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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼

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城の大掃除をしてください。▼




【魔王城】


 メギドがゴルゴタに下った矢先、真っ先にメギドは城の掃除をすることにした。


 メギドはこんな腐臭漂う場所で優雅な生活はできないと感じていたので、大掃除をすることを決心する。


 死体だらけ、血まみれ、グチャグチャになっていた魔王城は、メギドやセンジュが魔法を駆使し死体の処理はすぐに終わった。


 蓮花がいくつか実験体として確保しようとしていた魔族の死体以外は全て焼却し、あっという間にゴルゴタが荒らす前のように綺麗になった。

 飛び散っていた血も魔法で処理し、血の染みついたカーペットは綺麗になった。


 燃えた部分については元には戻せなかったが、センジュが後に縫って直すことに決まる。


 ゴルゴタやアザレアが壊した魔王の座はセンジュが魔王の座を丁寧に直し、少し継ぎ接ぎがあるものの、綺麗に仕上がった。

 毟られて綿が飛び出した部分もセンジュが綺麗に縫い合わせ、以前のような威厳のある魔王の座に戻った。


 ゴルゴタは掃除には参加せずに蓮花の隣に座り、山積みの本に埋もれている蓮花と他愛もない話をしていた。


 メギドに聞かれて困るようなことは話さなかった。「刀蛭とうてつの剣を庭の人間に刺しておけばあれは元気になる」とか「今日の食事は新鮮な死体の肉ですか」とか、そんな話をしているようだった。


