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セッション59 血海

 目が覚めると、ステファに膝枕されていた。


「『おお、太腿……』と思ったけど、硬ぇなこりゃ」

「全身甲冑ですからね、私……寝難くてすみません」

「いや、膝枕してくれただけでも有難ぇよ。それで、どうなった?」


 膝枕から身を起こすとハクを見付けた。彼女は壁を背にもたれかかり、瞼を閉じていた。頬には泣き跡が付いている。呼吸はしているから生きてはいる様だ。何故か黒い袖無しのマントを布団代わりに掛けられていたが。


「藍兎さんが蘇生するのと同時に、彼女は人に戻りました。中身までハクさんに戻ったかどうかまでは確認出来ていませんが」


 そうか。ヨルムンガンドを『捕食』したのがそういう結果になったか。喰われた事で蛇王は弱体化し、蛇人間とやらの状態を保てなくなったらしい。少し不安はあったが、とりあえずはうまく展開が回った様だ。


「あのマントは何なんだ?」

「巨大化した際に服がビリビリに破れましたので……全裸で放置する訳にはいきませんでしたので、その辺で亡くなられた兵士から比較的無事な物を拝借しました」

「お前のその『他人の死は死できちんと悲しむけど、使える物は使う』って所、スゲー冒険者らしいと思う」

「いえ……それはその……何と言いますか……」


 合理主義者じゃなけりゃ冒険なんて続けてらんねーもんな。最高。


「僕はどれくらい寝ていた?」

「十分も経っていません。治癒聖術(ヒール)を掛けたらすぐに目を覚まされたくらいです」

「その十分の間にロキが逃げちまったかもしれねーだろ。……待たせたな。とっとと行くか」


 立ち上がって軽く体調をチェックする。ステファの言った通り、きちんと治癒が成されていた。体力はともかく傷は完治している様だ。これで戦う事は出来る。


「いつもの蘇生ですけど、魔術(スキル)はゲット出来ましたか?」

「確認してみよう」


冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』を開き、スキル一覧を見る。覧には『竜の吐息(ドラゴンブレス)』が追加されていた。


「あれ、これだけですか? ヨルムンガンドの事ですから毒系のスキルを持っているだろうと思っていたんですけど」

「ああ……それは、シュブ=ニグラスが気を利かせてくれたんだろーさ」


 蛇王の猛毒――『神殺しの毒(ヨルムンガンド)』は蛇神の呪い(イグ)を抑え込むのに必要だからな。シュブ=ニグラスが奪わず、ハクに残しておいたのだろう。あんな見た目で子供には優しい女神様だ。結果として『紫竜の吐息パープルドラゴンブレス』は習得出来なかったが、仕方ないだろう。


「まあ竜の吐息(ドラゴンブレス)だけでも強力ですしね」

「まーな。よし、それじゃあ行くか、ステファ! 三護!」

「……いいや、我は行かん」

「三護?」


 三護は瓦礫を背に座り込んでいた。顔色は青白く、尻の下には(おびただ)しい量の血の海が出来ていた。


「三護、お前……!」

「『土蜘蛛(ツチグモ)』はのぅ、器を裂いてでないと使えんのじゃ。必然暴れれば暴れる程に裂傷が大きくなる。奥の手も奥の手よ。もう限界じゃ。これ以上は動けんよ。修繕せねばのぅ」

「三護さんの傷は初級(ヒール)では治せませんでした。中級の聖術でないと無理ですね……」

「そうか……」


初級治癒聖術(ヒール)』で回復出来るのは自然治癒するレベルの傷までだ。手術が必要な程の深い傷までは治癒出来ない。生体式のゴーレムであっても同じ事だ。三護の裂傷は手術レベルであり、今は手の施しようがない。

 仕方ねーか。三護はここでリタイアだ。冥王ヘルと犬王ガルムを倒してくれただけでも御の字だと言うべきだろう。


「じゃあ先に行ってるぜ。そのままくたばんなよ」

「うむ、汝らもな」


 三護を置き去りにし、ホールを後にする。

 三護以外の兵士は全滅してしまったので、僕達二人だけでロキを追った。





 ロキを駐車場で発見した。

 片膝を突き、苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。どうやら右肩を負傷している様だ。周囲は石畳も馬車もズタズタに破壊されており、激しい戦闘があった事が覗える。道中ではイタチ達とは合流出来なかった。僕達が探索したルートに彼らはいなかったのだ。

 ロキの近くで桜蘭がうつ伏せになって倒れていた。三護よりもなお大量の血の海に沈んだままピクリとも動かない。


「桜嵐……!」

「……あら。貴女達もう来ちゃったの? ……そう、あの子達、敗けちゃったのね」


 脂汗を額に浮かべながらロキが立ち上がる。


「私、今ようやく致命傷を重傷にまで回復させた所なんだけど。重傷の身で戦いたくなんかないんだけどねえ……ま、仕方ないか。こんな状況も今まで何度も経験しているわ」


 言って、苦痛が滲む微笑を湛えるロキ。致命傷だの重傷だの言っていたが、そんな弱々しい雰囲気は全くない。両脚でしっかりと地面を踏み、鎖鎌を構える様はむしろ意気軒昂。今すぐにでも戦闘を再開出来るという強い意志が見受けられた。


「テメー! 桜嵐をどうした!?」

「桜嵐? この子、浅間梵って名前じゃなかったかしら? ああ、二つ名がそんな感じだったわね」


 ロキが桜嵐をちらりと見て、顔をこちらに戻す。彼の微笑は獰猛な獣の如き凶笑へと変わっていた。




「――馬鹿め。桜嵐は死んだわ」

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