表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
194/332

貴方は父親ですか?▼




【メギド 魔族の楽園】


 涙で曇った目では……もとい、ライリーの目に透明性があるのかという根本的な問題はあるが、私たちの一斉の攻撃にはひるんだ。


 話している最中であったこともあるし、息の合った連携攻撃にどこから対処したらいいか分からなかっただろう。


 息の合ったというと語弊があるかも知れないが、ゴルゴタに蓮花が合わせ、その2名に私が合わせるという形だ。


 ゴルゴタが誰かに合わせることはない。


 故に


 1.ゴルゴタの暴力

 2.蓮花の魔法

 3.私の魔法


 となる。


 3名とも異なる攻撃パターンでそれが同時となれば捌き切る為には相当な身のこなしが必要とされる。


 まずライリーはゴルゴタの攻撃を見切って受け流した。


 完全に避けることをしなかったのは、避ける際に動く方向を読み取られない為だろう。

 案の定、避ける方向を考える想定をして打ち込んだ蓮花の魔法は外れた。


 私はそれを見越して動きを止める為の氷魔法を展開したが、足元を狙うことを読まれていたようでライリーは空中に跳びあがり、避けた。


 すぐにゴルゴタが反応してライリーを狙うが、空中では避けられまいと考えたがライリーが跳んだのは後ろにすぐ建物があったからだ。


 建物を蹴ってすぐさま態勢を立て直した。


 ゴルゴタがいくら素早くとも、魔法の展開で蓮花がしたようにゴルゴタの拳が到達する前に分解されて届かなかった。


 蓮花の時にそれを学習していたゴルゴタは物理攻撃ではなく魔法を使用した。


 ゴルゴタが炎の魔法を使うのと同時に、私もそれに合わせて炎の魔法を展開する。

 普通の人間であれば一瞬で灰になって消えるほどの威力だった。


 自分の技量では相殺魔法で相殺しきれないと判断したライリーは大量の水を出した。

 空中の水分量だけでこの量は不可能だ。

 恐らく地下水を無理やり地上に持ち出して使用したのだろう。


 とはいえ、私とゴルゴタの炎を消し切ることはできない。

 辺りは大量の水蒸気で何も見えなくなった。


 それも束の間、すぐにその水蒸気を薙ぎ払う。


 すると、ライリーの姿が消えていた。


 姿だけではない。

 匂い、気配、何もかも私たちは見失った。


 しかし、ゴルゴタだけは見失わなかったようだ。


「出てこいやぁあああああ!!!」


 ゴルゴタが地面を思い切り殴りつけると、再び地面が大幅に割れて陥没した。


 すると地面の中に潜んだライリーが簡単にあぶり出された。


 これほどまでに壊れた暴力を目の当たりにするのは初めてだったのだろう。

 流石に驚いた表情をしていた。


 姿が出てきたライリーにすぐさま近寄り、ゴルゴタは腕を振り上げた。


 ――不味い……!


