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勇者の名前は『魔王』でよろしいですか?▼  作者: 毒の徒華
第1章 魔王様が現れました。▼
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壺師に遭遇しました。▼




【メギド】


 ゼータの町の人々は、徐々に姿を現した。


 私が町を襲っているというあまりにも酷い風評被害による誤解が解けたのは、夜になってからだった。


 壺師のいる場所についたのはもっと早くだったが、壺師は居留守を使っているのか、それとも本当に不在だったのか出てこなかった。


 立往生をした私たちは馬を休ませるのも兼ねて、宿に早々に泊まった。

 宿の人間は私たちに対する誤解を根深く持っていたが為に、チェックインするのに無駄な時間を取らされ、私は納得いかない気持ちになった。


「また虫と同じ部屋か……」

「人間なんですけど。そろそろ認めてくれませんかね」

「乗り物は外に置いておくべきじゃないのか」

「俺は乗り物じゃねぇ!」

「お兄ちゃん、肩車してください」

「あ、あぁ」


 タカシがメルを肩に乗せて落とさない程度に動いて見せる。


「やはり乗り物ではないか。しかも小児性愛者ロリータコンプレックス……」

「違う! 俺はロリコンじゃねぇ!」

「やかましい。お前は何を休んでいる? さっさと私たちの誤解を解いてこい」


 そう命令し、私はベッドに横になって体を休めた。

 また安っぽいベッドだったが、清潔にはしている様だった。


「あたしも行きます!」

「メルがいると心強いぜ。やっぱり俺とメギドだけで誤解を解こうとすると、どうにも受け入れてもらうのに時間がかかるというか……」

「お前が陰気臭い顔をしているからだ。顔を整形してこい。いや……100回くらい殴られたら整形するまでもなくマシな顔に――――」

「そんなに殴られたら顔なくなるんですけど!?」


 どこをどう殴ったらマシな顔になるのか一瞬考えたが、この私がわざわざ手を下すなど馬鹿馬鹿しく、すぐに考えるのをやめた。


「壺師を家来にしなければ、私はこの町からは出ないぞ」

「壺師がいるのは解るけど、必ず仲間になってくれるとは限らないだろ?」

「仲間ではない。“家来”だ。解ったか? はぁ……虫にはわかるわけがないか……」

「俺は虫じゃねぇ! それに家来になった覚えはない!」

「覚えはなくても、お前は髪飾りのついでについてきた、髪飾りについている虫だ。いいか? お前は虫なのだ」

「洗脳するのやめてもらっていいですか?」

「虫は早く外へ向かって飛んでいけ」

「はぁ…………解ったよ」


 タカシは私に反論するのが無駄だと気付いたのか、メルをつれて出て行った。


 ――……もう、隠し通すのは無理かもしれないな


 あの虫とメルに言うべきか。


 ――言わずしても、もう間もなく解ることだ


 私は自分の身体の傷を確認した。傷自体はもう大分いい。しかし、私の身体には呪いがかけられていて、傷跡の周りに赤と黒の呪印が刻まれている。


 ――相当、強い怨みを持っていたんだな……


 服を脱ぎ、自分にまいていた包帯を取る。


 包帯をその辺に投げ捨てると、自分の白く、華奢で美しい身体を鏡で確認した。

 いくつもの箇所に呪印がついている。

 その上に自分の手を這わせると、その時の痛みや、光景が思い出される。


 ――私は……間違っていたのだろうか


 間違っていたとしても、もう取り返しがつくわけがない。


 ――この呪印がついている状態では、傷が治ったとしても……私1人で挑むのは無理があるか……? 魔族を仲間にしに行くのは……愚策だろうな……


 私は再び服を着た。

 その服を着た状態で自分の姿を改めてみると、あまりにもみすぼらしいと感じたので、先のことなどどうでもよくすらなった。


 こんな服を着ていることの方が一大事だ。


 ――城に戻れない今、仕立屋も家来にしなければならないな。こんな服をいつまでも着ていられない。はじまりの村についたときには元々着ている服はボロボロになっていたから捨ててしまったしな……


 つぎはぎだらけの服を着られるわけがない。

 早々に捨ててしまった。


「村で一番の服と言っても、私の最高の美的センスを反映しているわけではないしな」


 などと言って自分の顔を見ると、そこには世界で一番美しい顔が映っていることに私は満足する。


「今日も私は美しい」


 美しい私ならば、なにを着ても似合う。


 みすぼらしいその服も、着こなしようによっては見栄えるのではないか?


