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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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真の勇者について話してください。▼




【メギド 魔王城廊下】


「このままでは、ゴルゴタはいずれの未来であっても死ぬと分かっていてもか?」


 私の言葉を聞いた瞬間、明らかに表情を変えダチュラは狼狽ろうばいした。

 目を見開き、若干の発汗をし、動機が激しくなっていくのが分かる。


 ――蓮花と違って分かりやすい女だな……


 蓮花もダチュラくらい分かりやすく表情が変わればいいのだが、明らかに嫌がっているときくらいしか表情の変化がない。


 それに、上手くはぐらかされて話がまともにできない。

 まして、ゴルゴタが邪魔に入ってきて更に話ができない。


 ――なんとか、蓮花と上手く話をするまでに漕ぎつけなければ……ゴルゴタが豹変するのは絶対にあの女が関係しているはずだ。毒でも盛られたか? いや、『死神の咎』で毒も効かないはずだ。効いたとしても一時的だ、長時間は効かない……それに、やはり蓮花からはゴルゴタへの敵意は感じないが、何を考えているかは不明確だ……


 私が思考を巡らせていると、ダチュラは動揺したまま話を続けた。


「そ、そんなこと、ありえません……! あのゴルゴタ様が死ぬことなんて……!! デタラメを言わないで!!!」

「私もにわかには信じがたいが、デタラメであったなら、私はここへはこなかった」


 私が冷静にその返事をすると、ダチュラは尚もそれを認めようとしなかった。


 頭を抱えるような仕草をしたり、左右に無意味に歩いてみたり、心を沈めようと必死の様子だ。


「ゴルゴタ様は不死身なのですよ!? それをどうやって殺すというのですか!!?」

「『時繰りのタクト』で未来を見てきた白羽根どもの話によると、真の勇者が現れるらしい。勇者と言っても、今の勇者と名乗っている無職の連中とは違う、本物の勇者だ。それにゴルゴタは殺されると、そう言っていた。いく度にも渡り魔族を脅かしてきた奴らの再来というわけだ。まぁ、ありえない話でもないなという印象だな」

「そ……そんなものは天使の妄言です!! そんな妄言も見抜けない程貴方が間抜けな方だったなんて……!」


 盲目的な自身を棚に上げて私の言葉を妄言とのたまうダチュラに、私はため息をついた。


「はぁ……お前のそういう頭の悪いところが、ゴルゴタに気に入られない理由なのだろうな」

「なっ……」


 目の前で苦悩しているダチュラとは異なり、蓮花はかなり賢い。


 回復魔法の技量もさることながら、ゴルゴタに悪意を持って近づいたわけではないとしても、悪意を持ってゴルゴタに取り入ろうとすればそうすることができる程度には。


 一方ダチュラはというとゴルゴタに取り入ろうとしたどころか、ゴルゴタに取り入られてこの有様だ。


 ダチュラに背を向け、呆れた再度私は浴場の方へと向かって歩き出した。


「待ってください! それが本当なら、すぐにでもゴルゴタ様に言わないと……」

「あぁ、奴にも直接言うつもりではいる。だが、今日は疲れたからこれ以上奴と話したくない。ゴルゴタはまともな話し合いがろくにできないからな。まぁ、お前が一刻も早く奴に知らせたいのなら、私を放っておいてゴルゴタの元へ行けば良い」


