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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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無能なフリを続けますか?▼




【メギド 魔王城 蓮花の部屋】


 カナンは蓮花の描いた魔法式を見て「今日中に」などと言われたもので、慌てていた。

 この部屋で試そうとするので「庭へ行け」と言うと、庭へ飛び出していった。


 まがりなりにも空間転移魔法。


 こんな部屋の中で下手な空間転移魔法が発動したら、身体がバラバラになって死んでもおかしくない。

 だから城の中から追い出した。


「どう考えても無理だろう。私の知っている空間転移魔法とは少し違うようだったが」

「元来の空間転移魔法は身体に異様な負荷がかかる欠陥品です。それに改良を加えた、身体への負荷を軽減し、転移後の負荷に自動回復をかけるかなり高度魔法ですよ」

「ほう……それは使い勝手が良さそうだな。私も使ってみたいものだ」


 空間転移魔法の1番不便なところを克服しているとは。

 かなり使い勝手が良さそうだ。


「それは無理ですよ。回復魔法の心得がない貴方では使えませんね」

「あの凡才に教えるよりも私に教えた方が建設的だな」

「私の弟子になる程、私にへりくだることができるなら、暇つぶし程度にはいいですけど」

「それは御免被ごめんこうむる」


 蓮花は「でしょうね」と素っ気なく返事をしてきた。


 私が断ると踏んでの言い方であったので苛立ちもあったが、元より教える気など全くないことくらいは分かっていた。


「私の見立てでは……あの人……何か隠してるかも」


 カナンに対して何の感想も言わなかった蓮花は、口元に手を当ててそう言った。


「そうか? どう見ても無能に見えたが」

「なんていうかな、仮病みたいな感じですね。詳しく調べていないので、私の感ですが」

「……つまり、カナンは時間ギリギリあの魔法を使えるようになると?」


 私が見ていて、カナンの挙動や言動に嘘はなかった。


 特に怪しいようには感じなかったが、私が弱者として見下し切っていたから何も思わないのだろうか。


「いえ、恐らく相当惜しいところでできないでしょうね。何を隠しているかは分かりませんが、こんなところで露骨に頭角を現すことはないかと。そして惜しいところまでいったところで私に対して“惜しいところまでできるのなら、もう少し教えてやろうか”などと思わせる……というのは、私の空想ですけどね。他の方々、どう思いますか?」

「……もし、本当にそうであったら殺す」


 ライリーは1秒程度考えた後、すぐに「殺す」という選択をした。


「わたくしも同意見です。そんな得体の知れない者の、得体の知れない思惑通りにここに置いておくのは危険かと。蓮花様の身に危険が及ぶかも知れません」


 センジュもライリーと同意見であった。


「……一応アレは私の家来の家族なのでな。殺すのではなく追い出す方向の方が助かるのだが。素直に引かないだろうがな。魔族の楽園に空間転移させ、そこでカノンへ渡し監視してもらおう。お前の感通りになったらな。まぁ、今のところ、私はカナンのことをただの無能だと思っているが」

「無能なフリをするのは簡単ですよ」


 そう言いながら蓮花は自分の前に魔法を展開して見せた。


 それを見て私は驚く。

 魔法の形成をするのは感覚の違いによって難しいと聞いていた。


 その情報とは大きく違う。


「完全ではないですけどね」


 すぐに魔法式は崩れてしまった。

 それでも一時的にでも魔法を発動できるのは規格外だ。


 ――この女、一体どれほどの才覚か……


 この短期間で魔人化の能力変化に適応している。


「いやぁ、ちょっとムキになって練習してたら加減が分からなくてまだ馴染んでない身体が崩れちゃいまして……」


 ということは、魔人化は完全に馴染んでいるということだ。


 魔人化に上手く馴染んだ後に、魔法が完全に使えるようになったら総統に厄介だ。


 ――正直、今すぐにでも死んでほしい


「そんなに殺気を出さないでください。死んでほしいという気持ちは分かりますけども」

「!」


 私は何も言っていないし、殺気も出していない。


 まさか、思考を転写する魔法の応用で思考を読む魔法を会得したのか。


「図星ですか。嫌われたものですね。そう思っていても仕方ないとは思いますが」


 ――この女……私にカマをかけたな……


「この私に対してカマをかけるとは、失礼な奴だ」

「魔人化して、感覚が鋭利になり色々気づくようになってしまいましてね。残念ながら、私が思ってるよりも私の身体は複雑らしく、身体の崩壊はありますが簡単に死ぬことはないらしいですよ」


