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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第2章 人喰いアギエラの復活を阻止してください。▼
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センジュからのお願いを聞きますか?▼




【魔王城】


 魔王城に帰ってから、休む間もなく蓮花は人間の選別をしていた。


 魔王城の庭で他の魔族の手を借りて人間を押さえつけている中、作業的に進めている。


 まず、見つかった勇者の骨の遺伝子構造を調べ、そこからその遺伝子構造に近い人間を選ぶという途方もない作業を行っていた。

 近い遺伝子構造でなければ元の勇者の姿に近い形で復元できない。


 特に、人格や記憶に関する脳の部位については他の部位とは異なり精密な復元作業が求められる。


 火葬ではあったようだが、それほどよく焼かれていなかったようで脳の一部は残っている。

 記憶がすべて戻るかは怪しいが、なるべく生前の姿に近い形で生き返らせなければならない。


 何の記憶も残っていない勇者が生き返ったところで、ゴルゴタの意図するところではないだろうということは蓮花も分かってる。


「はぁ……」


 泣き叫ぶ人間、命乞いをする人間、女、男、子供、老人、作業的に選別をしていく。


「助けてください! 助けて!!」


 回復魔法士をしていた頃は顔と名前、服装、体型、話し方や仕草にいたるまで相手の情報は事細かく記録し、記憶していたが今はそんな必要はない。


 ただ、勇者らの器に適しているか否かでしか相手を見ていない。


 よもや、人間であることすら興味がなかった。


「…………」

「助けて……お願い……こんなことをしてまで貴女は生き延びたいの!?」

「………………」


 その何人もの大声に蓮花は嫌気がさしていた。


 助けてと懇願されても、助ける気にはならない。

 どうせ人間はゴルゴタに滅ぼされる。


 それが早いか遅いかだけの違いでしかない。


 何度もそう考えてため息をつきながら、時には投げたしたくなりながらも続ける。


 記録を取りながら次々を人間を仕分けて行った。


 ――ようやく半分くらいか……


 ゴルゴタは現在、席を外していてここにはいない。


 初めは蓮花の作業を見ていたが単純作業の繰り返しで飽きてしまったという事と、人間の叫び声に強い殺意を感じてその場にいることが耐えられなくなったので、その場から離れてもらった。


 それに、ゴルゴタが蓮花の作業をずっと見ていることは蓮花にとって大変気が散る事柄であったので、席を外してくれたことは安堵していた。


 ――これが終わったら高位魔族の元に行くのかな……少し寝て休まないと持たない。ゴルゴタ様と私じゃ根本的な体質が違うから、分からないのかもしれないけど……これが終わったら仮眠を取ろう……


 ぼんやりと無気力に陥っている人間らを見つめながら、少しばかり蓮花が休んでいると急に後ろから声をかけられた。


「蓮花様」

「うわぁっ!?」


 気を抜いていたところに急に背後から声をかけられ、蓮花は驚いて思わず声を出してしまう。


 振り返って確認すると、蓮花の背後にいたのはセンジュだった。


「センジュさん……脅かさないでください。どうしてこんなところに?」

「ほっほっほ。驚かせてしまったようで申し訳ございません。ゴルゴタ様が代わりに見張りをしてこいとおっしゃられたので代理で参りました」


 足音など、一切聞こえなかった。


 いくら集中力が途切れていたからとは言え、蓮花は周囲の音には気を配っているつもりだった。


 人間が発狂して襲い掛かってくる可能性も十分ある。

 疲れていても周囲を警戒することは怠っていなかったはずだ。


 しかし、センジュが近づいてきたことすら蓮花には気づかなかった。


「そうですか……ゴルゴタ様はセンジュさんを閉じ込めたいのか、どうなのか分かりませんね」

「わたくしが逃げないと考えたのでしょうね。メギドお坊ちゃまを前にしてもメギドお坊ちゃま側にはつきませんでしたから」

「…………」


 蓮花は辺りを見渡してゴルゴタがいないことを確認すると、小声でセンジュに問いかけた。

 何か聞かれたくない話であるとセンジュも察して蓮花に耳を傾ける。


「本当は、センジュさんの実力であれば逃げ出すことも難しい事ではないように思いますが?」

「ほっほっほ……そのようなことはございませんよ。わたくしのことを買い被り過ぎでございます。蓮花様こそ、ご自身の評価が低いように思いますけれども、いかがでしょうか?」

「……私は……所詮人間ですしね。程度は知れてますよ。ゴルゴタ様の指一本で私は呆気なく死ぬ。でもセンジュさんは違います。ゴルゴタ様と互角以上に渡り合える力があるのに。メギドさんに忠義を尽くすセンジュさんの姿を見て、尚更疑問です。どうしてゴルゴタ様側につくのか……」


