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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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センジュが道を阻んでいます。▼




【メギド 蓮花の部屋の前】


 再び蓮花の部屋の前のセンジュの前に戻ってきた。


 相変わらずセンジュは微動だにせず、警戒態勢をとったまま立っている。

 立っているだけであるのにこれほどまでに相手を圧倒する者もいないだろう。


 特に、殺気立っているセンジュはかなり威圧感があり、近寄りがたい。


 1人で戻った私に対して、センジュは首を少し傾げながら問う。


「ダチュラはどうされたのですか?」

「私が考え事をしている間、書庫で眠ってしまったので置いてきた」


 それを聞いたセンジュは心なしか笑顔を見せる。


「ふふ……そうでございますか。これがゴルゴタお坊ちゃまに伝われば相当にお怒りになられるでしょうね。今度こそは命がないやもしれません」


 私が周囲を見渡して誰もいないことを確認しながらセンジュに話しかけようとすると、センジュは先に私に話しかけてきた。


「メギドお坊ちゃま、1つよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「蓮花様の行動でメギドお坊ちゃまが不思議に思われていることもあるかと思いますが、わたくしから蓮花様に1つお願いをしていることがございます。ですので、少しの疑問は目をつむっていただけないでしょうか」


 頭を深く下げながら、センジュは私にそう懇願してくる。

 私にそれが何か知らせずに黙って見ていろということ。


 ――センジュが誰かに頼むこと自体珍しいと感じるが、それを蓮花にとなると、何かは分からないが回復魔法士にしかできない何かなのだろうな……


「何? センジュが蓮花にか?」

「はい……それが何かは今は申し上げられませんが」

「私に話せないことがあるのか?」


 センジュは隠し事が多いが、それでも今回の事はそう簡単に「分かった」と言う訳にはいかない。

 だが、センジュは頑なに口を閉ざし、それを言おうとはしない。


「……はい、申し上げられません。一生誰にも言わずに黙っていようと思っていた事なのですが、蓮花様のあの御業みわざ……それでなければ成し遂げられないのです」

「あの女の魔性に惑わされているだけということはあるまいな?」


 ――まさか、センジュまで脳を弄られているのでは……? いや、センジュほどの手練れが気づかぬうちに施術を施すなど不可能だ


 だが、カノンから始まり、ゴルゴタといい、ダチュラといい、このセンジュまでもが心を動かされている。


 私はろくに話したことはないが、それほどまでに心を動かすのが得意なのだろうか。

 特級咎人の烙印らくいんもある中、確実に相手の心を動かす技術があるのは不思議だ。


 あの不愛想な蓮花が、どうして相手の心を動かすのか私には理解できない。


 怪訝けげんな表情で見つめる私に対し、センジュは申し訳なさそうに返事を返す。


「メギドお坊ちゃま、そう思われても仕方ないことを蓮花様をしております。しかし、もうその御業に頼る他、わたくしが願っている事はどうすることもできない事柄なのでございます。その為に蓮花様は今必死に研究なさっておられる。だからわたくしは、ここを守っているのでございます」

「一生言わないつもりだったことを、何故あんな信用ならない女に打ち明けた? 何故私ではない? 私ではお前の力にはなれないのか?」


 一生誰にも言わずにいる覚悟を持っていた話を、生まれた時からずっと一緒にいた私にではなく、会ってから数日の蓮花に言う理由が分からない。


 センジュも蓮花を完全に信用している訳ではない様子だが、それほど差し引きならない状況なのだろうか。


「蓮花様は……メギドお坊ちゃまが思っていらっしゃるよりも、優しいところはございます。誤解を招きやすい方ですが、心根はまっすぐでいらっしゃいます」


 その言葉に嘘はなかったが、だが躊躇ためらいのある言い方であった。


 優しいところはあるかも知れないが、方々で完全に狂っている。

 善意と悪意がひっくり返り、人間を滅ぼそうなどと言っていた女だ。


 人間に対して人情など1つも持っていない。

 考え方が極端なのだ。


 善にも悪にも簡単に振り切れる内なる狂気を抱えている。


「…………私は蓮花と1対1で話したことがない。素性はよく知らぬ。それに、邪悪なところばかり目に付く。だが、ゴルゴタの為に人間を滅ぼすのを辞めたり、弟想いな姿も目にしたりした」


