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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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王様を説得してください。▼




【タカシ】


 国王は魔王メギドが現れたとの通達を受けたのか、多くの取り巻きを引き連れて町の広間に現れた。


 太っていて、動きにくそうな豪奢な服を着ている。

 この非常事態でも王の威厳を保ちたい様子だ。


 大きな宝石のネックレスや指輪、腕輪などをいくつもつけていて「絶対にこれは手放さない」と確固たる意志を持っているように俺は感じた。


「お前が王か?」

「そ……そうだ……私がこの国の王のオリバーだ……お前が魔王メギドか……」


 メギドを前にして国王はかなり委縮し、怯えている様子だった。

 びくびくと周りの従者の影に隠れ、少しでもメギドから遠ざかろうとしているように見える。


「おい、本当にこの者が王なのか? 影武者か何かか?」


 メギドは近くにいた格闘家に向かってそう問う。


「影武者ではない。この方がこの国の王、誠のオリバー国王だ」

「ほう……」


 舐めるようにメギドは国王を見る。


 怯えている国王に対して、メギドはなかなか次の言葉を発しなかった。

 国王のことをずっと見つめている。


「メギド、どうしたんだ? 聞くことがあるからここまできたのに」


 小声で俺がメギドに言っても、それでも黙って国王を見ている。


「貴様が国王であるというのなら、まず私、及び私のしもべに対して無礼があったことを詫びてもらおう」

「なっ……国王様に向かってなんてことを!」


 周りにいた従者はメギドに対して敵意を露わにして武器を構えた。

 国王もメギドの言葉に険しい表情を浮かべている。


「それだ。その態度だ。人間の王は自分に間違いがあって無礼な態度があったことを詫びることもできないのか? 私は話をしに来てやっただけで武器を向けられ、殺されかけたのだぞ。まぁ、どれだけ下手をしたとしても私が殺されることはないが、私が従えている者の中には子供もいる。お前たちは自分たちと同族の、何の罪もない子供にまでその刃を向けるのか?」


 メルは怯えた様子でメギドにしがみついていた。

 その手は小さく、震えている。


 その様子を見て国王の従者は躊躇ったような顔をして矛先をブレさせる。


「仕方ないだろう……魔王が村を襲って次々に壊滅させているという情報があったのだから……我々が壊滅させられる恐れがあったのだから容赦はできない……」


 国王がそう言い訳をすると、メギドはすぐさま言い返した。


「おい、言い訳をするな。結果的に生きているだけで死んでいたかもしれないのだぞ。まずお前が頭を下げて謝れ。人族の代表者なのだろう。ずっと黙っていたが、この際、勇者が散々やらかしてきた非道な行為についても私に詫びを入れるべきだ。言及していないだけで許していた訳ではないのだぞ」


 話を聞きに来ただけなのに、魔族と人間の全面戦争になりかねない危ない橋を渡ろうとしているメギドを俺は小声で牽制した。


「メギド、落ち着けって。情報をもらいにきただけなんだから、そんなに怒るなって」

「お前は黙っていろ。これは王同士の話し合いだ」

「そうは言っても……」


 俺が口答えをすると、メギドはすぐさま俺に魔法をかけて口を無理やり閉じさせた。


 もはやそれに抵抗することはしなかった。

 というか、絶対的に抵抗することができない。


「どうした? 謝れないのか?」

「勇者の暴挙は私のせいではない……勝手にやっているやつらのことまで謝罪する筋合いはない」

「下の者の不祥事は上の者の責任だ。私は此度の魔族統治の乱れの責任はとるつもりでいる。貴様は下の者のしでかした不祥事の責任をとれ。まずはつまらない上に時間の無駄な言い訳をやめて、潔く私たちに対して謝れ。話はそれからだ」


 国王は眉間にシワを寄せて相当に怒っているようだった。

 周りにいた勇者たちもその場を緊張した様子で見守っていた。


「………………すまなかった」

「声が小さい。不貞腐れたように謝るな。それが一国の王の謝罪の態度か? おふざけに付き合っているほど私も暇ではないのだ。人類が皆殺しになる瀬戸際なのだからくだらない時間を私にとらせるな」

「黙って聞いていれば……! おい! この無礼者を始末しろ!」


 ついに国王は堪忍袋の緒が切れたようだった。

 顔を真っ赤にして激怒して周りの従者にそう命令するが、誰一人として動ける者はいなかった。


 俺たちを迎え撃った勇者たちはメギドの力量を把握している。

 ここにいる者たちだけでは勝てないと解りきっているし、王直下の者たちはメギドに対して怯えていて矛先が定まらない様子だった。


「早くいけ! 魔王などと言っても70年も沈黙を守ってきた腰抜けの魔王だぞ! 取るに足らな――――」


 バシャン!


