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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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引き返しますか?▼




【魔王城 蓮花の一室】


 ゴルゴタは扉の方を見ながら話をし始めようとし、蓮花の方を見ていなかった。


 目を見ながら話すことができなかった。


 もしかしたら、口に出して話すことで蓮花のように自分の感情のコントロールを失ってしまうかもしれない。


 ――グズグズ泣き始めるってか、この俺様が……?


 そんなことはありえないとその考えを払拭する。


 だが、堂々と自分の過去の話をすることができない。


 ゴルゴタはいざ話し始めようとすると、なかなか言葉が出てこなかった。


 言葉が出てこないことで、本当は過去について話したくない自分に気づく。


 だが、蓮花にし対しては話してしまってもいいと、ボロボロと泣きながら訴える蓮花を見てそう思った。


 なので、ゆっくりとゴルゴタは話し始める。


「……俺様も……今まで死にてぇと思ったことくらいある。何度もな……キヒヒ……」


 ゴルゴタは自分が思っているより流暢に話すことはできなかった。

 話し出すことが苦痛に感じる。


 笑って誤魔化してみるものの、嫌悪感は自分に対しても蓮花に対しても誤魔化せなかった。


「ゴルゴタ様がですか? 意外です……」


 蓮花から見るに度重なる自傷行為からしてみても、希死念慮があっても不思議ではないが、ゴルゴタは「死にたい」などと思っているタイプには見えなかった。


「だろぉ? でもなぁ……俺様はもう……ずいぶん前に死にたくても死ねない身体になっちまった。どんなに苦痛を受けてもたちどころに再生しやがる。死にてぇなんて思っててもどうにもならねぇんだ……とっくの昔に死ぬのは諦めたぜ」

「……魔族の身体には詳しくないですが、生まれつき恐ろしく再生能力が高いというだけの話ではないのですか?」

「ちげぇよ。魔族をバケモノかなんかだと思ってんのか? 俺様が特別なんだよ」

「特別……」

「俺様の身体には…………『死神のとが』っつー魔道具が溶け込んでんだ。もう溶け込んでて取り出せねぇ。だから俺様は死なねぇんだよ。ソイツのせいで身体に傷跡一つのこりゃしねぇ」


 ――『死神の咎』……? また死神関係のことか……


 だが、ゴルゴタの身体に傷が残らないのなら、ゴルゴタの手にある火傷の痕のようなものは説明がつかない。

 その『死神の咎』を使う前の傷にしては、まだ新しいように見える。


「でも、その手の火傷のような跡は……」

「ヒャハハッ……鋭いなぁてめぇは……俺様を唯一殺せるとしたら、魔王の座の前に棺桶に刺さってる錆びてる剣があるだろ。あの目障りな勇者の剣だけだ。そいつを抜こうと触ったらこの様だ」

「勇者の剣ですか」


 蓮花は王座の真正面にあるひつぎと錆びた剣に疑問を持っていたが、それについては誰にも訪ねなかった。


 柩という時点で良い返事が返ってくるとは思えなかったし、それに、あんな目障りな位置にある柩や剣にゴルゴタが何もしないのは更に不自然に思っていた。


 誰がどう見てもかなり違和感があることであるのに、他の魔族の誰もそれを取り除こうとしないことは蓮花も知っている。


 立派な柩にある文様を蓮花は以前本で見て知っており、その文様は古いものでかなり前の柩であることは分かっていた。


 メギドが魔王の時代からずっとそこにあるものであろうと推測できる。

 それに古いものであるにも関わらず、手入れが行き届いていた。


 違和感は様々なことで感じながらも蓮花はそれほど興味がなく、恐らく何か魔族特有の儀式的なものなのだろうと自分の中に消化し、受け入れていた。


 だがそれは違うらしい。


 あの錆びきっているのは勇者の剣だということであれば、その剣の刺さっている柩に入っているのは、メギドの先代魔王のクロザリルなのかもしれないと、蓮花は想像する。


 ――勇者の剣はともかくとして、魔法で柩ごと消し炭にすることもできるはず……何故そうしないんだろう……?


