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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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【メギド 魔王城 庭の一角】


 蓮花から私とゴルゴタが兄弟なのではないかと言われ、私は少しばかり動揺した。

 だが、それ以上にゴルゴタの方が驚いている様だった。


 ――表情に出過ぎだ。不快感を示すならまだしも、驚いてしまったら肯定するようなものだぞ


 色々とゴルゴタが蓮花に対し話をしたか、あるいは蓮花自身が私たちの様子を見て気づいたかは不明確だ。


 私たちに血縁関係があると解ったところで、ここまで私たちを誘導して慎重に言っているところを見るに、触れ回る様には思わない。


 だが、あえて隠している事柄であることはゴルゴタを見ていて解るはずだ。


 それを口に出すに至らせたのは私のせいではあるだけに、苦言も呈しづらい。


「何故そう思う?」


 私が問うと、蓮花は再び私とゴルゴタの顔を交互に見る。


「お話の端々と、お互いの態度、それから……少し似ていると思っていました。違いましたか?」

「…………」


 私は問いに回答をしなかった。


 ゴルゴタが何と言うのか私は待ち、蓮花の周辺の薔薇に視線を落とす。


 その沈黙は肯定しているようなものだと分かりながらも、第三者にこの複雑な関係を明示することに躊躇ためらいがあった。


「似てねぇだろ……」


 ゴルゴタはまず似ているということを否定した。


 一卵性双生児ほど似ていれば容易に識別できるだろうが、私たちは父親が違う。

 顔立ちもそれなりに異なっているはずだ。


 少なくとも私はゴルゴタと似ているとは思っていない。

 私の方が美しい顔をしていると確信している。


「メギドさんはお綺麗な顔立ちで、ゴルゴタ様は男性らしいお顔立ちですが、唇の形と耳の形が似ています」

「はぁ? そんなもん似てるとか分かるのかよ……?」

「耳の形は遺伝でかなり決まります。メギドさんが時折髪を払う際に耳の形を確認しましたが、似ていると感じました」


 まったく見ていないようで、かなりよく観察しているようだ。

 しかも、私が髪を払う一瞬で見極めたというのなら相当注意を払っている。


 ――油断ならない女だ……


 耳の形などという通常では捉えづらい特徴で相手を識別する能力は、回復魔法士であるがゆえかもしれない。


 カノンが蓮花の仕事ぶりを見て「相手をよく観察している」と言ってたが、こういうことなのだろう。


「……で……俺様たちが兄弟だったら何だってんだよ? 俺様に隠し事をするような理由になるのか……?」


 ゴルゴタは兄弟であることを否定しなかった。

 その返事で蓮花は我々が兄弟であることは確信しただろう。


 難しい表情をしながら蓮花は視線を逸らした。

 言うべきかどうか悩んでいる様子だったが、蓮花は言葉を続ける。


「…………兄弟で争っている様子は見るに堪えませんでした。ですが、家族の問題は私が口をはさむことではないと思い、黙っていました」

「…………」


 沈黙が続いた。


 ゴルゴタも私も蓮花の配慮について文句をつけるつもりはなかった。

 これは私とゴルゴタの問題だ。


 横から部外者があれこれと言ったところでいい方向に向かって行くとも考えにくいと、口をつぐんだ蓮花の判断は間違っていない。


「……こんなこと、話すつもりはなかったですが…………私にも弟がいました」


 過去のことを頑なに話そうとしない蓮花が、そう話しだしたことを私もゴルゴタも驚き、黙ってその言葉の続きを待つ。


「その弟が、私にとって最愛の家族でしたから、家族が心の支えだった私と、ゴルゴタ様たちは少し違います。私の弟は殺され、もういません。あなた方のように憎み合うことすら、もうできないのです。だから…………――――」

「………………」

「…………いえ……何でもありません」


 長い沈黙の後に言いよどむ蓮花に対し、ゴルゴタは難色を示す。


「……なんだってんだよ、もう全部言えよ。そっちのほうがてめぇもすっきりするだろ」


 ゴルゴタに促され、蓮花は考えている様子だった。


 言って良いのか、悪いのか判断がつかなかったのだろう。

 だが、蓮花は言うことに決めたようで話を再開した。


「……なら、正直に言いますが……どうしてあなた方お2人が家族で憎み合い、殺し合うようなことになってしまったのかと考え始めると……私は……あなた方が可哀想でならないのです」


 その「可哀想」という上からの見解が気に入らなかったが、私たちに対してそのような感情を抱く者がいるとは思わなかった。


 ダチュラはゴルゴタに対しては盲目的でゴルゴタを庇うが、蓮花は盲目的というほどでもない。

 どちらかというと自身の境遇と重ね合わせて言っている様子だ。


「どうしてこんなふうになってしまったのか、私が考えても仕方ない事ですが、どうしても考えてしまいます。全ては知りません、でも、あなた方が兄弟であるなら全て説明がつきます」

