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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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蓮花の過去を知りますか?▼(3)




【蓮花 21歳】


「僕の思考が盗まれて悪用されているんだ」


「うるさい! やめて!」


「父さんと母さんが僕の悪口をずっと町中に広めてる」


 私は最初、冬月が幻夢草を接種した一過性のものかと考えたが、冬月が幻夢草を使用している痕跡は見当たらなかった。


 部屋を調べたが幻夢草は見当たらなかったし、身体を調べても幻夢草の成分が検出されることはなかった。

 つまり、幻夢症ではなく幻夢病であったということだ。


 幻夢症の場合は幻夢草の成分を身体から排出させるようにすれば対応できた。

 それに脳の異常も薬物成分が抜ければ、早い段階で症状は落ち着いた。


 けれど、幻夢病はそうじゃない。


 脳病の解明は分野として進んでおらず、幻夢病を発病した場合タウの町にある収容所に放り込まれて幽閉される運命だった。


 この時、私は誰かに助けを求めようとはしなかった。


 脳病の解明をし、私は冬月を治そうと考えた。


 だが、脳病発病者は強い迫害を受けており、幽閉するように周りから強い圧力がかかった。

 私が治すから私に任せてほしいと言っても、誰一人としてそれを聞き入れる者はいなかった。


 ライリーでさえ。


 私がどんなに冬月を繋ぎ留めようとしても、日に日に症状が悪化して暴れるようになっていた冬月をライリーも庇いきれず、タウの収容所に冬月は放り込まれた。


 シグマの町からタウの町は南西方向にあり、それほど遠い訳ではなかったが少しでも冬月の近くにいたいと私はシグマの町を出た。


 ライリーにも強く引き留められた。

 しかし、私は自分で稼いだ分の全財産を持ってタウの町に移り住んだ。


 私がいるからシグマの町に移住した者たちは、私についてくるように移ろうとしようとした。


 しかし、私はそれを断固拒否した。


 冬月を幽閉するように虐げた者たちの世話を何故私がしなければならないのかと。


 患者の顔は全員覚えていた。

 シグマの町の人間がタウの町まできて私に診てもらいたいと言っても、私は断固拒否をして強い批判の言葉を浴びせながら追い返した。


 タウの町の収容所に私は入って冬月の容態を確認したいと施設長に言ったが、受け入れられなかった。

 家族であるのにも関わらず、面会は拒絶された。


 理由は脳病の人は凶暴で、何をしでかすか分からず危険だからという理由だった。


 本当はそんなことはない。

 確かに冬月は訳も分からず暴れることはあったが1度でも私やライリー、他の人を傷つけるようなことはしなかった。


 私は回復魔法士会に進言し、脳病の研究の為にも立ち入りの許可を国に求める申請をした。


 けど、回復魔法士会は何もしてくれなかった。


 私は子供で、女で、魔族と繋がっている穢れた存在だから。


 ――何故だ。こんなにも私は今まで人間の為に尽くして来たのに。冬月の為に努力を惜しまなかったのに……


 そんな私が強硬手段に出ることをライリーは見越していたのかもしれない。

 シグマの町からやってきたライリーは私にこう言った。


「蓮花……本当はこんなこと、ずっと言いたくはなかったけど……もし君に覚悟があるなら私から推薦する」

「…………それで、冬月に会えるなら私は何でもする」


 ライリーは私に話をしてくれた。


 勇者連合会という組織の裏に暗躍する暗部の話だ。

 そして暗部の行っている長年にわたる計画。


 それは魔王城を中心に規則正しく存在する町が意味すること……極大魔法陣。


 それを発動すると魔王城は跡形もなく消し飛び、勿論魔王城にいる魔王も消滅する手はずだった。


 暗部は安定しない魔王制度に危惧した勇者連合会は、魔王をこの世から消し去る為に暗躍していた。


 しかし、その極大魔法陣には制御する為の優秀な魔法使いが必要だった。

 寸分狂わぬ魔法の制御を求められる。


 それに、魔法使いだけではその魔法を発現することはできなかった。


 簡単に言えば生贄いけにえだ。


 生贄はけがれのないものである必要があった。

 穢れのない者と言っても漠然としているが、性交渉の経験がないことや、なんだかんだといくつか条件をライリーは言っていたが、要するに3歳から10歳に満たない程度の子供が最適と言われていた。


