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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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センジュからサティアの話を聞きますか?▼(2)




【魔王城 99年前】


 徐々にイドールとクロザリルは仲睦まじくなり、いつの間にか行く宛てのないイドールは魔王城に住みついて、毎日飽きもせずクロザリルと熱心に話をしていた。


 暖かい季節も、暑い季節も、涼しい季節も、寒い季節も、いつもクロザリルとイドールは話をする。


 ただの雑談に聞こえる話をしているだけにもかかわらず、少し抜けているところのあるイドールの話は論理的に考えるクロザリルの意外性を突き、非常に楽しませていた。


 その楽しそうなクロザリルの姿を、センジュは見守り続けることに決めた。


 天使族と悪魔族が仲良くしている光景は最初は異様に映ったが、イドールがここへきて1年が過ぎ、すっかりその違和感は消え去った。


 そして、いつからかクロザリルとイドールは結ばれ、子供が生まれた。


 それがサティア。

 クロザリルの最初の子供。


 天使と悪魔の間の子供の翼は、悪魔族の黒い蝙蝠の翼色と、天使族の鳥類の翼の形をしていた。


 どのような子供が生まれるか、クロザリルの妊娠の発覚後に沢山2人は話し合った。


 毎日、生まれてくる子供の話で持ちきりだった。


 翼の形や色、尾の有無はあるが、金髪になることは決まっていた。

 少し緩く癖がついていたらイドールに似た金髪、クロザリルに似れば真っ直ぐな少し硬いストレートな髪になる。


 瞳の色は赤か、青か。


 身長はクロザリルの方が少し高い。


 しかし、どのような容姿で生まれようとも、溢れるほどの愛情を注いで「排除された者」にしないと約束した。


 これ以上の祝福はないほどの愛に包まれ、サティアは無事に生まれた。


 想像していたより、心配していたより、サティアは普通だった。


 もしかしたら奇形児で生まれるかもしれないと、もしかしたら重い障害があるかもしれないという疑念はあった。


 天使と悪魔は忌み嫌い合うさが


 いつの時代も、史実で手を取り合ってる瞬間は1度もない。


 利用し合うことはあっても、本当に手を取り合ったこどなど1度もなかった。


 根本的に、天使と悪魔は互いにどちらが崇高な存在であるか、どちらが魔神に愛された種族か、まるで最初から対立するように作られているかのようにすら感じる程のいさかいがあった。


