表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議のブラック  作者: Tom
1/1

おとぎの国のアリス

 ある日、天井に窓があるわ天井が空になっているわ時計を持ったウサギはいるわの不思議の国で、ハートの7.8.9の三枚のトランプ兵が、お城を囲む広大な庭園で、石膏塗りのように白いバラを赤いバラに塗り替えていました。

「誰だよ、これ発注したの……」

「あれですよ、いつも定時前に帰る」

「白ウサギ先輩なんか……チクショウ、あのスカポンタン! 仕事直してから帰れってんだ!」

 三枚のトランプ兵たちは定時に帰るために部下に仕事を押し付けた先輩への悪態をつきながらペンキを塗っていました。

「ちょっとそこの方、よろしいですか?」

「ん?」

 7が肩を叩かれた方を向くと――そこにはリクルートスーツに身を包んだ眼鏡の似合うブロンドヘアーの女性が凛とした様子で立っていました。

「失礼、こういうものですが」

「はあ」

 トランプ兵たちに名刺を渡す女性。

「えーと……あー。株式会社ブラックコロコロ?」

「はい。我々は現代に蔓延るブラック企業&ブラック国家撲滅のため日夜働くホワイト企業です。残業超過、給料未払い、パワハラ、セクハラ、モラハラ、全て対応します」

「はぁ、ブラックねぇ……」

「あなた方は今何を?」

「いやぁ、困ったことに白ウサギ先輩が発注ミスしてね。全部押し付けた上に帰りやがった!」

 と7。

「ミスの押し付け、加えて強制残業」

「しかもですね、やらないと給料減らすって!」

 と8。

「パワハラ」

「しかも報酬ナシなんや……」

 と9。

「給料未払い……なるほど」彼女は眼鏡の淵をクイッと上げ、「ブラック発見……しかしそれはそれとして仕事をなんとかせねばですね」

「ブラックが何か知らんけど、そうだなぁ。でも人手がなぁ」

「そうですね——では、そんな悠長なことを言っている場合ではありません!」

「「「えええっ!?」」」

 眼鏡の下、金髪少女の瞳がギラりと輝く。

「はいまず整列!」

「「「は、はいっ!」」」

 789、色はハートでフラッシュ。

「本当の発注内容は!」

「全部赤いバラだぜ!」

「時間は!」

「白ウサギ先輩の時計ぶっ壊れてるからなんと明日です!」

「よろしい、用途は!」

「ハートの女王の誕生日パーティーや!」

 証言を全てメモに取り、彼女は叫ぶ。

「解決のためにプランを用意した! 行くよっ!」

「「「イエッサーっ!」」」

 今、ハートの女王誕生日パーティー大成功&発注ミス押し付けパワハラ白ウサギ撲滅作戦がスタートした!


 翌朝。涙が落ちてこないのでたぶん晴れ。

 パレードの中、かごに揺られて現れる太めのハートの女王。彼女のために集まった何人もの貴族や来賓、彼女に従うトランプ兵、ハートの女王の来る時間を間違えて呑気に飯食う白ウサギ。しかし!

「何だいこれはっ!?」

 彼女が見る庭園はあら最悪、赤と白のアンバランスな薔薇で彩られてしまった庭園!

「ここの飾りつけはどこのどいつだっ! 連れてこい!」

 連れて来られた789、その証言は「白ウサギが……」

「いいやこいつらがやったんです」

「ほう」

 だが呼び出された三枚の目の前で、ふんぞり返るハートの女王に耳打ちする白ウサギ畜生先輩。こいつぶっ飛ばしたろか、と三枚が思っていると、

「待ちなさいっ!」 

 庭園の草木を飛び越え、キャリアウーマン現る!

「何者だいアンタ!?」

「我が名はアリス! あ、まずこれを」

「ああこれはどうも。こちらこそ」

 名刺交換をするアリスと女王。

「ふむふむ。それで何の用だい? あんた」

「これはただの白と赤の薔薇ではないのです。ではこちらのスクリーンから、高性能ドローンからの映像を送ります」

 先に指示を出しておいた三枚の内78がスクリーンを用意し、9がドローンを飛ばす。

「さあ見なさい!」

「まぁっ!」

 そこにはああなんということだろう! 気持ち今のハートの女王より美顔で細めの彼女の大きな顔が庭園の花、薔薇、草木によって形作られていた!

「何てステキなの!」

「ええ。しかも先程はパーティーの準備で忙しかったと思いますが、これは城から見ることも出来るんですよ」

「すごいわ!」

「ええ。皆彼らが考えてくれたことです」

 彼女の言葉に目を開く三枚。何か言おうとしたものの、ハートの女王が勢いよく三枚ともに熱い抱擁を交わしたために、何も言えずに倒れこむ。

 パーティーはその後、女王の幸せな笑顔の下、大成功を収めたのだった。


 その夜。王室にて。

「実は自己紹介をまだしてなかったの」

「そうなの?」

 三枚のハート兵を引きつれるアリスと側近の白ウサギに自分の靴を磨かせているハートの女王。

「ええ、私はブラックを叩き潰すものっ!」

「ブラック? 福利厚生はちゃんとしてるはずだけど」

「見なさいこれを!」

 彼女の持つキャリーバックから現れたのは、何を隠そう労働時間データの書類!

「……ふむふむ」

 近視なので丸眼鏡をかけて書類を読む太めのハートの女王。

「何だいこれは!」

 驚いて立ち上がる女王。立ち上がったせいで太めの女性に潰される白ウサギ。それを睨みつける女王。

「…………実はさっきの絵は私の発案でして」

「よし、つまみ出せ」

 白ウサギ、退城!

 ハートの女王は一か月の有給をハート兵に与え、アリスはまた新たなブラックを求めて旅立つのであった。

                             完

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 女王が福利厚生を考えた良い人だった所が面白かった、テンポもよく読みやすかった。 [気になる点] アリス自身の要素が少なく感じた(個人的に) [一言] 他のおとぎ話バージョンも読んでみたい、…
[良い点] 不思議の国のアリスというファンタジー要素とブラック企業と解決策のドローン現代的要素を加えて、上手く組合わさっていたと感じた。 女王も近視ではあるが丸眼鏡を使うところからそれなりに歳を取っ…
2020/02/06 20:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