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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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子孫を残しますか?▼




【メギド 魔王城】


 蘭柳と右京から、それ以上有益な情報を得られなかった。


 色々私たちから聞きたいことがあったようだが、ゴルゴタが失血によってぼんやりしている内にさっさと帰るように言った。


 体内の血液が回復して正気に戻ればまた暴れ始めかねない。

 そうすればライリーに留まらず、蘭柳と右京も巻き添えで殺される可能性も十分にあった。


 父と認めたわけではないが、流石に死なれては私としても気分が悪い。

 それに、他の有益な情報も持っているかもしれない。


 殺してしまうのはいとも簡単だが、生き返らせるのはほぼ不可能に近い状況だ。

 なら生きているほうがいい。


 そしてライリーについてはゴルゴタにこれ以上余計なことを言わせないために、一先ずは地下牢へと魔法で運び、閉じ込めておいた。


 地下の勇者らに合わせても良かったが万が一のとき私一人では対応できないかもしれないと判断し、一時的に誰の目にも留まらない場所に入れた。


 ――蓮花とセンジュが帰ってくればゴルゴタの制御もしやすいが、まだ帰ってきた様子はないな


 地下牢から客間に戻ると、ゴルゴタの他にダチュラがいた。


 ダチュラは血まみれになっているゴルゴタに別の服を手渡そうとしていたが、軽く手を振り払われて拒絶されていた。


 確かにずっとゴルゴタは蓮花と一緒にいてダチュラが入り込む隙がなかったが、蓮花が居なくてもダチュラの入る隙はないようだ。


「……あたしに何かご命令があれば」

「ねぇよ」


 素っ気なく返事をされて、ダチュラは返す言葉を失っている様子だった。

 いつ見てもこんな状態で、よくダチュラも懲りないと感じる。


 それでもゴルゴタを檻から出すまでは優しくされていたはずだ。


 そのときの優しい言葉が忘れられないのだろうか。


 ゴルゴタがダチュラに優しくしていたのは自分が檻から出たかったから意図的にそうしていたにすぎない。


 何故その程度のことが分からないのか。


 ――恋は盲目と言うが、私には分からないな


「きゅ……休暇はいかがでしたか?」

「別に」

「楽しかったですか?」

「まぁな」

「御帰りの際に何か――――」

「うるせぇな。馴れ馴れしいんだよ……」


 ゴルゴタから鬱陶しいという態度をとられたダチュラは委縮したが、それでも今回ダチュラは退かなかった。


「ゴルゴタ様、少々話を聞いていただきたいです」

「なんだよ……」


 ――下手なことを言ったら殺されるぞ……


 いくらダチュラでもゴルゴタの機嫌の悪いときに話しかけたらどうなるかくらい分かっているはずだ。


 今はライリーの件もあって機嫌が良いとは言えない。

 まして先ほどゴルゴタに話しかけ続けたことで尚更機嫌がよくないはずだ。


「あたし……ゴルゴタ様のこと……お慕いしております」


 ――………………


 こんなところを盗み見るつもりはなかったが、入るタイミングを失ってしまった。


 ここで入っていくのも野暮というものだ。

 ゴルゴタが良い返事をするとは思えないが、私は気配を消してその場に留まる他なかった。


 ここから立ち去ろうとしても、ぼんやりしたのが治ったゴルゴタに気づかれる。


「……あ?」


 無謀だ。


 ゴルゴタがその感情を理解しているとは思えない。


 仮に分かったとしても、どうかんがえてもゴルゴタが慕っているのは蓮花だ。


 そんなことは見ていれば分かる事であるのに、何故そんな無謀な事を今更言い出すのか。


「ゴルゴタ様があたしではなく、あの人間の女を慕っているのは理解しています……でも、あたしはゴルゴタ様でないと駄目なのです」

「…………」


 何の返事もしない。


