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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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センジュの過去を聞きますか?▼(1)




【センジュ 6歳】


 俺は戦争孤児ってやつだった。


 人間と魔族の戦争で、俺の親は人間に殺されたらしい。

 死体はなかった。


 ただ、戦争が終わってもずっと帰ってこない親が、状況的に死んだことくらいはガキの俺でも理解できた。


 親が死んだ実感もわかないまま、数日は元の家に住んでいたものの、食料はすぐに底を尽きた。


 俺は家を出た。


 帰る場所もなく、森の中や多種多様の魔族の避難所で空腹を満たす為、食べられそうなものを漁る日々。


 ろくな食べ物は見つけられなかった。


 戦争の後は食料の流通も少なく、死にそうな者や役に立たなそうな者には食料をろくに支給されなかった。


 それでも、俺はその日その日を乗り切るため、食べられそうなものを何とか見つけては食べていた。


 時には腐ったものや毒のあるものを食べてしまい食あたりを起こしていたが、そうでもしなければ空腹で動けなくなってしまいそうだった。


 結局、戦争は理由も分からない内に終わった。


 後から聞いた話だが魔王の世襲制というものが始まったらしい。

 今度の魔王は悪魔族のヨハネという者だということが魔族の間で話され始めた。


 人間と魔族という大きい戦争の裏で、天使と悪魔の間でも戦争は起きていたが、結局この世の支配者は人間でも天使でもなく、悪魔族になったようだ。


 ボロボロの布をまとっただけのみすぼらしい身なりで、寒さもろくに凌げない中、少しでも魔族復興の役に立つために俺は働き始めた。


 というよりも、働かなければろくな食事ができずに飢えて死ぬ。


 そこら中にいる俺と同じ戦争孤児は、役に立てなければその辺に打ち捨てられていた。


 打ち捨てられれば当然、誰にも救ってもらえずに死ぬことになる。


 子供だけじゃない、役に立たない老いた者も容赦なく打ち捨てられていた。


 その死肉を食べる者もいた。

 まるでそこは地獄のようだった。


 中には打ち捨てられた者が死ぬまで待ち、死んだと見るや否や食べ始めるという方法で生き残っている者さえいた。


 それでも、そいつらが生きている者を襲うことはなかった。

 生きている者に手をかければ害悪としてそいつが淘汰されることになるからだ。


 その最低限の法だけは守られていたように思う。


 でも、それ以外は尊厳もなにもあったもんじゃない。

 食うか食われるかとはまさにこのことだ。


 今や、俺には魔族復興の支援をする手伝いをする以外に、真っ当に生きる道はなくなっていた。


 俺は子供ながらに手先が器用で、武器や小物、防具といった細工品を作る役割を与えられていた。


 自分の存在意義はそれしかない。


 それに、何か作っているときは楽しかった。

 こんな苦境の状況でも、俺はそのときだけはこの世の地獄を忘れられたんだ。


 そんな生活が1年くらい続いた頃、現魔王のヨハネが俺のいる町に来たらしい。


 何でも、種族の雑多に暮らしている現状の魔族は、種族事に分けられて最適な地へと移動する為の指示を出しに来たという。


 確かに雑多な種族が入り乱れていると、混乱が多かった。


 弱い魔族は当然のように強い魔族に虐げられていたし、混血の子供は奇形になることも多く、それも問題視されていた。


 とはいえ、俺は露店で自分の作った雑多なものを売るという仕事があったため、現魔王を見に行くこともできずに、ただ店番をしていた。


 現魔王について周る様に移動してきた取り巻きの魔族が俺の店にやってきて、物珍しそうに見て色々買って行ってくれたから商売は上々だった。


「これ、誰が作ったんだ?」


 客の悪魔族の奴が俺にそう言って来た。


「俺が作ったんだ。手先は器用な方でね。こっちは俺の特性の武器だ。こっちも買ってくれるならまけとくよ」


 俺は自作の武器を悪魔族の奴に見せた。


 それは普段は短い刃だが、思い切り振ると刀身が延びて長い剣になるカラクリの武器だった。


