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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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性格:破綻傾向。▼




【メギド 魔王城】


 ノエルとその伴侶、レインがとりあえず入れられている部屋に訪れた。


 ライリーが蓮花を診る間の片手間に処置をした状態でノエルと伴侶は横になって眠っていた。

 レインはノエルのベッドで丸くなっている。


 私が部屋に入ったらレインは首だけ持ち上げて私の方を見た。


「レイン、2人の容態はどうだ?」

「魔王か……ノエルは疲れてるみたい。ずっと眠ってるよ。そっちの人間は具合悪そう」


 私は伴侶の男の方の様子を見た。

 改めて見てもやはりやつれていて、かなり疲弊しているように見える。


 ――手首に縛られた痕、腹部には痣……天使族に無理やりノエルと隔離された際に相当に暴れたらしいな


 栄養剤と思われる点滴はしてあるが、それでも相当衰弱している。


「意識が戻れば食事が摂れるのだがな」

「その人間が死んじゃったら……ノエル、また暴走しちゃうよ……」


 不安そうにレインはノエルに頬ずりする。


 レインの好意とは裏腹に、ノエルの柔らかい皮膚にはレインの鱗で小さな傷がついた。


 それでもノエルは起きる気配がない。


「……凄まじい魔力だった。レインの話はある程度誇張があると思っていたが、本当に恐ろしい。覚醒していないことが幸いだとすら思える」

「へへー、でしょでしょー? ノエルは凄い魔女なんだよ! もうバーン! ってズババーン! って!」

「……内容がなさ過ぎて分からないが、自分の目で見て凄さは知っている」


 あのゴルゴタを2度も秒殺した。

 私もセンジュが抱えてくれなかったら危うかった。


 それに、蓮花のような化け物が「バケモノ」と呼ぶ程の存在だ。


 今はただの人間の女だが、血が髪の毛に触れた途端に髪が赤くなり、一時的に膨大な魔力が放出された。


 蓮花はノエルを利用すると言い出しかねないが、到底制御できるようなものとは思えない。


 ――しかし、この男が時期勇者候補のひとり……


 このまま放っておいてもいいのだろうか。


 この男の性格に大きく左右されるので、レインが何か知っているかと尋ねてみた。


「レインはこの男の事、知っているか?」

「うん。前の世界の同じ奴だったらね」

「どんな性格だ?」

「性格? うーん、ワガママ」

「ワガママ?」

「自分勝手、暴力的、短絡的、乱暴、ろくでなし」

「………………」


 ろくな性格ではないではないか。


 到底勇者の器であるようには感じない。

 少なくともアザレアのような人望があるようには感じられなかった。


「でも、ノエルのことだけは真剣。じゃなかったら僕が許さないよ」

「……起きたら面倒そうだな」

「そうだね。ゴルゴタって奴、絶対その人間と合わないよ。同じような性格だし」

「この男が死んだらノエルは暴走するのだろう? どこか安全な場所に移動させたいが、安全な場所以前に体調が戻らなければ動かしようもない。しかし、目が覚めたら面倒そうだ」


 ライリーに気絶させたままにしてもらおうか。

 ここで傍若無人を言い出したら収拾が付かない。


「大丈夫だよ。僕が制御するから。この人間とちょっと一緒にいたことがあるからね。ノエルもいるし」

「体調が持ち直したら安全な場所を検討する。お前はノエルと共に行くのだろう?」

「そうだね。僕はノエルから離れるつもりはないよ。ノエルはもう十分戦ったから……幸せになってほしいんだ。ノエルを兵器みたいに使う天使族には渡さない。僕がバーン! って倒してやる」

