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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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高度文明の建物が建っている。▼




【メギド イオタの町近郊 魔族の楽園】


 城にセンジュを待機させ、私は鎮痛剤が効いているうちにタカシらのいる場所へと向かった。


 夜明けが近く、空はうっすらと白んでいた。


 琉鬼が無事に母親と共に到着しているか、道中行き倒れていないか確認したが行き倒れているのは確認できなかった。


 骨も残らない程食べられたということもなく、血の跡も匂いもない。

 恐らくは無事にたどり着いたのだろう。


 ――特に騒ぎになっていないな


 魔族の楽園についた際には辺りを念入りに観察して異変があるかどうか見てみたが、特別異様な雰囲気はなかった。


「あ! 魔王! 生きてたんだ!」


 魔族の楽園に降り立って真っ先に声をかけてきたのはレインだった。


 以前見た時よりもかなり大きくなっている印象を受ける。

 もう肩に乗せたらかなり重く感じるだろう。

 白い身体の鱗が立派になって鋭さが増していた。


「無礼だぞ。生きていて当然だ」


 体感としては数時間前に殺されかけたわけだが。


「どこいくのさ?」

「また後で話す。今は急いでいる」


 クロもいて私の方を見てきたが、特に話しかけてくることなくただ私を見送った。


 一方私は真っ先にタカシの元へと向かった。

 どこにいるかは匂いや音の反射で分かった。


 私が競歩でタカシに近づくと他の者が私を見て騒いでいるのを感じたのか、私の方を向いた。


 私を見つけると溢れんばかりの笑顔を向けて声をかけてくる。


「お! メギド!! 久しぶ――――」


 バシャン!!


 とりあえず、いつもよりも強く水を打ち付けてみた。


 そうするとタカシは正面からくらった水が喉に入ったらしく盛大に咳き込んでいた。

 その様子を私はまじまじと観察する。


「げほっがはっ……けほっけほっ……オォイ! なんだよ!? 久々に会ったと思ったら急に! 俺は植物じゃないんだぞ! 久々の水やりみたいな感じで水ぶっかけるなよ!!」

「…………」


 私が何も言わずにタカシの様子を伺っていると、その私の訝しむ様子をタカシも何か感じるところがあったのか、私の顔を覗き返してきた。


 それはそうだろう。

 私がこんなに急いで会いに来たのだから何かあったと、単細胞のタカシでも気づくのは当たり前だ。


「……どうした? 何かあったのか?」

「あぁ……タコアシに異変がないかどうか確認しに来た……のだが……」

「タコアシ……? 違う! 俺の名前はタカシだ! 文字数くらいは合わせろよ! 確かにタコアシを良い感じに言うとタクワァシになってタカシになりえる可能性を秘めているが!!」


 ツッコミのキレもあるし、いつものタカシだ。

 特に変な様子はない。


 前よりも筋肉質になっていて訓練は詰んでいるようにみえるが、他に異変があった様には見えない。


「ここ数日、何かいつもと違うことがあったりしたか……?」

「急にお前が帰ってきて、挨拶も無しにいきなり水ぶっかけられたくらいしかない」

「…………」

「あぁ、あと琉鬼が母親を連れて帰ってきたけど……」

「そうか、無事についたようだな。その後はどうだ?」


 ――一先ずタカシに今のところ異常はない。一先ずは今を乗り切ればあの未来にはならないはずだ


 私は本当に何があったかは言わず、適当に話をしながら周囲を警戒した。

 特別何か大きな違和感はない。


「カノンが診てくれてるから、少しずつ良くなってるよ。メギドはどうしたんだ? 俺に異変がないかって……俺はいつも通りだぞ」


 ――今はな。その内にどうなるかは分からない


「カノンはどこにいる?」

「あっちの建物の中にいるんじゃないか?」

「お前もこい」


 タカシは「悪い、任せていいか」と他の魔族に断って私が指示したように後をついてきた。


 タカシの指さした方向に向かって行くと、この場に似つかわしくないような建物が建っており、私は戸惑った。


 他の木造の建物とは明らかに違う、頑丈そうな金属の建物が建っている。

 以前ここにきたときはなかったはずだ。


 私がその入口に向かうと透明な硝子があり、近づくと自動で横に動いて開いた。


 それに私が怪訝な表情をしていると、タカシが堂々といかにも自慢げに「これ、すげーだろ!」とあたかも自分が作ったかのような勢いで言ったので、腹が立って再び水をかけて黙らせた。


