正体を突き止めてください。▼
【魔王城 王座の間】
ドサリ……
と、センジュの肩から床の上に下ろされたのは、蓮花が勇者の墓から持ってきた死体の身体から遺伝子情報を組み込んだ男だ。
口から涎が垂れ流しになっており、排泄物の匂いもし、目はどこを見ているのか分からない状態になっている。
それを見て、メギドは顔をしかめ、鼻と口を手で覆った。
「なんだ、こいつは……」
「核がない状態で生きているとこうなるようです」
センジュからの言葉にメギドは驚き目を見開いた。
「核がないだと……?」
「へぇ……生きてんのに核がねぇってことは……てめぇが無理やり引っ剝がしたんだろぉ……? キヒヒヒヒ……」
笑いながらその廃人になってしまった男の腕をとり、ねじり上げる。
すると「あー、あー」という声を発して痛がっているような様子を見せるが、抵抗するでもなくぐったりとしていた。
「はい。核の分離操作の練習をしましたが、成功です。核を剥がされて生きているとは思いませんでしたが、脳の機能は維持しており、生命活動自体は行っています。ただ、廃人になってしまいましたね」
冷静にゴルゴタに報告している蓮花に対し、メギドは言葉を失った。
ゴルゴタはその男から手を放し、足蹴にして男の身体を踏みにじる。
男は「あー……」と声を発するだけで逃げようとはしない。
「重要なのはそこではありません。これは、勇者の墓から掘り出してきた遺体の遺伝子情報を元に再構築した勇者の外側ですが、わたくしの記憶にある勇者とは全く違います。つまり、墓に入っていた勇者の死体は偽物であったということになります」
「なんだと……? 蓮花が構築を失敗をしているという可能性はないのか?」
「いいえ、残念ながら……元の遺体を良く見ましたが、クロザリル様を討った勇者と骨格が異なります。わたくしは一瞬ではありましたが、あの光景を覚えておりますので、蓮花様が失敗しているわけではなく、元から違うと考えるのが自然です」
それを聞いていたゴルゴタは、ガリッ……ガリッ……と指の端を食いちぎり始めた。
明らかにゴルゴタの機嫌を損ねたと、その場にいる誰もが感じた。
だが、ゴルゴタは機嫌を損ねたわけではなかった。
「ヒャハハハハッ……そうかよ……キヒヒヒヒヒヒ……」
笑うゴルゴタに対してメギドは違和感を覚える。
「やけに上機嫌だな?」
「ずーっとなぁ……不思議に思ってたことがあンだよ……もしかしたらって考えてたんだ……でも、今、その話を聞いて確信に変わったぜぇ……? ヒャハハハッ! ついてこいよ」
ゴルゴタは自分の指から出血しながら、血の痕を刻みながら歩きだした。
蓮花、センジュ、メギドは言われるがままゴルゴタの後をついていく。その方向は地下牢のある方向だった。
地下牢からは嫌な雰囲気を感じる。
元々良いところではないが、更に嫌な感覚がし、メギドはあまり気が進まなかった。
「俺様はまだガキだった。兄貴もな。でも、覚えてんだよ。ジジイと同じであの時のこと……兄貴も覚えてるんじゃねぇかぁ?」
「あの時とはいつのことだ」
「クロザリル様がお亡くなりになった時のことでございますか?」
「あぁ……見た目とかは覚えてねぇけど、匂いは覚えてんだよなぁ……」
地下牢方向に向かっていたゴルゴタは、やはり地下牢の扉を開き、足を踏み入れる。
本来であれば、もう二度と入りたくないと思っていた地下牢に足を踏み入れるのは、ゴルゴタにとって好ましくないことであった。
だが、今は興奮のあまりにその恐怖も感じていない。
地下1階の回復魔法士らが収容されている層を抜けて、更に奥に進んでいく。
回復魔法士たちはもう「助けて」とも声をあげなくなっていた。
膝を抱えて蹲ったり、横たわったまま動かない者もいた。
「やっぱりなぁ……くせぇと思ってたんだよ。ずーっとな……キヒヒヒヒヒ」
そして、ある牢屋の前でゴルゴタは足を止めた。
血まみれの指でその中を指さす。
その中にいる者たちを見て、センジュは大きく目を見開き、拳を強く握りしめた。
メギドはそれが何なのか分からなかったが、よく見るとわずかな記憶がよみがえり、思い出した。
「こいつらが伝説の勇者様なんじゃねぇかぁ……?」
檻の中にいたのは、アザレア、イベリス、ウツギ、エレモフィラ、そしてイザヤだった。
***
【メギド 地下牢前】
白い髪、白い体毛、白い肌……私も、よくは覚えていない。
だが、母上が殺される一瞬、ゴルゴタを庇い目を逸らす直前、私は見ていた。
母上の胸に剣を突き立てる勇者らを。
思い出したくないことである故に、鮮明には思い出せない。
だが、私が確信を持ったのはセンジュの顔色が明らかに変わったからだ。
しかし、ありえない。
あれから70年も経っているのに、当時の姿のまま残っているはずがない。
「この者ら……どうされたのですか……?」
声が震えているセンジュに対し、ゴルゴタは更に満面の笑みを浮かべて首の辺りをひっかき始めた。
「キヒヒヒヒヒ……なぁに怒ってんだよ? らしくねぇぜぇ……ジジイ」
「お答えください」
いつになく冷たい声を出すセンジュを見て、ゴルゴタは満足そうな表情をしている。
「この前捕まえたんだよ。間抜けな奴らだぜぇ……人殺しと一緒になってこいつら騙してとっ捕まえたんだ……賭けに負けちまって大恥かいたとこだったけど、俺様の読みも間違ってなかったってこったな。メギドお坊ちゃんがくる数日前のことだぜぇ……」
