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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼

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負けイベントです。▼




【メギド 魔王城】


 ゴルゴタの謝罪のような脅迫のような言葉を聞いて、龍族は考えている様子だった。


 だが、1人だけ何も考える素振りもなく構築していた魔法を全力でゴルゴタに向けた者がいた。


 狙いは正確でゴルゴタのみに命中。


 驚くべき威力でゴルゴタは一瞬で塵になった。

 髪の毛一本すら残っていない。


 そのままゴルゴタが消滅したかと私は息をするのも一瞬忘れたが、すぐにゴルゴタの塵が集まって再生し始めたため、私は安堵して息を吐きだした。


 いくらゴルゴタとはいえ、ほぼ跡形もなくなったのだから再生には少しばかり時間がかかるだろう。


 それに、あの勘の良いゴルゴタが避ける余地もなく塵になったことに驚いた。


 蓮花も一瞬のことで何が起こったのかと珍しく驚いた表情をして、先ほどまで隣にいたゴルゴタの方を見た。


 今はただの再生途中の肉の塊だ。


 蓮花の隣にいたライリーは、塵になってもなお再生しようとしているゴルゴタを見て唖然としていた。


「…………」


 それをしたのは、あの異様な魔力の人間の女だ。

 長い赤髪で目が隠れがちではあるが、その目には明らかに怒りの感情が灯っている。


 ゴルゴタが塵になったのを確認した後、その女の次の標的は私へと移った。


 いくら私でもあの威力の魔法を相殺することはできない。


 何か女は怒っている様子だが、ゴルゴタに対して怒っているのならまだ分かるが、私に対してまで怒りを向けられる理由は分からない。


「なんだ……? 私はお前に恨まれるようなことをした覚えはない」

「…………」


 無言だ。

 何も喋るつもりはないらしい。


 何か私に対して怒っているのなら、せめてその理由くらい言えばいいものを問答無用で私に攻撃の焦点を当ててくる。


 先ほどルシフェルがその女に「待ちなさい」と言って止めていたことを思い出し、ルシフェルに問うた。


「ルシフェル、何かその女に吹き込んだか?」

「ふふふ……魔王のせいで伴侶が殺されたと言ったのですよ」


 そう女に言ったことは嘘ではないが、内容の方はとんでもない嘘だ。


「魔王のせいで殺された」の全てが嘘だった。

 それにこの魔力の女、以前ルシフェルと話していた時に言っていた半魔の女に違いない。


 伴侶を殺されたせいで暴走しているという状態なわけだ。


 だが、「殺された」という部分も嘘であるため、その伴侶はまだ生きているはず。


 それを証明できれば矛を収めるだろうが、本人と話ができない以上、ルシフェルの方を崩す他ない。

 しかし、ルシフェルが私に誘導されて余計なことを言うはずがないだろう。


 過去に天使族を滅ぼしかけたこの強い魔力を、天使ではなく私たちに向けるという作戦に出たようだ。


 天使族らしからぬ、とんでもなく汚らわしい卑劣な策だとますます天使族に対して嫌悪感を強く抱いた。


「善行を積んで魔神に近づくという天使族の理念に大きく反した行為だ。白い腕章がけがれるぞ」


 そう言っている間にも女は魔法を発動して私を狙って来た瞬間、私の身体はガクンと強い衝撃を受けた。


 宙に跳ぶことで攻撃をかわしたらしい。

 それはセンジュが私の身体を咄嗟に抱えて飛び上がったからだ。


「すまない」

「いいえ、メギドお坊ちゃま」


 そのまま間髪入れずに私を狙ってくる女の高威力の魔法を、センジュは私を抱えながら素早く避け続けた。


 私たちが避けるたびに、女の魔法が向かった方向は大きく吹き飛んだ。


 それを考慮してか、センジュは城の方が後ろに来るようには避けなかったが逆にそれで軌道を読みやすくなったのか、女の魔法は更に私の身体のすれすれをかすめていく。


 時間がないと判断した私はその女に呼びかけ続けた。


「ルシフェルは嘘をついている。騙されていいように使われるな。私とゴルゴタはお前の伴侶を見たこともない。そもそも、デルタの町で天使どもに保護されていたのではないのか」

