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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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“願う者の元に神々は現れる”と記されている。▼




【メギド 荒れ果てた魔王城敷地内】


 蓮花とセンジュが龍族の元へ行って、半殺し状態になっている龍族を回復させるという話でまとまり、龍族らは蓮花とセンジュを背に乗せて一時的に魔王城から離れることになった。


 ゴルゴタは蓮花を手放したくなかったようだが、龍族を半殺しにして回った本人が行っても話が煩雑になるだけなので、仕方なくゴルゴタは蓮花にセンジュをつけた状態で了承した。


「半日以内に帰ってこい」


 ここから往復の時間と龍族の飛行能力を考えて、そこから治療行為と謝罪の時間などを考慮すれば半日は早すぎる時間指定だ。


 それでも蓮花は「わかりました」と言ってセンジュと出て行った。

 本当に間に合うのかは不明だ。


 レインは龍族が連れて帰ろうと必死に説得していたが、レインは全く耳を貸さずにノエルの側から離れようとはしなかった。


 レインのこの世界での名前は「ミレアム」というらしいが、ミレアムと呼ばれても微塵も反応しなかった。

 龍族の説得も虚しく、レインは結局気絶したままのノエルとその伴侶と残った。


 驚いたのは蘭柳と右京は知っている三神の情報提供をすると言ったことだった。


 あれだけ硬く口を噤んでいた蘭柳は、自分の知っている少ない三神の情報を提供すると言った。


 私の「優雅に暮らしたい」という理由で話す気になった訳じゃないだろうが、何にしても話をする気になったのなら好都合だ。


 ゴルゴタはつまらなさそうに自分の指をガリッ……ガリッ……と噛んで自分の血を舐めながら、手でライリーを乱暴に引きずって移動している。

 ライリーは特に文句を言うでもなく、大人しく引きずられていた。


 ――ライリーも三神については何か知っているかもしれない……


 ゴルゴタはどこかにふらふら出て行きそうだったが、事の発端はゴルゴタが龍族を強襲したせいであったため、同行させた。


 私の指図に大人しく従う訳ではなく、三神の話を聞きたいから大人しくしているだけのようであった。


 そこら中壊れていたり、血まみれで荒れ果てている客間を蘭柳たちに見せるのも気が引けたが、どの部屋もこんな状態で家具がまともに残っている客間はここしかなかった。


 ここに至るまで至る所に血痕が付着してたり、乱暴に壊されたような箇所がいくつもあったし、右京はこの惨状の場に一度連れてこられているのもあって驚きはしなかった。


 ライリーを除く全員が席に着いたところで、蘭柳が口を開いた。


「ところで……ずっと疑問だったが、その御仁ごじんは?」


 その御仁とは、拘束されて引きずられ、横臥おうがしている状態のライリーを見ながら蘭柳は疑問を呈した。


「勇者連合会暗部の司令官の人間だ」

「…………それを何故厳重に拘束してここまで連れてきている?」

「ンなことどーでもいい。さっさと三神の話をして帰りやがれ」


 テーブルの上に脚をドンッ……と置いて行儀悪くゴルゴタは蘭柳に命令した。


 その不敬な態度に腹を立てた右京は腰に差してある刀に手をかけたが、蘭柳は手を右京の前に出して「よい」と言って牽制する。


 仮に右京がゴルゴタに刀を振りぬいたとしてもゴルゴタに当たる事はないだろう。

 仮に当たったとしても、ゴルゴタを殺すには至らないことは分かっているはずだ。


 殺すどころか、殺し返されかねない。


「そうしよう。長居しては現魔王に首を跳ばされかねないからな」


 その辺りの事は蘭柳の方が冷静に考えられている様だ。


「現魔王は私だ」と言いたい気持ちもあったが、話が煩雑になるために堪えた。


「我々の所持している古い書物の中に、神の記述がある。大した記述ではないが……“願う者の元に神々は現れる”と記されている」

「願う者……? 魔王を倒したいと願う者の前に神々は現れるということか?」


 ――いや、もしそうなら佐藤など、はらわたが煮えくり返る思いでいたのだから、佐藤の前に現れなかったのは何故だ……?


「詳しい記述はない。ただ、様々な書物に数行程度三神に関する記述が書かれているだけだ。言わなくとも知られていることだが、神は人を作った。魔神は魔族を作った。死神は死の法を取り締まる者だ」

「ンなことは知ってんだよ」


 いちいち突っかかるゴルゴタに対しても蘭柳は一切意に介していない様子で話を続ける。


「そして人間と魔族の戦争があった際に、追い詰められた側に絶対的な強者が現れて戦況を覆し、常に人間と魔族の均衡を保たせている。それは神と魔神の関与しているところだろうとは推測できる」