 最初から憎み合うように作られているのだとしたら、それらの子供など許されるはずがない。


 だから、上手くいかないのではないかという不安はずっとあった。


 だが、その不安を取りさらうようにサティアは普通に生まれた。


 たったそれだけが、2人にとってどれだけ嬉しく思ったことか、2人にしか分からない。


 初めての子育ては難しかった。特に、厳格に育てられたクロザリルとイドールは子供にどう接していいか分からず、戸惑う場面も沢山あった。


 何故、嬰児えいじが泣いているのかは嬰児にしか分からない。


 初めての言葉の通じない相手に、2人は苦戦しながらも、沢山のことをサティアに教えた。


 クロザリルは本を読み聞かせ、イドールは疲れ果てるまでサティアと遊んだ。


 そしてセンジュも、身の回りの世話を完璧にこなした。

 食事の世話も、クロザリルとセンジュで管理して、サティアは健康に順調に育っていった。


 子育てに奮闘する毎日は、あっという間に過ぎて行った。


 退屈そうに庭を見ていたクロザリルの姿はそこにはもうなく、毎日楽しそうにしている優しい母の顔を覗かせていた。


 瞬く間にまだ幼いサティアが歩き出し、色々なところに一人で行ってしまう頃になった。


 翻弄されるセンジュを見ながら、クロザリルとイドールはそれを微笑み合う。


「センジュ、抱っこ!」

「はい、サティアお嬢様」


 センジュがサティアの両脇を持ち、優しく抱き上げるとサティアは艶やかで長い金色の長い髪を揺らしながら喜んだ。


 その眩しい笑顔はまるで太陽のようだった。


「センジュ、旋回!」

「かしこまりました。サティアお嬢様」


 サティアがセンジュに回るように言うと、センジュはゆるやかにその場でサティアを抱き上げたまま回った。


 それが楽しく、サティアは満面の笑みで喜び、喜んでいるサティアを見てセンジュも喜ぶ。


 元気いっぱいで体力のあるサティアと毎日、クロザリル、イドール、センジュは交代で遊んだ。


 特にセンジュは、アッシュがまだ幼い頃から同様に相手をしていた経験もあり、子守りは上手だった。


 その様子を見守りながら、クロザリルはつぶやく。


「ねぇ、イドール、こんなこと言ったら貴方は怒るかも知れないけど、貴方が堕天して良かったと思っているわ。そうでなければ私たち、ただいがみ合う悪魔と天使の関係だったと思うから」


 そう言われたイドールは若干の苦笑いを浮かべながらも、それでも暖かい笑顔でクロザリルに返事をした。


「そうだね。天使と悪魔なんて区別はくだらないと思うよ。翼の色が違うだけで、僕らは同じ命なんだから」

「でも……サティアは心配だわ。私たちが良くても、他があの子を許してくれない。そして、悪魔や天使だけの話ではなく、人間と魔族の問題もある……」

「僕は……今まで自分のことで精いっぱいだったけど、君に会って、話を沢山して、この世は問題だらけなんだって分かったよ。心配だけど、でも、僕らが守って行こう。君と僕なら大丈夫さ」

「そうね。心強いわ。最初の印象は凄く頼りなさそうだったけど、サティアが生まれてから、貴方は変わった」


 その話をすると、イドールは以前より凛々しくなった表情が緩み、出会った頃の少し抜けている笑顔を見せた。


「あはははは……それを言われちゃうとなぁ……あの時の荊の傷が、まだ残ってるんだ。残ってくれていて良かったと思う。この傷を見ると、君に会った奇跡を思い出す。その度にこの上なく幸せで……僕みたいなのが、こんなに幸せで良いのかって考えてしまう程だ」

「ふふふ、貴方がもし普通の天使だったら、好きにはならなかったと思うわ。貴方の言う通りなら、普通の天使は完璧主義で物凄く退屈だもの」


 その後も、サティアはクロザリルとイドール、センジュに見守られ順調に成長していった。




 ***




 クロザリルは、今まで色あせて見えていた世界が、こんなにも色鮮やかに見えるなんて信じられないという気持ちでいっぱいだった。


 永遠にそれが続けばいいと誰しも思っていた。


 しかし、幸せな時間は長くは続かない。

 まるで、最初からそう決まっているかのように。


 ある日、サティアが魔王城の外に出てしまった。

 親の目を巧妙に盗み、初めて魔王城敷地内から出た。


「外はサティアにはまだ危険なの。だから外に行っては駄目よ」


 母のその言葉を何度も聞いていたのに、それでもサティアの外の世界への憧れは日に日に大きくなっていくばかりだったからだ。


 サティアは幼いながらに母親譲りで頭が良かった。


 センジュにすら悟られず、魔王城から脱出した程だ。


 だが、いくら頭が良くても、全く知らない事は理解することはできない。


 サティアはまだ未成熟な翼で懸命に羽ばたき、近くの光の灯る町へと向かった。


 そこは、人間の住む町だった。

 人間の住む町に入ったとき、いつも優しい目を向けてくれる母らとは違う目を向けられていることに気づいた。


 だが、それが何なのかは分からなかった。


 それが分からないままが一番幸せだったと言えば、そうかもしれない。


 この世の得体の知れない悪意を知らないままであったのは、幸いだったのかもしれない。


 サティアは、突然人間の町に入った魔族として畏怖いふされ、憎悪され、貯まった鬱憤の矛先が向けられ


 いとも簡単に殺された。




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