 私のその言葉にセンジュは少しホッとしたような表情をしたが、すぐに私はその表情を崩させる言葉を続けた。


「しかし、優しく心根がまっすぐなどとは思わない。あれは危険な女だ。目的の為なら手段を択ばないことを“まっすぐだ”と言うのならそうだろうがな」


 私が指摘するとセンジュは何と返事をしたらいいか分からないといった様子で沈黙する。


 蓮花が危険だとセンジュ自身も言っていた。

 危険性は十分に理解しているが、それでも藁にもすがる思いで一縷いちるの願いをかけ、特級咎人としてではなく、実力のある回復魔法士である蓮花に託したのだろう。


「わたくしは…………ゴルゴタお坊ちゃまを恐れ、負い目を感じ、ゴルゴタお坊ちゃま側についたのではございません。それも1つの要因ではございますが、他にこの城から離れられない理由があるのでございます。それを蓮花様に解決いただけるようお願いしております」

「……センジュの弱みを握られているということか」


“弱み”という言葉に納得がいかなかったのか、センジュは神妙な面持ちで表情を歪ませる。


「弱み……そうでございますね。その弱み……ずっと抱えていた悩みを解消していただくために、蓮花様にお願いしているのでございます。それが解消された暁には、メギドお坊ちゃまとゴルゴタお坊ちゃまに必ずお話いたします。ですが、今は申し上げられないのです」

「そうか……言えぬというならセンジュも事情が色々あるのだろう。深くは聞かない」


 中の蓮花に聞こえぬ程度の声量で私はセンジュに話を続けた。


「だが、今はゴルゴタが暴走する原因を探らなければならないのだ。私の読みでは蓮花が何か重大なことを隠していると踏んでいる」


 この話はまだ誰にも話していない。


 ゴルゴタが暴走するという事前情報を与えたことでこの後の未来を変えてしまい、私が制御できなくなってしまうかもしれない。


 なのでゴルゴタや蓮花、ダチュラなどには知られたくなかった為に話さなかった。


「ゴルゴタお坊ちゃまの暴走でございますか……?」

「あぁ、このことはゴルゴタやダチュラには言っていないが、白羽根共の『時繰りのタクト』を使って見てきた過去の記憶の話によると一定期間経つとゴルゴタは豹変し、自ら人間を殺し始めるとのことだ。私はその原因を探っている」


 センジュは自身の手を口元に当て、考えるそぶりを見せる。


「今は昔のゴルゴタお坊ちゃまより、圧倒的に穏やかになられておりますが……それに、人間を滅ぼそうという強い意志は感じません」

「そこが妙なのだ。今のゴルゴタを豹変させるような何かしらの状況の変化があるはずだ。心当たりとしてはゴルゴタがご執心の蓮花が関係していると考えている。それに、蓮花は重大な何かを隠してるような気がしてならない。だから蓮花を尋問し、見張りたいのだ」


 何にしても、まずは蓮花と対面しなければ適わないこと。


 センジュのこの態度からして、私を蓮花と引き合わせることはないだろう。

 それに、対峙したからと言って蓮花が正直に話をするとは思えない。


「…………それはわたくしも留意いたします。何にせよ、メギド様が蓮花様とお話することは困難かと。わたくしがそれとなく探りを入れてみますが、蓮花様が心を閉ざしてしまわれると何も情報は得られません」