 私がそう言うと、ダチュラは迷いもせずに私に背を向けて背中の黒い翼で羽ばたき、文字通りゴルゴタの元へと飛んで行った。


「ふん……本当に愚直で、文字通り愚かな女だ」


 風呂を覗き見されたくもないと思いゴルゴタをダシに追い払ったが、どうせすぐに戻ってくるだろう。


 酷く落ち込み、自信をなくし、完膚なきまでに折られた状態で。


 ――さて……どうやって蓮花に取り入るか考えなければな……


 私はダチュラを気に留めず、浴場へと向かった。

 久々に私の気に入っている薔薇の入浴剤を使って入ろう。


 楽しみだ。




 ◆◆◆




【魔王城 魔王の座の間】


「んー……今日はこのくらいにして、気分転換に掘り返してきた勇者の遺体から適合する人間を元に、外観の部分を作り上げる作業でもしましょうかね……」

「気分転換ってお前、まだ休まねぇのかよ……ぶっ倒れられても俺様が困るんだがなぁ……」


 ゴルゴタが急に過保護になったように感じた蓮花は、苦笑いをする。


「ふふ……急に過保護にならないでください。私は自分を酷使するのは得意なもので」

「てめぇを消耗品みてぇに言うなっての。今日はもう休め。そんなに急ぐ話でもねぇだろ。時間なら十分にある」


 本当にそうだろうかと蓮花は考えた。


 蓮花自身は自分のメンテナンスをすれば普通の人間よりも長く生きることはできるが、あまりそれをするつもりはなかった。


 死の法の呪いについて明確に判明するのは明日かもしれないし、1カ月後か、あるいは1年後か、それは分からない。


 そんなに悠長な話でもないと蓮花は感じていた。


 だが、あと少しのところまできているのは確かだった。


 ――呪い除けの方は殆ど確実にできる理論は立ってきたけど、あとは核と身体の結合がうまく成功すればいいだけなのに……魔王城にある文献でもやっぱりそれに触れられてるものはない。自分で探り探りするしかない……外にいる人間の生体を使った方が早いか……核を肉体に戻すのは死の法に抵触するけど、核を肉体から剥がす方は呪いはないはず。殺すのと同じなわけだから……勇者の肉体になるやつで試してみるか……


「…………そうでしょうか。私はゴルゴタ様と同じ時は生きられませんから。できるだけ色々なことを早くしないととは思います。私ももう25歳ですし、人間としてはターニングポイントを過ぎています」

「……それを解決する為の魔人化の話は実際どう思ってんだよ? ま、上手くいかなかったら死ぬんだっけか、キヒヒヒヒ……」


 率直に蓮花に再確認すると、やはり蓮花は表情を曇らせて否定的な見解を述べた。


「そうですね……正直なところ、あまり肯定的ではありませんね。私は、人間のまま死にたいと思っているので……」

「ふーん……それが本音ってワケか……」


 やはり、そう簡単に希死念慮というものは覆ったりしないようだとゴルゴタは確認する。

 それを引き留めるのに何を使ったらいいのか、ゴルゴタはすぐに分かった。


「そーいえば、毛のない猿ってのは“心中”ってのをすることがあるんだってなぁ……?」

「…………それは……脅しですか?」


 眉間に皺を寄せて、訝し気な表情をして蓮花はゴルゴタを睨むように見つめ返した。


「ヒャハハハハッ……どーだか……」


 カリッ……カリッ……


 ゴルゴタは楽しそうに笑いながら人差し指の皮をかじっている。

 それを見て蓮花は呆れた。


「ゴルゴタ様、1つ約束していただきたいのですが……」

「ンだよ、言ってみろ。キヒヒヒ……」

「もし、私が――――」


 蓮花が話をしている最中、バサバサと大きな音を立ててダチュラが現れたので、蓮花は「早速メギドさんに何か問題が発生したのか」と慌てて立ちあがり身構える。


「ゴルゴタ様!」

「………………」


 先ほどまで笑っていたゴルゴタは明らかに機嫌を損ねたようで、冷たい声でダチュラに対して舌打ちをする。


「ちっ……なんだってんだよ」

「メギド様に聞いたのですが、天使の話によると、どの未来でもゴルゴタ様が勇者の手によって殺されるというのです!」

「…………へぇ……それで?」


 興味なさそうにゴルゴタは返事をした。


 ガリッ……ガリッ……


 またカーペットにゴルゴタの血が染みわたっていく。


 あまり驚いていないゴルゴタに、ダチュラは戸惑った。


 自分が殺されるという未来が決まっていると報告しているのに、驚く様子も見せない。

 ただ、見えるのは苛立っているときに見せるその自傷行為癖だけだ。


「それで……って、ゴルゴタ様の身に危険が迫っているのです! 現にこの前も勇者らしき者の強襲を受けたばかりではないですか! もっと警戒態勢を――――」


 ゴッ……!


