表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
181/332

新たな花が咲きました。▼




【メギド 魔王城 魔王の座】


 私は『時繰りのタクト』で、あの惨状から1日半前まで戻ってきた。


 戻ってきた私は自室でベッドに入っている状態だった。

 まるで酷い悪夢を見ていたかのようだがそれは違う。


 私は左脚の大腿部分に激痛を感じ、部屋着を脱いで確認するとそこには死の花が咲いていた。


 明らかに右肩のものよりも大きく、痛みも強く私は自分の脚を抑えて暫く動けなくなった。


 その激痛の走る脚を引きずってなんとか窓までたどり着き、カーテンを開けると今は夜。


 ゴルゴタのいる場所までの移動距離を考え、1日前ではなく1日半前にしたのだ。


 しかし痛みは予想以上で、余裕を少し持たせたが時間としてはぎりぎりかもしれない。


 ――何故タカシが勇者の剣を……


 脚の激痛とは裏腹に痛みはないが、血が自分の腕を伝う感触で出血していることを思い出す。


 私が勇者の剣で抉られた右肩を見ると、かなり深く抉られていた。

 右肩の肉がごっそりと抉られ、そして右肩に咲いていた死の花が切断されて千切れている。


 あっという間に花は鮮やかさがなくなり始め、萎れて行っているように見えた。


 私は気が進まなかったが僅かに繋がっている部分を持ち、力を入れて引っ張ると物理的に毟り取ることができた。


 根のようなものが多少残っていることが気になるが、確実に花は私の肩にあるときよりも生気を失っていた。


 伝説の勇者の剣の前では死の花も無力になるらしい。

 最悪な状況の不幸中の幸いというべきか。


 しかし、新たに脚の方に花が咲いてしまった。


 蓮花の元へ行けば、あるいはカノンの元へ行けばまた痛覚を遮断してもらえるだろう。

 まずは止血をしなければならない。


 鏡を見ながら自分の肩の部分を見て、氷の魔法で凍らせて止血した。

 痛みを感じないのは幸いだ。


 花が枯れた以上は異物を取り除き、痛覚も戻してもらわなければならない。


 花が咲いたのが腕でなくて良かった。

 手や腕は魔法を使うために微細な制御を求められる。


 花が咲いていたら再び魔法が制限されていたところだ。


 ――とはいえ……この激痛では集中力が持たない……


 私は足を引きずりながら、センジュの部屋へと向かった。


 もう夜も遅い時間だが起きているだろう。

 なにせセンジュが横になって眠っているところは見たことがない。


 完璧な執事は私の指示になんときも対応するべく備えているものかと思っていたが、恐らくセンジュは眠る必要がないのだろう。


 ゴルゴタはあまり眠らないが、恐らくは『死神の咎』の影響もある。

 センジュは死神と直接契約しているのだから、眠らなくても不思議はない。


「センジュ、起きているか」

「はい、メギドお坊ちゃま」


 私が扉に向かって呼びかけるとすぐにセンジュから返事が返ってきた。

 それとほぼ同時に扉が開く。


 冷や汗が滲んで髪の毛が顔にまとわりついて乱れている私の様子と右肩からの出血で血まみれの服を見てセンジュは驚いたすぐ後、何があったか察したのかすぐに私を部屋に招き入れ、椅子を持ってきて私をそこに座らせた。


「また『時繰りのタクト』を使われたのですか? それに、その肩の傷は……花はどうされたのですか?」

「まず局所麻酔の鎮痛剤が必要だ……持ってきてくれ」

「わたくしの部屋にございます。すぐに処置いたします」


 センジュは棚から瓶と注射器を取り出して、中の液体を注射器へ移した。

 そして空気を抜くために上を向けて少し中の液体を出し、準備を整える。


 私は下半身の部屋着をずりおろし、花をセンジュに見せた。


 花を見た瞬間、センジュは痛ましい表情をしながらも的確に私の身体に鎮痛剤を注射した。


 すぐに麻酔は効き始め、激痛は和らいでいった。


 だが痛覚を遮断されたわけではないので、完全に痛みが取れた訳ではない。


「……私はすぐにでも出なければならない」

「何があったか伺ってもよろしいですか?」

「今から1日と半日後、センジュとゴルゴタが殺される」


 まさか不死の者がどうやって殺されるのだろうという驚いた表情をしたが、センジュやゴルゴタを殺せる者は神の力を得た勇者以外にあり得ない。


「地下の勇者らですか?」

「違う。私と共に旅をしていたタカシだ。タカシは神と接触して力を与えられたようだ。それに、操られているような素振りであった。危機的状況だったから詳しい状況は分からないが、蓮花がタカシらを襲うらしい。そこでタカシがゴルゴタから逃げてここまできた。今からタカシらのところへ向かう。何があったのか確認しなければならない」