 そう考えた私は、それから夜まで服の着こなしについて研究を続けた。




 ◆◆◆




【タカシ】


 俺はメルを肩に乗せて必死に町の人に「魔王は悪いやつじゃない」ということ訴え続けた。


 結果として徐々に町の人は解ってくれて、顔を出してくれるようになった。

 何よりもやはりメルの存在が大きいだろう。


 ――俺1人じゃ、メギドの言った通り信用されなかったかもしれない


 ロリコンだと罵られるのは屈辱だが、確かにメルは可愛いし、大人にとって受け入れやすい。

 小柄だから肩車をすっとしていてもそう負担にもならない。


 それでも年頃の少女をずっと肩に乗せていると、少しは疲れる。


 ――いや……メギドを基準に考えたらいけない


 すっかりメギドに乗り物にされていたせいで、メギドを基準に考えてしまう。

 これでは駄目だ。


「タカシお兄ちゃん、町の人も信じてくれて良かったですね」

「そうだな。苦労が実ったな……本当に、メギドの小間使いにされててまいったよ」

「まおうさまは勇者をたおす担当なんですよ。それで、あたしたちは信者を集めるかかり!」

「信者って……もはや怪しげな宗教だな……」


 俺たちはそのまま再び壺師のいる店と家を訪ねた。

 もしかしたら出てきてくれるかもしれないと思い、俺は再度扉を叩く。


「すみません、壺を買わせてほしいんですけど」

「お兄ちゃん、そっちの方がずっと怪しいですよ……サギっぽいです」

「あ……確かにな……」


 そういえば、都の方で法外に高額な値段で壺が売りつけられるという事件が起こっているというのを聞いたことがある。


 それにしてもなぜ壺なんだ。


 そう思いながら俺とメルが話をしていると、扉が少しだけ開く。


「ま……町を攻めに来たんじゃないんですか……?」


 前髪が目にかかっていて、よく顔の見えない青年が中から顔を出してくる。

 少しだけ見える身体は俺と同じくらい背丈でサスペンダーを肩にかけ、良い身なりをしているのが伺えた。


「違うって。勇者をこらしめにきたんだよ」


 あと、壺師を家来にしにきた。

 とは言えなかったが、彼が壺師なのだろうか。


「……確かに……町は焼き払われたりしてないですね……」

「誤解だって。メギドは確かに横柄だし、偉そうだし、ムカつくし、ナルシストだし、罵詈雑言吐くし、俺を乗り物にするし……」

「お兄ちゃん、それほとんど悪口ですよ」

「……駄目だ! 悪いところしか出てこない……」


 ――メギドの良いところってなんだ?


 真面目にそう考えてしまう。

 いつも横柄な態度をとっているメギドの姿しか出てこない。


「……本当に、悪い魔王じゃないんですか……? 悪い魔王にしか聞こえなかったんですけど……」

「いや、根はいいやつなんだ……多分……」

「タカシお兄ちゃん、自信持ってください! まおうさまは良いまおうさまです!」

「あの……壺を買いたいって言ってましたけど……今は……ごめんなさい」

「え? なんでだ?」


 青年は扉をすべて空けて出てくる。


 なんだか自信なさそうに俺と距離を取ろうとしているように見える。

 両腕で身体を抱きしめるようにして組んで、おずおずとしている。


「僕が壺師の……――――と言います……」

「え? ごめん、なんて?」

「……――タと言います」


 声が小さく、聞こえない。


「えっと……ごめんな、何度も聞いて。もう一回言ってくれない?」

「……わざと言ってます? もしかして……僕の名前が変だからって……」

「いや、わざとじゃないって。純粋に聞こえな――――」

「帰ってください!! 幼女を乗せた変態!!」


 バタン!


