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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
201/332

髪が赤く染まっていっている。▼




【メギド 荒れ果てた魔王城敷地内】


 ノエルが突然倒れ、私たちは動揺した。

 特に動揺していたのはレインだ。


 何度もノエルの身体を揺すって呼びかけ続ける。


 回復魔法士としてのさがなのか、反射的に蓮花がノエルの身体を調べて確認したが特に身体の異常は見られない様子だった。


 ノエルに魔法を展開する蓮花に対してレインは威嚇して蓮花に爪を向けた。

 その結果、蓮花の左手の小指と薬指が鮮やかに切断され、芝の上に落ちる。


 当然そこから出血していたし、それなりの痛みもあっただろうが蓮花はそれを意に介さずノエルの身体を調べ続けた。


 それを見たゴルゴタは再度怒りを露わにした。

 レインに対して鋭い爪を向けたが、蓮花が片手でそれを制止する。


「大丈夫です。くっつきますから」


 指の切断面から出血した血がノエルの服や髪、肌について赤く染まっていく。


 黒い髪が血に染まったからといって赤くなるはずがないのだが、血が付いた部分から鮮やかな赤になっていった。


 それに伴い、ノエルの身体から再び膨大な魔力が溢れてきた。


 私もゴルゴタも悪寒のようなものを感じ取り、臨戦態勢をとる。


 蓮花もその異常を感じ取りながらも、ノエルの身体を調べるのを辞めようとしない。


 ――確か、レインは以前のノエルの髪は赤かったと言っていたが……


 私の行動が合っているかどうかは分からなかったが、蓮花の身体を掴んで後ろに下がらせて、蓮花の血がついたノエルの髪を水の魔法で洗い流した。


 すると、またノエルは魔力を失ってただの人間に戻る。髪の色も再び黒く戻った。


「なんだこの女……」

「バケモノですね」


 自分の指を拾い、元通りにくっつけながら蓮花は冷静にそう言った。

 手を握ったり開いたりして感触を試している。


「お前も大概だ」


 三神の規律を乱すような化け物が他人を見て化け物と形容する姿は滑稽だと感じた。


 得体の知れないノエルのことも調べなければならないが、今はそんなことよりも、まずはこの混沌とした場を収めなければならない。


「レイン、蓮花に謝れ。敵意はなかったと分かったはずだ」

「なんで? だってその人、魔王の敵の人でしょ」


 強い言い方でレインは蓮花のことを睨みつける。


 蓮花は気にしていない様子だったが、その言葉にイラついたのかレインは即座にゴルゴタに掴み上げられ、強く首を絞められた。


 レインは苦しみながら魔法を滅茶苦茶に展開するが、肉が燃えても、凍り付いてもゴルゴタはレインを放さなかった。


 更に首を強く絞められてレインは成す術なくもがき苦しむ。


「おい、クソガキ……口のきき方がなってねぇぞ……くびり殺されてぇのか」


 いつもにも増してゴルゴタの声は冷たいものだった。

 その言葉から憤りの感情が滲み出ている。


 見境なく殺すゴルゴタがレインを殺さないのは、得体の知れないノエルの情報を持っているからだ。

 そうでなければレインはとっくに縊り殺されている。


「ゴルゴタ、やめてやれ」

「てめぇの知り合いだよなぁ……? ちゃーんとしつけしねぇと命がいくつあっても足りねぇって教えてやれよ……このクソガキに」


 そう言いながらゴルゴタが更にレインの首を絞め上げようとするので、やむなくゴルゴタの腕を切り落としてレインを助ける。

 落とされた腕からレインは咳き込みながら崩れる手から逃れた。


「げほっ……げほっがはっ……この野郎……」

「俺様の玩具おもちゃに勝手に触んなよ」


 ゴルゴタはそう言って蓮花を無理やり立たせ、後ろに下がらせた。


 そしてノエルに対して鋭い爪で指をさしてレインに言い放つ。


「お前の玩具をぐちゃぐちゃにして目の前に晒してやろうか……?」