「………………」


 なんて無口な奴なんだ。蓮花ですらもう少しは話すというのに。


 しかし伴侶の仇と思い込まされているあの女にとっては、私たちなど話すに値しない存在であると判断しているのだろう。


「私とゴルゴタは天使族は蛇蝎の如く嫌っている。天使の支配しているデルタの町に行こうとは思わない。そんな場所まで行って私たちがお前の伴侶を殺すなど、ありえないことだ」

「…………」


 ――駄目だ。話にならない


 かといって魔法を撃ち返しても、あの女の魔法を相殺できるとは思えない。


 なんなのだ、あの女は。


「せめてメギドの言い分くらいは聞いてやってもいいのではないか?」


 この状況を見かねた欄柳が口を挟むが、全くそれを聞き入れる様子がない。

 恐らくこの場にいる誰が何の話をしても聞く耳を持たないだろう。


 ――なら……


 試しにレインが言っていたノエルとやらの名前で呼んでみようか。


 もしこの女が転生者であって、以前のノエルとしての記憶が残っているのであれば、その名前で呼べば何かしら反応を示すだろう。


「ノエル!」


 そう呼んだのは私ではなかった。


 デルタの町に向かって、私と別に魔族の楽園を出たレインの声だ。


 物凄い速さでレインがこの場に飛んできてノエルと呼んだ女の前に着地する。


 魔族の楽園からデルタの町は東側で、魔王城は西側。

 反対方向だ。


 私はレインより魔族の楽園を出るのが遅かったが、せいぜいそれも数時間程度だ。

 デルタの町に向かったレインがここにいるのは早すぎる。


 そんなことはさておいて、ノエルと呼ばれた女は攻撃の手を止めてレインを見た。

 今まで怒りの感情でいっぱいだった表情が、驚きの表情へと変わった。


「ノエル、ノエルなんでしょ?」


 レインの首にかかっている白い羽根が昼間でも分かる程度に光っていた。

 確か、ノエルの羽根だと言っていたものだ。


 攻撃の手を止めた女を見て、ルシフェルはレインに向けて攻撃魔法を展開したが、女はルシフェルの攻撃魔法を一瞬で破壊した。


 後ろにいて女から見えていないのにも関わらず、完全に破壊する。

 それを見て私ですらゾッとして冷や汗がでた。


 その力を見てルシフェルは大人しく引き下がった。

 到底かなわないと判断したのだろう。


「レイン……?」


 先ほどまでの怒りの表情からは想像できないほど、優しい声でレインの名前を呼んだ。


 どうやら私の予想は当たっていたらしい。

 この得体の知れないずば抜けた魔力を持っている女はレインのずっと探していたノエルだ。


 レインが現れて動揺していたのはノエルだけではなく、その場にいた龍族も動揺していた。


 確か、レインは生まれてすぐ程に自分からノエルを探して龍族の元を離れたという話だった。

 いなくなったレインが突然現れたのだから驚いても不思議ではない。


「ノエル……なんで僕に何も教えてくれなかったの?」

「…………ごめんね」


 気まずそうにノエルが困った表情をすると堪え切れなかったのかレインはノエルの元に飛んでいき、胸に飛び込んで抱きしめるように翼を広げた。


 ノエルもレインを抱きしめるように腕を回す。


「……大きくなったね」


 硬く鋭いレインの龍の鱗を、指が切れるのも気にせずノエルは撫でた。

 レインの真っ白な鱗がノエルの少量の血で赤く染まっていく。


「ノエルの馬鹿っ! なんで僕に会いに来てくれなかったの……? ずっと待ってたのに……! なんで何も教えてくれなかったの……?」

「ごめん……でも、他にどうにもできなかったんだ……」


 泣きながらノエルにしがみ付いているレインは、ノエルの身体に自分の鋭い爪を食いこませていた。

 当然爪が食い込んだところから血が出ているが、そんなことをノエルはまったく気にしていない様子だ。