 メギドはゴルゴタらが何を話しているか気を配っていたが、どうでもいいような会話しかしていないという点も気になっていた。


 ゴルゴタがこんなに穏やかに打ち解けて話をしているのを初めて見たからだ。


 時折、子供の頃のような笑顔を見せるゴルゴタを見ていて、それが何故豹変するのか思考を巡らせる。


「こんなものか……」


 掃除が終わった頃はもう夜も更けて外は真っ暗だった。


「やっと気が済んだのかよ」


 そう言いながら魔王の座にゴルゴタが乱暴に座った。


 その少し右前くらいにメギドの為に椅子が用意され、メギドはそこに座らされた。

 というよりは、やっと作業が終わって疲労していたので自主的に座ったと言った方が正しい。


 この距離、この角度ならずっとゴルゴタはメギドを見張っていられる。


 蓮花はゴルゴタの左後ろの方で蓮花は山積みになっている本をめくって『死の法』の解明を進めていた。


 右京は魔王城の部屋の一室を与えられ、そこに押し込められている。

 散々と走らされた挙句、この大掃除を付き合わされて右京は疲れ切っていた。


 魔王の座には実質、メギド、ゴルゴタ、センジュ、蓮花の4名しかいない。


 他の魔族はそれぞれ魔王城周辺の警備や、庭の人間の世話や、様々な雑用をさせられていた。


「やっと掃除が終わったのだから、自分の指などを噛んで血を垂らすなよ」


 メギドがゴルゴタに対しそう牽制すると、ゴルゴタは上から目線のメギドに苛立ちを覚え、舌打ちした。


「ちっ……それは俺様の勝手だろ。てめぇの都合で勝手に戻ってきてデカいツラすんなよ。ぶっ殺されたくなかったら俺様に命令すんじゃねぇ」

「もう疲れた。風呂に入って眠りたい。それに、まだ服に血の匂いがついているようで気持ちが悪い」


 ゴルゴタの言い分を無視して自分の主張をするメギドに対し、ゴルゴタは「やっぱり兄貴と話してるとイラつく」と感じていた。


 メギドは振り返ってゴルゴタに目をやった。

 ゴルゴタを視界に移すと、必然的に対角線上にいる蓮花の姿が目に入る。


 その真横にぴったりとつき、蓮花の護衛をしているセンジュの姿も目に入った。


 ゴルゴタの少し後ろに置いていることに驚きを感じる。


 視覚外にいても何をしているかくらいは分かるだろうが、蓮花は常にナイフを持っているし、ゴルゴタが何よりも嫌う人間だ。

 それを信用している様子なのはかなり意外なことであった。


 あまり蓮花のことについて色々聞くのも悪手だと感じていたが、全く触れないのも不自然だと考え、メギドはあまりゴルゴタを刺激しないように言葉を続けた。


「蓮花と言ったか、そんなに熱心に何をしているのだ?」


 メギドが蓮花に話しかけると、すかさずゴルゴタが間に入った。


「おい、クソ野郎。俺様の玩具に気安く話しかけんなよぉ……今コイツは集中してんだ。てめぇが話しかけると作業が遅れるだろうが」

「作業? 何の作業だ?」


 またもやメギドに無視されたゴルゴタは更に苛立った。

 ゴルゴタが怒号をあげ始めるよりも早く、蓮花がメギドの質問に答えた。


「死の法の呪いについての研究ですよ。魔王城は色々見たことのない本があって勉強になります」

「人間の共通言語ではないところもあるはずだが、読めるのか?」

「一応は……一部言語が異なる部分もあって少し難しいですが、センジュさんやゴルゴタ様に伺ってます。パターンを掴めばなんとなく分かります」


 蓮花は感情のこもっていない声で淡々と答えた。


 視線は本に向けられており、眼球が左右にせわしなく動いているのが見える。

 余程熱心に呼んでいる様だ。


 センジュやゴルゴタが必要そうな内容をかいつまんで言えばそれほど熱心に大量の本を読まずに済むのではないかとメギドは考えるが、何の知識がどのように役に立つかは分からない。


 実行するのは蓮花だ。情報の取捨選択は蓮花がしなければならないだろう。


「そんな多大なリスクを冒してまで死者を生き返らせたいか?」

「生き返らせる以外にも使い道はあるのですよ」

「俺様を無視して喋ってんじゃねぇよ! おい、人殺し。コイツは信用ならねぇ。コイツと喋るな」

「わかりました」


 その後、蓮花は黙って作業を続けていた。


 重たい本のペラペラとめくっていく音と、カリカリと文字を書いている音のみが魔王の座の間に響く。


 こんなところに座ってただ何もせずに前方だけ眺めていても不毛なだけだとメギドは感じた。


 自身が魔王であったときには魔王の座に座り、魔王城仕えの魔族に指示を与えたり、様々なことを考えながら魔王の座に座っていたものだが、今は情報収集するよりも疲労が勝っているのでメギドは休みたいと考えた。


