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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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作戦会議をしてください。▼




【メギド 魔王城 魔王の座の間】


「で? 俺様がクソ勇者にぶっ殺されるって?」


 朝日が眩しく窓から射している中、私、蓮花、ダチュラとセンジュ、そしてゴルゴタが円状になり話し合いをしていた。


 私はまだしばらく眠っていたかったのにも関わらず、ゴルゴタに扉を蹴り破られた音で乱暴に起こされ機嫌が悪かった。


 私の睡眠を妨害するなど、本来であれば許される行為ではないのにもかかわらず。


 それに、私は気が散っている。

 この中で1人、真面目に話に参加していない者がいた。


 それは蓮花だ。

 実はこの場所にはもう1人の部外者がいる。


 別段なんの特記すべきことのない人間の男だ。

 その身体に対して魔法を展開して蓮花は何かを調べている。


 特記すべき事項のない男は意識はあるようだが、喋ることも、指一本動かすこともできずに横たわっており、目だけ見開いて辺りを見渡している。

 何が起きているのか分かっていないらしい。


 私はその様子を見ていて私自身もそちらに注意を逸らされ、ゴルゴタの話にいまいち集中できないでいた。


「そうらしいな。白羽根どもの話によると」

「……お前、俺様の話に集中してねぇだろ……?」


 ゴルゴタは私が集中できていないことを簡単に見ぬき、指摘する。


「そこの破門された回復魔法士がどうしても気になってしまってな」

「…………」


 蓮花は私の方を向いて死んだ目を向けた後、ゴルゴタの方を恐る恐る見た。

 私と話すなと言われた手前、反応していいのかどうか分からないのだろう。


 蓮花と目を合わせたゴルゴタは、横にいた蓮花の頭を若干乱暴にグチャッと撫でた。

 というか、押したというか、撫で方を知らないのに、撫でようとして失敗したような、そんな印象を受ける行動をした。


 それをされた蓮花はボサボサの髪を直すこともせず、再び目の前に横たわる特記すべきことのない男に集中し始める。


 それを見ていたダチュラは険しい顔をして目を逸らした。


 センジュは落ち着いた様子でその光景を見ている。


「……昨日言ったろ。コイツは俺様の玩具だ。てめぇが気にすることじゃねぇ」

「そうは言ってもな、この場にいる以上は話し合いに参加させるべきではないのか? お前の命がかかっている話なのに、お前のことをそんな片手間でさせていいのか?」


 私が苦言を呈すと、蓮花は再度ゴルゴタの方を向いた。


「ゴルゴタ様、発言してもよろしいでしょうか」


 蓮花は右手を軽く挙げ、ゴルゴタに発言権を求める。


「あぁ、言ってみろ」

「私はゴルゴタ様が私に意見を求めてきた場合にのみ、この場で発言します。話はきちんと聞いています。……と、メギド様にお伝えください」

「……だとよ。話が進まねぇからさっさと洗いざらい吐け」


 これ以上文句を言っても、この場から解放されない時間が延びるだけと判断した私は、渋々話を始めた。


「…………まぁ、概要を言うと、『時繰りのタクト』を使って未来を見てきた白羽根の連中が言うには、いずれの未来でも人間の急激な減少による事象が引き金になったと思われ、真の勇者が現れる。そしてゴルゴタはその勇者に殺され、人間と魔族の戦争が大々的に始まってしまうとのことだった。言わなくても分かっていると思うが、白羽根どもが嘘をついている様子はなかった」

「……俺様がぶっ殺されるとして、てめぇはその間何してたんだよぉ……? 天下のメギド様が指くわえて見てた訳じゃねぇんだろ……?」

「さぁな、私の動向については白羽根の連中は把握していないようだったな。最後の1回を除いては」

「ちっ……もったいぶらずに言えよ」


 あまり大々的には言いたくなかったが、嘘をついても仕方がないので私は正直に話すことにした。


 相変わらず、蓮花が何やら肉片のようなものを片手に目の前の男に対して何かしているのが気になり、集中力が散漫になっている。


「白羽根どもは自身らではどうあってもお前に太刀打ちできないと分かると、私をお前に当てつけたようだ。今回のように私の身体の呪印を解呪してな。だが、私は対峙したお前に寸でのところで敵わず、結局同じ結末だったと。だから白羽根共の一番大切にしている『時繰りのタクト』を私に託してまで、自らの保身をしようとしているわけだ」


