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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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誰のものを使用しますか?▼




【メギド 魔王城】


 ゴルゴタは倒れた蓮花を抱き上げた。


 今にも内臓が零れそうな状態で腹部が深く裂けている。


 一先ずの止血は気を失うまでにしたが、それでも蓮花から溢れる血はおびただしく、そしてゴルゴタの強い呪いが付与されていてそれが身体を蝕んでいっている。


 見たところ私がゴルゴタに受けたものと同じ程度の強い呪いだ。


 私は人間より身体が丈夫であったから呪いにも耐えていたが、人間である蓮花が耐えられるかは分からない。


「蓮花様……!」


 蓮花が帰ってきたよりも少し遅くにセンジュも帰ってきた。

 どうやら今戻ったらしく、直前の出来事はセンジュは分からない様子だった。


 死にかけている蓮花を見て驚いてゴルゴタ同様に蓮花にかけよった。

 しかし、簡単な処置はできてもセンジュには蓮花の傷を治すことはできない。


「あのクソ野郎を連れてこい! 早く!」


 センジュはゴルゴタのその命令に従ってすぐさま地下牢の方へと向かった。

“あのクソ野郎”とはライリーのことだとすぐに分かったのだろう。


 私もその間蓮花の容態を診たが、酷い有様だとしか言いようがない。


 これはゴルゴタが私に対して振るった暴力の結果だ。


 しかし、蓮花が粉微塵になっておらず胴体が接合しているところを見ると、殺さない程度に力を制御していたらしい。

 そうでなければ即死であった。


 ゴルゴタは先ほどまでのダチュラや私に対する怒りを忘れ、ただ狼狽ろうばいして傷口を両手で強く抑えている。


 だが、ゴルゴタは焦燥からか力加減が強すぎて蓮花の身体の骨の軋む音が聞こえてきた。


「強く抑え過ぎだ。骨が軋んでいる」


 あまり気は進まなかったが、私は自分の着ている服の一部を魔法で切り取って蓮花の傷口に当てて止血を試みた。


 だが、私たちが行っている行為では蓮花は間違いなく助からない。


 ――ライリーが来たとして、その事実が変わるかどうかは怪しい……


 私とゴルゴタが止血を試みている間に、センジュがライリーを連れて戻ってきた。


「!」


 センジュからここに至るまでの説明を受けているかどうかは分からないが、酷く驚いた表情でライリーは蓮花を見た。顔面蒼白になっている。


 死にかけている蓮花を見たライリーは、センジュが魔法式の組み込まれた枷を外すと、ゴルゴタや私に状況を聞くことよりもまず蓮花の治療にあたった。


 零れかけた内臓は元通りになった…………――――


 と、言いたいが、そうはならなかった。


 解呪の手間が回復魔法を阻害し、ライリーの思うようには回復させることができなかった。


「助かるのか!?」

「…………」

「おい!!」

「黙っていろ! 気が散る!!」


 ゴルゴタの呼びかけに対してライリーは強い口調でゴルゴタを黙らせた。


 これにはゴルゴタも言及することができず、蓮花の血の気の引いた白い肌の顔を見つめるしかなかった。


 そして数秒ライリーは蓮花の手当てをしていたが、ライリーはピタリと手を止めた。


 手を止めたというのは語弊がある表現かもしれない。

 その手はわなわなと震えていたからだ。


「駄目だ。助からない」

「!?」


 それを聞いたゴルゴタはライリーを掴み上げた。


「真剣にやれ!!」

「っ……ふざけるな!」


 ライリーは魔法を展開してゴルゴタの腕を切断してその手から逃れた。


 ゴルゴタの腕は落ち、蓮花の夥しい血液と混じった。

 そしてすぐに身体の再生が始まる。


「この深手に加えて、すぐには解けない強固な呪いがかかっている! とうに致命傷だ!! 手の施しようがない!」


 倒れている蓮花を見た時にライリーが蒼白な表情をしていたのは、一目見た瞬間に「助からない」と分かったからなのかも知れない。


 今この瞬間にも蓮花の身体から体温が下がり続け、脈も徐々に弱まりつつあった。

 ライリーの言っていることは嘘ではない。

 ライリーの見立てでは到底助からない状態なのであろう。


 私から見てもそうだ。


「…………」