 疲れていては本来の実力は発揮できない。


「私はお前の寝首を掻くつもりはない。私は風呂に入ってから自室でゆっくり休みたい。大掃除をして疲れた。席を外してもいいか?」


 ゴルゴタはメギドの腹の内がわからない以上は見張り続ける方がいいと考えたが、自身がメギドの後をついて回って監視し続けるのは面倒だと感じる。


 ゴルゴタが行動を制限しようとしてもメギドは話をろくに聞かないで勝手な行動をするだろう。

 それに更にイライラさせられることくらい、ゴルゴタも理解していた。


「…………まぁ、城の中嗅ぎまわられて困る事なんざ何もねぇ。てめぇの風呂なんざ見たくもねぇし……おい! ダチュラ!」


 ゴルゴタがダチュラを呼ぶと、どこからともなくダチュラはすぐにゴルゴタの前に現れて跪いた。


「はい、なんでしょうか、ゴルゴタ様」

「コイツが風呂入って寝るっつーから、見張ってろ。俺様はコイツの裸やら寝顔なんざ見たくねぇからな」

「……かしこまりました」


 あまりいい返事ではなかったが、ダチュラは席を立って風呂の方へと向かうメギドの後をついて行った。


「わたくしも自室に戻った方がよろしいでしょうか?」

「あぁ、ジジイも戻れ。でも、アイツとは話をするなよぉ……こそこそ話してたらダチュラに報告させるからなぁ……」

「かしこまりました。では、失礼させていただきます」


 そう言ってセンジュは頭を下げ、丁寧に自室へと戻って行った。

 その場にはゴルゴタと蓮花のみが残る。


 カリカリカリ……ペラリ……という音だけがその大きな魔王の座の間に響いている。


「なぁ……」


 沈黙に耐えかねたわけではないが、何をするでもなくなったゴルゴタは必然的に蓮花に話しかけた。


「はい、なんでしょうか」

「もうじき、毛のない猿が全部ぶち殺されるんだよなぁ……夢にまで見た目標が叶うってのに、あんま実感ねぇし……そこまで嬉しくもねぇ……なんでだろうなぁ……?」


 真面目なトーンでゴルゴタが言うので、蓮花はゴルゴタの様子を見て慎重に言葉を選びながら返事をする。


「…………メギドさんの力を借りるのに、あまり納得がいっていないのでは?」

「……それもあるかもなぁ。俺様、アイツと合わねぇからな」


 合わないということもそうだろうが、70年もの間閉じ込められていたという怨恨がありながらも、メギドに対して暴力を行使したりしないところが不思議だった。


 更に、あれほどゴルゴタの気を逆撫でるような言動を繰り返すのにも関わらず、言葉よりも手が早いゴルゴタが手を出さないのが蓮花にとっては不思議で仕方がない。


 いくらメギドが優秀だからと言っても、優秀な魔族も容赦なく手を下してきたはずだ。

 現に、鬼族の長の右京に対して手を挙げそうになっていたはずだ。


 ――…………


 蓮花のその疑問について、ゴルゴタに対して口にはしなかった。


「いいんですか? あんなに自由にさせてしまって」

「アイツが俺様に下手なことするとは思えねぇ。腹の内は分からねぇがな……けど、俺様に悪いと思ってるらしいぜぇ?」


 魔王の座のひじ掛けで頬杖をつきながら、ゴルゴタはそう言う。


「……魔道具で嘘がつけなかったということ自体が嘘なのでは? 似ている偽物であった可能性はないのですか?」

「ばぁーか。俺様がンな偽もん見抜けねぇと思うかよぉ? 『正直者のピアス』は本物だった。本当に嘘じゃねぇ……」


 嘘ではないにしても、メギドは到底反省の色が見られないように思う。


「…………とても謝罪する者の態度とは思えませんが」

「ヒャハハッ……アイツが俺様に謝っただけで、天と地がひっくり返る程のことだからなぁ……アイツはいっつもあんな感じだし、今更驚くことでもねぇよ」

「そうですか……害がないのならいいですけど、ゴルゴタ様を妨害する可能性の方が高いかと」

「キヒヒヒヒヒ……そうでなくちゃあ面白くねぇだろぉ? 分かってんだよ、そんなことはよぉ……」


 ゴルゴタは自分の指をガリッ……ガリッ……と食いちぎり、結局綺麗にしたカーペットを血に染めるのであった。




 ◆◆◆




【魔王城 風呂場までの道中】


「お前のせいで私は散々な目に遭った。何万もの犠牲者が出ている。全く酷いものだ。庭に括りつけられている人間らの惨状を見たか? よくあんな惨たらしいことを考えつくものだ」


 歩いているメギドはダチュラに対して早速文句を言っていた。

 着替えを服の収納部屋から持ち、メギドは風呂へと向かっているところだ。


「それはゴルゴタ様を虐げ続けた報いだと思います。それに、あれを考えたのはゴルゴタ様ではありません。あの女が余計な入れ知恵をしたせいで……」


 ダチュラはあっさりとメギドの主張を跳ねのけた。


 それに、想定していた通り、言葉の端々に蓮花への憎しみが込められている。

 予想通りの返答に、構わずメギドは話を続ける。


「それで? ここまでしておいて、お前はゴルゴタから何か得られているのか? この惨状にした見返りは?」


 メギドに煽られたダチュラは前を歩いているその背中を睨みつけた。


 これだけ隙を見せているのだから、少しくらい痛い目を見てもらってもいいのではないかとダチュラは考え、腰につけていた鉄の返しのついた蛇腹鞭に手を伸ばした。


 これで1度打てば皮膚は裂け、数度の殴打で内臓までもが飛び出ることになるだろう。


「やめておけ。手足が霜焼けになることになるぞ」

「!」


 後ろを見てもいないのに、メギドはダチュラを牽制した。


 ――やっぱり、伊達に魔王をやっていたわけじゃないわね……


 鞭に手を伸ばした手は、やり場を失くして空をかく。


「お前が狙っていたポストをあの特級咎人に取られ、納得していないのではないか?」


 蓮花のことを持ち出され、ダチュラは動揺を隠せなかった。


 だが、メギドは後ろを振り向かずそれを見ようともしない。

 目を泳がせているダチュラの様子など見えなかったが、メギドは手に取るようにわかった。


「あ、あたしはそんなんじゃ……」

「口ぶりや髪型、服装を変えても、どうせ見向きもされていないのだろう? 見返したくはないのか?」


 より踏み込んで聞いてくるメギドに対し、ダチュラは警戒心を強く抱く。


「………あたしから情報を絞ろうとしても無駄ですよ」

「そうだな。情報を私に漏らしたら自分の首が飛びかねないものな。ゴルゴタにとってその程度のことで首が飛ぶような存在ということだ。所詮、お前など」


 ギリッ……


 ダチュラは歯を食いしばり、メギドを睨みつけた。


 手を伸ばしてその長い金色の髪を掴んで引きずり、痛い目を見せてやりたいと考えるが、到底それは適わないことは分かっていた。


 それよりも早く魔法を展開され、言っていた通り氷で手足を封じられるだろう。


「お前に話したいことがあってな、丁度2人きりになれて都合がいいと思っていたところだ」

「あたしは……貴方となど、話すことなんてありません!」

「そんなに声を荒げて感情的になるほど悔しいのなら、あの特級咎人を実力で引きずり落とせ。あの女は相当に危険だ。ゴルゴタにかなり悪影響を与えている。まぁ、そんなことを話したい訳じゃない」

「だから、話すことなんてないと――――」


 メギドは立ち止まり、ダチュラの方を半分程向き直る。


 そして、こう言った。


「このままでは、ゴルゴタはいずれの未来であっても死ぬと分かっていてもか?」




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