはいえ、吐き出すという行為は品性に欠けるので、私はきちんと食べた。


 ――魚は失敗したが、野菜の方は大して変わらないだろう


 と、野菜も食べてみたが……なんとも言えない……生臭さや、少しジャリッ……とした食感もあり、私はその辺の雑草を食べているのかと思った。


 それに、かける液体を間違えたような感じもして……


 認めたくはないが、美味しいという感想は持てなかった。


 うむ、蓮花とゴルゴタに謝罪しよう。


 料理はかなり難しいということを認めようではないか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