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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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イベリスの回想を聞きますか?▼(1)




【イベリス 回想】


 私はただ、魔法を極めたいという理由で魔法使いになったわけではない。

 それを強いられていたから魔法使いになったのだ。


 私が生まれた頃、当時から遡る事60年前は魔王アッシュの圧政に人々は苦しんでいた。


 そんな中、私は生まれ、魔族の奴隷として生きることが当然だった。


 僅かな自由もなかった。


 人間はただ食料として生産され、殆どが若いうちに食べられる。


 その中でも生産する側の人間として選ばれたら生き延びることができた。

 私は生産する側の人間として魔族の圧政の中生き残り、そして生まれながらに知能指数が他より高いということが分かると、私は道具のように魔法研究に使われた。


 魔族の知能と勝るとも劣らない私は、ただ毎日魔法研究をしていただけだ。


 生産的な研究結果を出せなければ殴られたり、容赦なく攻撃魔法が飛んでくる。


 毎日がただ地獄のようだった。


 何度も自害を考えたが、私にそんな勇気は私にはなかった。


 そんな中、急に魔王アッシュの圧政はくつがえされた。


 正直、驚いたというよりも呆気にとられた。

 魔王アッシュが人間の手によって殺されたというのだ。


 それは特別名前があった訳ではない。


 だが、その魔王アッシュを倒した者は「勇ましい者」という意味で皆は「勇者」と呼ぶようになった。


 私は疑問だった。


 人間を奴隷にし、圧倒的な力で悪魔族も、悪魔族以外の魔族も抑えつけていたはずだ。

 それが人間ごときに遅れをとるのかと。


 だが、その勇者は讃えられ、慕われ、幸せの象徴として人々から尊敬されていた。


 人々は疑問を持ちながらも魔王アッシュの圧政から逃れ、歓喜に震えていた。

 その勇者がどのように存在したのかなど、些細な疑問として人々の記憶から消えて行った。


 魔王アッシュが死んだのは、私が20歳そこそこの時だった。


 そこから暫く、人間は権利を取り戻し、魔族も人間に干渉するのを辞めた。

 互いに冷戦状態であったと思う。


 魔王アッシュが討たれた後には、アッシュの娘だというクロザリルが即位したらしいが、物々しい動きはなかった。


 そこから、30年ほどは人々は戸惑いながらも、自分たちの生活をそれぞれ始めていた。


 魔族から得た知識が役に立ち、人間も狩猟をしたり、家畜を飼ったり、食べられる植物を育てたり、採ったり、そんな生活をなんとか続けていた。


 とはいえ、人間社会での私の立場はけして良いものではなかった。


 私は圧政時に魔族から他の人間よりはいい待遇を与えられていた。

 それが理由で私は迫害を受けたのだ。


 ただ、唯一の救いだったのが魔法が達者であったということだ。


 何をするにも魔法を使い、生活は苦しかったが1人で生活を続けていた。


 魔法は便利だ。

 水を生成したり、火を起こすにも魔法で事足りる。

 植物の成長もコントロールできるし、土をたがやすのも魔法で簡単にできる。


 私は迫害を受けていたが、その魔法にすがって来る者もいた。


 私は、教えを乞う者に対しては魔法についての弁をふるった。


 だが、やはり知能指数の違いからか断念する者も多かった。

 去る者は追わなかった。


 それでも私は構わなかった。


 信じられる者など、誰もいなくても、私は構わなかった。


 私が信じていたのは、まだ天使と悪魔が戦争をしていた頃に魔法を広めた偉大なる魔法使いベレトカーン。


 人間に魔法を伝えたのは彼だと言われている。


 だが、人間は家畜化され、人間の殆どが魔法を失っていた。

 人間が魔法を使うことを魔王アッシュは禁じたのだ。


 私は特例で研究者として許されていたにすぎない。


 ベレトカーンの作った魔法式は特別な石板に刻み込まれ、一時は魔王アッシュによってすべて回収され、人間の手に渡ることはなかった。


 だが、私にはそれが開示されていた。

 だから私は魔法を手に入れることができたのだ。


 私は魔法の研究を続けた。

 それ以外の生き方は分からなかった。


 私は生まれてから死ぬまで、風邪が吹けば吹き飛びそうな古ぼけた家にいるものだと思っていた。


 自由を与えられても、それをどう扱っていいのか分からなかった。


 そんな生活が続き、魔王アッシュの圧政から解放後、もう私は人間の平均寿命をはるかに超える50歳になっていた。


 ある日、1つの町が滅ぼされた。


 どうやら魔王クロザリルが滅ぼしたとのことだった。


 暫くは平穏が続いていただけに、その話は人間たち全てに戦慄を与えただろう。