 中に入ると見たこともないような建築様式で見事な造形をしていた。


「ここは魔機械族が技術を提供してくれて、それですげーんだってよ」

「魔機械族……」


 ――センジュが作ったという魔機械族の技術か……色々な技術を見てきたが、突出して独自に発展していっているように感じる


 中に入ってタカシの案内通りに進んでいくと中は個室に分けられていて、中にはベッドがあり、具合が悪いと思われる者はそこに横たえられていた。


 何やら身体のあちこちにコードがつけられており、その先が機械に繋がっている。


「あっちが琉鬼の母親の病室だ」


 扉を開けると1番手厚い部屋に琉鬼の母親はいた。


 それを取り囲うように様々な機械類が並び、カノンの他に3名がいた。


 1名は琉鬼だ。

 母親の手を握って心配そうに顔を見ている。


 もう1名は回復魔法士の恰好をしている者だ。

 それが誰なのかはわからない。


 もう1名は種族としてなんなのか背面からでは分からなかった。

 人間のように見えるが、人間の匂いはしない。


「魔王様!」


 私を見た琉鬼とカノンは椅子から立ち上がり私の元へとやってきた。


 琉鬼は太っていたのが少し痩せたように感じる。

 そんな琉鬼の話に付き合っている余裕はなく「少し待て」と琉鬼を牽制してカノンの方を向いた。


「カノン、頼みがある。少し来てくれないか」

「はい」

「タコアシはここにいろ」

「タカシだ! トゥアクァアシ!」


 自分の名前を叫んで訳の分からないことを言っているタカシを「やかましい」と一蹴して、部屋からカノンと一緒に出た。


 適当な空いている個室にカノンを誘導し、入ってから鍵をかける。


 鎮痛剤の効果は薄れ始めていて脚の花の部分に再び激痛を感じ始めていた。


 急いでここまで飛んできて疲れているのもあるし、激しい痛みのせいもあって私は汗が滲んでいた。


 家族の前でもない者の前で下の履物脱いで下着姿になるという羞恥心など感じている場合ではなく、私は脱いでカノンに脚の花を見せた。


 するとカノンはその花をまじまじと見つめた。


「これは……?」

「呪いの花だ……この花の根が張っている範囲……痛覚を遮断してくれないか。痛みでろくに動くことすらできない……訳は後で話す」

「分かりました。やってみます」


 カノンは魔法を展開して私の身体の様子を調べていた。


 それから徐々に痛覚を遮断していった。


 蓮花よりは慎重で手際がいいとは言えない。

 しかし、確実に激痛は収まって私は意識をある程度集中することができるようになってきた。


 右肩の方の傷も見せて、花の根の細かい部分も取り除いてもらった。


 新たに花が咲いたことは喜ばしい事ではないが、肩の花がなくなったのは想定外の幸運だ。


 下級天使らは花の1つでももう動けない程の苦痛を受けていた。

 私もこうして痛覚を遮断しなければまともに動けないのでそれを嘲笑する気にはならない。


 処置が終わって、何から話すべきか考えた。


 蓮花のことか、三神のことか、伝説の勇者のことか、何の訳も知らないカノンに話すことが多すぎる。


 だが、真っ先に言う事があったのでそれを言うことにした。


「カノンの兄を見つけた」

「!!!」


 驚いたカノンは目を見開いて私を凝視する。


「兄は無事でしたか!?」


 無事かどうかで言ったらあまり無事とは言えないが、生きてはいる状態だ。

 魔王城に残りたいなどと言っているのを何と説明したらよいか。


「……生きている。五体満足だ。精神的にも特段問題はない」

「良かった……」


 喜んでいるところ大変言いづらいが、私はカノンにありのままを伝えることにした。


 後は兄弟間の問題だ。

 私がフォローするべきことではない。


「だが、問題がいくつかあってだな……カナンは蓮花に弟子入りするなどと言ってあそこから出る気はないらしい」

「え……?」


 カノンは想定の範囲内の反応をしていた。


 驚くのも無理はない。

 私から見ても荒唐無稽な考えだと感じる。


「何を言っているのか受け止めきれないかもしれないが、事実だ」


 カノンとしては色々と複雑な心情であろう。

 蓮花に執着しているのはカノンの方だ。


 カナンは蓮花の回復魔法士としての技術に執着している。


 兄弟そろってどうしようもないと感じるが、そこは口を挟まない事にした。


「一応言っておくが、女として興味がある訳ではなく、あの技術をなんとか盗みたいと考えている様だ。私にはその器があるとは思えないが」

「……そうですか……僕も無理だと思います。生きているうちに帰ってくるように説得して……いえ、納得しなくても連れ帰っていただけませんか?」

「連れ帰っても無駄だ。兄弟として軋轢が残るぞ。気づいているだろうが、カナンはお前に強い劣等感を抱いている。このままでは戻れないと判断して蓮花に弟子入りするなどと言い出したのだ」

