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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第3章 戦争を回避してください。▼
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メギドの風呂を覗きますか?▼




【メギド 魔王城】


 あれから半日経った。


 私は血生臭い地下にいた匂いを落すべく、風呂に入ることにした。


 大きな湯舟に散りばめられた無数の赤い薔薇。

 花の香りが良く、私は久々にリラックスすることができた。


 ゆっくりと湯船に浸かっていると色々と考えることはあるが、一先ずは1番危惧していた事である人喰いアギエラを復活させないという目標には近づいた。


 それは蓮花がゴルゴタを牽制しているからだ。


 ――やはり、ゴルゴタを牽制しているのは蓮花だ。ゴルゴタの為に人間を滅ぼすのを諦めると言っていた言葉も偽りはない。ならば、考えられる可能性としては蓮花の喪失……あるいは裏切り……しかし、害意はないと言っていたし、裏切るようなことはしないと言っていた。それも嘘ではない。ならば、蓮花が何かの要因によって喪失すると考えるのが自然だ。殺されるか? いや、センジュやゴルゴタが目を光らせてる以上、その線は薄いが……


 今日も蓮花への敵意剥き出しのダチュラが監視についていたが、蓮花は生きていたようだ。


 ――殺すのはダチュラではないのか?


 後はゴルゴタと蓮花やセンジュを見極め、ここで何があるか確認しなければならない。

 私が介入したことで、ゴルゴタの豹変がなくなるかもしれないが、できるだけ私は介入せずに事の顛末を正確に知る必要がある。


 ――私があまり事に干渉しない方が原因がはっきりしていいのか……? いや、豹変したゴルゴタが何をしでかすか分からない。それに、天使族のあの有様を見た今となっては『時繰りのタクト』はできれば使いたくない。蓮花が解呪できると言っても、私の花を解呪するとも限らない


 浴槽に散してある薔薇の花弁を手に取り、指先で遊ぶ。


 ――私が張り付いていては予定通りにはならないかもしれないな。原因が分かれば的確な対応が可能だが、呪いの花のリスクがある。さて……どうするべきか……


 1番良いのは私が先に危険分子を発見し、それを阻止することだ。

 何にしてもどうにかして蓮花と話をしなければならない。


 あの女は何かを隠している。


 まして、ゴルゴタの『死神の咎』を剥がすことができるというのは、ゴルゴタの死に直結する出来事だ。


 なんとかして蓮花とゴルゴタを引き離し、話をする必要がある。

 あるいは話をするのはゴルゴタがいてもいい。

 ゴルゴタの文句を聞き流してしまえばある程度の情報を得ることができる。


 ――とりあえず、今日はもう夜も遅い。アギエラ復活の脅威が遠のいた今、私も1度戻ってあの阿呆あほうと話をしてもいいだろう


 あの阿呆――――タカシらには勇者連合会で屈指の勇者から修行を受けるように言っておいた。


 納得はしていない様子だったが、あのままでは到底私の足手まといになる。


 それに、やつらは万に一つ私に何かあった際の切り札だ。


 解呪され以前の力を取り戻した私には奴らの協力は必要ない。


 だが、いずれは家来として私の城で様々な仕事をさせるつもりだ。


 ――まだそんな状況ではない。ゴルゴタや蓮花が人間に対して……いや、他の魔族にすら非道な行いをしている中では危険すぎる。それに、私と共に行動をしていた者たちを私への当てつけで殺す可能性も十分にある


 ゴルゴタや蓮花が人間を許す日がくれば……とも考えるが、それは絶対にありえないだろう。


 が……本当の敵が明らかになればその矛先は人間ではなくそちらに向くだろう。


 本当の敵――――神。


 ――神、魔神……死神だと? 馬鹿馬鹿しいが、それらが本当にいる可能性がある。現に死神の呪いなどと呼ばれているものには理屈で説明ができない。蓮花は必死に死神関係のこと何か調べている


 あの呪われた町は死神の逆鱗に触れて滅ぼされた町と言われている。

 あの蓮花にも災いが降りかからないとも限らない。


 それに、謎の真の勇者の覚醒。

 神とやらが糸を引いているとしたら合点がいく。


 ――神が本当にいたとして、どうする? 神を殺す……神を殺すだと?


「ふっ……ふふふふふ……」


 これほど馬鹿馬鹿しい話があるか。


 神や魔神が本当にいたとしたら、私たちの力などはるかに凌駕りょうがした存在。

 それを殺そうなどとは大それた考えだ。

 方法も分かりはしない。


 そして、神を滅ぼした後どうなるのか想像もできない。

 この世の根幹が崩れてしまう可能性すらある。


 それこそこの世の終わりだ。


 ――殺すのではなく封じる……神を封じる何かがあるだろうか……


「突然笑い出してなんなのですか。いつもすました顔をされているのに、何か悪事でもお考えなのですか?」


 柱の陰に隠れ、私を見はっていたダチュラは私が笑ったことに対して怪訝な表情をする。


 私のいる方向とは反対方向を向いているが、怪訝な表情をしていることくらいは分かる。


「ダチュラ、蓮花と話をしたか? 何を話したか興味深い。特に、お前が蓮花を八つ裂きにしなかった点においてとても興味がある」


 長く美しい私の金髪をかき上げながら、私はダチュラに問うた。


 こんなに美しい私の裸体が見られる絶好の機会だというのに、ダチュラは私の裸体など興味なさそうにしているのが気に入らないが、私もこの美しい身体をただで見せるのもかんに障るので構わない。