 そう考えた蓮花は“ある予感”を感じていたが、その考えによって更にそれは確信に近づいていく。


「魔族が触れないのなら、人間の私だったらその剣を抜けるかもしれないですよ」

「無理だ。捕まえてきた回復魔法士やらクソ勇者も何人かにやらせたけどよぉ……びくともしねぇ……キヒヒヒ……あれはマジの勇者じゃねぇと抜けねぇみてぇだぜぇ……」

「……マジの勇者を生き返らせたいのは死にたいからなんですか?」

「…………かもなぁ……」


 普段のゴルゴタの姿から想像できない弱気な返事を聞いて、蓮花は驚く。


 こんなにゴルゴタが弱々しく見えたのは初めてだったからだ。


「……お辛いでしょうね。死ぬ選択ができないのなら尚更」


 なんと声をかけていいか適切な言葉が思い浮かばず、蓮花は表面上しか取り繕えない言葉を反射的に発した。


 そんな言葉をゴルゴタが望んでいるとは思えない。


 だが、そのほかの適切な言葉が出てこなかった。


「まぁな……」

「ゴルゴタ様の今したいことをなさるのがよろしいかと思います。目標があれば頑張れますし」

「目標ねぇ…………俺様も、よくわかんねぇんだ……てめぇと同じ、憎しみで突き動かされてるだけで……クソ勇者をギタギタにしてやりてぇと思うけどよ、俺様には他に何もねぇんだよ。俺様が本当はどうしたいのか、憎しみを取ったら突然わかんなくなっちまう。でもよぉ、そんなこと考えたってもう引くに引けねぇところまで来てんだ」

「…………」


 引く気になれば、いつだって引くことはできる。


 手後れだということはない。

 途中で辞める選択をするのも勇気だ。


 最終的に自分が行きつく先が地獄だと分かっていれば、引き返すこともできるはずだ。

 それでも、ゴルゴタは行く先が地獄であったとしても突き進もうとしてる。


「まだ引き返せますよ」と蓮花が話そうとしたが、それよりも先にゴルゴタの方が口を開く。


「それに、てめぇが言った通り、俺様は最近楽しいぜ。てめぇが来てからな……それに、俺様もここ最近出てきたから、なぁんか色々やりたい放題できて気分がいい」

「ここ最近出てきたとは……?」


 これほどの実力のあるゴルゴタが急に現れたことに蓮花は疑問を持っていた。


 あの魔王メギドから魔王の座を奪う程の実力を持ちながら、今までどこにいたのか、何をしていたのか、分からない。


 ゴルゴタの気性の荒さから考えるに、龍族や悪魔族の元で生活していたとは考えにくい。


 上位魔族は統率がとれている。

 ゴルゴタのような荒くれ者がそれらに馴染んでいたとは考えにくい。


 悪魔族は血気盛んだが、ゴルゴタ程ではない。

 それに、城にいる他の悪魔族はゴルゴタのことを特別知っている様子でもなかった。


 つまり、龍族の元でも悪魔族の元でもない別のところにいた可能性が高い。


 かつて、まだゴルゴタが魔王になる前は、魔王城に他の魔族が奇襲をかけたなどの物騒な情報は人間社会で出回ってはいなかったはずだ。


 蓮花が死刑囚の身で情報が入ってこない間も、刑務官の様子を観察する限り大きな動きはなかったと思う。


 ならばどこにいたのか、どこからきたのか、それはゴルゴタ本人から聞かなければ分からない。


「あぁ……」


 あまり話したくなさそうにゴルゴタは頭を抱えたので、蓮花はそれ以上聞くのも悪いと思い、ゴルゴタに話しかけた。


「ご無理なさらず。話したくないこともあるでしょうから」

「けっ、別に構わねぇよ……俺様に回復魔法士面すんの辞めろ。てめぇはただの同族……人殺しだ」

「……ええ。そうです。私はただの殺人者としてゴルゴタ様とお話をしています。お話したくなければ、無理には聞こうとは思いません。私の好奇心よりも、ゴルゴタ様のお気持ちの方が大切なのですから」


 そう言われて、ゴルゴタはそこで話を終わらせようかとも考えた。


 だが、ここで自分の過去から逃げる姿を蓮花に見られたくはなかったので、そのまま話を続けた。


「…………回復魔法士どもが詰められてる地下牢の一番奥に、特別な牢屋がある。それも魔道具の一種で、俺様はそこにずっと閉じ込められていたんだ。70年もな」

「70年も魔王城の地下にですか……」

「そうだ。俺様をあのクソ野郎のメギドが閉じ込めやがった。どれだけ暴れてもあの牢屋はびくともしねぇ……」


 ――メギドさんが……ゴルゴタ様を……? だからゴルゴタ様はメギドさんに対して憎しみを抱いているのか……? 70年前と言ったら……そうだ、魔王政権交代のタイミングと同じだけど……


 いくつか、推測で成り立つ部分はある。


 だが、確信はない。


 蓮花の頭の中で色々なことが巡る中、ゴルゴタは自身の過去に起こったことを思い出した。




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