 大量の水が国王にかかった。

 メギドがたまに俺にやるように国王に水をぶっかけたのだ。


「口のきき方に気を付けないと、二度と口がきけなくなるぞ」


 俺は慌ててメギドの前に出て咳き込んでいる国王と、唖然としている周りの護衛に対して必死に頭を下げた。


「んー!! んーんんー!! んんんんんん!!! ん! んー!!!」


 口が開かないので言葉にはならないが、一生懸命謝罪する。


「やかましいぞ。お前は引っ込んでいろ」

「んーーー!! んーんー!!!!!」

「……………」

「んんんーー!! んーんん……ん!!!」

「誰か、殺虫剤を持っていないか? 虫がうるさい。セミよりもうるさい虫は初めてだ」

「んー!!!」


 メギドは諦めたように俺の口にかけていた魔法を解いた。


「殺虫剤をかけようとするな!」

「そんなことが言いたかったのか? 場をわきまえろ。まったく虫というのは場をわきまえなくて困る。私が食事中でも平気で目の前を飛び回るからな」

「違うわ! 俺が言いたいのは、争いに来たわけじゃないんだからやめろってことだよ! メギドも国王様も一回落ち着いて“話し合い”をしようぜ? な? 目的は同じなんだから――――」

「同じではない。私は私の崇高な目的がある。あんな者と私を同列に考えるな」

「人類をゴルゴタから守りたいって目的は一緒だろ!? 喧嘩しに来たわけじゃないんだからさ……国王への文句は事が片付いたらそれから話し合えばいい。目下の目的は人喰いアギエラの復活の阻止と魔族の再統治だろ? こんなことしている間にもゴルゴタはアギエラを復活させるかもしれないんだ。国王側も解ってくれよ」


 俺の必死の説得によって、メギドも国王も一時的に矛を収めてくれた。


 プライドの高い人同士(メギドは人じゃないけど)が喧嘩になると収まりがつかなくなってしまうものだと思う。


 そもそも人間と魔族で感覚の違いもあるし、考え方ももちろん違う。

 が……俺はメギドの方が正論を言っているように聞こえた。


「俺も、勇者の暴挙を放っておく国王には言いたいことがたくさんある。俺だけじゃない。他のやつらも沢山言いたいことがある。でも、今は協力しよう」

「我々はゴルゴタと戦うために魔道具が必要なのです。国王様が魔道具をお持ちでしたら私共にお貸しいただきたい。必ずや暴挙を続けるゴルゴタを撃ち取って見せます」


 佐藤と俺が国王に向けて頭を下げると怒り心頭だった国王は沈黙して、渋々と言った様子で返答をした。


「…………魔道具はある」

「本当か! 貸してくれ!」

「だが、魔道具は手放したくない。あれは私のコレクションだ! 苦労して集めさせたものだ。壊されたら困る」

「は?」


 あまりにも身勝手な理由に俺たちは絶句する。


 その場にいた勇者たちも同じ気持ちのはずだ。

 本心でこの王に仕えているようには思えない。

 周りを見渡すと凍り付いたような顔をしている家臣もいた。


「人類が滅びようという時に自分の物欲が優先するとは恐れ入ったな。自分勝手にもほどがある」

「私が集めたものだ。どれほど苦労したか……魔道具はもう製造されていない貴重なものだ。誰が作ったかもわからない貴重な物なんだ。お前らにその価値は分からないだろう!」