 センジュは蓮花から疑われているということにすぐに気づいた。


 ――警戒心の強いお方だ……


 穏やかな装いをしているが、決して心を許している訳ではない。


 それはセンジュに対してだけではなく、ゴルゴタに対しても心を許している訳ではないことはセンジュにも分かる。


「…………それをおっしゃるのなら、わたくしも疑問です。何故、メギドお坊ちゃまを逃がすことに手を貸したのか……」

「……メギドさんはゴルゴタ様にとって特別な存在なのでしょう。ゴルゴタ様の態度を見れば解ります。他の魔族と全く態度や扱いが違いましたから」

「ほう……憎しみがあるだけのようには見えませんでしたか?」

「憎しみもあると思いますが、もっと違う何か……劣等感のようなものがある印象ですね。メギドさんよりも優位に立ちたいという願望が強いというか……それに…………」


 蓮花は口に出そうかどうか迷い、なかなかそれ以上は口にできなかった。


「それに……?」

「いえ……」

「………………」


 ――他に何を気づかれたのか……勘の鋭い方だ。それに用心深い……


 口をつぐんだ蓮花に対して、センジュはそれ以上聞くことはしなかった。


 それよりも、センジュは蓮花に対して別の用事がある。

 その話をゴルゴタのいないこのタイミングでしたいと考え、センジュは快く蓮花の見張りを引き受けたのだ。


「蓮花様、お話は変わるのですが……折り入ってわたくしからお願いがございます」

「はい、なんでしょうか」


 口を開いたはいいものの、センジュは蓮花に()()を伝えていいのかどうか最後まで迷いがあった。


 だが蓮花の性格を鑑みてセンジュは心を決めて打ち明けることにした。


「ついてきていただけますか?」

「えーと……どちらへ行かれるのですか? 持ち場を離れるのはまずいかと思いますけど……」

「そう長くはかかりませんので、問題ありませんよ」


 センジュの言葉に蓮花は不信感を募らせる。


 表情が急激に曇ったことはセンジュも感じ取っていた。

 だが、センジュとしてもここであっさりと引くわけにはいかない。


「…………内容を先に伺ってもよろしいですか?」


 警戒心を剥き出しにする蓮花に対しセンジュはどう伝えていいものか悩んだ。

 他の者もいる中、ここですべてを話すのは難しい。


「……話すより、ご覧になった方が分かりやすいと思います。それに、ここは他の者の目もありますので」


 聞かれたくない話だということを蓮花はすぐに察知した。

 それと同時に不安感を強く感じる。


 蓮花とセンジュの間には秘密を打ち明けられる程の絆はない。

 重大な話を打ち明けられても蓮花は困ってしまう。


「そうですか……言いにくいこともあるかとは思いますので、結構ですよ。少しの間だけなら」

「ありがとうございます。それでは参りましょう」


 あまり蓮花は気乗りしなかったが、立ち上がって軽く服の汚れを払うとセンジュの方へと向き合った。


「そこの方、蓮花様はお手洗いに行ってまいりますので、もしゴルゴタ様がいらっしゃったらそう申し伝えてください」


 悪魔族の青年にそう伝えると、蓮花とセンジュは城の内部に向かって歩き出した。


 蓮花にとってはセンジュがどこに向かっているのかは分からなかったし、何を考えているのかもわからない。


 ただ、行く方向に注視していると、どんどんと進んで行くセンジュは誰もいない方向へと歩いて行っているようだった。


 センジュのビシッとしたしわのない燕尾服のひらひらと揺らめく布を蓮花は目で追いながら歩いているうちに、蓮花はふとした疑問が湧き上がってくる。


 ――もしかしたら、私は殺されるのでは……?


