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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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選択肢:外道ルートを選びますか?▼




【メギド 魔族の楽園 現在】


「お前が私の元に帰ってくることが条件だ。その魔王を殺しなさい」


 ライリーははっきりとした声で蓮花にそう命じた。


 血と肉の入った小瓶を蓮花に見せつけながら。

 それで牽制するように。


「…………ゴルゴタ様を……殺す?」

「そうだよ」

「自分でやったらどう?」

「私がやるのでは意味がないからね。君の意思で、君が殺すんだ」


 どれだけ蓮花が壊れた性能をしているとはいえ、ゴルゴタを殺せるとは思えない。


 ――いや、待て……『死神の咎』を身体から分離させられるようなことを言っていたな……


 もしそれが可能なら、ゴルゴタを殺すこともできるやもしれない。


 ただ、その工程をするのにどれほど時間がかかるか分からないうえに単純な暴力でゴルゴタが負けることがあるわけがない。


 先ほどはゴルゴタが油断していたから、たまたま上手くいっただけに過ぎない。


「……その肉と血の瓶、いくつ持ってるの?」

「どうだろうな……?」

「それって……私が言う事を聞かない時の為に保管しておいたってこと?」


 いつもやる気のない声で話している蓮花の声が、張りつめて怒りを抑えているようにライリーを問い詰める。


 簡単に言えば殺気だ。

 先ほどのライリーの殺気に似ている。


 怒りで物に当たり散らすゴルゴタとは違う、絡めとられて絞殺されるような殺気だった。


「君の冬月に対する執着は異常だよ。自分でも分かっているだろう? 君は常に冷静だ。でも、冬月のことになると途端に何もかもを見失う。何故なのか、教えて――――」

「だったら……やっぱり殺すのはお前だ!!!」


 蓮花はゴルゴタではなくライリーの方へ走った。


 走ったと言っても、普通の人間が走る速度よりも少し遅いくらいの速度だ。

 誰の目でも終える程度の速度で走っていく。


 なんて愚かな選択だろうか。


 自分の相手にしているのが勇者連合会暗部の司令官ということを、まるで忘れているかのようだった。


「やめろ」


 ゴルゴタが乱暴に蓮花の腕を掴んで止めた。

 ゴルゴタにしては冷静な判断だ。


「邪魔するなぁっ!!」


 我を忘れたように蓮花はゴルゴタに向かって魔法を発動させた。

 ようにというよりは、完全に我を忘れている。


 それによってゴルゴタの腕は融解して溶けて散った。

 もう片方の手で蓮花を掴もうとするがそれも蓮花に触れる前に溶け散って蓮花を掴むことができない。


「ちっ……オイ! 正気に戻れ!」


 腕が溶けたままなかなか治らない。


 手がなければ強引に蹴って止めようとしたが、脚も無残に散ってゴルゴタは体勢を崩してその場に倒れた。


 倒れたゴルゴタを蓮花は見もしなかった。


 見ているのはライリーだけだ。

 いや、ライリーすら見ていない。


 あの目には何も映っていない。


「その調子だよ。蓮花」

「黙れぇっ!! お前は何度冬月を冒涜すれば気が済むんだっ!!?」


 ライリーに尚も向かって行く蓮花に、私は風の魔法を展開して蓮花を押し戻そうとするが、蓮花が手をぐと私の魔法が消え去った。


 何かの間違いだと思い、何度か同じようにするが蓮花の手がひるがえる度に私の魔法が相殺されるように消されていった。


 ――相殺魔法だと……!?


 相殺魔法は相手の魔法と寸分変わらぬ同じ性質の魔力をぶつける超高等魔法だ。


 私と同じ魔力量で相殺されたのはセンジュ以来初めてだった。


 蓮花を見くびっていた。こんなにも魔力を持っているとは。


 しかし、蓮花を良く見るとかなり汗をかいている様だった。

 息切れもしている。


 我を忘れて自分の力量以上の魔力放出をしている様だ。


 着実にライリーに近づいて行く蓮花を止める方法がなかった。


 ライリーは涼しい顔をして蓮花の到着を待っている。

 距離にしてあと5メートルほどだ。


「やめろ! お前では勝てない!」


 魔法を当て続けても蓮花が疲弊するだけだ。

 なら、私はライリーを狙うべきか。


 ――駄目だ。魔族が人間を手にかけたら神が干渉してくる恐れがある。しかも勇者連合会暗部の人間だ


 私の魔法が通用しないとなると、途端に私は成す術をなくしてしまった。


 そんな中、ゴルゴタは翼で身体を起こして羽ばたき、蓮花の手に持っているナイフを残っている足で蹴とばした。


 すると、蓮花はライリーから目を離し跳んでいったナイフの方へ意識が逸れる。


 ゴルゴタは再度地面に身体を打ち付ける形になった。


「オイ、蓮花ァ!! 目ぇ覚ませぇ!!!」


 その声がやっと蓮花に届いたらしく、何も見えていない目に光がほんの少し戻り、ゴルゴタを捉えた。


「……ゴルゴタ様……」

「そんなクソ野郎の言葉にいちいち取り乱すんじゃねぇよ。らしくねぇぜぇ……? キヒヒヒ……」


 ライリーはその様子を見て顔を酷く歪めた。

 憎悪のような、嫉妬のような、そんな感情がありありと読み取れる。


 恐らく正気を失った蓮花をやり込めるつもりだったのだろう。


 ナイフが手元にないとどうにも落ち着かない様子の蓮花は、ライリーでもなくゴルゴタでもなく、一目散に弾き飛ばされたナイフを拾いに行ってしまった。


 ゴルゴタは治りは遅いものの着実に身体を再生していき、身体はほぼ元通りになった。

 表面の皮膚などがまだ再生していないが、骨と筋肉は再生している。


「ヒャハハハハハッ! 悔しそうだなクソ野郎? 気持ち悪ぃんだよ。育ての親だかなんだか知らねぇけどな、蓮花ちゃんがいい女になったからって、いい歳したジジイがしつけぇんだよ。ガキ拾ってオンナになるまで育ててから食おうなんざ、気持ち悪すぎるんだよ」

