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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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テーブルは壊されている。▼




【メギド 魔王城】


 休暇を取るなどと言い出したゴルゴタと蓮花は朝になって適当な朝食を食べ、それから必要最低限の荷物を持って出かける準備をしていた。


 一応どのように、どちらの方角に行くかくらいは把握しておきたかったので、私は朝早めに起きてゴルゴタと蓮花の様子を見ていたが、見れば見るほど酷い生活状況だと感じる。


 ゴルゴタも蓮花も食事に無頓着なのか、何かの肉を適当に焼いた味気のないものを食べていた。

 それに特別文句を言う訳でもない。


 私は何の肉かも分からないものをただ焼いただけのものは絶対に口にしない。


「ゴルゴタ様、私は同行しても足手まといになるだけと思いますが……」


 蓮花は何をするのかわからない「休暇」にあまり乗り気ではない様子だった。

 しかし、ゴルゴタは当然のようにそれを否定する。


「前にも言っただろ。俺様なしで魔王城にいたらぶち殺されるぜぇ?」

「それはセンジュさんに守ってもらいますよ」

「ジジイにか? キヒヒヒ……昨日の話聞いてただろ。ジジイは俺様をバケモンにしやがった張本人だぜぇ……信用なんざできねぇよ。てめぇは俺様以外の奴を簡単に信用するんじゃねぇ」

「信用ですか……」


 それ以上、蓮花は何も言わなかった。

 ただ、黙々と目の前のよく分からない肉を食べていた。


 柱の陰にこそこそとしているのも私の顔が立たないので、私はセンジュが作った高級料理を堂々とゴルゴタと蓮花の前に座って食べることにした。


「ンだよ、気持ちわりぃな……他に席空いてんだろ」


 当然ゴルゴタから文句が飛んでくる。


 肉を乱暴にフォークで刺して口に運んで食い千切る。

 テーブルマナーは相変わらずだ。


「話し相手が欲しかったものでな」

「そんなタマかよ」


 文句を言いながらゴルゴタは残りの肉を乱暴に口に運ぶ。


「しかも、俺様たちが食ってるような粗末なもんは食えねぇって厭味まで示してきやがる」


 私の食べている高級料理を見てゴルゴタは舌打ちする。


「何故お前たちがそんな得体の知れない焼いただけの肉を食べられるのか、逆に教えて欲しいくらいだ。味覚がどうかしているとしか思えない」

「喧嘩売ってんのか!?」


 蓮花は私たちが隣で喧嘩をしているのも特に気にならないようで、ただ得体の知れない肉を口に黙々と運んでいく。


 ゴルゴタはここで暴力や魔法を行使すれば隣にいる蓮花も巻き添えになることは承知している様子で、行き場のない怒りを暴力で発散させ「ドォン!」とゴルゴタの手によってテーブルが破壊される程度で済んだ。


 お陰様で私の食べる予定だった食事が床に散らばった。

 蓮花の食べていた肉も当然床に落ちる。


「ところでメギドさん。これを」


 ポケットから折りたたまれている紙を開きながら、蓮花は私に対して3枚の紙を渡してきた。


 こんな状況でも冷静に振舞える人間がいることは信じがたいことだが、もう破壊されたテーブルと食べられなくなった料理に興味をなくした蓮花は私の目を見ずに紙を差し出す。


 内容を見ると蓮花が城を離れる間の人間たちの管理について書かれた紙だった。

 栄養剤の使用の仕方、栄養剤の作り方、管理は地下の回復魔法士でも多少役にたつから使えばいいこと等が書かれている。


「私たちが不在の間、人間の世話をお願いしますね」


 その言葉を聞いたゴルゴタは苛立ちを抑え込み、椅子に乱暴に座って足を組んでそこに肘をつき「ちっ」と舌打ちをして窓の方を見て大人しくなった。


「私が全員人間たちを解放してしまうかもしれないのだぞ」

「そんなことしてみろ、俺様が兄貴をぐちゃぐちゃにすり潰すことになるぜぇ……?」


 確かに私が余計なことをしたら本当にぐちゃぐちゃにすり潰されることになりかねない。


「メギドさんも分かっているとは思いますけど、魔王城全体に人間から攻撃されるのを防ぐためにあの人間たちは生かしたまま括りつけているのです。それに、腱を切ってあるので彼らは自力で逃げられません」

「地下の回復魔法士に治させればいい」

「愚問ですね。本当に逃がすつもりならわざわざそんなこと確認してこないです。それに、あの衰弱している状態は回復魔法ではどうにもなりません。人間の空間転移魔法は実質殺すようなものです。よって、逃がすことはできません」