「また……あの女のことをあたしから聞き出そうとしないでください。ゴルゴタ様に怒られるのはあたしなんですから」

「じゃあ別の話をしよう。ダチュラ、お前は神を殺すことができると思うか?」

「はぁ? 何を訳の分からないことを……長湯でのぼせていらっしゃるのではないですか? もう上がった方がよろしいかと」

「私がこの程度でのぼせるわけがないだろう。真面目に聞いているのだ。神を殺す武器……あるいは、神を封じる何かを知っていれば……と思ったが、お前にそんな重要な情報を持っている訳がないか」


 ジャバッ……


 私は風呂から上がり、濡れた身体や髪から水を弾き飛ばして乾かした。


 そして用意されている服を着て、浴場から離れようと歩き始める。


「センジュ様なら何かご存じかと思いますが」


 私の言葉にムッとしたのか、苛立って投げやりにダチュラは返事をする。


「そんなことは分かっている。だが、センジュは多くを語ろうとはしない。私としてもセンジュと色々話がしたいのだがな、ゴルゴタが私とセンジュを近づけさせようとしないから現状難しい」

「ええ。こそこそとセンジュ様とお話になられていればあたしがゴルゴタ様に報告するようにと申し使っておりますので」


 ピシャリとダチュラは私に言い放つ。ゴルゴタの攻略の手順としてはダチュラの攻略が先決か。


 だが、何度かダチュラには話を持ち掛けたが揺らぐことはあっても、ゴルゴタを裏切るようなことはないだろう。


「ふむ……ゴルゴタの命に関わる事なのだがな……」

「また……! そうやって何でもゴルゴタ様を引き合いに出せば、あたしが誘導されると思っているなら大間違いですわ!」


 ――そう何度も同じ手には引っかからないか……だが、ダチュラはゴルゴタの話にであるなら絶対に乗ってくる


「私が先ほど言ったことと関連していることだ。いずれの未来でもゴルゴタは勇者に殺される……それは、神が関係していると私は踏んでいる」

「三神伝説ですか……メギド様が信じているとは意外ですわ」

「信じてなどおらぬが、そうでなければ辻褄が合わないのだ。理屈で説明をつけたいところだが、あの白羽根どもの話を交えて真面目に考えると、どうにも強大な因果を束ねるほどの力のある存在がいなければ辻褄が合わない。そんなこと、この私にもできはしない」


 そして、あの地下牢の勇者らに聞かなければならない。


 まだ気絶したままかどうかは分からないが、ゴルゴタやセンジュが抜け駆けする前に私が情報を聞き出さなければならない。


 だが、全身不随で口もきけない状態にされていることを考えればまず蓮花にそれを治してもらわねばならないだろう。


 ――その程度のことなら他の幽閉されている回復魔法士でも事足りるか? いや、蓮花のように的確にやれる者があの牢獄の中にいるとは思えない。やはり蓮花でしか駄目だ


「ゴルゴタと蓮花はどこにいる?」

「さぁ……? あの女の方は研究で自室にこもって本にでもかじりついているんじゃないですか?」

「ほう……研究とは? 何の研究をしているというのだ?」

「知りませんわ。興味もないですし」


 ここで、ダチュラを釣るために地下での出来事を私は口にした。


「…………ゴルゴタを殺す研究であったらどうするつもりだ?」

「ゴルゴタ様を……殺す?」


 振り向いて直に見たわけではないが、ダチュラの表情は強張っただろう。

 振り返ってみなくともそんなことは手に取るように分かる。


「地下牢でゴルゴタは“蓮花が俺様を殺せるから信用している”と言っていたぞ」

「!?」


 ダチュラの足取りが途絶えたのを感じ、私もそのまま脚を止めた。ダチュラが殺気立つと思ったが、意外にもただ困惑している様子だった。


「……あの女は殺しはしないと、思うわ……」


 振り返らずにいた私は、その言葉に驚いて振り返ってダチュラを見た。


「意外な返答だな。何故そう思う?」

「あの女はあたしに“ゴルゴタ様をよろしくお願いします”と言ってた。意図はわかりませんが、ゴルゴタ様を案じているあの気持ちによこしまな気は感じられませんでしたわ」

「………………」


 ――蓮花がこのダチュラに「ゴルゴタをよろしく」だと……? まるで自ら消えることを予期しているかのようではないか。やはりあの女、何か隠しているな


 あるいは、そう思わせて何かから気を逸らしたいかだ。


 ダチュラの口の軽さを利用して私やセンジュに何かを伝えようとしているのか。


 何にしろ、あの仲の悪い蓮花とダチュラとの間で、何もなければ「ゴルゴタを頼む」などと言う訳がない。


「分からないな。本当に何を考えているやら。それに、お前のような愚鈍な者の言う事など信頼できぬ。あの女は魔法を使わずに心を惑わす。あの女に気を許さぬことだな」

「……あたしも信用なんてしてないわ。でも、いくらあたしが騙されやすいからって、あの女のゴルゴタ様へのあの忠義は、メギド様もそのピアスを通じてご存じでしょう?」

「だが、確実にあの女は大切なことを隠している。それを暴くために私はここへ来た。蓮花の部屋へ行く」


 例え行ったとして、話ができずともいい。


 ただ、表情を読むことくらいはできる。

 脈拍、発汗、目の動き、どれを1つとっても重要な情報源だ。


 恐らく今蓮花が1人でいるとしたら付き添いでセンジュがいるはずだ。


 センジュにもついでに聞きたいことがある。


 ダチュラが見ている前で堂々と話す。

 ゴルゴタに筒抜けでも構わない。


 ――どうせダチュラは小難しい話など全て記憶はできないだろう。それに、私とセンジュの話を妨害できないダチュラが怒られるだけだ


 私は蓮花の部屋へと向かった。


 必ず蓮花から情報を引き出して見せると意気込んで。




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