 私は持っていた『時繰りのタクト』をゴルゴタの前に見せる。それが本物であることはゴルゴタも、センジュも分かっただろう。


 私の話を片手間に聞いていた蓮花も一瞬目をこちらに向けて『時繰りのタクト』を一瞥いちべつする。


「で? てめぇは結局、何しに俺様のところに来たんだよ……?」

「そうだな……人間と魔族の戦争はあまりにも非生産的だ。回避したいと考えている。真っ向から対峙してお前と争ってもそれを回避できないと考えた私は、お前の側についてこうして話し合った方が生産的だと思った訳だ。何度もこの私が失敗しているなら、私のとりそうにない行動をとる方が、大きく未来が変わると考えた」

「ふーん……じゃあ俺様を説得しに来たってかぁ……? 説得なんか無意味だってこと、70年の間に学ばなかったのかよぉ……?」


 ガリッ……ガリッ……


 まただ。


 またカーペットがゴルゴタの血で染まっていく。

 せっかくあれだけ念入りに掃除をしたのにも関わらず。


 ここには私の気が散る要素が多すぎる。


 あるいは、わざと私の気を散らしているのか。


「70年の間と明らかに異なる点が3つある。1つは私がお前とこうして向き合って話をしていること、そしてお前当人が聞く耳を持ってこの場にいて私の話を聞いているということ、そして、最後はそこの隣の回復魔法士の存在だ」

「……コイツにやたら絡んでくるな……キヒヒヒヒ……そんなに気になるかよ……」

「お前に自覚があるのかどうかは分からないが、70年地下にいた頃よりも明らかに温和になった。それは結構なことだが、明らかにその回復魔法士に悪くも影響を受けている。いい影響は構わないが、悪い影響はそれ以上に留まることを知らない。未知数で危険だ」

「あぁ? 俺様は影響なんざ受けてねぇよ。なぁ?」


 ゴルゴタは蓮花に向かって言葉をかけたことによって、蓮花はそれに対して返事をした。


「何を悪影響と捉えるかは分かりませんが、メギドさんが言っているのは、人間を攫ってきたり、その人間を庭に括りつけたり、腕を切るか仲間を差し出すかと提案したり、そういったことに対して言っているのだと思います。ゴルゴタ様はご自身ではそういったことはしなかったと思いますので」


 あまりゴルゴタには自覚がないようだったが、蓮花は明白な悪影響を自覚しているようだった。


 ならば、尚更にたちが悪い。


「全くその通りだ。庭のあれを見た時はあまりの残虐さに絶句した」

「アレは俺様とコイツが賭けをするためにわざわざ仕組んだ。手間がかかったんだぜぇ……?」

「……賭けとは?」

「キヒヒヒヒ……答える義理はねぇな」


 あの惨状をただの遊び程度に考えており、尚且つ人間などどうなったところで構わないというその残虐的な姿勢が問題だ。


 それはゴルゴタだけではない、蓮花もだ。

 ゴルゴタを攻略するには、まず蓮花の攻略が不可欠。


 今更人間をいつくしめとは言わないが、人間の全員がゴルゴタや蓮花の思っているような邪悪ではないということを分からせ、考えを改めさせなければならない。


 確固たる意志で人間を滅ぼそうと思っているこの2人を説得できなければ、戦争が始まってしまう。


「死体が見せしめにされているのであればまだ分かるが、生きたまま立たされ死なない程度に、生成した栄養剤を投与して防御壁として使っている辺りが、やけに人間の汚いやり方を熟知しているからたちが悪いのだ」

「俺様はそれが楽しいぜぇ……? 毛のない猿の苦しめ方をコイツは熟知してる。俺様は力加減が分かんねぇし、まわりくどいやり方は苦手だからなぁ……コイツがいるから俺様も楽しい生活を送ってるってわけだ」

