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第19話 納豆チヂミ

 それから。

 またジュノンの家に戻るのは面倒とモンドが言い出したので、浮遊島の我が家へ帰ってきた。本当に自由な奴である。ちなみに、ドロワットはまだあの丘で気を失っていることだろう。

 パソコンを立ち上げてその前に座り、俺は改めてモンドに訊ねる。


「あの子が転生者って本当か?」


 あの子とはエリスのことだ。エリスが去ってから、彼女は転生者であるとモンドが教えてくれた。


「ああ、間違いないよ。この世界の波長とは違う力だった」


 持ち帰ったお菓子を机に広げ、それらを食べながらモンドが答えた。

 一応、パソコンにある資料も見たが該当する人物はやはり見当たらない。まあ、偽名という可能性もあるけど、モンドが断言しているし転生者であることは間違いないのだろう。


「それで、〝創造主様〟のご判断は?」


 わざと仰々しく訊いてみた。転生者自体、珍しいことでもないが、処遇についてはモンドの気分次第なところがある。

 ある転生者は人類の危機を救う救世主となり、またある転生者はモンドがけしかけた魔物の群れに散った。この世界で平凡な生活を許された者もいれば、この世界から追放された者もいる。

 俺はどこか緊張感を覚えながらモンドの答えを待った。


「うーん、人間と魔物の均衡はどうなってる? あの人間が魔物の数を減らしていたりしてないかい?」

「あー……、数字を見る限りは大丈夫そうだけど」

「じゃあ、放っておいて良いよ。パワーバランスを崩さない程度に働いてもらおう」

「……わかった」


 俺は嘘をついた。

 今朝に確認したデータによれば、魔物の数は確実に減っている。それがエリスの仕業であるかは不確かだけど、関係ないとは言い切れない。本当はそれをモンドに伝えなくてはいけないが、少しでもエリスが不利になる情報は渡したくなかった。直接関わった人が無慈悲な扱いを受けるのは忍びないからだろう。


「それでさ」

「わかってるよ、あの子は監視対象に入れておくから」

「うん? いや、ジュノンに裏ボスになることを天使達に伝えてもらう件だけど」

「えっ、ああ、そっちか……」


 どうやらボーっとしていたらしい。額を指で押さえて一度気持ちをリセットする。


「良い感じに裏ボスのおそろしさを広めるように、メールで言っておいてくれ」

「アバウトだなあ……。自分の口でイメージを伝える話はどうなったんだよ」

「噂という無形のものがどう形を変えて広まるかというのを楽しみたいと思ってね。姿形がハッキリしないものに人間はおそれるのさ」


 つまり、面倒くさくなったというわけだ。今日という日は一体何だったのだろうか。俺はもちろんのこと、ジュノンやドロワット、エリス、そして悪魔も、モンドに振り回された被害者と言える。


「噂が広まるまで一週間待とう。その後はようやく魔王討伐だ」

「魔王討伐? 善行を積むのはもう良いのか?」

「もう十分積めたさ。適当な勇者パーティを見繕っておいてくれ」


 俺としては善行と呼べるほど大したことはしていないと思うのだが、モンドはこれまでの活動に満足しているらしい。俺がキッチリしようとし過ぎなのだろうか、いや、そんなことはないはず。


「ただいまにゃー」


 夕食のおつかいに行っていたミネが帰ってきた。モンド直々のお達しは就寝前にやるとしよう。俺は立ち上がって台所へ向かう。


「タケシ、言われた通り納豆をいっぱい買って来たにゃよ。そんなに納豆が好きだなんて知らなかったにゃ」

「俺は食べても一パックだけだ。残りは全部ミネが食べるんだよ」


 思っても見なかったのか、ミネは小首を傾げて俺の言葉の意味について考えている。そして、鼻息を荒げて抗議してくる。


「にゃんでにゃ! ミネは何も悪いこと――」

「人形の腕」

「うっ……!」

「わかったらさっさと夕食の準備をするぞ」

「はいにゃ……」


 ものすごい落ち込み様である。ここまでしょげられるとこっちが悪いことをした気分になってしまう。

 まあ、反省できているようなので、納豆をチヂミに入れたりと食べやすくしてやろう。

第19話を読んで頂きありがとうございます。

第20話の投稿予定は未定です。

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