「ノエルに……手を出したら許さない……ノエルは玩具じゃない!」

「どうでもいいけどよぉ……てめぇじゃ逆立ちしても俺様には勝てねぇ。寝言は寝てから言えっての……キヒヒヒヒヒ……」


 睨み合いが続く中ゴルゴタを蓮花が、レインを私がいさめて喧嘩をやめさせた。


 両者ともに納得していない様子だったが、それを無視して淡々と蓮花がノエルらの身体の状態について説明を始める。


「ノエルさんについては明確なことは分かりませんが、特に身体に異常はありません。ただ、ほぼバケモノなので慎重に調べる必要がありますね。それからそっちの男性は詳しくは分かりませんがパッと見た感じ栄養失調に見えます。すぐに栄養剤を投与して安静が必要かと」


 そんな説明をしているところ、ゴルゴタの注意は蘭柳や他の龍族に向いた。

 ふらりと私たちに背を向けたので、私は危険を感じてすぐさま声をかけた。


「今度はどうするつもりだ」

「目障りなんだよ……庭の邪魔な連中をぶっ殺してくるに決まってんだろ。俺様に対して滅茶苦茶してくれたお礼をたっぷりしねえとなぁ……」


 そう言っている間にも攻撃のモーションに入ろうとしたゴルゴタを、どこからともなく現れたセンジュがそっと手で止めた。


 一瞬で現れ、ゴルゴタの暴力を抑え込んでいるセンジュもまた、尋常ならざる者であると認めざるを得ない。


 ゴルゴタがその手を振り払って別の方向に行こうとしても、すかさずセンジュはそれを止めた。


 どれだけゴルゴタがセンジュを振り払おうと、絶対にゴルゴタを行かせまいという強い意志を感じる。


「ゴルゴタ様、謝罪をされたのは素晴らしいことです。しかし、提案の答えをお聞きにならなければ」


 珍しくセンジュは少しばかり怒ってる様子でゴルゴタに詰め寄った。

 ゴルゴタはなんとかしてセンジュを振り切りたい様子だったが、本気を出したセンジュから逃げられる訳もなく、完全に抑え込まれていた。


 しかし、ゴルゴタの顔を立てる為に一撃だけセンジュは攻撃を受け、わざと膝を折ってゴルゴタにひざまずいて見せる。


 それがわざとだとゴルゴタも分かっていたからこそ、心の底から気に入らないと憤慨している様子だった。


「分かったっつーの……ジジイはそっちの実験体どもを見張ってろ」

「かしこまりました」


 ゴルゴタだけではどうせまた争いになると判断した私は、気絶しているノエルの耳から両ピアスを外して水魔法でノエルの血を洗い流し、再び自分の耳に素早くつけた。


 レインに待っているように伝えると、ゴルゴタの後を追って龍族らと蘭柳らの前まで戻った。


 ライリーは全身拘束された状態で黙してその場の状況を見極めている様子だった。


 こんな自分が圧倒的に不利な状況でも蓮花と同じく取り乱したりはしていないところはそっくりだ。


「待たせたな」


 私が前に立つと私とゴルゴタを交互に見てどういうことなのか疑問を投げかけて来ようとしたその時、ゴルゴタは吐き捨てるようにこう言った。


「目障りなんだよ。またぶっ殺されたくなかったらさっさと失せろ」


 形だけでも謝罪して条件を提示したのにも関わらず、ゴルゴタはすぐに自分の提案を反故にした。


 その横暴な態度に龍族らも鬼族らも憤りの感情を露わにするが、私が口を挟んで争いを制止する。


「まぁ待て。色々聞きたいことはあるだろうが、一つずつ説明する。まず私とゴルゴタが共にいる理由を説明しよう」


 兄弟だから……と説明するのは避けることにする。


 私の父の蘭柳とゴルゴタの父のアガルタは事情を知っているかもしれないが、蘭柳はゴルゴタが私と兄弟であると知らない可能性もある。

 なにせ、ゴルゴタは70年もの間幽閉されていた。


 仮に存在を知っていたとしても死んでいると考えている可能性もあるが……混血の者はそういるものじゃない。


 ましてゴルゴタが悪魔族と龍族の混血だという情報と、アガルタが母上との間に子供を儲けているという情報があれば、容易に私とゴルゴタが兄弟であることは想像できるだろう。