 ここからはゴルゴタの表情は見えないが、恐らく何とも言えない表情をしているのだろうと予想する。


 1.理解が追い付いていない・ダチュラが何を言っているか分からない

 2.仮に理解が追い付いていたとしても、ダチュラにそう言われて困惑している

 3.他に注意がそれてそもそも聞いていない


 せめて3でないことを願うが、ゴルゴタならそれもありえない話ではないかもしれない。


「だから……その……ゴルゴタ様との子供が欲しいのです」

「…………」


 ――……………………


 これは私にも理解が追い付かない。


 いや、恋愛感情というものの発生する起源は子孫を残すということに繋がる訳で、それが分からない程私も鈍感ではないのだが、何故それを今言うのかは分からなかった。


「子供……?」


 ここでやっとゴルゴタは返事をした。


 その声から読み取るに特段機嫌が悪い返事ではなかったが、明らかに理解が及んでいない様子だった。


「勿論、あたしは……次期魔王様の子供を産むような器じゃないことは分かっています……ただ、証がほしいのです」

「証……? 何の……?」

「あたしと……ゴルゴタ様が生きていたという証です」

「……………………」


 今度こそ本当に理解が追い付いていないといった様子で長い沈黙が続いた。


 そんなことを言われているゴルゴタの様子を見て、私もたまにセンジュに世継ぎをほのめかされたことを思い出していた。


 ――過去――――――――――――


「メギドお坊ちゃま、悪魔族の女性とお見合いなどされるのはいかがでしょうか」

「見合い?」

「はい。そろそろメギドお坊ちゃまも御世継を――――」

「魔王の世襲制は私の代でおしまいだ」

「………………」


 ――現在――――――――――――


 あの時は有無を言わさず断ったが、センジュとしては曾祖父の代から仕えている魔王家を存続させたい気持ちもあるだろう。


 しかし、世継ぎなど私は全く考えていなかったし、今もそんな感情を持つことはできない。


 それに、この世で1番美しい私に相応しい伴侶などいる訳がない。


 私が1番美しいということは、どう頑張ったところで2番目だ。

 2番目の者を私が愛情を注げるかははなはだ疑問が残る。


 それに、私は自分の子供に母上がそうしてくれたように愛情を注げるかは自信がない。


 愛情の与えられない子供は悲惨だ。


 蓮花の記憶を転写されて尚更そう考えるようになった。

 愛情が欠落した結果そうなったのかは分からないが、感情が平坦になり残虐性もしばしばあるとなると質が悪い。


 まして、魔王家の血筋で私やゴルゴタのように力を持っていると、暴れ始めると手が付けられない。


 母上がサティアを失って人間を虐げるようになったように、祖父のアッシュが曾祖父のヨハネを失って人間への圧政を強いたように。


 そうするとまた人間と魔族の戦争が始まってしまう。


 ――もし、ゴルゴタが産まれなかったら、私は母上が殺されてしまったときに戦争を続けていたかもしれない……


 何か、愛情を持つ者があれば抑止力になる。

 だが、愛情を持てなければ蓮花のような一生を送るようになってしまう。


「…………証……」


 ゴルゴタはどう返事をしたものか分からない様子だった。


 考えているような、戸惑っているような、何も分かっていないような、そんな声のトーンだ。


 しかし、そんな調子はすぐに変わり、何故かゴルゴタは憤りを露わにした。


「ふざけんな!!」


 バァン!!


 音からして客間のテーブルが叩き壊された音だ。

 家具が無事に残っている部屋は数少なかったので、これでまた城の家具が減った。


 真っ先に私は家具の心配をしたが、家具の心配をしているより今はダチュラの心配をすべきだろう。


 なぜ怒り始めたのかと思って私は様子を伺っていたが、すぐにその理由は明かされた。


「生きてた証……!? そんなもん残したくなんざねぇよ!! 俺様がどんなふうに生きて来たか知ってんだろ!!? そんなもん増やしてどうすんだよ!? アイツも……生まれたくなかったって思ってたぜ……俺様だって同じだ!!」