 涙を流して手の施しようがないと訴えるライリーを見て、ゴルゴタは絶望した表情で眼球を小刻みに震わせながら、心もとない足取りで蓮花に歩み寄って抱き上げた。


「おい……目ぇ覚ませよ……オイ!!」

「…………………」


 ゴルゴタの呼びかけに対して、蓮花はかすかに眼を開けてゴルゴタの方を見た。


 まだ生きているのが奇跡のような状態だ。


「ゴルゴタ様……」

「死ぬな! 俺様の命令が聞けねぇのか……!!」

「………………」


 その言葉を聞いて、蓮花は弱く笑った。


 何故笑ったのかは分からなかったが、ライリーの方を向いて指示を出した。


「魔人化……するしかない……今すぐ……」

「!!!」


 その場にいる全員がその言葉に驚いただろう。


 だが、確かにもしそれが可能なら助かる可能性は全くない訳ではない。


 そう言うのは容易いが、魔人化というのは本来何年もかけて身体を魔族に近づけていくことであり、簡単に成せることではない。


 成功する可能背は限りなく低い。


「………………」


 蓮花はそれだけ言って再び意識を失った。


 もう一刻の猶予もない状態だ。


「俺様の身体を使え……」

「そんな馬鹿な話があるか!!」


 困惑しているライリーの髪の毛を掴み上げ、気を失って死ぬ寸前の蓮花の姿を、より近くで見せるようにした。


「うるせぇ!! 早くしやがれ!!!」


 死にかけている蓮花の姿を見て、ライリーは覚悟を決めたようだった。


 ――待て、ゴルゴタの身体を使っていいものか……


 この場での選択肢はいくつかある。


 魔族はここに私とゴルゴタ、センジュがいる。

 誰のものを使うのかは選ぶ余地があるが、私はゴルゴタの身体を使うのは悪手だと考える。


 何故なら、ゴルゴタの身体には『死神の咎』が溶け込んでおり、それを使用すれば蓮花も不死の者となってしまう可能性があるからだ。


 蓮花はゴルゴタの『死神の咎』を分離できるというようなことを言っていたが、それはあくまで対象が相手であるからで、蓮花は自分の身体は鏡を見ながらでなければ治すことができない。


 つまり自分の身体に溶け込んだ『死神の咎』は分離できないということだ。


 それに、ゴルゴタは龍族と悪魔族の混血だ。

 混血の例は少ないので更にそれが問題を複雑化させる。


 そもそも、高位魔族の生体について人間であるライリーが詳しいとは思えない。


 では、ゴルゴタではない者ではどうかというと、私も混血でありそう簡単にはいかないだろう。


 そしてセンジュに至っては死神との契約でこちらも不死の身体になってしまっている。


 それを使うリスクは相応にあるだろう。


 ――そもそも、魔人化の負荷に今耐えられるのか……


 私が考えていた時間は1秒か2秒だろうが、ライリーはすぐに蓮花の身体にゴルゴタの細胞を使って魔人化を計ろうとした。


 止めるべきか考えたが、私が長々と危険性について説明している内に蓮花は死んでしまうだろう。


 そうなった場合、この後にどう影響を与えるか……仮に万が一成功したとしてもその後どうなるかは分からない。


 今でさえ化け物染みているというのに、ゴルゴタの細胞を取り込んで魔人化したら本格的な化け物になってしまう。


 そうなった場合のリスクは想像を絶するだろう。


 ――『時繰りのタクト』を使うか……?


 今私の身体に咲いている花は1つだけだが、『時繰りのタクト』を使えば2つになる。


 そうすればもう後はなくなる。


 だが、戻るのであれば早い方がいい。時間が経つ程危険性が高まってしまう。


 ――いや、私が必ずしも使う必要はない。蓮花がさせたように他の者にさせればいい。使った者は助からないだろうが……


 どうせもう庭の人間は必要がない。あの人間らをゴルゴタが開放するとも思えない。


 そうするのは私としては気分は良くないが、天使族の思惑通りに私が自滅していくのは不愉快極まりない。


 そんなことを考えている内に、母親を助けた際の琉鬼の様子を思い出した。


 あの人間らのそれぞれに家族がいる。

 私がゴルゴタやセンジュを気にかけているように、地下に放り込んであるアザレアに大切な婚約者がいたことなど、そういったひとつひとつの背景をどうしても考えてしまう。


 だから私は非情にはなり切れない。蓮花やゴルゴタのようには。


「……始める」


 そう言ってゴルゴタの細胞を使って、ライリーは魔人化の手術を始めるのであった。




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