「…………」


 呆れて言葉もない。


 本当に国王は人類の未来のことなんてどうでもいいようだった。


 コレクションがどうとか、人類が滅びることになったら自分もその1つになるということも分からないらしい。


 あるいは、俺たちに渡しても不確実だから自分だけはいざというとき魔道具を使って助かりたいということだろうか。


 だとしたら本当にクズだ。


「使わなかったら持ち腐れだろう。どうせ貴様には使いこなせないものだ」

「希少価値がある。高値で取引されている。持ち逃げされても困る」

「そんな姑息なことをするわけないだろう。魔道具など、本来私は必要ないものだ。私はいらぬ」

「ならお前たちの力だけであのイカれた男をなんとかしろ!」

「何の力もない者が偉そうに言うな。貴様がなんとかしようとは思わないのか。まったく嘆かわしいな。家来ども! こんなものが王でいいのか! 人族を衰退させる原因をのさばらせたままでいいのか!」

「うるさい! 黙れ!」


 再び国王とメギドの口論が始まってしまった。

 俺と佐藤が間に入って両者をなだめるが、メギドもこれには一歩も引かない。


「ハッキリ言っておくぞ。いいか。自分勝手が許されるのはこの世で私だけだ。憶えておけ」

「もういい! 出ていけ! 出て行かないと殺すぞ!」

「ほう、誰が殺すというのだ? お前が私に対してかすり傷を負わせることができるのか? 1対1で勝負してもいいぞ」

「私がそんなことするわけないだろう!」

「王たるもの、実力がすべてだ。家臣に頼り切って胡坐をかいているような王は必要ない。そんなものは誰でもできる」

「なんだと……!」


 メギドの挑発に対して、俺は「これは使える」と思って国王とメギドに提案した。


「国王、こういうのはどうでしょう? メギドは目隠しをして、魔法を使わず、国王に攻撃をしないでかわすだけ。3分以内に国王が一撃でもメギドに加えられたら勝ちというのは。これなら圧倒的に国王が有利だし、怪我をすることもない」

「…………」

「……………」


 国王とメギドは黙り込んだ。


「もしかしたらそれなら勝てるかも」と国王は考えているだろう。

 メギドの方は「その程度の条件なら私が負けるわけがない」と考えているに違いない。


「負けたら俺たちは大人しく帰る。国王が持っている魔道具は借りません。ただ、他の魔道具がどこにあるかの情報だけはもらいたい」

「…………いいだろう。それに、私に無礼な態度をとったことを謝ってもらうからな!」

「よかろう。私が勝ったら――――」

「メギド、ちょっと待て」

「なんだ?」


 メギドが言おうとしていることは手に取るように分かった。


「魔道具はもらう」

「謝ってもらう」

「王を降りてもらう」

「その醜い容姿をなんとかしろ」


 辺りのことを言うつもりだろう。


 だが、国王が条件が悪いと勝負を降りてしまうかもしれない。

 小声でメギドに俺は囁いた。


「魔道具を借りさせてもらう程度にしておけ。条件が悪くなったら国王が下りてしまうかもしれ――――」

「私の耳元で囁くな。気持ちが悪い。蚊の鳴く声が不快なのと一緒だ」


 不愉快そうな顔をしながらメギドは俺の方を一瞥する。

 普通に傷ついた。


「俺だって……俺だって男に囁くなんてしたくないのに……!」と憤慨するが、俺は話が進まないのでそこは我慢する。


「私が勝ったら、さっさと魔道具を出してもらうぞ。前述したとおり、私は忙しい」

「……じゃあ、さっそく始めよう。メギド、これで目隠しをしよう」


 俺は持っていた適当な布をメギドに渡した。


「なんだこの何の変哲もない可もなく不可もない布は。私に似合う美しい目隠し布を持ってこい」

「忙しいんだろ!? 見えないものなんだから我慢しろよ!?」

「見えないところにも気を使うのは当然だ。いいから持ってこい」


 いつものメギドの態度に、もう怒る気にもならない。


 ――もう……メギドのワガママに付き合っているうちに人類が滅びるんじゃないか……?


 俺は……いや、俺たちはメギドの気に入るような布を探した。

 魔王一行一同、勇者一行一同、心を一つにして布を探した。


 結局、メギドの目隠し布を探すのに1時間かかった。


「よし、始めよう」


 ようやく目隠しをしたメギドと、国王の1対1の戦いが始まった。




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