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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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招かれざる訪問者が現れました。▼




【魔王城】


 ゴルゴタらが魔王城に到達すると、魔王城敷地内は騒然としていた。


「なぁんか、騒がしいなぁ……?」


 息を切らし、息を懸命に吸って吐いてを繰り返している右京は警戒しながらも魔王城敷地内へと足を踏み入れた。

 息ひとつ乱していないセンジュとゴルゴタを見て、よもや呆れすら感じる。


 自分とは明らかに異次元の存在であると。


 ――なんなんだこのバケモノどもは……


 ゴルゴタは荷物を降ろすように多少雑に蓮花を地面に降ろし、騒がしい魔王城の方向を見つめる。


 そこへ、1人の悪魔族の男が翼をはためかせながら慌てて飛んできた。

 その男が状況を口にする前に、ゴルゴタとセンジュは何が起こったのかということを察していた。


 右京と蓮花は何が起こっているのか分からず、その男の言葉を待った。


「ゴルゴタ様――――」


 グシャッ……


 悪魔族の男の頭は一瞬で吹き飛んだ。

 ゴルゴタが右腕を振ったその一瞬だ。


 何故突然男をゴルゴタが殺したのか分からず、右京は恐怖で顔を引き攣らせた。


 蓮花は何が起こったのか報告を待っていたのに、ゴルゴタが一瞬で殺してしまったので何も分からないまま、殺された悪魔族の男の身体を見つめる。


 頭部が粉々になり、もう回復魔法で回復させることは不可能であることを確認した。


 ガリッ……ガリッ……


「キヒヒヒヒ……」


 自分の指を噛み千切りながらゴルゴタは笑った。


 センジュは状況は分かっていても、何も言わずそして何もしなかった。

 ただ、蓮花の側から離れず警戒態勢を取る。


「なんだというのだ……?」

「感じねぇのかよ……鈍いなぁ……鬼族の長っつーから多少期待してたけど、大したことねぇなぁ……キヒヒヒ……」


 他の魔族が次々とゴルゴタの元へと走ってこようとする中、ゴルゴタはゆっくりと歩き出した。


 ゴルゴタの歩く前方には他の魔族は止まらず、左右に避けて止まった。

 口を開こうとするが、ゴルゴタの様子を見て魔族らは口をつぐむ。


 センジュは「参りましょう」と、優しく蓮花の背中を押した。


 蓮花はなんだか嫌な予感がしたが、ゴルゴタの両端へと除ける魔族の様子を見てなんとなく状況を察する。


 状況が読みきれない右京はそれらの魔族の中から鬼族の姿をいくつか確認した。


 痩せこけていたり、やつれている者もいたが、右京を見て、光を失った目を再び輝かせる。

 右京は声をあげようとする者に静かに牽制し、声を出させないように指示した。


 魔王城中央の扉から、ゴルゴタは堂々と魔王の座へと入った。


「遅いぞ。やっと帰ってきたのか。来てみれば不在とは、随分余裕だな?」


 ()()()は、魔王の座に座っていた。

 そこは今、魔王であるゴルゴタ以外は絶対に座らない場所だ。ゴルゴタの他に座ろうとする者はいない。


「そこをどけよ。そこはテメェの席じゃねぇ……」


 ゴルゴタに続いてセンジュ、蓮花、右京が魔王の座に入ってくる。


 予想していた通りの状況に、センジュは息をのんだ。

 なんとなく感づいていた蓮花は、その状況を直視したくなく目を泳がせる。

 右京は何が起こっているのか分からず、ただ()()()を凝視した。


「つーか……いつの間に白いのとナカヨシになったんだぁ? キヒヒヒヒ……」


 ゴルゴタはゆっくりと魔王の座に近づいていく。


 魔王の座に座っている者は微動だにせず、脚を組んだまま頬杖をついて悠々としていた。


 その両隣には2名の白い翼を持つ天使が立っている。

