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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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立ち向かいますか?▼




【メギド 魔王城 蓮花の部屋】


 センジュの話を聞いていて、嘘を言っている部分はなかった。


 しかし、その話が嘘ではない事の方に問題がある。


 三神の話は想定していたとはいえ、かなり突拍子もない話だったのでどう反応したものかと私は考えた。


 私は努めて表情を変えずに聞いていたが、ゴルゴタは何とも形容しがたい表情をしていた。

 驚いているというか、呆気に取られているというか、そんな顔をしていた。


 蓮花はいつも通りの無表情で話を聞きながら、手で唇の辺りを触って考え事をしている様子だった。


「魔道具を作った者が誰なのか、何者なのかずっと謎であったが、まさかセンジュであったとはな」


 なんと声をかけたものかと考えていたが、一先ずは分かったことを1つずつ確認し、状況を整理することにした。

 まずは魔道具についてだ。


 史実の記録を見ていても魔道具の出現は突然であり、その出どころはどこなのかは不明確であった。


 それに、使用において絶妙に不便に作られているのは均衡を保とうという魔神の意見であったということを聞いて納得する部分もある。


 そして死神が『時繰りのタクト』に絡んでいる理由も分かった。

 死神の力が介入しているから死の花の解呪を阻害してくるらしい。


「部屋で作ってた機械人形がまさか死神の身体だったなんてなぁ……? どれだけ俺様たちに隠し事して魔王家の執事なんてやってやがんだよ……キヒヒヒヒヒ……」


 笑っていたゴルゴタは笑っている表情とは裏腹に、センジュの身体に思い切り爪を立て身体を引き裂いた。


 当然センジュから血や肉が飛び散ったが、センジュの身体は瞬く間に傷が塞がった。


「『死神の咎』なんか、よくも作りやがったなぁ……そんなもんを俺様に埋め込みやがって……! 死神のいる場所に今すぐ俺様を連れて行きやがれ! 死神をぶっ殺してやるからよぉ!!」


 ゴルゴタは死神と接触したことがないからそう言えるのだ。


 この私でさえ振り返るだけの動作にどれだけの重圧を感じたことか。

 それに、死神の身体として使っている魔機械族らしい身体を破壊したとしても、死神という概念の塊のようなものを殺すことができるとは思えない。


「ゴルゴタ落ち着け。アレはそう簡単に殺せるモノではない」

「三神の掌の上ってのが気に入らねぇんだよ!」


 センジュの長い話で忘れそうになっていたが、呪われた町から有益になるか定かではないが資料をとってきたところだ。


 琉鬼は私からの指示がなく狼狽しているかもしれないが、その中に神をも捕縛する禁術の手掛かりがあるやもしれない。


 私と蓮花、センジュで解読にあたればそれも望みの薄いことでもないだろう。


「ちょうど呪われた町で死神を捕縛しようとしたとかいう狂人の作ったと思しき資料を持ってきたところだ。出たところ勝負で三神に太刀打ちできるとは思えない。まずは対策を練ろうではないか」

「あぁん……?」

「………………」


 私の発言に蓮花は相当に渋い表情をしていた。


 一度は呪われた町に入って研究していた蓮花のことだ、その断片を知っていても不思議はない。


「神を捕縛だぁ? ンな無謀なコト、誰がしようってんだよ……」

「死神を殺すなどと言っているお前の方が非現実的に思うがな」

「はっ、俺様はさっきのジジイの話を聞く限りじゃ死神をぶっ潰す為に作られた魔道具が身体に入ってんだぜぇ……? 俺様なら死神殺しができるってこったろ……? キヒヒヒヒヒ……」


 ガリガリと自分の首の辺りを鋭い爪でゴルゴタは何度も引っ掻き、傷を作ってはその血まみれになった手の血を舐めとっていた。


 その癖を見るに、ゴルゴタなりに冷静になろうとしているらしい。


「いくら死神に対抗するべく作られた『死神の咎』や『時繰りのタクト』があったとしても、無謀だ。それに、私が遭遇した死神はセンジュの言うように魔機械族の身体はなく実体がなかった。実体のない者をどうやって殺すというのだ」