「へぇ、珍しいもん売ってんじゃん。じゃあこっちのとそれ売ってくれ」

「まいどあり」

「こっちのは何だ?」


 この悪魔族の奴はお目が高い。その小刀こがたなに目をつけるとは。


「これは売り物じゃないんだけど、魔力を注ぐと何でも切れるようになる俺の最高傑作の小刀だ」

「何でも? そりゃすげぇな」

「でも、失敗作さ。使う魔力が半端ないんだ。一振りするだけで精一杯。それに、魔力量によっては全然切れないしさ」

「ふぅん? そっか。まぁ、魔王様が暫くここにいるらしいから、また買いに来るぜ。いい品また揃えておいてくれよな」

「あぁ、任せとけ」


 そんな感じで俺は商いを続けた。


 もう日も暮れてきて、俺は店を閉めようと片づけをしていたところ、やけに立派な服を着た、身なりの良い1人の悪魔族の男が俺の店の前に来た。


 金色の綺麗な長い髪を、綺麗な糸で丁寧にまとめている。

 まだ若い風貌だったが、これは上客だと俺はすぐに判断する。


「わりぃなお客さん、丁度閉めようと思ってたんだ。でも、何か買ってくれるならもう一回商品を出すよ」

「そうか……すまないな。手間をかけさせて」


 身分も高そうなのにやけに腰の低い悪魔族だと俺は思った。


 再び商品を店に並べ始めると、その悪魔族の男は俺の作った武器や小物をひとつひとつ丁寧に手に取って眺めていた。


 そして、俺が別の悪魔族に「失敗作だ」と言った小刀を手に取って、その鞘を抜いた。


「それは売り物じゃないんだ。失敗作でね」

「そうかい? とても見事な腕前だ……これは君が作ったのかい?」

「そうだ。俺が作った」

「どうやって使うのかな?」

「魔力を刀身に注いで切るだけだ。説明は簡単なんだけどね、それが使いこなせる使い手がいなくて――――」


 ザンッ……!


 後ろにあった木々の数十本がギシギシと音を立ててズゥウン……と倒れた。


 小刀の到達する範囲を遥かに凌駕する距離の木々がなぎ倒されていた。

 それを見て、とんでもない魔力量を持っていることが分かる。


「なっ……」

「ほう、確かに簡単だ。それに切れ味も素晴らしい」


 カシャン……と、小刀を鞘に戻して悪魔族の男は俺の前に戻ってきた。


「勝手に使って悪かったね。ところで坊や、ここに住んでいるのかい?」

「あ……あぁ……まぁな」

「そうか。ここの暮らしはどうだい? 気に入っているかい?」

「………………」


 そんなの、気に入っている訳がなかった。


 毎日、食うか食われるかの生活。少しでも役に立たなければ、俺は誰にも助けてもらえずに死ぬ。

 死んだら『死体喰い』に食われるだけだ。

 親もいない、兄弟もいない。


 俺は独りだ。


 まだ7歳のガキでも、生きていくには仕事をするしかなかった。


 できる者から技術を盗み、自分なりに工夫を凝らしてそれを形にする。


 休む暇もなく働かなければ生きてすらいられない。


 泣いたって誰も助けてくれない。

 泣いてるガキは「うるさいから」って暴力で黙らせられる。


 もう唯一愛情をくれた父と母の顔すら俺は朧気にしか思い出せなくなっていた。


 こんな町、こんな生活、気に入っている訳がないんだ。


「いや……別に……親も死んじまったし……ここじゃなくてもどこに行っても同じだ……」

「そうかね。なら、どうだろう? 私のところで働かないかい?」

「は……? あんた、誰だよ」


 身なりがいいのは分かるが、どこの何なのか分からない奴のところで働くなんて冗談じゃない。


 前そうやって俺に言って来た奴のところで働いたら、殴られたり蹴られたり、飯もろくに食わせてもらえなくて酷い目に遭ったことがある。


「すまない、名乗るのを忘れていた」


 胸に手を当て、俺に対して丁寧に頭を下げた。


「私はヨハネという者だ」

「ヨハネって……現魔王の……?」

「そうだよ。魔王家での仕事はそれほど悪いものじゃないと思うけど、特別ここに思い入れがないなら、どうかな?」


 その上等な服を着た悪魔族の男は、現魔王のヨハネだった。

 ヨハネとの出会いが、俺のその後を大きく変えることとなった。




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