 ダチュラはゴルゴタに腹部を殴られた衝撃で、魔王の座の城壁に強く背中を打ち付け、激痛によって呼吸が困難になり必死に息を吸おうともがいた。


「…………」


 蓮花は無言でもがいているダチュラに近づき、回復魔法を展開させた。


 損傷部位は臓器いくつか、脊椎、腰椎、頚椎、後頭部、蓮花は瞬く間にそれを回復させる。


「はぁっ……はぁ……はぁ……」


 そのまま放置していれば死んでいたであろう傷を治した、いわば命の恩人である蓮花に対しダチュラは敵意を剥き出しにして睨みつけた。


 それを見て蓮花は色々思うところはあったが何も言わなかった。


「懲りねぇなてめぇも。アイツを見張ってろっつったろうがよ……目ぇ離すなっつー意味だって分かんねぇのか……?」


 明らかに不機嫌になっているゴルゴタを見て、ダチュラは目を泳がせながらも必死に訴える。


「申し訳ございません……ですが……ゴルゴタ様の命の危機が迫っているのに、メギド様は悠長に構えていらっしゃるから……」


 それを聞いたゴルゴタは更に冷たい声でダチュラに言い放つ。


「どーせ、アイツに上手い事口車に乗せられてきたんだろぉ……? ンなくだらねぇ嘘つくアイツもどうかしてるけどよ……それを真に受ける方もどうかしてるぜぇ? ちょっと考えれば分かんだろうが…………仮にそれが本当だったとしても、それを報告するタイミングはどう考えても今じゃねぇし、それはアイツ本人から俺様に言わせるべきだろうがよ…………俺様はてめぇにアイツから目ぇ離すなっつったんだ」

「それは……――――」

「うるせぇ。さっさとアイツの見張りに戻れよ……これ以上何か言ってみろ、今度は“手後れ”にしちまうぜ……?」


 ダチュラは取りつく島もないゴルゴタの言葉に、涙を浮かべながらも「はい」と小さく返事をしてメギドの元へと飛んで戻って行った。


「…………」


 機嫌の悪くなってしまったゴルゴタに対し、蓮花は何を話しかけるべきか悩んだ。


 今も尚指を食い千切り続けているゴルゴタに、下手なことは言わない方が良いだろうと判断する。


「……で? 俺様に約束してほしいことってなんだよ?」


 こんな状況になってしまって、蓮花はそれを口に出せる訳もなかった。


「…………言える空気でなくなったので後で言います。それよりも、ゴルゴタ様を殺せる者が現れるというのは穏やかではないですね。メギドさんがそんなくだらない嘘をつくようには思えません」

「……『死神の咎』が俺様から剥がされた後ってことか、あるいはそこのクソッたれな勇者の剣の使い手が現れるか、どっちかだろうなぁ……キヒヒヒヒヒ……」

「その情報があるのなら、『死神の咎』に今は触れない方が2択が1択になってコントロールしやすいのではないですか?」


 今『死神の咎』をゴルゴタから剥がしてしまっては、ゴルゴタは不死身ではなくなる。そうすれば何かしらの方法で死んでしまってもおかしくはない。


「…………俺様は薄々感づいてんだよ……俺様がアギエラの封印を解いた後に“ソレ”は起きるだろうってな」

「何故です?」

「……なぁ、『三神伝説』って知ってっか?」

「ええ……人間や動物を作った神と、魔族を作った魔神、そして死の法の番人の死神の伝説ですよね?」

「そうだ。あんまりバカバカしいからあんま俺様は信じてねぇんだけどよぉ……結局それに収束してる気がするんだよなぁ……毛のない猿の急激な減少のタイミングで“ソレ”は突然現れるんだ……どの歴史の転換点でも、必ずな。だからただの毛のない猿が今まで魔族にぜーんぶ食い散らかされずにしぶとく生き残ってるってワケだ。あのクソ野郎が70年平和に暮らしていた間は“ソレ”はなかった……でも、アギエラ復活で毛のない猿が大量にぶっ殺され始めたら絶対に“ソレ”は現れるはずだ……」