 しかし、あえて私は兄弟であるという事を伏せて話を始めた。


「今、私たちは同じ問題に直面しているのだ。だから一時的に手を組んで対抗するためにこうして一緒にいる。一時は魔王の座の事で対立していたが、今は協力関係にある」


 協力関係という言葉に対してゴルゴタは気に入らなかった様子だが、特別口を挟んでくることはなかった。


「同じ問題とは?」

「三神だ」


 三神のことを口にすると、その場の全員が口をつぐんだ。

 三神についてここにいる者たちは全員全く知らない訳ではないだろう。

 だからこそ、三神の話をしたら黙ったのだ。


 この場にルシフェルが残っていたら大いに口を挟んできただろう。


 あのイカれた魔神信仰者の天使が口を挟まない訳がない。


「三神は魔族と人間の戦争を何度も誘発させている諸悪の根源だ。蘭柳は心当たりがあるだろう」

「…………深入りするな。と、言っても無駄なようだな」

「これ以上やりたい放題されては困るのでな。いつになっても魔族と人間の戦争は終わらない」


 それから、レインという白い龍は私が偶然見つけて保護した龍族であること、転生者であることも正直に話した。


 龍族はいなくなったレインをずっと探していたようだったので、見つかって安堵している様子だ。


 そしてノエルという者を探していて、あのルシフェルが連れてきた人間の女がそのレインの探していたノエルだったという話もした。


 その他諸々の話をしていると時間がかかりすぎるので適当にそこは略す。

 いまいち納得している様子ではなかったが、あまりに話が長いとゴルゴタが痺れを切らしてしまいそうなので、できるだけ簡略的に話をした。


 そして、このまま魔族と人間の間で諍いが続き、人間が殺されるようなことが続けば近いうちに真の勇者が現れて、人間と魔族の全面戦争になるということも。


 戦争になると聞いて龍族と鬼族は顔を見合わせて驚いた表情をしていた。


「龍族の怪我はゴルゴタに責任を取らせ、治療に向かわせる。何があったかは知らないが、騒がせてすまなかったな」

「…………メギド殿がそうおっしゃるなら……しかし、三神に関わるのは危険ですぞ。メギド殿がまた魔王になって争いを収めれば解決する話なのでは?」


 龍族のその提案にゴルゴタは睨みを効かせる。

 完全に自分がいない者として扱われたことに対してイラついたのだろう。


「駄目だ。それでは何の解決にもならない。私は世間知らずだった。ゴルゴタに追い出されるように魔王城を出たが、外では魔族が人間に対して攻撃抑制を強いていたせいで、勇者とかいう無職が下位魔族を虐げていた。上位魔族の元に無職どもが行くことはまずないだろうが、虐げられている魔族が多くいる。根本的な解決にはならない」

「うぜぇキレイゴトだぜ……弱ぇやつらが蹂躙されんのは当たり前だろ」


 先ほど自分を完全に無視した龍族に対して「俺様に半殺しにされるような弱い奴は淘汰されて当然だ」という皮肉を込めて、ゴルゴタはひらひらと手をいい加減に振って龍族を挑発する。


「とはいえ、三神についての情報は殆どない状況。どうするつもりだ?」


 ピリピリとした空気を変えるために蘭柳は私に聞いてきた。


「まずは、今ある情報の整理からだ。情報が少ないのは事実だからな」

「…………止めても無駄ということか? 今ある呪われた町の惨劇を知らない訳でもないだろう」


 蘭柳はやはり私に三神と関わってほしくない様子だ。


「何なのか得体の知れない者に対して、私たちは恐怖する。だが、恐怖で現実から目をそらしても何も解決しない」

「……どうしてそこまでする?」


 なんだ、随分くだらないことを聞いてくるではないか。


 目的はただ一つ。

 今も昔もこれからもそれは変わらない。


「私が優雅に暮らす為だ」




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