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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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魔王を討伐してください。▼




【アザレア一行 魔王城】


 即興の作戦ではあったが、作戦通り、ウツギは魔王城正面へと向かった。


 イザヤも共に行くかどうかという話があったが、アザレアが魔王に向かっている間、イベリスとエレモフィラを護衛する人材を確保するためにイザヤはアザレアと共に行くことになった。


「ウツギ1人で大丈夫なのか?」

「あいつなら大丈夫だ。あれでも結構頼もしいところがある」


 包帯と血まみれの女が先頭に立ち、アザレア達を魔王城敷地内へと誘導した。


 ときどき、傷が痛むのかうずくまってしまう場面もあった。

 そんなときはイザヤが女に肩を貸し、裏口まで歩き、無事にたどり着いた。


 順調に事が進んで行き、魔王城付近の魔族と接触することはなかった。


 裏口にも門番らしき魔族は誰もいない。


「こんなに魔王城の警備が薄いのは妙じゃないか……?」


 アザレアとイベリスが感じていた違和感を女に対してたずねた。


 裏口など、警戒して然るべき場所に何の魔族も配置されていない。


「あの魔王は絶対的な自信を持っています……警備などは必要ないというようなスタンスですので、警備が手薄なのはおかしくはありません……というか、仲間と思われる魔族も気に入らなければすぐに殺してしまいますので……必然的に魔王城の魔族が少なくなってしまっています……」

「よくそんな魔王に仕える魔族がいるものだな」

「仕えるというよりは、支配、蹂躙じゅうりんという言葉が適切かと……」


 魔王城の裏口と言ってもそれなりに豪奢に出来ており、正門と言われても遜色ないものであった。

 違いがあるとすれば、方角が北側で日当たりが悪いので、この辺りには日陰でも育つ植物しか植えられていないことくらい。


 だが、今は植物がどうとかいう問題ではなく死体がそこら中に転がっており死体置き場のようになってしまっていた。

 酷い匂いがする。


 ウツギがまた吐き気に襲われているのを、エレモフィラが「吐かないで」と牽制する。


「ここまで来てなんだが……より安全に行くには、我々が囚われている呈で行った方が都合が良いのでは?」

「確かに、中の魔族を上手く避けながら行くより、堂々と連れられていた方が自然かも」


 イベリスの提案に皆が納得しているところ、女は残念そうに遮った。


「それは無理だと思います……魔王はただ単に力が強いというだけではなく、記憶力もずば抜けておりますので、捉えてきた人間と、それ以外は区別はつくでしょう……それに、捉えてきた人間は城の中には絶対に入れません……私が入っているところを見られても、殺されます……」

「ふむ……まぁ、ウツギが大暴れしていれば自然と城内の魔族はウツギの方へと意識が向くだろう。ウツギが暴れ出したら大声で知らせる手はずだ。そろそろ騒ぎになっても――――」