 強者に挑むゴルゴタは興奮してライリーを殺さないということを忘れている様子だった。


 あの筋肉の動き、その力で狙っている部位は頭部だ。

 頭部を破壊されたら即死する。


 いくらこの場に蓮花がいるとしても即死したら本末転倒すぎる。


 私は咄嗟にゴルゴタの身体を強引に先ほど出てきた水を再利用して、ライリーとゴルゴタを水中に閉じ込めた。

 ゴルゴタの身体の動きを無理やり水流で押し流して変える。


 それでもゴルゴタの攻撃の手は多少緩んだ程度で、ライリーの顔をそれなりの力で殴ってしまった。


 顔の骨が陥没し、肉が削げて中身がむき出しの状況になった。


 殴られた衝撃で脳震盪のうしんとうでも起こしたのかライリーの動きが鈍り、容易にゴルゴタに掴まれた。


 だが、すぐにライリーは魔法を発動して損傷を修復し、掴まれたゴルゴタの手を分解して逃れた。


 水中で息が続くのはゴルゴタの方だろう。


 だが、ライリーは相殺魔法で水の中から脱した。


 ゴルゴタの速度になんとかついていってるライリーに向かって、全くもってその速度について行けていない蓮花が走って行った。


 到底ゴルゴタらの速度についていけていないのに、何故向かって行くのだろうか。


 ゴルゴタ自身も高揚していて自分の制御ができているように見えない。


 ――巻き込まれたら自分も死んでしまうと分かっているのか


 蓮花も頭に血が上っている様子もあった。


 まさか無策とは考えたくないが、無策であったとしても驚きはしない。


 ライリーはゴルゴタの相手をしながらも、蓮花の方は常にかけている様子だ。


 ゴルゴタの方に集中しなければ即時負けてしまうようなこの状況で尚も蓮花を気にかける妄執。

 これを利用しない手はないだろう。


 私は蓮花の前に魔法を展開し、炎の壁を作って蓮花を足止めした。


「何!?」

「お前を人質にとることにした」

「…………なるほどね」


 炎の壁を作っていたのは6秒程度だが、蓮花は私の提案を受け入れてすぐさま私に拘束されたフリをした。


 素早く自分の腕をある程度傷つけ、自分が無力である状態であることを見せしめる為に細工をした。


 かなり深く傷をつけたようだ。確かに浅い傷ではライリーには無力であると判断させられないだろう。


 とはいえ、交渉が長時間に及べば下手をしたら失血死する可能性すらある。


 念のため四肢を拘束しているように見せて氷の魔法を使って動きを止めよう。

 血のめぐりが悪くなればある程度出血を遅らせることにはなるはずだ。


「少し凍らせる。冷たいと思うが我慢しろ。壊死しない程度の時間で交渉を済ませる」

「腕が腐る前にお願いしますよ」

「心得ている。ライリー! こっちを見ろ!!」


 炎の壁を消して私が呼びかけると、ゴルゴタとライリーは私と蓮花の方を見た。


 ゴルゴタは氷の支柱に囚われている怪我をした蓮花を見て、一瞬私に対して殺意を向けた。

 私が裏切ったと思ったのだろう。


「貴様ぁああああああああああああ!!!!!」


 だが、それ以上の殺意を向けて叫んだライリーを見てゴルゴタは察したようだった。


 察しが良くて助かる。


 ゴルゴタを適当にあしらい、ライリーはこちらに向かって走ってきた。


 私は魔法を展開してライリーを足止めする。


 ゴルゴタと先ほど戦ったことや、蓮花を拘束されているという状況で心が乱れているせいか相殺魔法は使えずにライリーは簡単に足止めできた。


「私と交渉してもらおうか。私の城を吹き飛ばす極大魔法陣を解除しなければ、蓮花を殺す。返答を間違えるなよ。返事は“はい”一択だ」

「蓮花を放せぇええええええ!!!」


 冷静さを欠いたライリーには言葉での説得は無理かと思い、蓮花には悪いがわざと蓮花の左大腿に氷の刃を突き刺した。


 急所は避けたが確実にダメージが入ったのは間違いない。

 蓮花は叫び声はあげなかったが苦痛に顔を歪めて耐えていた。


 流石にそれを見たライリーは脚を止めて、私との交渉の場に立った。

 ゴルゴタと戦っている時よりも青白い顔をしている。


「蓮花を放すのが先だ!」

「いや、お前は到底信用できない。まず極大魔法陣の解除が先だ。魔王城の今の状態を知っているのか? 庭に大勢の人間が生きたまま括りつけられているのだ。2つの町の人間を犠牲にしても魔王を倒せないどころか大勢の人間を殺すだけの結果になる。何の意味もない行動だ。つまりお前の真の目的は蓮花を取り戻すこと。ただそれだけだ。それも極大魔法陣発動の為でもなんでもない。お前の妄執からだ」

「やめろ! 妄執などではない! 愛情だ! 子供のいないお前に何が分かる!?」


 ライリーは断固として私の言葉を否定し、親としての愛情だと自分の感情を正当化していた。


 嘘という訳ではないようだが、ただそれは言い方が違うだけで愛情と妄信しているだけの妄執だ。


「物は言いようだな。愛情だと確信しているところは評価するが、お前の愛情は歪んでいる。それを妄執と言うのだ。自分が育てた最高傑作だから固執するのか? お前は蓮花と冬月を天秤にかけて蓮花を選んだ。それは子供を愛している者のやることではない。言うなれば……蓮花はお気に入りのコレクションと言ったところか?」


 私の話を聞いているライリーは絶句していて、苦悶の表情を浮かべながら両手で頭を抱えて蓮花を凝視していた。


 恐らく、私に言われたことを否定しきれないのだろう。

 嘘を言えばすぐに私に嘘だと指摘される。


 そうなれば蓮花にそれが伝わってしまうから言えない。


 ――……が、沈黙したところで肯定しているのと同じ。蓮花には伝わっているだろう


「私が全て推論で当てる前に極大魔法陣を解除しろ。私の城が吹き飛ぶのは困るからな。お前にとっては蓮花にこれ以上憎まれるのは困るだろう?」

「…………いいさ」


 その後、ライリーは背筋の凍るようなことを平然と言った。


「記憶の操作をすればどうにでもなる」


 ――ついに本性を現して来たな


 もう蓮花にこれ以上隠し通すのは無理だと判断したらしい。


 蓮花も薄々は感じていたのだろうが、具体的にこのように言葉にされるともう関係性は崩壊して修復はできないだろう。


「……大丈夫、私と共に魔王を倒し、この混乱を鎮めよう。また家族に戻れる」


 狂人には何を言っても無駄だ。


 蓮花にゴルゴタにライリー、全員常軌を逸している。

 だが、常軌を逸していなければここまでの立場に上り詰められなかっただろう。


 ――しかし……何故だ?