「突飛な話に聞こえますが、思い当たる節はあります……そこまで理解しているのなら、アギエラ復活は辞めておいた方が良いのではないですか……? ゴルゴタ様の身を危険に晒す行為になりかねない」


 そこまで話したところで、ゴルゴタは更に不敵な笑みを浮かべた。


「キヒヒヒヒヒ……俺様はソイツを堂々とぶっ殺してぇんだよ……勇者とかいうクソッたれを完膚なきまでにぶっ潰して、ギタギタに切り刻んで、見世物にして、俺様が格上だってことを神とかいう連中に思い知らせてやるんだよ……ヒャハハハハッ!」

「…………」


 駄目だ。


 これ以上ゴルゴタに何か言っても頭に血が上っているゴルゴタは蓮花の話を聞き入れないだろう。


 メギドの言う通りいずれの未来でもゴルゴタが死ぬとしたら、ゴルゴタが勇者と戦ったとしても勝ち筋はないということだ。


 ――何か手を打たなければ……


 だとしたらメギドから詳しく話を聞く必要があるが、ゴルゴタからはメギドと話をするなと口止めされてしまった矢先の事だ。


 だが、メギドは必ず蓮花に接触してくることは蓮花も分かっていた。


 好機を伺えば何かしらの情報を引き出せるはずだ。

 ゴルゴタに死なれてしまったら蓮花は困る。


「……ゴルゴタ様のおっしゃった通り、私はもう休ませていただきます。明日、作業を再開します。ダチュラさんが言っていたことも、メギドさんから聞かなければいけないと思いますし、段取りを考えながら眠ろうと思います」

「……そうかよ。俺様も今日はたまには寝よっかなぁ……」


 ゴルゴタの部屋は散乱しており、血の付いた服がその辺に脱ぎ捨てられていたり、何の魔族の腕ともわからない腕が転がっていたり、血の匂いと腐臭でいっぱいの魔境のような場所だ。


 よくあんな場所で眠れるなと蓮花は感心する。


「部屋隣だけどよ、もう俺様の部屋で寝るか? そっちの方が管理しやすいしなぁ……キヒヒヒヒ……壁をぶちぬいて1部屋にしちまってもいいし」


 あの腐臭と血の匂いを思い出すと、蓮花は「眠れるだろうか」と不安に感じる。


「それは構いませんが……私は床の上で就寝させていただきます」

「別に同じベッドでナカヨシで寝てもいいんだぜぇ……?」


 別に寝る場所などどこでも良かったが、ゴルゴタと同じベッドで眠った場合、ゴルゴタの寝返りの際の裏拳などで蓮花は死にかねないと冷静に判断する。

 ゴルゴタが眠っているところを見たことがないが、到底寝相が良いようには思えない。


「…………ダチュラさんに悪いので、結構です」

「あぁ? なんでそこでダチュラが出てくるんだよ」

「えーと……もう少し優しくして差し上げた方がよろしいかと思います。彼女はゴルゴタ様に真に忠義を尽くしている者なのですから。鞭ばかりではなく、ときどきは飴も必要ですよ。このままいくと私が背中を刺されかねませんからね」

「よく分かんねぇ……それに、俺様は誰にも優しくなんてしてねぇよ。気色わりぃ」

「……とにかく、ゴルゴタ様の部屋で眠る場合は、私は床で眠りますので」


 そうして他愛ない話をしながら、蓮花とゴルゴタは眠るために部屋へと向かって行った。




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