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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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呪いの言葉をつぶやいています。▼




【魔王城地下】


 たぎり、あふれ、こぼれる呪いの言葉を紡ぎ続けるウツギはほぼ正気を失っていた。


 地下牢の床が冷たいことすら感じ取れない身体にされているが、記憶が戻った。


 思い出した。


 生まれてから、そしてここに至るまでのほぼ全てを。


 身体全身の感覚がない。

 口もろくに動かない。


 だが、かろうじてか細い声が出すことだけはできる。


 かろうじて声が出せる程度の自由は与えられているわけだ。


 逆に言えばそれ以外の全てを奪われている。


 ここは敵地の真っただ中。

 それも地下牢であり、これから自分たちがどのようにされてもおかしくはない。


 こんなことになったのは、全て勇者連合会のせいだ。


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」


 勇者連合会にされた非道な行いの数々。


 数えればきりがないほどの非道な扱いを受けた。


 ただ、ただ偶然、本当に()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ウツギの頭の中は勇者連合会への復讐でいっぱいで、ただただ呪いの言葉をつむぐことしかできない。


 ぶつぶつと呪いの言葉をつぶやき続けるウツギに対し、メギドはどうするべきか考えた。


 蓮花やゴルゴタを呼んでくるか。


 だが、どうせゴルゴタは拷問することしか考えていない。

 蓮花はゴルゴタの指示に従うだけで情報を聞き出そうとはしないだろう。


 センジュもいない今、情報を聞き出すのは今しかない。


「おい、記憶が戻ったのか?」


 ウツギの耳はかろうじて声は聞こえる。


 声を聞くだけ、かろうじて声を出すだけのことはできる。

 だが、ウツギの頭の中は憎しみでいっぱいで他のことを考えることはできなかった。


 その様子を見て、メギドは情報を聞き出すのはウツギ相手では無理だと感じた。


 他の者も同じ状態であれば情報を聞き出すなど無理な話だろう。


 だが、他の者は他に冷静な者がいるかもしれない。


 蓮花は無理に起こさない方が良いと言っていたが、どうしてもメギドは神の情報を知りたいと考え、アザレアやイベリスの身体を多少乱暴にゆすって起こそうとする。


「起きろ。私はお前たちを悪いようにはしない。今のうちに起きて私の質問に答えれば、これ以上酷い目に遭わせずに取り計らってやる」


 これはメギドの独断だった。


 センジュはアザレア一行を逃がすことには反対し、殺すことを強く押すだろう。


 だが、一方でゴルゴタは自分が気のすむまで拷問をしてから、その拷問の記憶を消して人間たちの元へと送り出すなどと言っていた。


 床に血の絵で描かれた拷問方法は数えきれない程あるが、それを耐えきればここから解放するということもできる。


 メギド自身がアザレアたちを逃がすということもできるが、この状態のアザレア一行を治すことがカノンにできるかどうかは分からない。


 仮に治せたとしても、それでは結局事の顛末てんまつは同じになるだろう。


 人間と魔族の戦争ではなく、人間とアザレア一行の戦争が始まり、人間は急激に減少。


 そして「真の勇者」が現れ、魔族と人間の戦争になるという可能性は十分にある。


 ――結局、ここで殺してしまう他ないのなら、苦しませずに殺そう。私がそうしてもいいが、憎しみを晴らしたいのならセンジュに任せる方がいい。だが、センジュは今魔王城から出ている。どこに行ったのかも分からないし、いつ戻るのかも分からない


 蓮花はアザレア一行の意識が戻ったかどうかと、最低限生命活動ができる程度の現状の維持をするために戻ってくるだろう。


 蓮花だけで戻ってくるのか、ゴルゴタ同伴で戻ってくるのか、あるいはダチュラと共にくるかは分からないが、いずれにしても猶予はそれほど長くない。


「ウツギ、落ち着きなさい……」


 ウツギの次に目を覚ましたのはイベリスだった。


 イベリスは取り乱す風もなく、落ち着いているように見える。

 これなら情報を聞き出せるだろうとイベリスの方へメギドは近づいた。


「お前は正気なのか……?」

「……どうかな。情報量が多すぎるよりも、私も憎しみで気が狂いそうだ……」

「しっかりしろ。私は聞きたいことがあるだけだ」

「それを話せば私たちを開放してくれるのか?」

「……開放したら、お前たちはどうするつもりなのだ?」

「決まっている……アザレアも、ウツギも、エレモフィラも、私も。勇者連合会を潰しに行く……」

「…………」


 比較的まともに会話ができると思ったが、イベリスの目は憎しみの色が濃く、ウツギ同様に冷静でいるようには見えなかった。

 ぎりぎり精神を保っているような、そんな状態であるように見える。


「確約はできないが、最善を尽くすことを誓おう」

「いいのか? 私たちはお前たちの母である魔王を殺した。私たちをそれでも許すと言うのか。到底信じられない。それこそ、情報を渡せば私たちはお前たちに無残に拷問にかけられて殺されるだろう…………まぁ、今となってはもう、どうでもいいことだがな……何もかも手後れだ。私たちはただの玩具おもちゃだ。もう使い捨てられたも同然。これから起こる悲劇など、何の意味もないことだ」


 絶望に満ちたその声に、メギドは早く情報を引き出そうと声をかけ続ける。


 こんなところで自暴自棄になられて情報を得られないのは一番の悪手だ。

 メギドが戦おうとしている得体の知れない三神についての情報をなんとかして得たいところ。


「三神伝説は知っているな? お前たちは神に選ばれ、そして力を手にして母上を手にかけたのか?」

「…………私はただの魔法使いだ。本当に神の祝福を受けたのだとしたら、それはアザレアだろう」

「アザレアとはこの者のことか?」

「可哀想に……アザレアはこの現実を受け止められないだろう。ウツギも、エレモフィラも……私は失うものなどなかった老獪ろうかい、だからまだ正気を保っているが……あまりにも多くを支払いすぎた……」


 駄目だ。


 感傷に浸っていてメギドの言葉を聞いているようでいて聞いていない。

 メギドはアザレアと呼ばれた青年の肩を乱暴に揺らした。


「起きろ。お前が鍵なんだ。何としてでも神の話を吐いてもらうぞ」


 がくんがくんとアザレアの身体を揺らすが、アザレアは一向に起きる気配がない。


「やめておけ……アザレアはもしかしたらこのまま目を覚まさないやもしれない……それだけの絶望が彼にはあるのだよ……」

「知ったことか。私たちに絶望をもたらした存在の根本を根絶しなければ、この問題は堂々巡りだ。お前たちが犠牲になり、そして私の母上も犠牲になった。それはもう変えようのない事実だ。ならば、その先のことを考えねばならない」


 やはりどれだけ外的な刺激を与えようともアザレアは目を覚ますことはなかった。


「ちっ……時間がないと言うのに……お前は何か知らないのか。神について……なんでもいい。どんな些細なことでもいい」

「…………私が知っているだけのことは話そう」


 イベリスは重い口を開いて、かすれたような声を出す。


「その前に、水をくれないか……喉がカラカラで……」


 要望に応えるのは癪だったが、メギドは空中で生成した水をイベリスの口に流し込み、水を与えた。


 それによって少しは気持ちが落ち着いたのか、ひと呼吸おいてから話し始めた。


 アザレアたちとの出会いについて。




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