 この殺気、ダチュラを殺すつもりだとすぐに分かった。


 私は息をひそめていたが、やむなくダチュラを助けるために魔法を展開した。


 風の魔法でダチュラを下がらせ、水と氷、結界の魔法でゴルゴタとの間に壁を生成する。


「俺様のガキなんざ不幸になるだけだ!! 望んで生まれてくるんじゃねぇ!! 生まれさせられるんだよ!!! こんなクソッたれな世界に生まれたい訳ねぇだろうがよ!!!?」


 私が作った三重の壁は、ゴルゴタの怒りの拳によって簡単に打ち砕かれた。


 ――物凄い殺気だ……このままではダチュラは間違いなく殺される……


 嫌な予感を感じていた私は空間転移魔法を展開し続けていた。


 ゴルゴタの鋭い爪がダチュラの喉元に届く寸前でダチュラは空間転移で魔王城敷地外に飛ばした。


 飛ばした先の座標は定かではないが、そう遠くでもないだろう。


「落ち着け。好意を寄せてくれているダチュラに何故そこまで殺意を向けるのだ」

「落ち着けるかよ!? ガキが欲しいなんざ、訳の分かんねぇこと言い出しやがって! 憎い! 俺様にこんな思いをさせやがったどいつもこいつも!!! 何百回も半殺しにして“殺してください”って言わせてやる!! 生まれたことを心の底から後悔させてやる!! 俺様と同じようになぁっ……!!!」


 そう言ってゴルゴタは私に向かって怒りに任せて暴力を振るった。


 だが、その怒りの中に強い悲しみと苦痛を感じ取った。


 ゴルゴタは泣きそうな顔をしている。

 今までの自分の境遇と照らしてそう考えているのだろうか。


 あるいは、蓮花の記憶の気持ちに強く同調しているからなのか、強い負の感情がそこには渦巻いていた。


「蓮花の記憶に振り回されるな。あれはお前の記憶とは違う」

「キヒヒヒヒヒ……ヒャハハハハハハッ!! 記憶を転写されたときに思ったぜ……それが痛いほど分かるってな……このクソッたれな世の中に絶望してやがる……俺様と全く一緒のどす黒い感情に囚われて、アイツも俺様も、もうこの先一生それを背負って生かされるんだ……俺様のガキなんざろくな目に遭わねぇって分かり切ってるだろうがよ!!!」


 ゴルゴタが力任せに暴力を振るうと、もう客間は滅茶苦茶に破壊された。

 家具も、床も、壁も、天井さえも。


 私は落ち着くように言うが、普段抑え込んでいた感情が爆発して抑えが効かないらしい。


「俺様の親父に初めて会ったとき思ったぜ……なんて勝手な理由で俺様たちが作られたってことが嫌ってほど分かっちまった……俺様たちは死んだお袋の最初のガキの代わりの存在なんだってなぁ!!!」

「…………」

「兄貴に似てたらしいぜぇ……長い金髪の髪も、顔立ちも、全部お袋は兄貴にもう死んじまった奴を重ねて大事にしてただけだって知って、兄貴は何も思わないのかよ!?」


 何度も何度も蓮花の記憶がちらつく。


 蓮花の代替品で生まれた冬月。そしてそれが幻夢病になった瞬間に放棄された。

 その無情さ、その残酷さ、我が身で受け止めるには重すぎる。


 その強い怨嗟の乗った一撃を私に向けて放ったところ、その一撃は左肩から右腹部まで達する重傷の傷を負わせた。


「また……喧嘩されてるの……ですか?」


 間に入ったのは蓮花だった。


 怪我をしたのは当然蓮花だった。


 蓮花の気配に気づかないほどゴルゴタは興奮していて、気づかなかったのだ。


 蓮花は自分の身体を最低限止血したが、内臓までに達している部分は治すまでには至らなかったようで、バタリと倒れ込んでしまった。


 そこに血の海が広がっていく。


 自分の手が蓮花の血でべっとりと濡れているのを見て、ゴルゴタは絶叫した。




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