 ゴルゴタを見て表情を強ばらせているが、両手を後ろに組み取り乱すことなくゴルゴタを静かに見つめている。


 2名とも、白い腕章をつけていた。


「誤解するな。こいつらは私の監視をしているだけだ。私は今も昔もこれからも、天使は嫌いだ」

「へぇ、そうかよ……奇遇だなぁ? 俺様も天使は大っ嫌いだぜぇ……」


 ドンッ……


 ゴルゴタは魔王の座に片手をついて()()()を威嚇する。

 だが、()()()は瞬きひとつせず、ゴルゴタの目を真っ直ぐ見つめた。


「遊びにきた訳じゃねぇんだろぉ……?」


 今すぐにでも、その喉元に手を伸ばせば殺すことができる距離でありながら、しかし、容易にそれは適わないとゴルゴタは分かっていた。


 ()()()は静かに言葉を返す。


「あぁ、私はお前の側につくことにしたんだ」


 あまりにもあっさりとした返事に、ゴルゴタは怪訝けげんな表情をするが、すぐに不敵に笑った。


「何考えてやがる?」


 銀色の髪が肩から落ちて揺れる。


「人間など、ゴミクズ以下の生きている価値のない目障りなだけの存在だと考え直しただけだ」

「へぇ……そうなんだぁ…………」


 ゴルゴタは魔王の座から少し離れ、右へ左へとゆっくりと歩いて考えている様に見せる。


 ()()()以外の全員がゴルゴタの歩く姿を目で追いかける。


 次の瞬間に何が起きるのか、ここにいる者はセンジュ以外は誰も分かっていない。


「……なんて……俺様が納得すると思ってんのかぁ……?」

「いや?」


 ()()()は長く美しい金色の髪を軽く払いながら、頬杖をついている手を左から右へと悠然と変えた。


「じゃあなんだってんだよ、()()()()()()()()よぉ……?」


 ()()()――――メギドは優美に笑みを浮かべながらゴルゴタに返事をした。


「本心は魔王城での暮らしに戻りたいと思っただけだ。ここ最近は野宿をしたり、安いボロ屋で寝食をしたり、最悪だ。私にはそんな生活相応しくない」


 メギドのその楽観的な返事を聞いて、ゴルゴタはため息をつきながら呆れた。


「はぁ……とんでもねぇ馬鹿はもうたくさんだっての……俺様のところに来たところで、それ以下の生活させられるって、そのかしこーい脳みそなら分かるだろぉ……?」

「ありえないな」


 メギドは即答する。


「あぁ? なんでそう言えるんだよ……?」


 少しの苛立ちを見せるゴルゴタに対し、メギドはまだ余裕の表情でゴルゴタを見ていた。


「私がアギエラ復活の儀に力を貸せば、わざわざそこにいる右京のような高位魔族を連れてこなくて済む。それに、圧倒的に私の方が早いし、確実だ。それに最悪なことに高位の天使が2人もいる。私が協力する条件は、この城で以前のようないい生活をさせること。簡単だろう?」

「…………」


 ガリッ……


「到底信用できねぇ……」


 ゴルゴタはメギドが心底信用できなかった。


 当然だ。


 並々ならぬ怨恨があるが故、こうして敵対することくらいメギドも分かっているはず。

 なのに、わざわざゴルゴタの元へとやってきた。

 他の意図があるに違いない。


 だが、何の意図があるのかは分からない。


 蓮花の件か、あるいは寝首を掻こうという魂胆か、だが、頭の切れるメギドがそんな馬鹿でもやれる方法をとるわけがない。


「てめぇをクソ天使が監視してるってことは……『時繰りのタクト』を持ってんだろ? 俺様に勝てるまでやり直し続けるつもりかぁ……?」

「私はお前に勝てない」


 この世の誰よりも傲慢なメギドが、あっさりとゴルゴタに対して負けを認めるとは。

 驚いたゴルゴタはゆっくり歩く足を止めた。


「この白羽根の連中に聞いた。私は何度繰り返しても、お前には勝てないと」

「へぇ……『時繰りのタクト』で見てきた未来ってか?」

「あぁ、そうだ。勝てないのなら、お前の側についた方が賢明だろう? 私とて、無駄な争いを続けるのは生産的ではないと考えたわけだ。お前も私の強襲に備えるよりは私を監視していた方がやりやすいだろう?」