「……読みとは?」
「兄貴は感じねぇのか? 俺様はこいつらが近づいてきたときに嫌な匂いがすると思ったんだよ……嫌な気配っつーかな」
確かに、異様なものであることは分かる。
体毛が5人中4人が真っ白であるし、強い魔力も感じる。
だが、得体の知れないものであるということ以上のことは分からない。
「それで人殺しとそいつらが何者なのか、もしかしたら俺様を討ちに来た“真の勇者”じゃねぇかって考えたわけよ。毛のない猿どもを結構ぶち殺しただろうからなぁ……いつきてもおかしくねぇと思ってたンだ」
「大急ぎで人間を柱を立てて括り付けて襲撃に備えました。彼らの所持品の中には毒物もあり、人間を括り付けておかなければ、遠方から毒を焚かれていた可能性もありますし、大魔法で城ごと吹き飛んでいた可能性もあります」
「でも、人質をとったら簡単に騙されて捕まえられたぜぇ……? それに、こいつに刺されたときの傷も『死神の咎』で治ってる。真の勇者じゃねーって思ったんだ……ちょーっと騙したらすぐ捕まって、結局大した事ねぇ奴らだと思ってたけど、どーにもきな臭いと思ってたんだよ……ジジイはこいつら、見覚えあるだろ?」
センジュはゴルゴタの話の半分も聞いてはいなかった。
ただ、目の前にあるその者らへの憎しみと殺気を滾らせ、いつ爆発してもおかしくない状況になっていた。
「なぁ……? 殺してぇんだろ……? 顔にそう書いてあるぜ……キヒヒヒヒヒヒ……」
「…………クロザリル様を……クロザリルお嬢様を殺された憎しみ……忘れたことなどございません……!」
「いいねぇ! その鬼の表情! ジジイもそんな顔できるんだなぁ! ヒャハハハハッ!」
いつになく険しい表情をしているセンジュを見た後、勇者らと思われるその者らを見て母上を殺した者たちだという自覚が出てくると、私の中にもこみ上げるものがあった。
「兄貴もぶっ殺してぇんだろ!? キヒャヒャヒャヒャッ……俺様が言った通りだ! 誰が殺す? なぁ、誰がこいつらをぶち殺すか決めようぜ! 散々痛めつけて、人殺しに治させて、また散々痛めつけてからぶち殺そうぜ!」
まるで無邪気にはしゃぐ子供のように、ゴルゴタは高揚した口調で私とセンジュを煽ってきた。
だが、私はまだ冷静さを欠いたわけではない。
なるべく冷静にセンジュを牽制した。
「センジュ、抑えろ。せめて、情報を引き出すのが先だ。もう70年前のことにもなるのに、この者ら、体毛は白くなっているが老いていない。色々聞きだすことは沢山ある」
「……くっ……」
センジュは肩を震わせ、拳を震わせ、涙を流しながら必死に耐えている様子だった。
今まで冷静で穏やかなセンジュばかり見ていただけに、これほどまでに取り乱すセンジュを見ると、その抱えてきたものの重さを感じる。
「今は全身不随にしてありますし、神経系統が繋がっていないので外傷を与えても彼らは何も感じませんよ。今は五感全てが遮断されていますので喋ることもできませんし」
「じゃあ今すぐ全部繋げろ」
ゴルゴタは冷静さを完全に欠いている状態だった。
喜々として目を輝かせ、歪んだ笑顔を蓮花に向ける。
その様子を見て蓮花も拒否することはできないだろう。
「…………全部繋げるのは危険だと思います。が……危険のない程度に制御するので少々お待ちください」
檻は鍵もかかっておらず、開いていた。
鍵を閉めなくとも逃げ出せない状況になっている証拠だ。
蓮花はその中に入り、回復魔法を展開させる。
すると、か細い声でその者らは声をあげた。
「俺たちを拷問しても、何の情報も得られないぞ」
衰弱はしているようだが、まだ喋る元気は残っている様子だった。
「私たちの会話は聞こえていたのか?」
「いいえ、聞こえていなかったはずです。今、目、耳、鼻、口の辺りの機能を回復させましたので」
「この状況で大体察しはつくか。お前たちにはできれば穏便に聞きたいのだがな」
蓮花が全員の首から上の機能を回復させたところで、一度蓮花はその場から離れた。
「俺たちをどうしようっていうんだよ!? 殺すならさっさと殺せ!」
やけに威勢のいいのがいる。全身にタトゥーの入っている青年だ。
「ウツギ、落ち着きなさい。私たちを生かしているのは研究の為と言っていたけど、何を研究しようっていうの?」
内唯一の女は冷静に私たちに疑問を投げかけてきた。
「お前たちがかつての伝説の勇者らであるなら、どこでその強大な力を手に入れたのだ? 生まれながらに強かった訳でもなかろう」
「伝説の勇者? 俺たちが……? 悪いが、記憶がないから分からない」
「記憶がねぇだと……!? この期に及んでふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!」
横たわっている内の1人を掴みあげ、首を捩じ切ろうとするゴルゴタを私は止めた。
「いや、嘘は言っていない。本当に記憶がないようだ」
「本当かよ……おい、人殺し、記憶の再生はできんのか?」
「調べてみます」
再び回復魔法を展開すると、蓮花は眉間にしわを寄せた。
「記憶がないのも当然ですね。人為的に魔法で記憶を抑制されているようです」
その事実が意外だったのか、その者らは驚いた表情で蓮花の方を見た。