「…………理由もなく蓮花様が人を襲うとは考えられないですが……」

「私も何か理由があるように思う。タカシは仲間を襲ったと言っていた。仲間……蓮花が襲いそうな仲間と言えばカノンのことかもしれないが、明確に誰かとは言わなかったところをみると、カノンではない可能性がある。カノンであればカノンの名前を出すだろう」


 私は『現身の水晶』を取り出してゴルゴタに呼びかけた。


「ゴルゴタ、返事をしろ」


 数秒返事がなかったが、水晶からゴルゴタの不機嫌そうな返事が聞こえてきた。


「………………ンだよ兄貴……くだらねぇ用事だったらぶっ殺すぞ」

「一大事だから連絡した。今どこにいるんだ」

「一大事ぃ? あぁ……ひゃははははははっ……()()()がもう兄貴のとこまでいってんのかぁ……?」

「あの事とはなんだ」

「なんだよ、俺様が龍族をぶっ殺しまくった話のことじゃねぇのかよ……キヒヒ……」


 私とセンジュは頭を抱えた。


 確かに龍族の町の方へと向かって行ったが、まさか龍族に殺戮の限りを尽くすとは思わなかった。


「簡潔に言う。半日後程にお前と蓮花は直に人間を襲い、その結果神が干渉してきた。そして神の力にねじ伏せられ、お前とセンジュが私の目の前で殺される」

「はぁ? 俺様とジジイが殺されるだぁ……? なんでンなこと分かるんだよ」

「『時繰りのタクト』で私は未来から戻ってきた。間違いない」

「へぇ……神が登場ってか。どんなバケモンが登場するってんだよ。おもしれぇなぁ……ひゃははっ」


 ゴルゴタは楽しそうな声色で話をしていたが、到底笑いごとではない。


 自分が殺されるというのに、悠長なやつだ。


「お前はそのバケモノを追いかけて城へ帰ってきた。そのときのお前は今のような余裕はなさそうだったぞ。血相を変えてそのバケモノを追いかけてきていた。今から人間を襲うつもりならやめておけ」

「なんで俺様が毛のない猿なんかわざわざ襲わねぇといけねぇんだよ」

「お前じゃない。蓮花が殺しを始めたらしい」

「人殺しがかぁ……? まぁ、なんか探してるみてぇだが、そんな素振りもなく大人しくしてるぜぇ……?」


 ――何か探している?


 何を探しているんだ。

 もしや殺しにかかった者を探しているのか?