 特に、魔王アッシュの圧政時代の生き残りの者たちは特に恐怖を感じていたように思う。


 そして、間もなくして人々の嫌な予感は的中した。


 今度は魔王クロザリルの圧政が始まったのだ。


 何故それが始まったのかは分からなかった。


 ずっと大人しくしていた魔王クロザリルが何故町を滅ぼしたのか、分からない。


 魔王クロザリルは再び人間を魔族の奴隷と化させた。魔王アッシュのときよりは幾分かマシであったが、再び人間が権利を失ったのは間違いない。


 私は再び奴隷化させられるのは嫌だったし、身を潜める魔法も知っていた。

 それを駆使し、私は魔族から身を隠し、ありったけの知識を詰め込んだ本を持って隠れ住んだ。


 私は魔王城から遠い位置にあるシータの町付近に逃げた。シータの町は格闘技が盛んで、魔族相手にも引けを取らない強さで町を守っているとか。


 そんな風の噂を聞いてタトゥーが盛んだというリーン族の元へと向かった。


 そこで■■■と出会った。


 明るく、溌溂はつらつとした少年で、はぐれ者の私にいつも気さくに声をかけてくれた。


 とはいえ、リーン族は全員解放的な性格で、どこの何とも分からないよそ者の私にも優しくしてくれた。


 私も魔族が来たら魔法を使って追い払ったりすることでシータの町を守っていた。


 ■■■はよく喋る少年だった。

 私は口数も少ない方だったが、■■■と話すうちに徐々に多弁になるようになった。


 ■■■は私の魔法を目当てで近づいてきた訳じゃないことはすぐに分かった。


 ■■■は魔法を覚えられる程頭が良くなかった。

 それに、魔法に興味もなさそうだった。


 そんな■■■を見て、私は時折笑顔を見せるようにもなった。


 だが、そんな生活も長く続くわけもなく、数年経った頃に上位魔族がこぞってシータの町に来たときはほぼ全員捕らえられた。


 私が魔法で匿うことができる範囲でしか守ることはできなかった。


 その中に■■■はいたが、家族同然の同族を魔族に、まるで物を扱うように奪い取られて行ったのだから。


 私は止めたが、■■■は「魔王を倒す」と言った。

 確かに■■■はリーン族の中でも屈指の戦士だったが、それだけでは魔王に勝てるとは思えなかった。


 だから私は止めた。


 だが、■■■は私にこう言った。


「▲▲▲も一緒に魔王をぶっ飛ばしに行こうぜ」


 魔法を使うしか能のない私に、■■■はそう言ってくれた。


 確かに私は魔法が使えたがそれでも十分ではないとなんとか■■■を説得し、まだ耐える時期だと教えた。


 少年は悔しさを滲ませながらも耐えた。

 そして、今よりも強くなろうと特訓を重ねた。


 私も戦闘向きの魔法を研究し、開発した。


 そして、数年が経過した。


 ますます魔王クロザリルの圧政により苦しむ人が増えていることは確かだ。


 だが、闇雲に衝突しても勝てる相手ではないことは頭では理解している。


 私は私たちだけで魔王に挑んでも勝てる見込みはないと、「勇者」を探す必要があると考えた。


 何がどうして魔王アッシュを打倒した勇者が現れたのか調べたが、魔族の圧政の中それを調べるのは困難であった。


 だが、それが「はじまりの村」の出身者だということはかろうじて分かった。


 あの村はほぼ発展途上で何もない村だったと記憶している。

 魔王城から最南端にある外れ者の村だ。


 それ以外にヒントはなかったので、私ははじまりの村を目指し、■■■と一緒に旅に出た。

 私は既にそのときには62歳であり、かなり高齢であったために旅は難航した。


 下位の魔族と何度か出くわしたが、下位の魔族は脅威にならない程度に私たちは強くなっていた。


 はじまりの村につくまでの間、いくつかの町を経由したがいずれも魔族の支配下に置かれており、誰もかれもが奴隷として働かされていた。


 実に痛ましい光景だった。

 昔の自分を思い出して胸が苦しくなる。


 何故、魔王はこんなにも人間を苦しめ、追いやり、簡単に殺すのか分からない。


 だが、そうなっている現実は何も変わらなかった。


 そんな中、魔王城から比較的近いタウの町を訪れた際に、特別優遇されている人間たちがいるのを発見した。


 特に●●●という女性は他の者とは違い、かなり優遇されていた。


 見たこともないような魔法を使っていた。

 それは私の魔法が破壊に特化したものであるのとは対照的に、治す魔法であった。


 回復魔法とでもいうのか、そんな技術は偉大なるベレトカーンの残した魔法学にはなかったはずだ。


 どうやら天使族が熱心に研究していたものと近いものらしい。


 タウの町の者たちは確かに魔法を失ってはいなかった。


 それも、回復魔法という特殊で複雑な魔法を使い、人間や魔族の身体の治癒を行っている。


 魔族の厳重な監視の目を掻い潜り、私は●●●に接触した。


「一緒に魔王を討伐しないか?」


