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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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休息をとりますか?▼




【魔王城 蓮花の部屋】


 ゴルゴタはメギドが出て行った後、センジュに掴みかかってまだ尋問を続けていた。


「死神の野郎はどこにいやがる……?」


 言いたくなさそうにしているセンジュに対してゴルゴタは容赦なく詰め寄る。

 言いたくなさそうであったが、しかし誤魔化し続けることはできないと判断したセンジュは返事をした。


「……異空間とでも申し上げたらよいのでしょうか……こちらからは物理的な干渉はできない場所でございます」

「でもジジイは干渉できるんだろぉ!? 俺様をそこへ連れて行け!」


 何度目か分からないその命令に、センジュは顔をしかめて返事しかねている様子だった。


 明確な拒否もできず、かといって実際に連れて行くわけにもいかない。


 もし死神との約束を違えれば、自分を取り巻く色々なものが見るも無残な姿にされてしまうと想像に難くないからだ。


「ゴルゴタ様、ゴルゴタ様」


 その様子を見兼ねた蓮花がゴルゴタにできるだけ優しく声をかける。


 気が立っているゴルゴタにあまり声はかけなくなかったが、センジュが相当困っている様子だったので見ていられず声をかけた。


「ンだよ」


 案の定機嫌が悪いゴルゴタは蓮花の方を睨みつけた。


「ゴルゴタ様、落ち着いてください。今はそう一刻争う状況でもありません。ですが死神と相対するということは、そこで命運を分ける一発勝負です。まずは周りの細かい所用から1つずつ潰して行けば、更に三神に近づけるヒントを得られるかもしれません」

「ンな悠長なこと言ってねぇで、ジジイが知ってんだから直接聞けばいいだろうが」

「センジュさんは確かに色々ご存じのようですが、今まで三神について、自分の身の上を話さなかったことには理由があるのでしょう。今はセンジュさんの話を聞いたばかりで混乱しておりますが、私たちの状況が変わった訳ではありません。一度、やるべきことを整理していくのはいかがでしょうか」


 蓮花から冷静な言葉を聞いて、頭に血が上っていたゴルゴタは少しばかり冷静さを取り戻したようだった。


 センジュから手を放し、蓮花のベッドの横に乱暴に座る。


 ガリガリと頭を引っ掻きながらゴルゴタは首を少しだけ傾げた。


「やる事ぉ……?」

「まず目下、処理しなければならないのは地下の勇者らです。私が彼らの体調を診たところ、あまり心身共に良い状態とは言えませんでした。記憶を取り戻して正気を失っている者もいますし、目覚めていない者もいます。元々無理やり延命をされていた身ですし、寿命としても長くはないと思います。復讐をされるのであれば早い方がよろしいかと」

「……ふぅん……ソレ、お前の回復魔法でなんとかならねぇのかよ」


 一先ずはゴルゴタの注意を死神からずらすことに成功し、センジュと蓮花は内心安堵していた。


 特にセンジュの方は蓮花が声をかけなかったら相当危うい状態になっていたことだろう。


「もう随分無理やり延命させられている様でしたね。これ以上負荷をかけると細胞が耐え切れずに崩壊してしまうかもしれません。どんな方法で管理されていたのかは分かりませんが、細胞がなるべく劣化しないように眠らされていたのでしょう。毛髪は老人のように白くなってしまっていますが、内臓や肉体は恐らく当時のままの状態です。衰えの負荷を最小限に抑えていた反動が目覚めてからきていると思われます。恐らく傷の治りなども遅いでしょう。それに、もうとっくに寿命を迎えていてもおかしくない方々です。それに、脳の方の強固にかけられていた記憶封印の魔法を私が解いてしまったので、精神の方にもかなりダメージがあると思われます。ある意味、膨大な記憶を抑えることで脳の劣化を送らせていたのかも――――」

「長ぇ! じゃあ、あいつらは放っておいても近いうちに死んじまうってことかよ!?」

「……端的に言うとそうなりますね。まぁ、そうすぐにという訳ではないでしょうけど。もって数年程度だとは思います」


 それを聞いたゴルゴタは考える。


 三神やセンジュには確かに腹が立っているが、地下の勇者らが勝手に死んでしまったら、ゴルゴタの悲願である復讐を果たせなくなってしまう。


 なら、ここは蓮花の言う通り勇者をさっさと始末してからの方がいいのだろうか。


 しかし、ゴルゴタは蓮花の話を聞いて憎悪や憤怒以外の感情を抱いた。


「恐らく、勇者は神と接点があったと思われます。まだ意識を取り戻さないのですけど」

「…………なぁんかよぉ……その内勝手に死んじまうって聞くと、俺様としては拍子抜けっつーか……俺様が殺してもそうじゃなくても、どうせ生きてるだけで過去の記憶とかに苦しみ続けるんだろぉ……? だったら殺しちまったら助けるみてぇじゃねぇかよ? はぁっ……」


