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セッション39 邪竜

挿絵(By みてみん)

 (ドラゴン)

 伝説上の生物の中でも最高位に君臨する種族。概して、翼を持つ大型の爬虫類という容貌をしている。口から炎や毒霧を吐き、鱗は鋼の剣を弾き返す程に堅い。比較するなら、戦車すら捻じ伏せられるだろう怪物だ。

 ある世界的宗教では悪の象徴とされる。故に(りゅう)を倒して勇者が活躍する物語類型が数多く存在する。一方で泉や宝物、国を守護する竜、紋章用デザインとして作られた竜などもいる。多種多様だ。


 以上の解説は西洋のドラゴンの事であり、東洋には別のドラゴンが見られる。

『竜』ではなく『龍』と書くそのドラゴンは、鹿の角・駱駝の頭・幽霊の眼・大蛇の体・蛟の腹・鯉の鱗・鷹の爪・虎の掌・牛の耳と合成獣(キメラ)の如き複数の特徴を持ち、風雲雷雨を司るとされる。アジアで神聖視される瑞獣であり、悪の象徴である竜とは逆に吉事の象徴として描かれている。


 で、今回の討伐対象はどちらなのかというと――





「――どっちでもあるかもしれない、ってどーゆー事だよ?」


 秩父山地が二子山。そこの登山ルートを辿りながら、今回の討伐対象についての情報を思い出す。


「悪でもありながら神でもある、という事ですよ。何たって、あの邪神クトゥルフの肉片なんですから」


 邪神クトゥルフ。

 今や言わずと知れた大怪物。人類を滅亡一歩手前まで追い込んだ怨敵だ。しかし、その容貌は鱗と翼はあれど人型で蛸頭であり、竜というより悪魔に近い。竜に見間違えられる事はないと思えるが、しかし実際に竜と称された事例がある。それが、


「経緯は不明じゃが、ここでクトゥルフの触手を召喚した者がいたらしくてのぅ」


 触腕だ。

 蛸頭から髭の様に生えた触腕。それだけが召喚される事があるのだと三護は語る。全身は無理だが一部だけなら、という発想だったのだろう。うねる触腕は鎌首をもたげた竜にそっくりだったという。

 大抵の場合、触腕は召喚者を叩き潰し、召喚陣から自らを切り離していずこかへと去るらしい。それが後に四肢を備え、竜と呼称されたのだとか。なお、クトゥルフは漢字で『九頭竜』と書くのだが、恐らく無関係ではあるまい。


「肉片だけで独立して一個の生物になるとか、神様はヤベーな」

「神がヤバいのかクトゥルフが特別にヤバいのかは分かりませんけどね」


 両方ヤバいってのもありそうだけどな。

 さすがはこの時代で誰よりも有名な神なだけある。


「皆様、歩く速度が遅いで御座りまする。能書き垂れてないで行きましょう! 早く(ハリー)! 早く(ハリー)!」


 ダラダラと喋っていたら理伏に叱られてしまった。

 此度の理伏は偉く張り切っている。張り切っているというか、テンションが高い。『膨れ女』への復讐を考えている時とはまた別のテンションだ。


「当然で御座りまする! 邪神クトゥルフは我が神ハスターの宿敵です故に!」

「宿敵ねえ……」


 神々にも人間関係がある。いや人間ではないが、とにかく関係性がある。特に敵対関係は重要だ。これを利用して神の協力を得られる事もあるのだから。


 ハスター。

 疾風魔術を管理する神格。『名状し難きもの』の異名をもつもの。クトゥルフとは半兄弟であり、身内でありながら――否、身内だからこそか、深く憎み合っている。その敵対心はクトゥルフを害する為なら人類に協力を惜しまない程だ。

 風魔忍軍が北辰妙見菩薩の名で信仰している神だ。自分達の神に貢献せんとしているのだから、信徒として気合も入るというものだろう。


「しかし、そもそも僕達の手に負えるのか? 神の肉片ってだけでなくとも、竜って凄ぇ強ぇんだろ?」


 飛竜(ワイバーン)蛇竜(リントヴルム)のランクはCかBだが、平均的な竜は()()()()Aランク。紛れもない最上級のエネミー、あのギリメカラを上回るであろう怪物。ゴブリン一万体に匹敵する、文句なしの大討伐(レイド)クラスだ。


「故にこそだ。それ程までに脅威と伝えられている竜を倒せば、ランクアップも確実というもの。くくく、実に挑み甲斐があるではないか」

「そうやって挑んでは返り討ちに遭ってきた奴も多いと思うがな」

「ふん。なあに、俺様は覇王だ。如何なる試練も突破する定めにある。……それに今回は奥の手もある事だしな」

「奥の手?」

「うむ。大船に乗った気分でいるが良い」

「大船ねえ……」


 魚人に船の(ことわざ)を使われても微妙なんだが。

 お前、いざとなれば自分だけ泳いで帰れるじゃんっていう。


「如何に強敵だとしても、人々に害を為したとなれば討伐しなくてはなりません。ましてや、話の通じないケダモノ相手なら尚更です」

「そりゃステファはそうだろうけど」


 依頼内容は「朱無市国と山岳連邦の国境に竜が居着いているので、退治して欲しい」というものだ。実際に襲われた近隣の村人からの依頼だ。元々秩父山地に棲んでいたのが下りて来たのか、あるいは最近誰かがこの周辺で召喚したのかは不明。いずれにせよ姿を見掛ける様になったのは、ここ数週間になってからだそうだ。


「すぐに見付かるでしょうか?」

「見付かるとも。連中、縄張り意識は強いのでのう。巣に近付けば向こうから来てくれるわい」


 三護がそう言うと、遠くからガサガサという音が聞こえた。

 ガサガサはバキバキという音に変わり、さらにズシンズシンという音も加わってきた。巨大な何かが木々を踏み倒して近付いてきている音だ。


「……来たな」

「ステファ。全員に『物理防御聖術(プロテクト)』を掛けておけ」

「はい!」

「――そうら、おいでなすったぞ!」

「GYYYAAAAA――ッ!」


 圧し折った木々を弾いて巨大なものが正体を現した。

 予想通り竜だった。体高三メートルはあるだろう大蜥蜴。全長は十メートルを優に超えるか。首は細長く、四肢は太い。鱗は鎧の如く、背中には本体(クトゥルフ)と同じ一対の翼が生えていた。


「全員、配置に着け! 戦闘開始!」

「あいよ――!」

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