「今一緒か?」

「あぁ、寝てるぜぇ?」

「叩き起こせ」

「ちっ……命令するんじゃねぇよクソ兄貴。起こさねぇ為にわざわざ離れて話してんだ。長旅で疲れてんだよ」


 これは驚いた。

 ゴルゴタが他者を気遣うようなことを言う日がくるとはな。


 そんなことで驚いている猶予はない。


 何かあってからでは遅い。

 今何も起きていないのであればそれを維持するべきだ。


 具体的に何があったかまでは分からないが、蓮花が相手を殺しにかかる何かがあったはず。


「いつまで休暇などと言って遊び回っているつもりだ。叩き起こして今すぐ戻ってこい。未来を見てきた私は断言できる。私の言う事を無視すればお前は後悔することになるぞ」

「ふぅん…………で、俺様がぶっ殺されるのは分かったけどよ……その時は人殺しも一緒だったか?」


 そう言えばゴルゴタは蓮花と一緒ではなかった。


 ゴルゴタが蓮花を放り出してタカシを追って来たとも考えられるが、その可能性は限りなく低い。

 蓮花を担いで運んでくることはできる。

 こんなにご執心なのだから、どこかに放り出してくるとは考えにくい。


 ともすれば、蓮花は何らかの理由でゴルゴタと離れなければなかった可能性がある。


「いや、お前単体で帰ってきた」

「…………」


 少々ゴルゴタは考えている様で沈黙した。


 考えるまでもない。

 私の言った通りにしなければ同じ結果になる。


「神が干渉してきたっつったよなぁ……誰に干渉してくるってんだよ」

「……お前、神をどうにかしようなどと考えている訳ではないだろうな?」

「丁度いいじゃねぇか。どこにいるか、なんなのかも分からねぇ奴の手掛かりを放り出して帰れってのかよ」

「確かに貴重な情報だが……やめておけ。現にお前は殺された。まだその時ではない。状況を確かめ確実な一手で仕留める方が良い」

「…………まぁ、真面目な兄貴が未来から戻ってきたとか訳わかんねぇこと言ってるくらいだから、そうだろうな……」


 以外だ。


 もっとゴネるかと思ったが、案外随分物分かりが良くて助かる。


「随分物分かりがいいな」

「要件は分かった。人殺しが人を殺さないように見張ってればいいんだろぉ……? 探してるもん見つけたらすぐに帰ることにする」

「見つけたら引き返せなくなる可能性があるからやめておけ」


 見つけてからではリスクが高い。


 蓮花の執念からしたらもうすぐ手が届く距離に目当てのものがあれば、飢えた獣のように目標に食らいつきにいくだろう。


「何を探しているのか本人に聞け。それが人間だったらすぐに帰ってこい。穏便に済むとは思えない」

「オイ……俺様がそんなに馬鹿だと思ってんのかよ。何探してるか勿論聞いたぜ。そしたら“それを聞いたらゴルゴタ様は人間を再度滅ぼすことにすると決断すると思います”とかなんとか言ってはぐらかしやがる」

「それは……絶対にお前も一枚咬んでいるだろう。ろくなことにならないことがありありと分かる。今すぐに帰ってきた方が良い」


 ゴルゴタが人間を滅ぼすと再度決定するようなものを探しているのなら、なおの事それには手をつけさせるわけにはいかない。


 ゴルゴタは短絡的な性格だ。

 餌が目の前にぶら下がっていたら無理やりにでも毟り取るだろう。

 蓮花とゴルゴタは芯の部分では似ているのかもしれない。


 他にもゴルゴタに確認するべき点がいくつかある。


「そのこともさておいて、今まで何をしていたんだ」

「まだ帰ってねぇのに土産話かよ」

「方々で問題を起こしているのではないかと思うとこちらは気が気でないのだ。それに、お前たちの行動のどれが神を呼ぶまでになったか分からない。出かけて行ってから今まで何をしていたか教え……てくれ」


 私は「教えろ」と命令口調で言おうとしたが、ゴルゴタと話すときは命令口調は逆効果。

 なので私はなるべく頼むような形でゴルゴタに言った。


「面倒くせぇな……まずは龍族の町で龍族ぶっ殺しまくってから……」


 何故だ。

 何故龍族を殺戮する必要があったのか問いたい。


 しかし、話が進まなくなるためその疑問は突っ込まなかった。


「そこから人殺しが行きてぇっつーからタウの町に行った。なんか自分が書いたもん探してたらしいけどよ、見つからなかったみてぇだなぁ……」


 タウの町と言えば蓮花の拘置されていた施設のある町だ。


 何か書いたものを探していると言っていたが、蓮花の頭に入っているなら不必要なものであるはずだ。

 ともすれば、何か記録をとっているものとは違う何かである可能性がある。


「それで?」

「ユウシャレンゴウカイとかいうのがあるオメガの町に行った。これも人殺しが行きてぇっつったからだな」

「行ってどうした?」

「またなんか探してるみてぇだったが……俺様が何探してるか聞いても聞こえてねぇくらい真剣に探してたぜぇ? 地下のクソ勇者どもが入ってたっつー装置とか書類とかあったなぁ……それはいくつか持って帰る予定だぜぇ」


 ――勇者連合会で見つけた書類か……色々そこに書かれているのだろうな。アザレアらの素性や神に関することが書いてあればいいが……


「…………で、今どこにいるんだ」

「分かんねぇな。人殺しが地図を持ってるからよ。俺様はお陰様で土地勘とかねぇし」


 ここぞとばかりにゴルゴタは厭味を言ってくる。


 謝罪を要求しているのだろうが、いちいち厭味に謝っていたらきりがないので謝罪はしなかった。


「……何にしても、蓮花が起きたら事情を話してすぐに戻ってくるように言って帰ってこい。また話がまとまったら休暇の続きでもなんでも行けば良い」

「ちっ……まぁいいや……少し羽を伸ばせたし……人殺しが目ぇ覚ましたら帰ってやる。じゃあな。気安く連絡してくるなよ」


 そう言ったきり、ゴルゴタの声は聞こえなくなった。


 ――無事に帰るといいが……


 念のため私は先回りしてタカシらの元へと向かうことにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