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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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選択肢:分からない。▼




【メギド 魔王城 地下牢】


 アザレアが顔だけかろうじて上に向け、私を見つめている。


 その目は血走っており、涙が今にもこぼれ落ちそうだがアザレアは必死にそれを耐えている様子。


「少し、待ってやろうか」

「……すまない」


 私はアザレアから目を逸らした。


 男が泣いている姿を見せたくはなかっただろうと私なりの配慮であったが、嗚咽する声が聞こえてきてしまい、泣いている事など丸わかりだ。


 泣きたくなる事も沢山あるだろう。


 70年の屈辱。

 裏切り。

 婚約者の存在。


 思い出しただけで、吐くものがなくとも胃液を吐き尽くす程のショックだと私にも想像できる。


「もう大丈夫だ……待たせて悪かったな」


 2分か、3分程度アザレアが感情を必死に殺して泣いた後やっと普通に話せるようになったらしい。


「私が聞きたいことは神についてだ。覚えていることを話してもらおうか」

「……神か……話してもいいが、皆を開放してくれ」

「悪いが、私の一存ではそれはできない。言い換えれば、私の一存でなければお前たちは助からない」


 しかし、私が勝手に逃がしてしまっては角が立つ。


 逃げてしまった呈でなければならない。


 ゴルゴタがいない今が好機。

 しかし、蓮花があの状態である以上はライリーに頼むしかないがライリーとこの勇者らと因縁がある。


 それをこの者たちが許容できるかどうかが問題だ。


「今は好機ではあるが、蓮花が魔法を使えない以上は他の回復魔法士に任せることになるが……この者はお前たちに因縁のある者だ」

「勿体つけないで言いなさいよ」


 ずっと地下牢に繋がれて苛立ちが募る気持ちも分かるが、私に語気を強められても困る。


 それに、言ってしまっていいのだろうかという一抹の不安もある。


 ゴルゴタと蓮花が下卑げびた表情でこの者たちとライリーを会わせることを楽しみにしていた。


 ――まぁ、蓮花も今は体調不良であるし、ライリーが治した後に逃げた呈にすればなんとかなるか……


「お前たちがそれを許容できるかどうか、逃げた後に何をするのかによって返事は変わるがな」

「…………町に戻って……婚約者の墓参りにでも行こうかと……」

「……その後は?」

「分からない……っ! 分からない……何が正解なのか……俺たちはもう死人なんだから、今更……俺たちの……居場所はないんだから……っ……」


 それもそうだな。


 この者たちはどこにも居場所がない。


 魔王討伐の大義すら失えば、もう余命幾ばくもない。

 あまりにも無情な状況だ。


 アザレアが再び泣き出すのも無理はない。


「人間に復讐するか?」

「…………分からない。起きたばかりで混乱しているが……色々な感情が洪水のように溢れてきて……憎しみもある、怒りも、悲しみも、しかし……愛情が全く消えたわけではない……この感情の矛盾に頭がついていけない……少し考えたい……皆と話し合いもしたい……」

「……一応言っておくが、人間を殺しに行くのは勧めない。今の王や勇者連合会は腐っているのは認めよう。しかし、以前の王の……ルクスの意思ではないはずだ」

「ルクス王を知っているのか……?」


 知っているも何も、私が7つの時に終戦をするため直接交渉をした相手だ。


 この勇者らをこういった処遇にしたのはあの王の命令とは思えない。


「ルクスと私は終戦協定を結んだのだ。お前たちが母上を殺した後、私はルクスと直接話をした」

「…………確か、ルクス王が行方不明になったと……最後に聞いたが……」

「……そうか」


 どうやら母上を打ち取った後、ルクスが空間転移で気絶している間にこの者たちは捉えられたらしい。


 それは気の毒に思う。


 というか、一瞬行方不明になったのは私のせいである。


「ルクスが不在の間、誰が指揮をとっていたのだ?」

「ルクス王の弟のセーム様だったような……」

「そいつが諸悪の根源だな。ルクスはお前たちを私への保険として捉えておくというような指示は出さない人間だった」

「今の王は誰の血統なの」

「今の王はオリバーとか言ったか……誰の血統かは知らないが、少なくともルクスの子孫であんなに性格に歪みが出るとは考えにくい」


 ルクスはまともな王の風格であった。


 しかし、今の国王のオリバーには全く王たる威厳などない。

 仮にルクスの子孫であったなら、相当なハズレだ。


「70年という月日が経って、以前にお前たちを拘束した者たちとは今の人類は無関係だ。その者たちを皆殺しにしても仕方がないだろう」

「……何故、魔王であった貴方が人間を庇い立てするのか……教えて欲しい」

「三神が魔族と人間の戦争を望んでいるのだ。厳密に言うのなら、神と魔神が……だがな。神や魔神は極端にどちらかが減った時に力を与える。アザレア、お前が神に力を与えられて魔王の圧政を覆したようにな。このままいけば以前のお前たちのような伝説の勇者が神の力で現れ、また戦争になる。私は戦争だけは回避したい」

「…………」


 アザレアは「また戦争か……」と落胆を露わにした。


「俺たちが拘束されていた70年間、戦争はなかったのか……?」

「当然だ。私が魔王の力で魔族を抑えていた間は小競り合いはあっても大々的な戦争はなかった。しかし、その代わり勇者連合会とかいう無職の連中が町民から略奪の限りを尽くしていたがな」

「………………」


 ここにいる皆、私の言葉を聞いて考え込んでいる様だった。


「お前たちが目下、目を伏せなければいけないことは、お前たちを逃がすために魔法を使う者はお前たちを幽閉した勇者連合会に組していた者であるということだ。それを受け入れられ、尚且つ今生きている人間への復讐を忘れ、短い余生を安らかに過ごすというのであれば逃がしてやってもいい。ただ、エレモフィラ、お前は命を払ってもらうぞ」

「!? どういうことだ!?」


 余程驚いたのか、アザレアはエレモフィラに対して質問をする。

 しかし、エレモフィラは答えない。


「それについても話し合うといい。ゴルゴタが帰ってくるまでにな。そう長い間猶予があると思うな。1時間やる。1時間で決めろ。それ以上は待てない」


 私は再びアザレアらに背を向けて牢を後にすることにした。


「私は神の情報が欲しい。それだけだ。よく考え、話し合え」


 あの凄まじい憎しみや悲しみ、苦痛、未練、全てを整理して1時間で決めるというのはかなり難しいはずだ。


 仮に1時間後の決定が仮初であったとしても、後に気が変わったとしても、私にはルクスにしたように約束を違えたら命を奪う呪いの魔法がある。


 私の感情もけして安定している訳ではなかった。


 殺せばそこでこの者たちはその苦しみから解放される。

 私は死んだ後の事など詳しく知らないが、簡単に楽にしてやるつもりはなかった。


 母上を殺された憎しみがわずかにも私の心の中にあるからだ。


 生き続けて、この世界に絶望すればいい。


 殺すことは救済だ。


 自分が何者か知って苦しみぬき、そして最期は無残に死ぬのがお似合いだ。


 そう思いながら、私は地下牢を後にした。




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