「言葉に気をつけろ下賤の者が。話すだけで穢れが移る」

「けっ、話にならねぇヤツだなぁ……キヒヒヒヒ……アイツ自身にもかなり問題あるけどなぁ……そうさせちまったのはてめぇの責任でもあるんだぜ? 弟がぶっ殺されたせいで今じゃアイツは死の法すら覆せる力を持っちまった。そのせいで大変なことになってんだよ……()()()、真実なんて打ち明けずに死なせてやりゃ良かったんだ……そうだろ?」

「知ったような口をきくな!」

「バカかよ!? てめぇが死ぬ機会を奪っちまったから、今あんなに苦しんでんだよ!! 俺様のところにきてからは随分マシな顔するようになったけどなぁ……それを今度は弟を盾に無理やり利用しようなんざ、俺様でもしねぇような悪行だぜ。アイツの性格が歪んでんのはてめぇのせいだ。おとなしくアイツに殺されやがれ、この無責任クソ野郎が!」


 珍しくまともな言動をしているゴルゴタに私は驚くが、「無責任なのはお前もライリーのことを言えた義理ではないぞ」と言いたい。


 口を挟む間もなくゴルゴタとライリーが言い合いになっている間に、とっくに周りは他の魔族やタカシらが騒ぎを聞きつけて群がってきていた。


 入ってこられないように私は結界を張ったが、ゴルゴタが本気で暴れたら結界など一瞬で崩壊する。


 蓮花はナイフを見つけたのかそれを持って息を切らしながら走ってきた。

 他者のことを私が言えた義理ではないが体力がなさ過ぎる。


「はぁ……はぁ……」

「おせぇよ」


 ぐしゃぐしゃと蓮花の頭をゴルゴタは強めに撫でまわす。


 それを見ていたライリーは血の気が引くような顔でそれを見て、わなわなと震えていた。


「私はゴルゴタ様を殺さない。少なくとも……ライリーの命令で殺したりしない」

「冬月を君が見捨てる訳がないと思っていたがね……」


 冬月の名前を出されると蓮花はやはり冷静さを失いかけるが、ゴルゴタが頭を押さえたまま強引に抑えた。


「落ち着けっての」

「…………」


 抑えつけられているものの、暴れたりはしないが蓮花は地面に顔を向けて、両手で自分の両目を拭った。

 涙を拭うように。


「キヒヒ……お前、泣いてんのかぁ?」

「泣きたくもなりますよ……」


 涙声で、必死に泣かないように耐えている様子だった。


 怒りが爆発した後にはどうにもできない悲しみが襲ってくるのだろう。

 蓮花の記憶ではいつもそうだった。


 怒り、悲しみ、怒り、悲しみ、憎しみの繰り返し。


 そして人格崩壊。


「ゴルゴタ様、力を貸していただけますか。動きを止めていただければライリーは私が仕留めます」

「脚も腕もベキベキに折りたたんで蛇腹にしてやるぜぇ……ヒャハハハハハッ」


 ここで私が出て行かず、一体どこで私が輝ける場所があるというのか。


 私が何の役にも立たずに指をくわえて見ていたら、私がここにきた意味がない。


 ゴルゴタと蓮花だけでは恐らく何か問題が発生するはずだ。

 なにかの分岐点を見逃さずに確実にタカシが勇者になる未来を変えなければならない。


「私も手伝おう」


 私が今関与していることは、他の魔族やタカシらがこの場におらずに巻き添えにならなかったことだ。


 蓮花がカノンを殺さずに気絶させただけなのは、私がいた手前そうしたのかもしれない。

 あるいはゴルゴタがカノンを殺していた可能性もある。


 現時点で今はそれほど悪い状況ではないことは確かだ。


「3対1じゃ少し分が悪いかな……それにこの面子めんつじゃあね……でも、私を殺しても極大魔法陣を解除はできないよ」

「……これ以上人間を嫌いにさせないで。極大魔法陣を解除しないなら、直接頭を覗くだけ……」

「……やっぱり君を敵に回すと厄介だね」

「私を拾って回復魔法を教えたのが間違いだったと思うよ」


 蓮花がそう言うと、ライリーは下唇を噛みながら涙を流した。


「それは違うよ……っ……君たちを愛して――――」


 涙を流しながら言葉を続けているところ、ゴルゴタと蓮花は容赦なく襲い掛かった。


 涙で視界が歪んでいる中、攻撃をしかけるなど外道のすること。

 血も涙もないとはまさにこのことだ。


 そう私は思いながらも、その作戦には今回ばかりには同意する。


 蓮花を愛しているなどと言いながら、それでも道具のように扱うその外道には……――――


 外道な方法でやるのがお似合いだからだ。




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