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セッション66 追放

 談雨村には茅葺(かやぶき)屋根の一軒家がある。

 理伏と彼女の両親が住んでいた家だ。ゴブリン事変で両親が死に、理伏が山を下りて冒険者となった為無人となり、空き家となっていた。それを僕達イタチ一派が談雨村を滞在する間の仮宿として使わせて貰っているのだ。

 家族の思い出が詰まっているであろう理伏の家にお邪魔するのは、僕とステファは遠慮したのだが、イタチと三護は気に掛けなかった。あの自己中心型狂人共め。理伏も気にしないと言ってくれたのが幸いだが。


 理伏邸の扉を開けると、居間にその三護が座っていた。寝起きらしく、若干虚ろな目をして囲炉裏の前にボーッとしている。


「……お? お、おう……帰ったのか、汝ら」

「ああ、おはよう。寝起き悪ぃんだな、三護」

「おー……夜行性とも言うがのぅ……」


 夜更かしするから朝に起きられないってか。三護、中身は爺さんなのに。老人っつーと日が昇るよりも早起きして、夜の七時くらいには寝る準備しているみたいな偏見があったんだが。まあ人それぞれか。


「そういえば、三護のアレって結局何だったんだよ?」

「アレ?」

「ヘルのアレだよ」


 ヘルが言っていた。自分の肉体はロキが三護と同じルートで入手した物であると。ヘルの器となっている子供の肉体はある場所で作られた物であり、その場所に関わっていた者にしか入手の機会はないと。

 それについての事情を三護から聞き出すのを今まで忘れていた。


「おお、アレか。いや別に引っ張る様な話ではないわい。

 我がミスカトニック大図書館の館長を勤めていた事は知っておったな? その館長を定年退職した後、北条共和国に勧誘されての。共和国で十年程、あるプロジェクトに携わっていたのじゃ」

「プロジェクトですか?」

「うむ。『プロジェクト・シュリュズベリィ』というんじゃがな……簡単に言えば、人体を強化して兵力を増強しようという計画じゃ。それの一環として、我は七体の人造人間を作り出した。その人造人間の亡骸こそが今、我が使っている器とヘルの器なのじゃよ」

「へえ……」


 北条共和国はダーグアオン帝国に隣接している為、常に軍事の強化を火急としている。故に彼らは、人工的に生命を創造し、それを兵器運用しようという、一〇〇〇年前なら倫理を問われそうな領域にも平気で踏み込む。

 しかし、人に歴史ありとは言うが、三護が共和国でそんな研究に携わっていたとは思わなんだ。朱無市以外でも活躍していたんだな、この老賢者。


「で、ロキとの関係は?」

「人造人間は報酬の一部として共和国から与えられた。つまり、研究員でなければ入手出来ないんじゃ。研究員から譲られない限りはな。だが、貴重な献体、あの狂的好奇心の塊である研究員共が他者に譲る筈もない。

 その上、『プロジェクト・シュリュズベリィ』は国家機密事業。プロジェクト関係者以外で人造人間の事を知る由もない。であれば、ロキは恐らく最初から研究員の一人だったのじゃろう」

「ふーん……って、オイ。それじゃあまさか」

「うむ。ロキは山岳連邦以外に共和国でもスパイをしていたという事じゃろう」


 マジか……ロキめ、八面六臂の暗躍じゃないか。

 もしかして他の国でもスパイをしてきたんじゃないだろうか。他の『五渾将』も各国に潜り込んでいるんじゃないだろうか。そう思うと背筋が寒くなる。この東日本はどれだけ帝国の手に踊らされてきたというのか。


「ロキにはどの研究員に化けておったのかを訊きたかったのじゃが……あ奴は今も眠り続けておるのよなぁ。まあ是非もあるまいよ」

「そうか……そりゃあ残念だったな」


 昏睡はどうにもならねーからな。仕方ねーか。


「今、パパの話してた?」


 居間の奥にある台所から白髪の少女が顔を出した。

 先日のクーデターで縦横無尽に暴れ回った蛇人間――蛇宮ハクだ。


「ハクさん、おはよう御座います」

「うん、おはよ!」


 ステファとハクが朗らかに挨拶を交わす。が、ハクの方は少々やつれていた。

 彼女は山岳連邦を追放された。蛇王に憑依されていた(ヨルムンガンドのせい)とはいえ、彼女の手により連邦にもギルドにも多大な死者が出た。故にロキ共々処刑すべしという意見も出た。ステファの友人という事で処刑は免れたが、たとえ本人を無罪としても罪人(ロキ)の娘である事に変わりはない。そんな彼女に国内で居場所はないという事で、国外追放処分となった。


「じゃあ、一緒に朝ご飯を作りましょうか」

「うん!」


 ステファとハクが台所へと入る。

 連邦を追放されたハクはステファの預かりとなり、実質的にイタチ一派の一員となった。今は罪滅ぼしも兼ねて、料理や掃除などの家事担当となっている。とはいえ、現段階では殆どステファが手助けしているのだが。一人で全部出来る様になるのはまだまだ先だ。


「そういえばのぅ、藍兎」

「何?」

「ハクの奴、錬金術が使えるそうじゃぞ。蛇人間は錬金術に秀でた種族じゃからの。あの年齢で既に我よりも腕前は上じゃ」

「マジで?」


 錬金術に秀でている――つまり、錬金術の最上位である性転換の術が使えるという事か。あるいは現段階では未熟でも、いずれは使える様になるのだろうか。何それ期待しちまうな。今の内にもっと仲良くなっておくべきか。

 最近、自分が女である事に疑問を持たなくなってきているからなあ。早く何とかしないと。


「うむ、理伏以外は揃っているか」


 などと駄弁っていると、イタチが家の外から現れた。僕が家を出る前はまだ寝ていた筈だが、どうやら散策している間に外出したらしい。


「どこ行っていたんだ、お前?」

「新聞を取りに行っていたのだ。ほれ」


 イタチの手には灰色の紙の束が握られていた。

 成程、新聞を貰う為に外出していたのか。ここ談雨村はあまりに郊外にある為、新聞配達員が来ない。その為、風魔忍軍がその俊足を生かして朱無市国まで走り、数日分の新聞を購入して村まで戻り、配っている。イタチはそれを貰ってきたのだ。


「俺様が待ち望んでいたニュースがようやく記載されてな。理伏が戻ってきて、朝飯を食ったら見せてやろう」

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