 言う通りだ。私の力であの人間らを逃がすことはできない。


 それに、地下の回復魔法士らも相当に精神的な異常をきたしているし、使い物になるかはかなり疑問が残る。


「けっ……兄貴は性格わりぃからな。もう出るぞ。荷物持ってこい」

「はい。参りましょうか」


 席を立ったゴルゴタと蓮花は恐らくすぐに出発するだろう。


 私は食事が台無しになって落胆したが、どちらの方角に行くのかくらいは確認しておきたかったので、魔王城正門の前まで移動してそこで待っていた。


 待っていたと言っても数分程度で、すぐにゴルゴタと蓮花は現れた。


 ゴルゴタは刀蛭とうてつの不気味な剣をしっかり持っている。

 その装いを見るに、何か争いに行くのは明白だ。


「おい、俺様たちに付きまとうなよ鬱陶しい野郎だなぁ……」

「お前たちが出かけるとなって急に私にいとまができてな、私自身も何をしたら良いか分からないのだ」

「それで俺様たちの見送りかよ。気色わりぃな……」

「『現身の水晶』を持っているな?」

「あ? あぁ……」

「何かあったらすぐに連絡してこい。こちらも何かあったら連絡する」


 ゴルゴタは「うるせぇ」と私の話を一蹴して蓮花を抱えて飛び去って行った。

 魔王城から南西の方角に向かって飛んで行ったようだ。


 南西の方角は呪われた町、オミクロンの町、ゼータの町……と、龍族の住処方面だ。


 私が父を訪ねたのと同じく、ゴルゴタも父を尋ねに行ったのだろうか。


 ――何にしても、何もなければいいがな……


 だが、ゴルゴタが自分の父親に興味があるとは思えない。


 呪われた町に行った可能性もあるが、蓮花はあまり気が進まないようであったし実際にどこに何をしに行くのかはわからない。


 人間の世話をセンジュに任せ、私は久々にタカシらのところへ行って修行の成果でも見てやってもいい。


 それに、状況の伝達も必要だ。

 それには私がタカシらのところまで行かなければならない。


 それには私が空間転移魔法か実際に飛んで行くしかないが、空間転移魔法は負荷が大きいし飛んで行くのは疲れるから気が進まない。


 ――琉鬼は母親と共に無事に帰れたのか?


 ここから魔族の楽園の付近まで行くのには、琉鬼単身で歩いても数日かかる。


 それを母親を担いで移動しているとすれば更にその倍以上の時間がかかってもおかしくない。


 ――生き倒れていないかどうか確認しに行くか


 私はセンジュのところへ再度尋ねた。


 招き入れられた私はセンジュの淹れた紅茶を飲みながら、人間の世話を頼めるか尋ねていた。


 あまり快諾という感じではないが、センジュは「かしこまりました」と言っていた。


 センジュはまた何やら機械部品で別の人形を作り始めていて、それを見て私はひらめいた。


「センジュ、死神の身体に細工をすることはできないか?」

「細工……と、申されますと?」

「呪式を組み込み、その機械の身体に死神の実態を封じ込めることができれば、その身体ごと封じられるかもしれない」


 私の提案に対し、センジュは考え込むように数秒黙った。


「人形に呪式を組み込むこと自体はできます。ですが、死神がそれを見抜けないとは思えません。それこそ、それを仕組んだわたくしや、お坊ちゃま方が無事でいられるとも思えない危険な策です」

「ふむ……どこにいても私たちのことを把握しているというのは脅威だな。まず、その把握範囲から逃れる方法を探さなければな」

「それは逆効果かと。把握できない空間ができたら三神すべての意識に止まってしまうと思います」


 私よりも能力値が圧倒的に高いということが許せない。


 しかし、三神の意表をつく作戦を立てなければ到底三神に勝つことは不可能だ。


 ――いや、それが逆効果だというのなら、その逆効果を逆に利用すれば三神の気を引くことができるのではないか? そうすればリスクはあるが接触の機会はあるが……


「魔神と神はどこにいるのか知っているか?」

「いえ、存じ上げません。死神から聞いた話にはなりますが、わたくしが会った当初は身体を持っていたそうですが、最近は身体を持たずにおられるようです」


 死神と同じく身体を持たなくても存在できるとなれば、やはり物理的にどうこうしてもどうすることもできないだろう。


 それに、私は三神のことをほぼ何も知らない状態だ。

 まずは敵のことを調べる必要がある。


 ――とはいえ、蘭柳やルシフェルに尋ねてもろくな情報は持っていないだろう。特に、ルシフェルには二度と会いたくないものだ。上位天使2名をゴルゴタに殺されたとあれば、余計なことになるだろう


「ふむ……情報収集がしたいが、どうしたものか……死神がペラペラと余計なことを色々言っていたが、神と魔神が仲が悪いということくらいしか情報がない。あと、センジュの言っていた話しか三神に関する情報がない。蘭柳のように知っている者も口をつぐむ」

「そうでございますね……」

「そうだ、こういうのはどうだ?」


 私はセンジュに向けて魔法を展開した。


 私が指の一本を動かす間もなくそれをセンジュに向かって撃つことができる。


「私に脅され、やむなく死神の元へ案内させられる……というシナリオなら死神も納得するのではないか?」


 多数の魔法式に囲まれながら、センジュは頭を抱えて俯き、小さくため息をついた。




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