「悪く言うつもりはないですが……兄は現実的に物事を考えられない節がありまして……」

「だろうな」


 ズボンを穿きなおした私はタカシのことを話すべきか悩んだが、先に病室にいた知らない者たちについてカノンに尋ねる事にした。


「色々他にも話すことがあるが、病室にいた者たちは誰だ?」

「魔機械族の方と、逃げてきた回復魔法士のリンさんです。琉鬼さんのお母さんの容態を見るのに手伝っていただいています」


 私の記憶では魔機械族はもっと武骨な金属の集合体であったが、時代の流れで変わったのだろうか。


 70年も外に出ていなかった私には驚くべき進歩だった。


「この建物は魔機械族が作ったのか?」

「はい。彼らは独自のかなり高度な文明を持っていて、あっという間にこの建物を作ってくれて、具合の悪い方たちの治療もしてくれていますし、とてもいい方々です」

「そうか……積もる話もあるが、一先ずは私はタコアシを見張っていなければならなくてな。差し引きならない状況になっているのだ。ゆっくりはしていられない」


 立ち上がり、歩きながらカノンに話を始めた。


「この花は魔道具『時繰りのタクト』を使った代償だ。私が魔王城にいた際にタコアシが異常を来たし魔王城襲撃、ゴルゴタと魔王家執事を斬殺。私も殺されかけ、命からがら戻ってきた。細かい説明をしている時間はない。一先ずはタコアシと合流する」


 琉鬼の母親が横たわっている部屋に戻ると、そこにいる者たちはそれぞれと話をしていた。


「魔王様! 母を助けていただいてありがとうございました!」


 私の前で琉鬼は深々と頭を下げて礼を言った。


「無事に帰れたようだな」

「はい! これからは親孝行します!」

「メギド、あの後からどうなんだよ? 上手くいってるのか? 元気そうで良かった」


 タカシが会話に割り込んで入ってきて私のその後の状況を聞いてくる。


 改めてタカシをよく観察するが、時間を戻す前に城に乗り込んできたときよりは正気を保っている様子だ。


 私がまじまじとタカシを観察していると、タカシは何か後ろめたいことを感じたのか勝手に自白し始めた。


「な、なんだよ……メギドに言われた特訓メニューを他の魔族と一緒にやってるぞ……サボってないぞ」

「嘘をついてもバレると分かっていて、よくそんな目を泳がせながら私に言えるものだな」

「う、嘘じゃないぞ。たまにしかサボってないぞ! ほら、筋肉ついただろ!」


 そう言って私に自分の腕をまくり上げて筋肉を見せてくる。


 ゴルゴタとセンジュを殺した際には筋肉がどうとかいう問題ではなく、動きが今のタカシからは想像できない程洗練されたものだった。


「そんなことより、私にこの者たちを紹介したらどうだ」

「あ、あぁ。こっちは最近他の町から避難してきた回復魔法士のリンさん」

「初めまして」


 回復魔法士の服装をしっかりと正装をしている様子だ。


 顔に目立った特徴はないが首のところに大きな傷痕があり、本来であれば致命傷であったことが窺える。


 私には劣るが私と同じ金色の髪をしており、小太りだ。

 良いものを食べていなけばこのような体型にはならない。


 元々はかなり上流階級の出だろうということをうかがわせる。

 品性のある佇まいで丁寧に私に頭を下げた。


「で、こっちは魔機械族の……えーと……34号さん……36号さんだっけ?」

「はじめまして。35ごうです。まおうさまにおあいできてこうえいです」


 言葉のぎこちなさはあるが、しっかりと共通言語を話しており挨拶もできるし私が誰か認識できるようだった。


 それだけでタカシよりも優秀な存在であると分かる。


 姿は極めて人間の男に近く、服も着ており遠目から見れば人間と間違えるほどのものであった。

 皮膚の部分は人間のものと近いが有機物ではないように見える。


 人間と決定的に違う部分は「感情」というものが読み取れないということだろうか。


「この建物を作ったのはお前か?」

「はい。ほかのものとぶんたんし、つくりました。このまちにはきちんとしたいりょうしせつがなかったので、みなさんのたすけになればとおもいまして」

「……そうか。それで、琉鬼の母親の容態はどうだ?」


 琉鬼の母親は色々な機械に繋がれており、何かの数値が機械の画面上に出ているが何を示しているのかまでは分からなかった。


「えいようしっちょうとこころのもんだいはありますが、じょじょにかいふくしていっています」

「安静にしてしっかりと食事をとれば回復していくでしょう。問題ありません。ただ、精神的にかなり追い詰められているようなので、カウンセラーと一定期間話をさせた方がよろしいかと。今は息子さんが側にいるので大分安定しているようです」


「――の……――――ません……――」

「…………――――……」

「――ければ……――――――ありません……――――」


 35号とリンがそう説明している中、外から何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 またもや嫌な予感がした。


 声が聞こえたすぐ後、外はちょっとした騒ぎになっている様子だった。


 だが、それは私の聴力が優れているから聞こえただけで、タカシらはまだその騒動には気づいておらず、私に話しかけてきていた。


「無視すんなよメギド。なんか様子変だぞ」

「お前たちはその場から動くな。なにやら外が騒がしい」


 私が部屋の窓から恐る恐る外を見ると、そこには蓮花とゴルゴタがいた。




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