「……もし、どちらかが目覚めたら私やセンジュに報告してくれ。私は安全な場所を考えておく」


 私はノエルらの部屋を出た。


 あの様子では暫く目を覚まさないだろう。

 覚まさない方がこちらとしてはいいのだが。


 ――あとは、地下の勇者らか……アザレアが起きているかどうか確認しなければな


 気が進まないなりに、私は地下牢へと向かった。


 蓮花とゴルゴタはライリーを地下の勇者らに合わせるとかなんとか恐ろしいことを言っていたが、そんなことをしたら何が起こるか分からない。


 ――そう言えば、カナンが蓮花の弟子になりたいとか言っていたな……


 蓮花は戻ってきたが、話ができる状態でもないし、今は魔法が使えない状態だ。


 幸いゴルゴタは外しているが、ゴルゴタが外している間に話をしておかなければならない。


 いや、待て。

 何故この私がこんな雑用のような仕事をしなければならないのだ。


 私は優雅な生活をしたいのに。


 細やかな気遣いができるのは私とセンジュくらいのもので、他はどいつもこいつも自分勝手が過ぎる。


 カナンのいる牢を足早に通り過ぎ、アザレアらの牢の前にたどり着いた。


「起きているか?」


 私が呼びかけると相当疲弊している勇者らの姿があった。

 フッと息を吹きかければ消えてしまいそうな命に見える。


 これが母上を殺した連中であるというのが、よもや信じられない程哀れな姿をしている。


「いつまでこんなところに放置しておくつもりだよ」


 返事をしたのは勇者パーティの一員ではないリーン族の青年であった。

 1人だけ体毛の色が白ではないのも一目瞭然だ。


 一緒にここに来たということだったが、私としては用事がないので開放しても良いとも思うが放り出してもどうせ復讐にくるに決まっている。


「即座に殺されないだけありがたいと思え。私が間に入っていなければお前たちはもう死んでいるぞ。それも惨たらしく拷問され……いや、死ぬよりも恐ろしいことになっていただろうな」

「殺すのか何なのかはっきりしろよ」

「子供だな。はっきりしたら困るのはお前たちだぞ。脱走するでもなく、こんな場所にずっと監禁されている自分が恥ずかしくないのか。明らかな実力不足だ。よくその体たらくで乗り込んで来ようと思ったものだ」


 私に言われたことにぐうの音もでないのか、男は悔しそうな顔をしている。


「アザレアは目を覚ましたのか?」

「いや……」

「そんなことより、あの死んだ目の回復魔法士は?」


 強気な口調で私に催促してきたのは女の回復魔法士エレモフィラだ。


「連れてくるんじゃないの。どうなったの」

「そうだな……なんというか、今は話せる状況ではない」

「何があったの」

「平たく言うと、死にかけた結果、魔人化して一時的に感覚を失い魔法が使えなくなった。今も身体が安定していない」

「は? 魔人化……?」


 蓮花の事情を私が勝手に話していいのか分からないが、そういうしかない。


 それが事実だ。


「そうだ。かろうじて適応している。しかし、予断を許さない状況だ。最高位の回復魔法士が今診ている」

「……魔人化させる必要はなかったんじゃないの」

「まぁ、いろいろあってな」


 詳細に話すのは面倒だったので、私は適当に返事をした。


「とりあえず蓮花が持ち直さなければどうにもならない。ゴルゴタは今出て行ったので今なら都合が良いと思ったのだが。アザレアが起きていないならもう少し待とう」

「おい! ふざけんなよ! 開放しろって言ってんだよ!」

「……まぁ、お前は部外者のようだし、放り出してもいいが……さしずめゴルゴタを討ちに来たのだろう? それを諦めてさっさと帰るならお前だけは逃してやってもいい」

「諦められるかよ! 散々人間をぶっ殺しまくっただろうが! 殺されても文句言えねぇだろ!?」

「そういう気持ちも分かるがな、ゴルゴタに勝てる者はいない。無駄死にだ」

「やってみねぇと分からねぇだろうが!!!」


 ――馬鹿が。やってみてからでは遅い


「相手との力量の差が分からないようでは解放する訳にはいかないな」


 面倒になったので、私は軽く手を振って勇者らの前から去ろうとした。


「待て……」


 初めて聞く声がした。

 綺麗な透き通った声だ。


 そして、迷いのない声だった。


「俺に用があるんだろ……」


 私が振り返ると、アザレアが目を覚ましていた。




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