 溜息をついてからバタリ、と蓮花のベッドにゴルゴタは投げやりに倒れ込んだ。


 ――実際、殺してほしいと言っていましたよ……とは言えないけど


 目覚めていない呈でゴルゴタに報告していたので、目が覚めたと知れば色々と揉めることになるだろう。


 だが、死神に無謀にも喧嘩を売りに行くよりはいいと蓮花は判断した。

 怒りの矛先を三神から勇者に一時的に変えたに過ぎない。


 ガリッ……ガリッ……


 ゴルゴタは自分の指の肉を食い千切る。


 また蓮花のベッドが血に濡れていく。


 苛立っているような、やる気が削がれたようなゴルゴタをこのまま落ち着かせようと蓮花はセンジュとゴルゴタの表情を見ながら話を続ける。


「センジュさんは今すぐにでも地下の勇者たちを始末したいんですよね?」

「……はい」

「情報を引き出してからでも遅くないと思います。憎しみも……私は分からなくはないです。ですが、復讐を遂げた私から言わせてもらえれば……もっと生かしておいて苦しめておけば良かったと思います。まぁ……勇者の脅威を考えての事なのでしょうが、不透明な神の情報を得る貴重な存在です。私が制御をかけますので、ご安心ください」


 蓮花がそうセンジュに声をかけても、センジュは納得しているように見えなかった。


 考えていることは分かる。「もし」メギドやゴルゴタに何かあれば……という不安が拭えないのであろう。


 もうすでにメギドには『時繰りのタクト』の使用の後遺症というべき死の花が肩に咲いている状態だ。


 これ以上何かあった際に再度魔道具を使えばメギドの身体はもたなくなる。

 花の解呪ができない以上、メギドに負担を強いることはできないだろう。


「…………兄貴がなんか取りに行ってるけどよ、とりあえずクソ勇者の方を見に行ってなんとか起こしてみるか……目ぇ覚まさせる算段は?」

「自然に起きるのを待った方が良いと思いますが、強引に覚醒させることはできます。ただ、その場合は記憶の保全の保証はありません」

「ちっ……めんどくせぇな…………毛のない猿共をぶち殺しまくれば勇者様が現れて俺様が殺される。それが三神の思い通りってのが気に食わねぇ……で、その三神の情報を持ってるジジイが全然口を割らねぇし、得体も知れねぇって……何もできねぇじゃねぇかよ」


 ベッドに倒れ込んだままぐったりとするゴルゴタに対し、蓮花はできるだけ優しく声をかける。


「ゴルゴタ様はこのところ色々ありましてお疲れのご様子ですので、少しお休みになられてはいかがでしょうか」

「あぁ? 別に疲れてねぇ」

「いいえ。魔族の身体には詳しくないですが、ゴルゴタ様は疲労が溜まっています。『死神の咎』の影響もあってかあまり感じていないようですが、心身共に疲労しています。何か、気分転換になるようなことが必要かと。長年の牢屋生活からの開放で感情が高揚して疲労を感じる感覚が鈍麻している可能性もあります。ここのところ、ずっとご多忙のようでしたから」


 ベッドで横臥するゴルゴタは蓮花に言われてみて、牢から出た後のことを思い返してみた。


 確かに70年も牢屋にいたところからやっと出られたゴルゴタは早速人間を滅ぼす為に動き始めた。


 それからずっとゴルゴタは人間を滅ぼすという目標の為に焦っていた。


 一刻も早く人間を滅ぼしてしまいたいと願う想いが先行し、憎しみと苛立ちばかり感じていた。


 確かに穏やかな気持ちになった覚えはない。


「休息ねぇ……」

「現に先ほどまでゴルゴタ様は三神に激しい怒りを感じておりました。心が休まっている時間がありません。何か、気分転換が必要です。これは、回復魔法士としての助言です」


 そう言われたゴルゴタは暫く天井を見た後、ベッドから身体を起こした。


「つまんねぇ書類の確認は兄貴にやらせて、俺様はストレス発散の休暇でもとるか……魔王様ってのはどうにもやっぱり俺様のガラじゃねぇんだよなぁ……力でねじ伏せるっつーのは簡単なんだけどよ……支配するってのも興味がねぇ」


 ゴルゴタはぐしゃぐしゃと自分の髪を掻きまわしてぐちゃぐちゃになった髪のまま、蓮花の方を見る。


「回復魔法士様の言う通り、ちぃーっと外で遊んで気分転換でもしてくるかぁ……キヒヒヒヒヒ……」

「…………そうですか。私はメギドさんと書類を――――」

「ばーか。てめぇも一緒に来るんだよ」


 言われる覚悟はあったが、まさにそう言われると蓮花はがっくりと肩を落とした。


「ですよねー……」

「まぁ、まだ身体が本調子じゃねぇだろうから、一晩は待っててやるよ。キヒヒ……おいジジイ、てめぇのツラぁ見てるとイラつくから俺様の前から消えてろ。俺様が呼ぶまで俺様の前にツラ見せんじゃねぇぞ……?」

「……かしこまりました。自室で待機しておりますので、有事の際にはお呼びくださいませ。失礼いたします」


 センジュは罪悪感もあり深くゴルゴタに頭を下げ、出て行った。




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