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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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神について聞きますか?▼




【メギド 魔王城 地下牢】


「神の話って言っても……期待に沿うような大した話はできないよ」

「どんな些細な情報でもいい」


 私が知りたいのは神に選ばれる基準だ。


 そしてその法則性。

 それが分かればこちらから接触することもできるはず。


「魔族が俺の家族を傷つけた時、頭に血が上ったんだ。当然と言えば当然なんだけど……その時急に時間が止まったようになって……」


 私と蓮花が死神と接触したときと同じだ。


 そうなると仮に私が神に干渉できたとしても、最悪は一瞬しかない。


「姿はなかったけど、声が聞こえてきて……“魔王を殺したいか”と。それに“この圧政が終わるなら”と答えたら、“なら、このつるぎを使って殺せ”って……剣を渡された」

「…………」


 その剣とは、あの母上の身体に突き刺さったままの勇者の剣のことなのだろう。


「何故お前なんだ? 他にも魔王を倒したいという人は沢山いるだろう」

「……なんで俺なのか、聞いてる余裕はなかったから分からない……とにかくそのもらった剣を握ったら、自分でも驚いた。魔族の急所とか殺し方なんて全く知らなかったし、身体も鍛えてなかったけど、剣が意思を持っているみたいに動かせて、簡単に魔族を殺せた。普通の剣じゃ同じことはできない」


 タカシも剣に動かされるように振るっていた。


 アザレアは自分の意思でそれを使えていただけで、恐らくあの勇者の剣はセンジュが作った魔道具の一つなのだろう。


 正式名称は知らないが、一般的に「勇者の剣」と呼ばれているものだ。


「それ以降、神からの接触は?」

「魔王クロザリルを倒した後……かな。剣は魔王を倒した瞬間に急に重くなって持つこともできなくなっちゃったけど、それについて“剣はまた()()()が来た時にならなければ抜けない”とか“もうお前の役目は終わった”とか……そんなことを言っていた」

「…………」

「それっきり、俺は神の声は聞いてない。そもそも、俺がそう思ってるだけで『神』なのかどうかっていうのは明確には分からないけど、あれがそうじゃなかったら、あれはなんなんだろう」

()()()か……お前に接触してきたのは神だろうな。それ以外であったら困る」

「俺が知ってるのはそのくらいだよ。姿が見えなかったってこととか、時間が止まったようになったこととか、剣をくれたこととか……そのくらいしか知らない」


 他にも何かあるはずだ。


 印象に残ったところだけを話しているに過ぎない。

 私が死神の気配を感じ取ったときと同じく、他にも色々な情報があるはず。


「お前が神に感じたのはなんだ? 恐怖はあったか?」

「恐怖……? 考えたことはなかったけど……今思えば異様だとは思うよ。当時は助けてくれるなら誰でもいいって思ったから本当にすがるような気持だった。でも……言葉にはしづらいけど……皆が信じてるような神々しい感じではなかったような気がする」

「どんな些細な事でもいい。思い出せ」


 私がアザレアに思い出すように促すが、なにせ70年も前の事である上に、記憶を弄られていた経緯もあってか、アザレアは難しい表情をしていた。


「血筋の事を聞いてみては?」


 これ以上アザレアが何のヒントもなしに思い出せないと判断したのか、ライリーは以前に言っていた勇者の血筋の話を振ってきた。


 魔王の世襲制と同じく、勇者も世襲制なのだろうか。


「そう言えば……“待ちわびた器が……”とか言ってたような気がする」

「…………」


 やはり、誰でも勇者になれる訳ではないらしい。


 ――今までの勇者になりえる者の共通点は……


 20歳前後の人間の男。体つきなどはどれも変わり映えない。血統と言うと確定的なことは言えないが、アザレアははじまりの村出身。


 ――そういえば……タカシもはじまりの村の出身だな


 ノエルの伴侶の男はどこの出身なのかは知らないが、直近ではデルタの町にいた。


 急かしてセンジュに連れ出させてしまったが、確認するために少し遅らせても良かったと悔やまれる。


「お前、子供はいるか?」

「俺? いないよ……」


 婚約者はいると言っていたが、子供がいた可能性はないのだろうか。

 今ここで追及しても本人は分からないだろう。


「では、兄弟は?」

「弟がいた」

「弟に子供はいたか?」

「……わからない」


 アザレアは魔王討伐後すぐに捕らえられているし、その後に弟がどうなったかは分からないのも無理はない。


「では質問を変えようか。お前の親族は多かったか?」

「うーん……あの村はある意味、全員が親族みたいなものかな。どこかしらで誰かと血が繋がってるとかなんとか……詳しくは知らないけど、何かの一族だって聞いたことがある」