「なら、絶滅させる方向ではなく、ある程度痛めつける為に生かしておいたらどうだ? 皆殺しにするなど、いつでもできるだろう」

「いつでもできる……? ヒャハハハハッ……毛のない猿と一緒にいたせいで頭悪くなったんじゃねぇかぁ?」


 ゴルゴタの安い挑発には乗るつもりはないが、私を下に見て馬鹿にしているのを耐えるのは大変だ。


 魔法の1撃、2撃くらい入れてやりたい気持ちになるが、そこは冷静に堪える。


「いつの時代でも毛のない猿を皆殺しにできる機会はあった……でもそれは1回も成功してねぇ。今までの魔王は全員毛のない猿を絶滅させようと躍起になって戦った……でも、結果はいつも同じ。それは俺様がやっても同じってことだろぉ……?」


 そこまで分かっているのに、何故強硬的な姿勢をとるのか理解に苦しむ。


「そうだ。どこからか、何の前触れもなく真の勇者は現れる。だから、人間を急激に殺すのは得策じゃない。しかも白羽根どもの話によると、それは特定の者がなるのではなく、可能性のある者が複数人いる。可能性を全て潰しきることはできない」

「ふーん……そうやっててめぇは俺様を誘導してんだろうけど……俺様は今までの魔王が成し遂げられなかったことをしてみせるぜぇ……おあつらえ向きの不死の身体があるからなぁ……?」

「勇者の剣に触れてその手の傷は治らなかっただろう。それと同じ現象が起こるに決まっている。仮に人間を絶滅させるにしても、真の勇者と真っ向から戦うのはリスクが高すぎる。せめてある程度作戦を練り、対策をするべきだ。無策では同じ結末になるだろう」


 勇者となる者がどの者になるかは不確定だ。


 未来になっていたものを抑えても意味がないことは分かっている。

 その不確定な要素を確定的にし、未然に防がなければ同じ結果になる。


 それはあくまで時間を稼ぐ建前上の事柄だ。


 人間を滅ぼし尽くさせないように私が立ち回らなければならない。


「じゃあそれはてめぇが考えとけ。俺様は別に急いじゃいねぇからよ……キヒヒヒヒ……この恐怖を長く続けることも悪くねぇ……なぁ? 死んじまったら何にも感じなくなるだろ? そんな簡単に死なせねぇよ……苦しめて、苦しめて……絶望させて、俺様に殺さないでくれって懇願させてから皆殺しにした方が気分がいい……」