「……は?」


 勢いよく扉を閉められ、俺は呆然と立ち尽くした。

 幼女を乗せた変態などと罵られ、俺はグサリを胸に言葉の刃が刺さった。


「びっくりしました……なんか、怒ってましたね」

「幼女を乗せた変態……幼女を乗せた変態……」

「大丈夫ですか? お兄ちゃん」

「駄目かも……」


 遂に知らない人にまで罵られ、俺は自信を喪失した。

 肩を落としていると、メルは俺の頭を撫でてくれた。


 ――あぁ……もう、幼女を乗せた変態でいいか……


 と、思ったが俺は軽く頭を振ってその考えを追い出す。


「メル、名前聞こえたか? 俺は全然聞こえなかったんだけど……」

「あたしも聞こえませんでしたけど……“なんとかタ”って名前なのは解りました」

「だよな。俺も“タ”は聞こえたんだけど……」

「でも困りましたね。これじゃ、まおうさまに怒られちゃいますよ」

「はぁ……俺はまた“虫”だの“無能”だのって罵られるのか……」


 一度俺たちは退散することにした。


 宿に向かって歩く。


 メルをほぼ1日中俺の肩に乗せていたのが俺のイメージを悪くしたのだろうか。

 確かに、いくら少女と言えどずっと肩に乗せているのは不自然だっただろうかと自分の頭の中でずっと反省会が開かれる。


 メルはそんな俺を気にする様子もなく、俺の肩に乗っていた。


「なんでツボ、今は買わせてくれないんでしょうか。でも、欲しいのはツボじゃなくてあの人ですよね?」

「開口一番、“お前を家来にしたい”とは言えないからな」

「でも、ツボ買うお金持ってないですよね?」

「う……確かに……宿の金もギリギリだ……何か金を稼ぐ方法を見つけないとな」

「この辺りではとくしゅな石が取れて、それがけっこうなねだんで売れるらしいですよ」

「そうか。一先ず、壺師を説得するまでの間食つなぐためにそれを取りに行くか」


 そんな話をしながら、俺たちは宿についた。


 メルを肩から降ろし、ようやく肩が軽くなった俺はどう罵倒されるのかと身構えながら宿泊している部屋の扉を開けた。


「メギド、壺師に会えたんだが、なんだか怒って――――」


 部屋の中を見ると、メギドが鏡に夢中になってポーズをとっている姿が目に入ってくる。

 様々なポーズをとって悩まし気な表情をしている。


「メギド、何してるんだ?」

「どうしたらこのみすぼらしい服がみすぼらしく見えないかの角度を研究している」

「…………ちなみに、どのくらいそれやってるんだ?」

「お前が出て行ってからずっとしているが、やはりこの服はみすぼらしい。この町でもう少しマシな服を買うぞ」

「そんな金ねぇよ!」


 尚もポージングを続けるメギドに、俺は呆れてそれ以上ツッコミを入れる気力もなった。


「ところで、壺師の説得は当然できたんだろうな?」

「いや、なにやら急に怒りだして閉め出されちまった」

「なんだか急に怒りだしてました。別にタカシお兄ちゃんが何か言ったわけじゃないですよ?」

「理由は明白だな」


 メギドは鏡から視線を外し、俺の方を見る。

 いつにもまして自信に満ち溢れている様子だった。


「は? どんな理由だよ」

「急に虫が家に飛び込んできたら、追い払うのが当然だ。勝手に入ってきてぶんぶんうるさかったら怒っても仕方ない」

「俺を行かせたのお前だろ!?」

「あはははは、虫のお兄ちゃんですね」

「だから虫じゃねぇ!!」


 気が遠くなりながらも、俺たちはもう夜も遅かったので翌日に再び壺師のところと特殊な石を取りに行くことにした。


 ずっと聞き取れなかった壺師の名前を考えていたが、結局なんと言っていたのかどうしても解らないままだった。




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