 余裕そうに自身にとって都合のいい話を述べるメギドに対して、ゴルゴタは徐々に苛立ちを募らせた。


 メギドへの70年もの閉じ込められた憎しみは消えていない。

 身勝手な言い分を勝手にやってきて、魔王の座に座って悠々と話していることに腹が立ってくる。


「はっ……ここでいい生活をしたい……だ? てめぇ、自分の立場分かってねぇだろ。てめぇが俺様側につくとしても、てめぇは“あの地下牢”にぶち込む」

「そうしたければそうしろ。だが、地下牢に入れるなら協力はしない」

「てめぇが協力しなくても儀式は成功する」


 ガリッ……ガリッ……


 ゴルゴタはいつも通り苛立ちを抑えるために指を噛み千切っている。


 自分の血の味は落ち着く。

 自分の肉の味も。

 口の中に広がるこの鉄の味がゴルゴタをやっと落ち着かせている状態だ。


 その、目に見えて苛立っているゴルゴタを更に挑発する者はいない。

 このメギドを除いては。


「どうかな? 力ずくで他の種族が協力するとは思えない。鬼族は謙虚だったようだが、他の種族がそうとは限らない。特に、天使族。『時繰りのタクト』を悪魔族の血統の私に託すくらいだ。それに悪魔族もだ。説得に失敗、あるいは儀式に失敗した場合、お前の頭に血が上り、全員殺すことになる。そうしたらもうアギエラ復活は私抜きではありえない」


 嘘だ。


 天使族からアギエラ復活の未来があったとメギドは知っていた。


 メギドが手を貸さずとも、どのようにかしてアギエラ復活がなされるのだろう。


 強引な方法をとるのか、あるいはセンジュが働きかけて穏便に済ませるのかは分からないが、何も策を講じなければ人間と魔族の全面戦争が始まってしまう。


「俺様が連中を半殺しにしたとしても、あの人殺しが再生させられる」


 後ろにいる蓮花を親指で指しながら、得意げにゴルゴタは言う。


 指さされた蓮花をメギドは静かに見据えた。


 蓮花は明らかな危険分子だとメギドは感じる。

 ゴルゴタに多大な影響を及ぼし、悪い方向へと向かって行く様子を見ていた。


 呪印のなくなった今、この場で蓮花を殺すこともできるだろうがそれは悪手だ。

 ゴルゴタと更なる軋轢あつれきが生まれるだろう。


「その場合、回復されたとしても調和が乱されて儀式は失敗するだろうな? その場合、お前自ら人間を皆殺しにするべく動くか? それは手間だ。それに、アギエラ復活の儀を大々的に謳っておきながらお前自ら動くのは格好がつかないぞ。確実な方法を取った方が良い」


 何故ゴルゴタ当人が突然人間を滅ぼし始めるのかは分からない。


 だが、今メギドが見ているゴルゴタはそのようなことをするようには見えなかった。


 少し見ない間に、幾分か理性的な行動がとれるようになってきている様子だ。


 以前ゴルゴタに出くわしたときに、1人の死者も出さなかった意図くらいわかる。


 メギドとタカシらが親しくなればなればなるほど、奪い取った時の絶望が色濃くなるからだ。

 それは理性的に行動しなければできないことだ。


 理性など全て欠如している見えるが、ゴルゴタは思っているよりも理性的だ。

 これだけの死者で魔王城を埋め尽くすような行動をとっている割には、芯のところでは考えて行動している。


 それに、牢屋の中にいた頃の怨嗟にたぎる禍々しさはなくなっているように見えた。


 ――何がきっかけだ? アギエラ復活の儀の成功、不成功とは関係なさそうだ。考えられる線はセンジュか蓮花のこの先……蓮花の方はゴルゴタを操ってどうこうしようという悪意は感じない。元よりそのような悪意があればゴルゴタ本人が一番に気づくはずだ。センジュもゴルゴタに対して責を感じて大きくは出ない。なら、何が原因になる……?


 今のゴルゴタを観察し何が起きたのか未来をいくつも予測するが、メギドの思考を超える何かがあって、天使族の見てきた未来のようになるのだろう。


 それが分かるまで、メギドはゴルゴタから引き下がるわけにはいかなかった。




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