 カリッ……カリッ……


「…………まぁ、よく考えておくことだな」


 そう私が言った直後、蓮花の弄っていた人間の男は身体を大きく身体を跳ねらせ、ビクビクと身体を痙攣させ始めた。


 突然暴れ始めたので私は驚いた。

 蓮花が魔法を展開している最中、男の身体はそれに激しく抵抗するように動いていた。


「…………」


 蓮花は驚きもせず、死んだような目で目の前の男を見つめている。

 明らかに苦しんでいる様子だが、それを気にも留めない。


 ゴルゴタは横目でソレを見ながらも別段口を挟もうとしなかった。

 明らかに異様な光景だ。


「おい、それを気にするなという方が無理だ。何をしているのか教えろ」

「教えねぇ……キヒヒヒ……」


 その男は通常、生き物が生涯に1度たりともすることのないような動きをしながら、本人の意思とは別に身体が暴れ狂っている。


 それを見ていた蓮花が魔法の展開をやめると、再度目の前の男はダラリと身体を垂らし、目だけを動かして必死に蓮花に訴えていた。

「やめてくれ」と、涙を流しながら。


 それを見もせず、蓮花は紙に何かを書いている。


 書いている音を辿って何を書いているか耳を澄ませてみるが、私の知らない言語で書いている様で、何を書いているのか分からない。


「…………」

「そんなに私に隠したいことがあるのか? わざわざ暗号で文字を書いてまで」

「あぁ、てめぇは信用できねぇからなぁ……」


 恐らく、その書いている文字についてゴルゴタも理解していないだろう。

 何をしているのか実際は分からないのにも関わらず、それを気にしている様子はない。


「お前は何故その女をそれほどまでに信用している?」

「…………話す義理はねぇ」


 やはりそうだ。蓮花が裏切らないとゴルゴタは確信している。


「寝首をかかれるとは思わないのか? その女は、お前に悟られないように近づくこともできる技量がある。私でさえ何を考えているか見通せない」

「……あぁ、コイツは確かに俺様を思いのまま好き放題できる力がある……けどな、コイツはそんなことしねぇ」

「何故そう言い切れる? 騙されてるとは思わないのか?」

「思わねぇな。何故って……俺様がそう思うからだ。少なくともてめぇより信用できる。嘘が見抜けるなら、コイツ本人に聞いてみろ。俺様を裏切る気があるかどうかをよぉ……」

「……裏切るようなことはいたしません」


 私が尋ねるよりも早く、蓮花は返事をした。


 確かにその言葉に偽りはなかった。

 何の言葉の綾などではなく本心のようだ。


 だというのに、全く信用ができない。

 この後の未来が分かっているから余計にだ。


「分かっただろぉ……?」

「…………いや、分からない。質問を変えよう。裏切るというのは本人の気持ちのさじ加減で決まる。ゴルゴタに対し害意はあるか?」


 蓮花はゴルゴタの方を向いて答えていいかどうか窺う。

 ゴルゴタが顎で私を指して答えるように指示すると、蓮花は私の質問に答えた。


「ありません」

「ゴルゴタに隠していることはあるか?」

「隠していることですか……後ろめたいことは特にありません」

「では、隠していること自体はあるわけだな?」

「別段隠している訳ではありません。自分の過去について話せていないくらいです。ゴルゴタ様は私が過去のことを話せないことについても理解してくださっています。後ろめたい隠し事などはありません」


 すべて本当のことのようだ。


 何故ゴルゴタは豹変するのか。

 豹変し、自ら手を汚して回って人間を殺し始めるのか。


 蓮花はこの件に関係がないのだろうか。


 やはり分からない。


 巧妙に嘘をついている訳ではなさそうだ。


「では、私と初めて会ったときのことだが、何故ゴルゴタに嘘をついた?」

「嘘……?」

「ゴルゴタが私の翼を引きちぎり持っていたときのことだ、お前は咄嗟にゴルゴタに嘘をついた。自分にも翼があればいいなという、どうでもいい嘘だ。あのとき、本当は何を思っていた?」

「…………」


 蓮花は目を逸らし、カーペットに視線を移した。

 ゆっくりと瞬きをして、再度私の方を向く。


「可哀想に、と、思っていました」

「可哀想だと……?」


 その言葉が意外だったのか、ゴルゴタは蓮花を見つめる。


「ですが、それを実行したゴルゴタ様の手前、貴方を可哀想などとは言えなかったので咄嗟にそう言ったことは確かです」

「何故人間にここまで残忍になれるお前が、初対面の私に可哀想などという感情を持つのだ? だから私を逃がすのを黙認したのか?」


 何の話をしているのか分からない様子のゴルゴタは蓮花と私を交互に見た。


 蓮花は聞かれたくないことを聞かれたとみて、少し動揺の色を見せたが、誤魔化したりはしなかった。


「…………思うことがありましてね」

「なんだ?」

「言ってもいいですが、この場で言うことはできません」

「では、どのような条件下ならそれを言う事ができる?」

「ゴルゴタ様と、メギドさんのみにでしたらお話しできます」

「なら、ちょっとこっち来いよ」


 ゴルゴタは蓮花の腕を掴み、無理やり立たせた。

 ゴルゴタは別段怒っているという様子はないが、私にも目配せして魔王城の外へと誘導する。


 魔王の座から外に出て庭に出て、薔薇が生い茂る魔王城の端までやってきた。


 ここには他の誰もいない。


「ここでなら言えるか?」

「……はい」

「言えよ」


 私とゴルゴタと蓮花のみのその場で、蓮花は私とゴルゴタの顔をゆっくり交互に見た。


「確信はありませんが、強くそう思っています。誤解であったなら謝罪しますが――――」

「もったいつけんな、早く言え」


 あまり言いたくなさそうではあったが、蓮花はまっすぐに私とゴルゴタを見て、こう言った。


「お2人は、ご兄弟では?」




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