「私が直接話せば手っ取り早いが、ゴルゴタへの忠誠を誓っている限りは私と話す見込みはない。まずはゴルゴタを上手く誘導する必要がある。あまり猶予のある話ではない」


 天使族と会って話をしていた時は「30日後」と言っていた。


 もうそれほど猶予がある訳ではない。


 天使族の元に現れるのは30日後だと言っていたが、少なくとも30日であるというだけで、それが今日なのか、明日なのかは分からない。


 だが、現状、私は何かできる訳ではない。


 地下牢にいるゴルゴタはどうせ話にならないだろうし、センジュも蓮花と話すことを良しとはしていない。


 特に何かするでもなく、手をこまねいているのも時間の無駄だ。


 ――ならば、やはり蓮花が出てくるところを強引にでも聞き出すしかないか……? あまり汚い手は使いたくないのだがな……


 私がどうするべきか考えていると、センジュは私にそっと助言をした。


「メギドお坊ちゃまは一度落ち着かれ、鬼族の長の右京を連れて鬼族の町へと向かわれてはいかがでしょう?」

「鬼族の長をか? 何故私がそのようなことを……」

「メギドお坊ちゃまがいらっしゃった事によって右京は完全に用済みになってしまっております。よもや、いつ殺されてもおかしくはありません。右京殿も困惑されている様子ですし」


 確かに右京はアギエラ復活のために連れてこられただけに過ぎない。


 私がいれば用済みだ。

 それに、私ほどではないとはいえ、高位魔族である鬼族の長だ。


 その実力でゴルゴタに何かされても困る。


 それに右京はゴルゴタが蓮花を特別視していることを分かっている。

 右京に蓮花がなにかされては本末転倒だ。


「それは私でなくとも構わないだろう。適当に鬼族の何人かに帰るよう差し向ければよい」

「それでもよいですが、ここ数日張りつめていられるメギドお坊ちゃまにお休みをとっていただきたいのです」

「私は十分に休んでいる」

「ほっほっほ、そうは見えませぬが。それに、メギドお坊ちゃまは御父上様のところへ行かれてはいかがでしょうか? 御父上様でしたら知恵をお貸しくださるやもしれませぬ」


 ――ふん……父か……1度たりとも私や母上に会いに来たこともない。血縁上だけの父だ。興味もない


「父など初めからいなかったと思っている。鬼族の町で仮に父に会ったとしても何っも話すことはない。名すら知らぬ」


 私の家族は母上とセンジュ、ゴルゴタだけだ。


 父など初めからいなかった。

 母上も父のことを話はしなかった。

 私も父のことなど興味もなかった。


 ゴルゴタもそうだ。

 ゴルゴタは見るに、父の存在へ憎しみすら感じているように見える。

 ゴルゴタの父の龍族も、私たちの元へと顔を見せたこともない。


「メギドお坊ちゃまの御父上殿のお名前は“蘭柳らんりゅう”でございます。蘭柳は鬼族……いえ、全魔族きっての智将でございます。お困りでしたらお話を聞くのも一つ、メギドお坊ちゃまの助けになるでしょう。そのついでで構いませんので、右京殿を逃がしてやってくれませぬか?」


 父が全魔族きっての智将というのなら、何故このような事態に黙し続けるのか私が問いたださなければなるまい。


 この世に蔓延はびこる邪悪の全てを排除する方法が分かるのなら、是非聞かせてもらいたいものだ。


「…………そうだな、右京が蓮花を殺す可能性すらもある。センジュが守っていればそれは無いかも知れないがな。私が届けるのは手間だが、確実に見届ける必要がある」

「右京は今、魔王城の庭で他の鬼族とお話されているようでございますよ」

「ふん、私の手を焼かせるものだ。センジュ、お前も地下の勇者の処遇、私は情報を引き出すのが先だと考えている。ここにいる間、よく考えておくのだな」

「……かしこまりました。いってらっしゃいませ、メギドお坊ちゃま」


 センジュは胸に手を当て、私に対して深々と頭を下げて私を見送った。




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