洗い浚い話してください。▼
【メギド 魔王城 蓮花の部屋】
蓮花は解熱剤が効いてきたようで、顔色は随分良くなった。
それを見てゴルゴタは、ぐしゃぐしゃと蓮花の頭を乱暴に撫でる。
力加減の分からない乱暴さだったので、下手をしたら首がガクンガクンとなっている拍子に骨が折れてしまいそうだった。
だが、蓮花がゴルゴタの手の動きに合わせてバレない程度に頭を動かしているようで、首が折れるのは回避されていた。
私はそんなゴルゴタと器用な蓮花の様子よりも、静かに立っているセンジュの方に気を配る。
――この期に及んでセンジュも何も言わないということはあるまい
この場には死神と接触していないゴルゴタもいるが、もうこれ以上話を引き延ばしにしても仕方ない。
先ほどの件もあるし、私はセンジュに死神のことを切り出すことにした。
仮に話すことを禁ずるようなら、また死神が直々に出てくるだろう。
死神が出てくるのならそれならそれで好都合だ。
まだ聞きたいことが山のようにある。
「死神から、お前に『時繰りのタクト』のことを聞けと言われたぞ」
それを聞いたゴルゴタは驚いた様子で蓮花から視線を私の方へと移した。
ゴルゴタが蓮花から視線を外した後、蓮花は私の方を睨む。
「余計なことを言うな」という牽制だろう。
私も話がややこしくなるのは避けたいので、それには同意する。
「死神の野郎に会ったのか!?」
予想通りの反応だ。
「野郎」と表現するのは適性ではないと言いたいが、ここで余計なことを言ってはいけない。
話が脱線して行ってしまう。
「あぁ、会ったというか……声を聞いた程度だがな」
蓮花のことは伏せて話をすることにしたが、蓮花を引き合いに出さなければこの話は成立しない。
だから、あくまで私単体が死神からの接触を受けた呈で話さなければならない。
幸いにも、呪われた町に行ったことは事実。
そこで接触したことにすれば話の筋も通しやすい。
「呪われた町に行ったのだが、そこで死者蘇生魔法の研究資料らしきものを見つけてな。そこで死神様がわざわざ私に忠告しに来たのだ」
死神があの町に干渉したのは事実。
それほど的外れなことでもないだろう。
センジュは「そのような危険なことを……」と私の方を向いて頭を抱える仕草をする。
「ジジイに兄貴……俺様に黙って随分ご機嫌なことやってるみてぇじゃねぇかよ……洗い浚い吐きやがれ。特にジジイ、この期に及んでだんまり決めこみやがったら容赦しねぇからなぁ!」
仮に「容赦しない」と言っても、センジュが本気で逃げに徹すればゴルゴタからの攻撃が当たるわけがない。
だが、ゴルゴタの叱責をかわすようなことがあれば、現魔王家の執事としての尊厳は失われる。
だから先ほど、ゴルゴタの攻撃を避けずに受けたのだろう。
信用できない執事は、よもや執事とは呼べないものだからだ。
センジュは魔王家の専属の執事。
センジュを執事と認めるかどうかも私とゴルゴタが決める。
ここでただの不死の鬼となるか、魔王家の執事であり続けるかは、これからセンジュが話すこと次第で決まるということをセンジュ自身も分かっているだろう。
「そうでございますね……話せば長くなります。それに、このことを口にするのは危険です。わたくしも、お坊ちゃま方も、蓮花様も、全員に危険が及ぶことになるでしょう。そのお覚悟はありますか?」
「けっ……元々俺様たちは戦争の瀬戸際まで来てるんだぜぇ? 今更そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろうが」
「いえ……そういう次元での危険ではないのです……一応……“許可”はとってまいりましたが……」
――許可……?
センジュは「心当たりがある」と言って出て行った。その心当たりの行き先は……死神の居場所なのか。
この世のどこにいるとも知れないソレのいる場所が分かるのならその話も聞きたいところだ。
だが、センジュとしても疎らに私たちの質問に対して話すよりはまとめて話した方が話しもまとまりやすいだろうと考え、私は自分の疑問を飲み込む。
「覚悟はできている。話せ」
「俺様もそんなもんはとっくにできてんだよ」
「私も困るようなことはありません」
私たちがそう返事をすると、センジュはやはりまだ話したくなさそうにしていたが、覚悟を決めて話し始める。
「かしこまりました。全てのことに、今お答えいたしましょう。魔王家執事として全てお話いたします」
センジュは話し始めようと呼吸を整えた。
覚悟は決まったようだが、どこまで話をするつもりなのだろうか。
――サティアのことも話すつもりか?
サティアのことを話すことになれば、当然蓮花のことも話すことになる。
そして戦争に至る本当の経緯も。
そうすれば蓮花を巻き込んだことについてゴルゴタからのセンジュへの咎めは免れない。
そして、サティアが元通りになる未来もなくなるだろう。
ゴルゴタが蓮花が犠牲になるその選択を良しとするはずがない。
だが、それを話さずこの場を有耶無耶にしようとすれば、ゴルゴタを騙し続けることになり、断片的に知っている私からの信頼を失うことになる。
この期に何かを及んで隠し立てするようなら、もうその不信感はぬぐえないものになるだろう。
もう「話さない」という選択肢はセンジュにはないのだ。
「もう、かなり遠い昔の話になりますが……――――」
センジュは自身の過去について、私たちが疑問に思っていることへの回答を話し始めた。