 そう言って蓮花は自分のナイフですっぱりと自分の腕を切りつけた。

 一瞬血が出かかるが、すぐに身体の傷は塞がって血も身体の中へと戻っていった。


 魔法が発動されていた様子はない。

 これはゴルゴタやセンジュのような不死の者のような再生。


「これは多分……ゴルゴタ様の『死神の咎』の影響か、ゴルゴタ様の元々の再生能力が原因かは分かりませんが……ゴルゴタ様の下位互換のような身体になってしまいましてね。多分、首を落せば死ぬような気がするのですが、試したことはありません」

「やめなさい!」


 蓮花をライリーは本気で叱責する。

 それに対して「しないってば」と蓮花は罰の悪そうな返事をする。


 しかし、私の危惧していたことが現実になってしまった。


 だからゴルゴタの身体を使うのは反対だったのだ。

 などと、言っても私はあの場で何も言っていなかったので言えない。


「まぁ、しばらく魔法はまともに使えないですし、戦力外なのは間違いないですよ。できるようになるよう努力はしますけどね」

「……体調が安定しているのなら、レインたちの様子を見てくれないか。結構弱っているようでな」

「あぁ……あのバケモノ女たちですか」


 ――お前も今はバケモノ女だぞ


 と、言いたい気持ちもあったが私はそう言わなかった。

 というよりも、元からバケモノだ。

 能力的にも、性格的にも。


「ライリー、極大魔法陣の制御に彼女、使えないかな」

「……制御ができないのでは使えないと思うけど。それに、魔力なくなっちゃったし」

「血をかければ魔力復活するみたいだよ」

「やめろ。危険すぎる。それにレインがそれを良しとするはずがない」


 レインがノエルを利用することに賛成する訳がない。

 それに、まだ極大魔法陣についてのことを話せていない。


「その前に、極大魔法陣をどうするのかちゃんと説明しろ。ゴルゴタがいない今しか話ができないからな」

「簡単ですよ。極大魔法陣の精度と威力をあげて、サティアさんピンポイントで発動し、その威力で持ってして彼女を絶命……消滅させるというものです」


 なんとなく私が考えていたことを、何の捻りも無くそのまま言われて呆気にとられる。

 その話を聞いていたセンジュは険しい表情をしていた。


「センジュさんの願いを諦めた訳ではありません。解呪は無理でも、極大魔法陣を使った消滅は試してみてもいいかと」

「恐れながら、蓮花様……いかなる魔法であってもサティアお嬢様は……」

「まぁまぁ、センジュさん。これは“殺す”魔法ではなく“消滅”させる魔法なのですよ」

「蓮花、敵に手の内を晒すのはどうかと思う」


 ライリーは話してほしくなさそうであった。


 奴は私たちを滅ぼそうとしていた勇者連合会暗部の司令官なのだから、その反応は当然だ。


 しかし、蓮花はお構いなしに話を続けた。


「敵って……私に加担してる時点で、もう勇者連合会暗部司令官の立場じゃないでしょ。もう死んだことにしてこっちに協力してよ。魔王たちって結構話せばわかるタイプでしょ」

「いや、ゴルゴタは話をして通じるタイプには見えなかった」

「確かに。でも、ゴルゴタ様は別に人間を皆殺しにするつもりはもうないから、大丈夫だよ」

「……いや、いつ気が変わるか分からないし、お前が実質制御しているだけだ。やはり危険だということに変わりはない」


 流石暗部の司令官だけあって慎重な意見だ。


 しかし、蓮花に対する執着でライリーは蓮花の言う通りにするしかない。


 例え、蓮花の意思にそぐわぬ形で私たちを始末したところで、蓮花は自死する可能性があるとライリーは分かっているはずだ。


 記憶を操作される可能性も考え、蓮花は何かしら対策済みであろう。


 そう簡単にライリーは蓮花を操作できない。


「ゴルゴタ様を殺した場合、ここにいるセンジュさんとメギドさんを敵に回すことになるよ。やめておいた方が良いと思うけどなぁ……?」

「君が活き活きしているのが、もっと別の事であったら良かったんだけどね」


 ライリーは諦めながらため息をつく。


 どうやら敵意はない様子だ。そうであってくれたら助かる。


 蓮花がゴルゴタの元にいる限りはライリーも下手なことはできないはずだ。


「話を戻しますが、この極大魔法陣の魔法は“消す”、“なかったことにする”というような魔法なのです。殺すのとは少しニュアンスが違います。その着想から、少し魔法式を組み替えて、範囲を狭める代わりに威力を底上げし、一気に――――」

「………………」


 サティアの件で蓮花が解決策を説明している間、センジュはずっと暗い表情をしていた。




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