「実際、真の勇者を私は見た。明らかに自分の意思ではない様子で動いていたし、勇者の剣を引き抜いて、そのままゴルゴタを一太刀で殺した」


 横目でゴルゴタを見ると、相変わらず自分の指の肉を食い千切って食べている。


 蘭柳もそれを見て不思議そうな表情で私に問い返してきた。


「殺した……? 生きているではないか」

「別次元の未来の話だ。『時繰りのタクト』を使って戻ってきたものでな」

「!!!」


 蘭柳は相当驚いたのか立ち上がって、目をこれでもかと見開いて私を見つめた。


「あの魔道具を……使ったのか……?」

「そうだ。服に隠れて見えないだろうが、脚に花が咲いている」

「何故そんな涼しい顔をしていられるんだ!?」


 取り乱した蘭柳は慌てて私の方に寄って来ようとしたが、私が魔法でその場に縫い留める。

 鬼族の立場としてではなく、私の父親として私を案じているのだろう。


「落ち着け。今は痛覚を遮断しているから痛みはない」

「何度使ったんだ!?」

「2回だ」

「2回!?」


 まぁ、その反応は分からなくもない。


 私も天使族の町で花が咲いて悶絶している天使族を見ているし、蓮花が人間に使わせてその苦痛で動けなくなって助けを求めているところも見ている。


 それを知っていればこの反応になっても仕方がないだろう。


「1回目の花は運よく破壊されて残っていない。実質1つだ」

「結果そうなっただけで、安易に使うべき魔道具ではない!」


 右京とゴルゴタは何故蘭柳がそこまで怒りを露わにしているか分かっていない様子だった。


「ちっ……うるせぇジジイだな……」とゴルゴタは興味なさそうに引き続き指を食い千切り続ける。


「落ち着けと言っている。私とて安易に使った訳ではない。私がそんなに軽率な判断をすると思うか? やむを得ない事情があってこうなっているのだ」

「『時繰りのタクト』を使った者は遠くない内に必ず死ぬ運命にある……本当に分かっているのか!?」


 ガリッ……


 指を噛むのを辞めたゴルゴタは私の方を見た。

 私はそちらを見ていないが、恐らく驚いた表情をしているのだろう。


 私は蘭柳の話を聞いて予想が確信に変わっただけだ。

 天使族のあの尋常ではない様子を見れば、当たり前のことだ。


 私が天使らの場所で見た際に、ある程度までの大きさの花しか咲いていなかった。


 それがどれほど大きくなるのかは分からないが、この花が2つを超える数咲いている者はいなかった。


 3つ……つまり、3回は戻れない計算だ。


 それに、花の大きさとしても同程度であった。


 それ以上大きくなるかどうは分からないが、恐らく花が大きくなるほど負荷が大きくなり、耐えられなくなるのだろう。


「何が優雅に暮らしたいだ……そんな悠長な時間は残っていない! ルシフェルから『時繰りのタクト』を使った者の末路は聞いている。精神的にも肉体的にも長くはもたない」

「そうか。では私の話などしている場合ではない。尚更早く解決してしまわないといけない。早く他の情報を話してもらおうか」


 私が軽く話を流すと、蘭柳は悔しそうに歯を食いしばり、拳をわなわなと震わせていた。


 私を叱咤しても状況が好転する訳ではないことはよく分かっている様だ。

 蘭柳が落ち着くまでその場の沈黙が続く。


 黙って私の方を見ていたゴルゴタは、私に声をかけてきた。


「正直に今、どうなんだよ……?」

「体調の事か? 痛覚遮断されてからは他に特には身体の異常は感じていない」

「それは悪手だ」


 ずっと黙って拘束されて横臥おうがしていたライリーは突然話し始めた。


「あ?」

「痛覚を遮断することによって、正常な身体の反応が得られなくなる。病気の一種として無痛症というものがあるが、痛みがないから気づいたときには手遅れということも少なくない」

「そういった話は知っている。だが、痛覚を遮断する他に今できることはない。痛覚が正常ではろくに物事を考えることすらできない状態なものでな」

「局所的に痛覚を遮断しているようだが、花の根が及ぶ範囲を大まかに遮断しているはずだ。根が身体に食い込んでいくにつれておこる組織の壊死などに気づけないと、そこからおこる感染症でも命を縮める可能性がある」

「人間と魔族の身体は違う。人間にこの花が咲いているのを見たことがあるが、明らかに天使に咲いているよりも重症だった」

「ふふふふふ……」


 私の言ったことのどこが可笑しかったのか、ライリーは笑い始めた。


 その笑い声が不愉快に感じたゴルゴタは、ライリーの腹の辺りを蹴って黙らせようとしたが、ライリーはそれでも笑い続ける。


 ゴルゴタなりに加減をして蹴っているのだろうが、それでもかなり強く蹴られていることには変わりない。


 それにも関わらず、笑い声が止まる気配はない。


「黙りやがれ!!」


 ゴルゴタが拘束されている先の足を加減せずに踏み潰し、ライリーの右足はただの肉塊になってしまった。


 その痛みでやっとライリーは笑うのを辞めたが、それでもまだ可笑しいのか口元は笑みを浮かべていた。


「神は人間を作って、魔神が魔族を作ったって……人間と魔族の身体が違うって言うけどね……上位魔族の……特に天使族と悪魔族は人間の身体とほぼ一緒だ……尾や翼や角などの違いはあれど、ほぼ同じだ。不思議だとは思わないのか?」

「勿体つけるな。何が言いたい?」


 笑っていた顔が、潰れた足の痛みが激しくなったのか険しい表情になった。

 呻き声をあげながらも、ライリーは話を続ける。


「三神が本当にいて……話が本当の事なら、神か魔神のどちらかが創造物を真似て作ったという可能性がある」


 その話を聞いて、穏やかではいられなかった。


 特にゴルゴタが。




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