 と、イベリスが言っている矢先にウツギの大声が魔王城の裏側にまで聞こえてきた。


 魔王城はかなり大きな建物だ。

 普通の大声程度では聞こえないだろう。


 それであるにも関わらず、ウツギの声は裏口までよく聞こえた。


「おい!!! このクソ魔王!!! 俺がてめぇをぶっ潰しに来たぞ!!!!! 出て来いよ!!!!!!」


 普通の人間の声量ではまずここまで聞こえなかっただろうが、身体強化の魔法で声量をわざと上げているのだろう。


 ここまですると「あからさますぎるのでは」とイベリスは頭を抱える。

 その落胆した表情のイベリスの肩に手を置いて、エレモフィラは首を横に振る。


「頭脳プレーをウツギに求めるのは間違いよ、イベリス」

「はぁ……ここまで大声なら城内でも聞こえただろう。よし、アザレア、慎重に行くぞ」

「あぁ、案内してくれ」

「分かりました……」


 女が裏口をゆっくり開けると、裏口の内側にいた魔族が正面側へと向かっている後ろ姿が見えた。


 辺りの魔族は全てウツギの方へと向かったようだ。


 アザレア一行は足音などを立てないように、城内へと侵入する。


「城内は詳しくないですが……魔王城が左右対称に作られていることを考えると、中心部に向かって行けば魔王の座にたどり着くはずです……」

「なるほど……」


 アザレア一行は武器を抜いていつでも戦えるように構えた状態で、物陰に隠れながら魔王城中心を目指していった。


「おい! 魔族ども!!! そんなんじゃ俺を止められねーぞ!!!」


 城内にもウツギの声が響き渡っていた。


 これだけ大声で叫んでいるならウツギの方も上手くやっているのだろうと推測できる。

 その声にアザレア一行は安堵した。


「本当に正面から行くなんて、ほんと馬鹿」


 エレモフィラはやはり正面からいくウツギが心配な様だった。それを見てイベリスは優しく微笑む。


「そう言ってやるな、それがウツギの良いところじゃないか」

「ウツギなら大丈夫だ」


 女がゆっくり歩いて進んで行き、慎重にいくつもの部屋を通り過ぎて行くが、廊下には死体が転がっているばかりで生きている魔族が1匹もいない。


 女は冷や汗が噴き出し、息が荒くなっていた。


 もうすぐ魔王城中央、魔王の座の近くに来たからだろう。


「大丈夫か?」

「はい……もう少しです……」


 そして、ついにアザレア一行は難なく魔王の座に到着する。


 魔王の座から龍の翼と尾が見えた。

 アザレアはそれが魔王かどうかは分からなかったが、イザヤがそれを見て頷く。

 あの魔王の座に座っている者が間違いなく魔王ゴルゴタだと確信した。


 ウツギが表で大暴れしているのに、魔王は悠々と隣にいる人間の女性と話をしているようだった。


「はぁ……うるせぇなぁ……とんでもねぇ馬鹿が入ってきやがった……」

「ゴルゴタ様、行かなくてよろしいのですか?」

「放っておけ。馬鹿の相手はしたくねぇ……その馬鹿がよっぽど強ければここまで入ってくるだろ……キヒヒヒ……」


 魔王の隣にいる女性が魔王の方を向いたとき、髪に隠れて良く見えなかったが数字と記号のタトゥーがあることをイザヤは見た。


 末尾の記号は「★」だった。

 それが何を意味するか、すぐにイザヤは理解する。


 声を出せば魔王に気づかれる可能性があったため、アザレアらには伝えなかったが、あれは特級咎人だ。


 横顔しか見えないが、あの年齢と性別、背格好で特級咎人と言えば1人しかいない。


 ――大量殺人者の蓮花か……最高位の回復魔法士が向こうについてるのは分が悪いな……


 アザレアがみんなの方に向かってアイコンタクトをとり、合図をする。

 ここまで同行してきた女にはここで待機するようにジェスチャーで示した。


 そして、アザレアは剣を真っ直ぐ構え、そしてイベリスは魔法を展開するべく構えた。

 ほんの1秒にも満たない時間だった。

 超人的な速度でアザレアは魔王の背後まで駆け寄り、剣を魔王めがけて突き立てた。


 ドンッ!


 という鈍い音が聞こえた瞬間、魔王の胸からアザレアの剣が血濡れの姿を覗かせていた。


 間違いなく魔王の心臓を貫いた感覚があった。


「っ……なんだ……てめぇ…………」

「ゴルゴタ様……!!」


 人間の女性は後ろにいたアザレア、イベリス、エレモフィラ、そしてイザヤがいることに気づく。


「悪い魔王を退治しにきた者だ」


 椅子の背もたれごと貫いた剣をアザレアが抜くと、魔王の胸から大量の血があふれ出した。


 魔王はその場に倒れ込み、崩れ落ち、動かなくなった。


「ゴルゴタ様!」


 隣にいた女が魔王に駆け寄ろうとすると、イザヤは素早く人間の女性の後ろに回り込み腕を掴みあげて組み伏せた。


「おっと、そうはさせねぇぜ!」

「イザヤ、そこまでしなくても……」

「コイツ、特級咎人の蓮花だ。最上位の回復魔法士だぜ」


 人間の女性の髪を乱暴に掴み、顔を上げさせる。

 すると、顔に「011713★」というタトゥーが姿を見せた。


「今、魔王に近づいて回復されちゃ、分が悪いんだよ」

「ゴルゴタ様……! 生きていらしたらお返事をしてください! ゴルゴタ様!!」


 涙を落しながら、人間の女はイザヤの拘束を解こうと暴れる。


 しかし、イザヤはがっちりと組み伏せている為、女が解放されることはなかった。


 女の呼びかけに魔王は答えず、倒れたままだった。


「もう死んだっての。心臓を一突きにされて生きてる訳がねぇ。案外、傍若無人の魔王も呆気なかったな」


 人間の女は泣き崩れた。

 狂ったように泣き叫び、自身の関節が外れてもなお暴れていた。


「ゴルゴタ様ッ!! どうして……ゴルゴタ様ぁああああっ!!!」


 女が絶叫している中、ここまで案内してくれた女がイザヤとアザレアの元へとおずおずと近づいてきた。


「魔王を倒せたのですか……?」

「……動かないところを見ると、そのようだな……この出血量だ、生きてはいないだろう」


 魔王はぐったりしたまま目を見開いて血だまりに倒れている。

 到底生きているとは思えない。


「おーい! アザレア! やったのか!?」


 魔王の座の正面の扉が豪快に開き、ウツギが外から走って入ってきた。


 その道中には多数の魔族が倒れて横たわっているのが見えた。


 いずれも殺してはいない。

 力の加減はしたので倒れているだけだ。


「イザヤ、何やってんだ?」


 同じ説明をするのは面倒だと思ったイザヤは、ウツギに投げやりに説明した。


「こいつは大悪党だってことだよ」

「……そうなのか?」


 ウツギが顔にタトゥーのある女性を見つめていると、苦しそうに身もだえ抵抗し、涙を流していた。

 目が赤く充血し、外れた関節の部分が痛むのか苦悶の表情を浮かべている。


「ゴルゴタ様……起きてください!」


 それを見ていたウツギはなんだか可哀想に感じた。

 ウツギにはとてもその人が大悪党には思えなかった。

 アザレアも同様に感じていた。


 この人間の女性に何か害意があるようには見えなかったし、何か悪いことをしたようにも見えない。


 ――なんだ? 何か嫌な感じがする……


「念のため、確認を……」


 案内してくれた女性はアザレアの後ろに倒れているゴルゴタへと近づいて行った。


 その瞬間、アザレアはその場にバタリ……と倒れ込んだ。


「なんだ!? どうしたアザレア!!」


 アザレアに近づいたウツギも、突如として倒れた。


 そのままピクリとも動かなくなった。




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