 前に聞いた()というのはこの極大魔法陣を制御する者を言うらしい。


 私はすぐに快諾した。その交換条件として冬月と面会する・診察する時間を作るというものだった。


 勇者連合会の暗部に私が正式に入ったことで収容所の態度も一変し、私を手厚く扱うようになり、収容所内にも入れるようになった。


 私はそこで地獄を見た。


 脳病の人たちが身体を拘束され、身動きが取れないようにされて到底人道的な扱いを受けていない状態だった。


 口やら肛門に管を通し、ベッドにきつく拘束。

 ずっとそのままであるがゆえに背中に褥瘡じょくそうができている者が殆どだった。


 本当にただ生きているだけの状態。


「脳病者は人間ではない」という考えを持つ者が殆どだった。


 患者が興奮して騒げば暴力や薬を行使して黙らせる。

 酷いときは口に布を突っ込んで無理やり黙らせることも珍しくない様子だ。


 冬月がそのような扱いを受けていることを見た時は、生まれてこの方抱いたことのないほどの強い殺意を抱いた。


 自分がどれほど虐げられても抱かなかった殺意を初めて抱いた。


 その時はライリーが一緒だったので私は正気を失わずに済んだが、本当はこの時から私はこの施設の人間を皆殺しにしようと考えたんだと思う。


 まず私は、この非道な状況を真っ先に改善するように命令した。


 私と離れている間はそれほど長い時間ではなかったが、その間にも冬月の病状は悪化し、ますます強い妄想の世界へと入り込んでしまった。


 私は冬月に「その考えは病気による考えで実際は存在しない」と説得を試みたが、それも全部虚しく終わった。


 冬月は私に不信感を抱き、関係にも皹が入った。


 そして冬月は謎の行動をとったり、私を疑って避けるようになっていった。


 どうすることもできない私は、脳病の人間の生きている脳の解析をするという研究を始めた。


 初めは手詰まりもあったが徐々にどこに問題があるのか分かってきた矢先、私は時間的猶予がないと焦っていたせいもあり他の生きている脳病者を使って治す予行練習をすることにした。


 結果、何人もの脳病者が更に狂ってしまう結末になってしまった。


 脳は他の内臓器官と違ってかなり複雑だ。


 物理的に取り出してしまえば灰色のタンパク質の塊なのだが、その肉の塊に私は随分苦しめられた。


 それでも私は諦めなかった。


 もう私は冬月の為ならどれほどの犠牲を払ってもいいという考えに陥り、私は冷酷に実験を繰り返した。


 上手くいったこともあったが、何が成功の鍵なのかは明確には分からないままで脳病で収容されている者たち数十名を私は更に狂気に追いやり、結果的に殺してしまった者もいる。


 脳の操作は難しい。


 少し間違えるだけで呼吸が止まってしまったり、全身不随になってしまったり、心臓が止まってしまったり、五感が失われてしまったり、理性がなくなってしまったりした。


 しかし、この事実は公にはならなかった。


 私が暗部の人間だからだろう。

 暗部の不祥事は何もかもが隠蔽された。


 そもそも脳病者はこの世から確立された存在であり、よもやこの世にいない者として強く虐げられて扱われていたからというのもある。


 脳を弄るのはかなりリスクが伴う。

 だが、このまま冬月がこのままでいいはずがない。


 だから私は万全の体制を整え、何度も何度も魔法式の改変を重ね、ほぼ不眠不休で脳病の根治治療法を研究し続けた。


 私は何度も失敗を重ねながら慎重に脳病の原因をやっと突き止めることができた。

 ついに何人も犠牲にしたその研究は完成したのだ。


 私は歓喜した。


 これで冬月をここから出すことができる。


 また前のような生活に戻れるのだ。


 私の研究も、支払った代償もこれで清算されるのだと、これから先に生まれる脳病患者もこんな酷い扱いを受けなくていいのだと。


 しかし……――――


 その次の日に冬月は階段から転落し、死んでしまった。




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