「それは興味深いな。あまり深く考えたことはなかったが“はじまりの村”という名前も気になるところだな。何が始まったのかは分からない。何の始まりの村なのだ?」

「悪いけど、分からないよ……あの……言いづらいんだけどさ、この態勢で話し続けるのも辛いから、身体を元に戻してほしいかな……襲い掛かったりしないから」


 と、言ったアザレアに嘘はなかったのでライリーに顎で支持を出した。

 渋々といった様子でライリーはアザレアに回復魔法を展開する。


 やっと身体の感覚が戻って安堵したのか、アザレアは自分の身体が動くかどうか確認していた。


「…………末端の感覚が変な感じがするんだけど」

「そうだね。手足の指の感覚は戻していないよ。歩いたり剣を握ったりできないようにしてある。ここに剣はないけどね」

「……」


 アザレアは手をライリーに向けたが、何もおきなかった。

 何も起きなくて幸いであった。


 明らかにそれは殺気がこもっていた行為だったからだ。


「魔道孔も遮断したままだよ。魔法は使えない。もしかして、今、私を魔法で攻撃しようとしたのかな? 残念だったね」

「…………」

「眠っていた時間を除けば、まだ君は子供だからね。君が知ってるよりずっと大人っていうのは汚いやり方をするんだ。ここから出ても同じような汚い手に君たちは苦しめられるだろう。その覚悟はしておいた方がいい」


 一枚も二枚も上手のライリーに、アザレアは文字通り手も足も出ない状態であった。


「魔王、彼らに制約をかけてくれないかな。制約をかけた後なら身体をきちんと治してあげるよ」

「本当に汚いやり方をする。そういうところが蓮花に好かれないのだろうな」

「そればかりは……暗部の司令官なんてやってるからね。仕方ないよ」


 私はアザレアらに制約の呪いをかけた。


 私たち(ゴルゴタや蓮花、私の家来など)に攻撃しない事、それを破ったら心臓が破裂して死ぬという呪いだ。


 しっかりとそれを刻み込んだ後、ライリーも内容を確認した。

 強度面での不安を覚えたのか、私の魔法式を少しばかり修正していた。


 並の解呪士や回復魔法士では解除できない強力なものになった。


 その複雑化した呪いはライリーにも簡単には解くことはできないだろう。


「エレモフィラ……沙夜さやと呼んだほうがいいかな。ウツギの記憶を封じても、いずれ僅かなほころびでその記憶が戻ってしまうかもしれない。自分を忘れさせるという事について、本当に覚悟があるのか」

「…………」

「彼の幸せを望むなら、しっかりと記憶の改ざんをすることだね。私がやってもいいけど、どうやら私の魔法式は古いらしい。蓮花にあっという間に解除されてしまったからね……正直凹むよ……」


 自分で言っているのに、蓮花の事になると途端に繊細になって勝手に落ち込んでいる。

 こんな精神に問題のあるものが勇者連合会暗部の司令官だということが頭が痛い。


 誰にでも欠点があるものだが、ライリーのこれは明らかに暗部司令官としては致命的だ。


「蓮花って人、連れて来て」

「今は休んでる。魔人化してまだ安定していないんだ」

「いいから。あんたの古い魔法式じゃなくて、新しい魔法式をすぐに知りたいの。安定してないとか、私たちには関係ないから」


 エレモフィラは露骨にライリーに嫌悪感を示す。


「蓮花はお前たちを逃がすのに加担できない。奴はゴルゴタに忠実だからな。天才ならば蓮花の使った魔法式から自力で魔法式を構築してみろ」

「…………」


 これでエレモフィラの才能も分かるだろう。

 蓮花と比べてどの程度の能力なのか、見極められる。


「なんとなく魔法式は分かるけど……試験も何もできないのに、ウツギに試せない。脳を弄るなんて、普通はしない事だから。少し間違えたら取り返しのつかない事になる」

「もう既に取り返しのつかない状態に見えるが?」


 ウツギはぼそぼそと小声で、ずっと「殺す」とか「死ね」とか「許さねぇ」とか言っている。

 到底まともな精神状態とは思えない。


 しかし、繊細な調整が必要なのも理解できる。


 失敗したらウツギは完全に死んでしまってもおかしくない。

 エレモフィラの意見はもっともだ。


「では、実験用の人間を連れてこようか。幸い、人間には困っていないようだから」


 そう言ってライリーは地下牢から出て行こうとした。


 恐らく、庭の人間を連れてくるつもりだろう。

 ライリーが背を向けた時、エレモフィラは叫んだ。


「やめて! 分かったから! これ以上犠牲者を増やさないで!」


 エレモフィラからは見えなかっただろうが、私の方向へ振り向いた一瞬ライリーは笑っていた。


 ――狂っている


 誰もかれもが狂っている。


 ここにはまともな者は私しかいないのか。




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