 ライリーは確かに実力のある者だ。


 だが、実際に魔王城にきたのは神に操られたようなタカシだった。


 神は何故魔王打倒を明確に考えているライリーに力を与えなかったのだろう。


 ライリーに更に力を与えれば、私たちを葬り去るのも現実味が帯びてくるというのに。


 ――何故あんな無力で阿呆のタカシを選んだ?


「…………――――けて……」


 蓮花は相当寒いのか、ガチガチと歯をすり合わせながら震えた声で何か言った。

 あまりに小さい声で私も聞き取れなかったが、ライリーは蓮花の口元が動いたのを見て何か言った事自体は分かっただろう。


 ゴルゴタはというと、ライリーの様子を伺っている様で大人しくしている。


 それでいい。

 下手に暴れられると私の作戦に支障が出る。


 ここで大人しくしているのは賢明な判断だ。


「蓮花、今助けてやる」


 ライリーは私たちの方へゆっくりと歩いて寄ってくる。

 私を刺激しないようにゆっくりと。


 まだこの男は自分の状況を冷静に判断で来ていないらしい。


「大丈夫、何もかもが上手くいく」


 何を根拠にそう言っているのか分からないが、少し腹が立ったので蓮花の右大腿にも氷の刃を突き刺した。


 これは少々八つ当たりのようなものであったが、これがなかなか効果的だった。


「あぁっ……! 痛い……助けて……」


 ――酷くわざとらしいな……


 蓮花は拷問など受けても声をあげたりしないタチだろう。


 だが、ライリーはその蓮花のバレバレの演技にも気づいていない。


 絶対に蓮花は「助けて」なんて言わない。

 なぜそれに気づかないのか不思議だ。


「近づくな。蓮花を殺すと言ったはずだ。早く極大魔法陣を解除しろ。記憶の改ざんの余地もない死人にしてやってもいいのだぞ」

「っ……」


 交渉をしているのは私だ。


 その人質が蓮花。

 脅されているのはライリー。

 様子を見ているゴルゴタ。


 少し冷静に考えればどうするべきかは明白だろう。


「お願い……メギドさんの言うとおりにして……私、もうそんなにもたない……」

「くっ……だが、極大魔法陣を解除したとしても蓮花や私が無事で済むとは思えない」


 ほう、そういう部分は冷静な判断ができるようだな。


「極大魔法陣を解除した後は、蓮花にお前の記憶の極大魔法陣の部分だけを改ざんさせる。そうすればもうこのような事態にはならないだろう。蓮花は今、私たち側の者だが、脅威になるならお前ともども、魔王家に矢を射った見せしめにしてやってもいいぞ」


 ここまで言ってもライリーは渋い表情をして沈黙していた。


 蓮花を取り戻したい気持ちと魔王を倒さなければならないという使命が拮抗しているのだろう。


 だが、そもそも蓮花と世界の安寧を同列に考えているというところは、常軌を逸している。


「……聞いて……今、魔王様たちは無差別に人間を襲わないようにしてくれてる……色々あったんだよ……大丈夫……ゴルゴタ様は人間を滅ぼしたりしない……私も人間を滅ぼす気はないから……今魔王城にいる人間を皆殺しにするほうが今後の……活動に関わるよ……もし勇者連合会暗部の情報が洩れたら……大変なことになる……私もそれは望んで……ない……から…………ね……?」

「…………」


 まだ渋い表情をしているライリーに蓮花は本当に体力の限界がきているのか、かなり言葉の出が悪くなっている。

 しかしながらもライリーに呼びかけ続ける。


「お願い……助けて……メギドさんとゴルゴタ様には敵わない……もう……体の感覚がなくなってきた……お願い……お願い……」


 徐々に声が小さくなっていく蓮花の様子に、ライリーの心は揺れ動かされている様子だった。


 確かに私から見てももう限界だ。

 そろそろ魔法を解かなければ出血も相まって命に係わる。


 私が氷を溶かして自由にさせようかとしたところ、蓮花は私の方をちらりと目配せしてそれを止めた。


 そして一言だけライリーに向かって言葉を発する。


 たった一言だ。


「父さん……」


 それを聞いたライリーは心の底から驚いたような顔をした後、言葉がもう出てこなかったのか涙を流しながら崩れ落ち、胸から何か紙を取り出してそれを破り捨てた。


「これで解除された……蓮花を放してくれ……」


 その言葉に偽りはなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