「実体がない……ねぇ……実体がねぇもんをどうやって捕縛するってんだよ?」

「それは研究資料を見ない事には私にも分からない。少し待っていろ。その研究用紙を運ばせる」


 私とゴルゴタが会話する中、センジュは終始険しい表情をしていた。

 そして、私とゴルゴタの会話に割って入る。


「お坊ちゃま方、お話し中失礼いたしますが……三神に関わってはなりません。いくらお坊ちゃま方がお強いからとはいえ、神々はよもや全ての次元が違うのです」


 それは、センジュの見せる初めての表情だった。


 センジュは怯えている様子だった。


 私も死神の気配を感じた際には絶対的な力の差を感じた。

 しかし、創造物が創造主を超えることはある。


 子供が親を超えていくように、超えていかなければならないのだ。


「ヒャハハハハッ! ジジイ、ビビってんのかよぉ……らしくもねぇな」

「私も同意見だ」


 珍しく私とゴルゴタの意見が一致したのを見ても、やはりセンジュは苦虫を嚙み潰したような表情で目をそらして話をする。


「神々に歯向かった者たちは呪われた町の通りでございます。またもや三神を捕縛しようなどとしたら、お坊ちゃま方もただでは済みません」

「私も次元が違うことは分かっている。しかし、何の意図があってかは分からないが、人間と魔族を争わせる火種を作ろうなどという輩をいつまでも野放しにしておく訳にはいかないだろう」

「……しかし……そういったように作られているのですよ……わたくしたちが庭で花を育てるがごとく、神々はただわたくしたちを観察しているのです……薔薇がわたくしどもを滅ぼせないのと同じくして我々が神々に敵う訳がないのですよ……」


 ――だからこそ気に入らないのだ


 このセンジュをここまで怯えさせるほどの存在が、どれほどのものかくらい私は分かっている。


 しかし、だからこそ私はただ手をこまねいている訳にはいかない。


 幸いと言ってはなんだが『時繰りのタクト』が私の手元にある。

 神の力の宿るこれをうまく使えば、いつまでも私たちが愛でるだけの薔薇ではなく、鋭い棘があることを思い出すだろう。


 私は三神に一矢報いてやりたい。


「センジュ、実にお前らしくない。私の決断は無謀に思うか?」

「……恐れながら、そう存じ上げます」

「私はそうは思わない。幾度となく魔族と人間が戦い続けてきた背景に三神が絡んでいるのなら、それは根本的な問題だ。それを解決しない限りは私たちに安息はない。このままの状態が続いても、埒が明かない」

「キヒャヒャヒャッ……珍しく兄貴と気が合うじゃねぇかよ……俺様もうんざりしてんだ……ぶっ潰さねぇと気が済まねぇんだよ!」


 私たちが強くそう言っても、やはりセンジュは浮かない表情をしていた。


 それに、手も心なしか震えているのが見えた。

 死神と不死の契約をしているセンジュは他にもいろいろと知っているのだろう。


 今まで様々な経験をし、それでも三神を恐れ、ずっと口を閉ざしてきた。


 よもや魔族の中ではセンジュの上に立つ者などいないほどの力を持ちながらも、神々に立ち向かおうとはしなかった。


「……仮に私たちが失敗しても、魔王家の行く末を見守り続けてきたお前にとってはやっと肩の荷が下りるだろう。魔王家の執事を辞め、好きなように生きたらいい。私とゴルゴタで魔王家の血筋は途絶え、お前は解放される」

「…………!」


 別に、魔王家に仕えているからと言って特別報酬がいい訳ではなかったはずだ。


 何不自由なく生活させていたと思っていたが、そうではない。


 センジュにとってはよもや曾祖父のヨハネの言葉がまるで呪いのように絡みついて、魔王家の執事であるということを強いられてきたはずだ。


 私たちが失敗するとは思えないが、私たちが仮に失敗していなくなれば魔王家はなくなり、肩の荷が下りるだろう。


「別にセンジュを咎めたりしない。好きなようにすればいい。私たちも好きなようにさせてもらう。少し待っていろ、回収した書類を持ってこさせる」


 何か言いたげなセンジュを振り切るように私は蓮花の部屋を出た。


 このままいけばどの程度の猶予があるか分からないが、戦争になってしまうだろう。


 それがサティアがきっかけなのか、あるいは別の要因で始まるのかは分からない。


 しかし、いずれにしても明確な目標が見えた今はその目標に突き進んでいくだけだ。


 ――まぁ、他にすることも山ほどあるが……地下牢の勇者らから神の情報が聞ければいいが、それも希望的観測だ


 私は随分待たせている琉鬼の元へと歩いて向かった。




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