 メギド側のセンジュからしたら蓮花は脅威になりかねない。

 今のうちに始末しておこうという考えを持っていたとしても不思議ではなかった。


 だから要件を伝えずに誰もいない場所へと連れて行き、そこで殺されるのかもしれないと蓮花は思い始めていた。


「こちらでございます」


 センジュがこちらですと言った先は魔王城の地下へと続く道だった。


 ここは回復魔法士の人間が押し込められている牢屋がある。


「やはり私は殺されるのかもしれない」と蓮花は思ったが、それでも蓮花はセンジュの後をついて行った。


 牢に入れられている回復魔法士の者たちがセンジュと蓮花を見て「助けて!」と口々に訴えてくる。

 蓮花のことを知らない回復魔法士はいないだろう。

 特級咎人であることも理解しているはずだ。


 それでも藁にも縋る気持ちで蓮花に対して縋るように泣き叫んで助けを乞うた。


「…………」

「騒々しいのは苦手ですか?」


 苦虫を噛み潰したように表情を歪める蓮花に対して、センジュは気遣いで声をかけた。


「そうですね。騒々しいのは不快なものですよ」

「ゴルゴタ様も随分騒々しいかと思いますが、それはどう思われているのですか?」


 ――この返答を間違えたら殺されるのかもしれない


 そう考えた蓮花は少しの沈黙をした後に返答をした。


「ゴルゴタ様は確かに騒々しいですけど、不快ではありませんよ。煩わしくはないです」

「左様でございますか。ゴルゴタ様も蓮花様が現れてから楽しそうですので、そう言った面ではよいかも知れませんね」

「…………悪い影響をその分与えているとは思いますけれど」

「それはわたくしもそう思います」


 センジュの返答に、蓮花はますます殺されるのではという考えが湧き上がる。


 だとしたら、どのような殺され方だろうか。


 一思いに殺すのか、それともゆっくり殺されるのだろうか。


 苦しむのか、一瞬なのか、痛みはどの程度なのか。刺殺? 絞殺? 撲殺? 燃やされるのか、溺れさせられるのか、あるいは人柱にする魔法の類で人柱として使われるのか。


 そんなことをぼんやりと考えるが、やはり恐怖はない。


 だた、痛いのも苦しいのも嫌だと思っているくらいだ。

 痛覚を遮断すれば痛みは感じないし、苦しくなってきたら自死することも可能だ。


 それもそれほど恐れる要因ではない。


 ――結局私は、何も成しえなかった人間だったな……


 考えを巡らせている間にもセンジュは地下牢の奥へ奥へと進んで行く。


 蓮花は不思議に思った。

 これ以上先は何もないはずだ。


 ――やっぱり、一番奥で殺されるのか……


 しかし、蓮花を殺した後にセンジュはどうするつもりなのだろう。


 ゴルゴタに対して言い訳が立つとも思えない。

 それはゴルゴタが蓮花を殺されたら怒ることの前提の話だが、そこからセンジュはどうなっていくのだろうか。


 ――まぁ……自分が死んだ後のことなんてどうでもいいか……


 一番奥についた時点で、センジュは魔法を壁に向かって魔法を発動させた。


 何をしているのだろうかと蓮花が見守っていると、壁の石の一つ一つが左右に避けて行って道を開ける。


「この奥でございます。どうぞ、お入りください」

「…………はい」


 蓮花が入るとセンジュは入口に再度魔法をかけて入口を閉じた。


 ――ここで殺されたら誰にも見つからずに朽ち果てるのだろうか。あるいはバラバラにされて食卓に並ぶのか。食べられる相手は誰なのだろう。ゴルゴタ様にだろうか、それともセンジュさんが食べるのだろうか……センジュさんも人間を食べたりするのかな?


 そう考えながらも先を歩くセンジュの後ろを黙ってついていく。


「そろそろ目的を話してくれないと、私も気持ちの整理がつかないのですけれど……」

「もうそろそろ着きますので」


 ここはもう既に誰の目にもつかない。

 殺すのならば今でもいいはずだ。


 ぎ…………ぎ………………


 ――……ん?


 何か妙な音が聞こえたような気がした蓮花は辺りを見渡した。

 どこからか聞こえるのだが、反響しているせいで正確な位置までは特定できない。


 しかし、進行方向前方から聞こえるような気がする。


「今からお見せすることは、ゴルゴタ様にも、他の方にも絶対に他言無用でお願いできますか」


 ――何かを見せられる……? 殺されるわけではないのか?


「……私は率先して喋る方ではございませんので。ご安心を」

「まぁ、わたくしとしましても蓮花様を信用しての願いです。誰かに話すことはないだろうとわたくしも考えております」

「センジュさんは私の事を過信しすぎているのではないでしょうか。特級咎人であることを忘れてもらっては困ります」

「ほっほっほ、そうおっしゃってわざわざ脅かしてくる方に恐ろしい方などおりませんよ。本当に貶めようと考えている方は警戒されないようになるべく相手に安心感を与えようとしますからね」

「……どうですかね」

「メギドお坊ちゃまにも、ゴルゴタ様にも、他のどなたにも明かしていないことです」


 ぎ……ぎぎぎ……ぎ……


 何か「声」のようなものが聞こえてきて、その音の発信源がもうどこから聞こえているのか分かる程の距離になってきた。


 そして、地下牢の隠し扉の先の最奥まできたところで、センジュは蓮花に向き直り、丁寧に指を揃えて牢屋の中を指さした。


 その先へと蓮花が視線を移すと、暗闇の中に()()はあった。


「これは……――――」




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