 ●●●は驚いた表情をしたが、物分かりもよく、私たちの提案に乗ってきてくれた。

 ●●●は研究熱心な若者であり、研究肌の私とよく気が合った。


 私が「勇者」の存在を彼女に話すと、●●●は心当たりがあると言っていた。


 最近、南の方から魔族に手の負えない人間1人が、魔族を蹴散らしながら魔王城へと向かっていると魔族が言っていた話を聞いたようだ。


 それが「勇者」かどうかは分からなかったが、その者と接触を試みた。


 恐らく南から来るのであれば一直線上に魔王城へ向かう途中にこのタウの町を経由するはずだと考え、私と■■■は暫く身をひそめることにした。


 それから数日、勇者を待っている私たちの元へ勇者らしい1人の青年の×××が現れた。


 腰に下げている剣を一薙ぎするだけで魔族の魔法は跳ね返り、そして鋭利に魔族の身体を切り裂いていく。


 光を帯びているように見えるその剣をたずさえた×××に接触し、私たちは魔王討伐の考えを告げると、×××は快諾した。


「俺もそう思ってたところだ。仲間は多い方が良い。俺たちで魔王を倒すんだ」


 ×××は私たちとは何かが違っていた。

 だが、×××の仲間になった私たちにも何か不思議な恩恵のようなものを感じた。


 魔法の威力が増大したり、■■■の物理的攻撃力の上昇、●●●の回復魔法の効果増幅など、今考えると不思議なことだ。


 だが、それが何故なのか考えている猶予は全くなく、私たちは突き進んだ。


 タウの町は魔王城へは目と鼻の先であった。一刻も早くこの魔王の圧政から人々を開放しなければならない。


 体力を温存し、万全を期して私たちは魔王城へと乗り込んだ。


 私が遠隔で魔法でサポート、最前線には×××と■■■、怪我をしたら●●●が回復魔法ですぐさま回復。


 まだ会って日も浅いのに完璧な連携を私たちは見せた。


 まるで、運命の4人であるように。


 魔王討伐は苦戦するかと思われた。


 だが、クロザリルは小さな2人の子供を抱き、その子らを逃がすのに注力していたせいもあってか、簡単に背後を取ることができた。


 背中に1撃、×××の剣がひるがえると魔王クロザリルはかなりの深手を負った。


 だが、2人の子供と老いた鬼が抱え、慌てて出て行くと魔王クロザリルは本気で私たちと戦った。


 それほど長い攻防は続かなかった。

 原因はクロザリルの受けた背中の傷が思ったよりも深かったことに起因する。


 少しでも気を緩めればすぐさま死に直結する戦いの中、×××の剣の前に、魔王クロザリルの如何なる魔法も無力であった。


 そして×××の眩い剣先がついに魔王クロザリルの心臓に深々と突き刺さったのを見た。


 魔王クロザリルは魔王の座の前に仰向けで倒れ、そのまま床に縫い付けられた。


 その神々しい光を放つ剣は一瞬にして魔王クロザリルの命を奪ったのだ。


 私たちはついにこの圧政から勝利したのだ。


 ×××がクロザリルの胸に突き刺さった剣を抜こうとしたが、それはもう光を失い、何故か抜くことができなかった。


 だが、そんなことは些細なことだ。


 今目の前にあるのは魔王クロザリルの死の事実。


 それが大陸全土にとどろき渡った頃、私たちは一定数解放された人間たちと合流した。

 圧政に苦しんでいた人々は私たちを崇め、盛大に祝杯があがった。


 魔族は統率力を失い、人間側にも反撃の隙は生まれた。


 だが、1番驚いたのは魔王クロザリルに子供がいた事だ。


 恐らく魔王クロザリルが逃がそうとしたうちの1人だろう。


 その名をメギドという。

 メギドは幼いながらも魔王クロザリルから魔王の座を受け継ぎ、魔族と人間の諍いをなくそうとした。


 人間を襲った魔族に苦痛を与えるように圧力をかけ、こともあろうか母の命を奪った人間を許すという協定を人間の王と交わしていたのだ。


 そこで疑問が残る。


 もう一人の子供は何だったのだろうかと。


 だが、私たちが疑問提起してもそれは些細なこととして扱われた。


 実質、魔王メギドがたった一人で魔族の指揮を取っていたからだ。


 またこの悲劇が繰り返される前に、私たちは子供の魔王の処遇について他の立ち上がった者たち――――勇者連合会と話し合った。


 私たちは、国王の発表と国王の意向を尊重し、魔王メギドの討伐には懐疑的であった。


 それに、このまま魔族と小競り合いを続けていても人間の方が圧倒的に不利だったのもあるし、実際に魔王メギドが魔族に人間を襲わせないよう、全魔族に制したのは明らかであったし、国王も一時は攫われたが和解して無事に帰ってきた。


 以上の事から私たちは魔王メギドを信じる方向へと意見が一致していた。


 だが、それをよしとしない勇者連合会は、私たちに一服毒を盛り、地下施設へ監禁した。


 魔王が再度暴挙を働いた際の保険要因として。




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