「……」

「ゴルゴタ様が人間を滅ぼしたいと思っている理由は、お母様が人間に殺されたからではないですか?」


 ゴルゴタは何も言わなかった。


 だが、蓮花の話を聞きたい訳ではなさそうだった。

 まるで追い詰められていっているような感覚がすると見える。

 隠していたことを暴かれていくのはいい気分ではないのだろう。


 通常であれば、黙らせたい場合は、殴る、蹴る、殺す、という選択をするはずだが、ゴルゴタはそうしようとしない。


「あの王座の前にある不自然な棺の中には、先代の魔王のご遺体があるのではないですか? 勇者の剣を遺体から抜くことができず、やむなくあの場所に棺を外側からつけ、あのようにしていると……ゴルゴタ様があの柩を排除しないのはお母様の柩だからではないですか?」

「………………」


 ゴルゴタはやはり何も答えなかった。


 なんとも言えない神妙な表情をしている。

 黙って蓮花の話の続きを待っているようだ。


 ゴルゴタや私が返事をしないことを確認すると、蓮花は話を続ける。


「一方メギドさんは人間への怒りを抱くゴルゴタ様を閉じ込めるしか方法がなかった。勇者の元へと行かせたらゴルゴタ様は殺されてしまうと考えたからです。ゴルゴタ様をとりあえず殺させないように閉じ込めた。しかし、牢屋に監禁される生活に耐え切れず、ゴルゴタ様は自殺を試みた。だから『死神の咎』を使うことになり、不死の身体になってしまった。そうなってしまった以上、どうすることもできずに人間への憎しみが薄れないゴルゴタ様をメギドさんは閉じ込め続けるしかなかった。違いますか?」

「……………………」


 私も容易には返事ができない。


 ゴルゴタが蓮花に対し、『死神の咎』の話までしているとは予想外だった。

 そして、蓮花の読みは当たっている。


 それに、ゴルゴタの話を聞いただけであるはずのに、その中にある私の考えまで理解していることに驚く。


 普通、こういう場合はゴルゴタの言った都合の良いところだけを汲み取り、完璧にゴルゴタ側につくはずだ。

 なのに、客観的に物事を捉えられている。


 私の考えを間接的に聞いたゴルゴタは、理解が追い付いていない様子で動揺している。


「メギドさんはもっとゴルゴタ様に話をし、理解を得られるよう努力するべきだった。ゴルゴタ様はメギドさんの閉じ込め続ける意図を汲み取るべきだった。お互い、その時間はあったはずです。70年も……しかし、お互いに歩み寄れず、決裂した」


 その話にまったく反論の余地はない。


 私は奇妙な感覚に陥った。


 庭に人間を括りつけたり、腕を切るか仲間を売るか選ばせる異常性は今の蓮花からは感じ取れなかったからだ。


 蓮花が人間を滅ぼそうとしているのは、先ほど言った弟が殺された話に繋がってくるのだろうが、弟を手にかけた者に留まらず人族そのものを排除しようとしている姿勢は、むしろ達観しすぎた結果のように聞こえてくる。


 本気で蓮花は人間を根本的な害悪だと感じているのだろう。


 ゴルゴタの方はというと何か言いたげだったが、何を言って良いのか分からないといったような様子で表情を歪ませている。


「ですが、幸いにも天使族の見てきた未来を元に、こうしてまたやり直す機会が与えられた。なのに、ゴルゴタ様も、メギドさんも腹の探り合いはしても理解を示そうという意志は感じられない。これでは結局結末は同じになると思います」


 私が考え事をしている間も蓮花は話を続ける。


 手痛いところをつかれて私もゴルゴタも何も言えずにいた。


 確かに、こうして私がゴルゴタ側についたフリをして内側からなんとかしようと考えてはいるが、ゴルゴタ自身の抱えている問題については私は手をつけようとは思っていなかった。


 それはやはり一時しのぎの結果にしかならないのではないかと考えるが、私は蓮花程相手の心を汲み取るという作法が得意ではない。


 嘘は見抜けても、相手に歩み寄ろうという姿勢がないことを蓮花は見抜いていた。


 そしてゴルゴタ自身が私に対して歩み寄ろうとしない姿勢についても言及した。

 そんなことを他の者がしたら間違いなく今頃首は地面の上に落ちているだろう。


 にも関わらずゴルゴタは何も言わず、何もしなかった。

 ただ視線を泳がせながら蓮花を見ているだけだ。


「私はゴルゴタ様を殺させたくありません。人間を滅ぼすという目標がそうさせてしまうなら、私は人間を滅ぼすことは諦めます」

「何……?」


 確固たる決意で蓮花は人を滅ぼそうと考えていたはずだ。

 少なくとも、初めて対峙したときにはそう考えていたと言って相違ない。


 それを容易に覆したその発言に私とゴルゴタは驚き、蓮花のボサボサの長い髪が風に揺れて隠れがちな目を見つめた。



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