 世界を超え、時間を超え、やっとレインはノエルと再会できた。


 そんな感動の再会に水をさそうというものなら、ノエルからノーモーションの魔法が炸裂しても不思議ではない。


 塵にされたゴルゴタが再生し、すぐさまノエルに対して飛び掛かったが、またもやノエルの魔法でゴルゴタは灰燼と化した。


 手を使わずに、見もせずに完全にゴルゴタを凌駕した。


 蓮花も大概化け物染みているが、ノエルはこの世界の方式では測れないほど規格外だ。


「せっかく会えたけど、ごめんね。今、すぐに片付けるから」


 そう言ってノエルは引き続き私に魔法を向けてきた。


「待ってよ! なんでノエルは魔王を狙うの?」

「私の()を魔王が殺したから」


 まるで獲物を甚振いたぶるように私の急所を外して魔法を撃ってくる。


 センジュが抱えてかわしているとはいえ、私の身体に魔法がかするとその部分は消滅するように抉れた。


 激痛に私の表情は歪むが、そんなことはお構いなしに魔法を何発も撃ってくる。


「ノエル! 違うよ! 魔王は確かに結構ムカつくやつだけど、ノエルの大切な人を殺したりしないよ!」

「…………ルシフェルが嘘をついてるってこと?」


 それを聞いたルシフェルは真っ青な表情をしていた。

 そして御付の白い腕章の天使に何か指示を出して、1名天使を下がらせた。


「魔王は嘘を見抜ける魔道具をつけてるんだ。借りて聞いてみたら答えが分かるよ」


 その言葉を聞いたノエルは大人しくなった。


 レインがこの場を収めてくれなかったら、私はノエルの規格外の魔法でこの世から消滅していたかもしれない。

 そう思うと息を呑んだ。


「魔道具……?」

「うん、魔王がピアスしてるでしょう? アレのこと」

「…………」

「……貸してやってもいいぞ」


 私がノエルに向かってそう言うと、ノエルはレインの言葉を聞いたから渋々といった様子だったがレインを抱きかかえたまま、私の方へ向かってゆっくり歩いてきた。


 センジュに抱えられたまま、慎重に自分の耳から両ピアスを外してノエルに渡す。


 見たところノエルは耳にピアスの穴が空いていなかったが、躊躇なくピアスを無理やり耳に貫通させて装着した。


「レイン、何か嘘をついてみて」

「うん。僕、ノエルのこと大嫌い」

「…………嘘だね。理屈は分からないけど嘘だってことは分かる」

「うん。ノエルのこと大好きだもん」


 信用しているレインの言葉で魔道具の真価が分かったところで、今度は私に向かって質問を投げかけてきた。


「私の伴侶を殺したのは貴方? それともそっちのやつ? それとも、殺したのは誰か知ってる?」


 再生している途中のゴルゴタを指さしてノエルは言う。

 その問いに私は堂々と返事をした。


「私ではない。ゴルゴタも違う。先ほどルシフェルが嘘をついていたぞ。ルシフェルが知っているようだ。そっちに聞いてみろ」


 私がルシフェルに注意を向けさせると、先ほど下がらせた天使が1人の男の人間を連れてきた。

 気絶しているようで、ぐったりしており抱えられて連れてこられていた。


 それをみたノエルはルシフェルに何を問うこともなく、その人間の元へと駆け寄った。


 身体の状態を確認し、動揺しながら涙を流して抱き着いている。

 恐らくそれがノエルの伴侶の男だろう。


 その時、何が起きたか一瞬分からなかったが、その人間の男を見つけるや否や、ノエルからあふれ出ていた膨大な魔力は消えた。


 禍々しいほどの魔力は綺麗になくなり、ただの人間に戻ったようだった。


「ルシフェル、説明しろ」


 私が説明を求めると、ルシフェルは再び穏やかな表情で笑顔を作った。


 随分と腹の黒い作り笑いだと感じ、私は心の中で舌打ちした。




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